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第六章
フルーツ食うか?
カップの縁部分を指で掴み、ず、と音を立ててハーブティーをすすったゴードンを見て目を瞬かせた。
「この前故郷の話をしただろ? 北じゃ夢なんて追えねえからよ、仕方なく傭兵やってたんだよ。でも俺ぁずっと料理人になりたくてなぁ。傭兵もしながら料理の腕も磨いてたってわけだ。すげーだろ?」
俺には想像ができない人生だと素直に頷いた。
「……すごいな」
「俺からすればフィル様もすげえけどな。決められた人生を決められたように生きるってのも大変だったろ? 恋愛も自由にできやしね、……いやあんたはしたんだっけか?」
この場にエルダーがいたならば即刻ゴードンは首根っこを掴まれて引き摺られていただろう。だがここにはエルダーはおらず、二人だけだ。
苦笑しながら当時のことを思い出すと、自分でも改めて愚かだなと思う。
「結果としてしたことにはなるが、今思えばあれは愛でもなんでもなかった。ただ自分の意思で選んだ選択が正しいのだと、周りに振り翳したかっただけだ。……彼女にも悪いことをした」
「ふうん。まあでも王族に手を出すってのがどういうことか分かってなかったそいつも大概頭お花畑とは思うがよ」
ぐうの音も出ない正論に苦笑したままハーブティーに口を付ける。
「今思えばってことは、その女に対する感情が恋愛じゃなかったって気付くきっかけでもあったのか?」
「えっ」
完全に油断していて咄嗟に取り繕えず、声が裏返った。
しっかりとゴードンと目が合って、ゴードンの目が三日月のように細く楽しそうに曲がるのを見てやってしまったと頭を抱えたくなった。
極力表に出さないように努めていたのに完全に油断していた。
「ねえねえフィルちゃん、おじさん若い子の恋愛のお話聞きたいな~」
「やめてくれ」
「やだやだおじさん聞かないと拗ねちまうよ」
「……」
面白そうなことを見つけた時のゴードンはしつこい。俺はそれを知っている。しかも今はそれを止めてくれるエルダーもいないのだ。
どうしたものかと溜息を吐いていれば、にやにやと笑うゴードンがフォークで俺を指した。
「ラナだろ」
「ん?」
「だぁから! 惚れてるやつだよ! わかるぜ、こんな場所だ。あんな猫っぽい美人がいればそりゃくらっと来ちまうよな」
「違うが」
「あんたホントに嘘吐く才能がねえな」
「!」
若干呆れたような顔で言われて嵌められたのに気が付き目を丸くする。
「これが年の功ってやつよ」
「……卑怯だぞゴードン」
「いいじゃないの。でもラナじゃねえとしたら誰だ? フィル様と歳が近くて側にいる奴なんて……」
内心でダラダラと冷や汗を流しながらゴードンから顔を逸らす。無心でフルーツを貪っていればゴードンの方から「嘘だろ」と驚愕の声がした。
「あんだけいじめられてんのに⁉︎」
「……」
「特殊な性癖してんなぁ」
「感心するな」
もう誤魔化せないだろうと溜息を吐き、ちょうどいい温度になったハーブティーでまた喉を潤した。蜂蜜のほのかな甘味が口に広がり、ハーブの香りも手伝ってか、いつもより心中穏やかでいられている気がする。
「リュシアン様のどこに惚れたのよ。こう言っちゃなんだが、茨の道だぜ?」
「……わかっている。自分でもどうして好きになったのかわからないんだ。気がついたら好きだった。不毛だというのは、わかっているつもりだ」
「そうなぁ。あの人公爵様になるんだもんなぁ」
わかりきった現実を突き付けられるとやはり心が痛い。思わず唇を噛むと、そんな俺の顔を見たゴードンが少し慌てるのがわかった。
「いやそのなんだ、……フルーツ食うか?」
「……ありがとう」
そっとこちらに押し出された皿に乗っているフルーツにフォークを指す。そのまま口に運んで無言で咀嚼していると、ゴードンが息を吐いた。
「……貴族ってのは難儀だなぁ。好きなやつがいてもなんも自由にできねえ」
「仕方のないことだ。貴族にとって婚姻は道具でしかないからな。稀に互いに想い合って結ばれる人もいると聞くが、少数派だ」
「はあ嫌だ嫌だ、やっぱ庶民が一番よ」
ぐい、と先にハーブティーを飲み干したゴードンがカップを手に食事の方に進む。その中から今日使うものを厳選しつつ、俺に声を掛けた。
「この前故郷の話をしただろ? 北じゃ夢なんて追えねえからよ、仕方なく傭兵やってたんだよ。でも俺ぁずっと料理人になりたくてなぁ。傭兵もしながら料理の腕も磨いてたってわけだ。すげーだろ?」
俺には想像ができない人生だと素直に頷いた。
「……すごいな」
「俺からすればフィル様もすげえけどな。決められた人生を決められたように生きるってのも大変だったろ? 恋愛も自由にできやしね、……いやあんたはしたんだっけか?」
この場にエルダーがいたならば即刻ゴードンは首根っこを掴まれて引き摺られていただろう。だがここにはエルダーはおらず、二人だけだ。
苦笑しながら当時のことを思い出すと、自分でも改めて愚かだなと思う。
「結果としてしたことにはなるが、今思えばあれは愛でもなんでもなかった。ただ自分の意思で選んだ選択が正しいのだと、周りに振り翳したかっただけだ。……彼女にも悪いことをした」
「ふうん。まあでも王族に手を出すってのがどういうことか分かってなかったそいつも大概頭お花畑とは思うがよ」
ぐうの音も出ない正論に苦笑したままハーブティーに口を付ける。
「今思えばってことは、その女に対する感情が恋愛じゃなかったって気付くきっかけでもあったのか?」
「えっ」
完全に油断していて咄嗟に取り繕えず、声が裏返った。
しっかりとゴードンと目が合って、ゴードンの目が三日月のように細く楽しそうに曲がるのを見てやってしまったと頭を抱えたくなった。
極力表に出さないように努めていたのに完全に油断していた。
「ねえねえフィルちゃん、おじさん若い子の恋愛のお話聞きたいな~」
「やめてくれ」
「やだやだおじさん聞かないと拗ねちまうよ」
「……」
面白そうなことを見つけた時のゴードンはしつこい。俺はそれを知っている。しかも今はそれを止めてくれるエルダーもいないのだ。
どうしたものかと溜息を吐いていれば、にやにやと笑うゴードンがフォークで俺を指した。
「ラナだろ」
「ん?」
「だぁから! 惚れてるやつだよ! わかるぜ、こんな場所だ。あんな猫っぽい美人がいればそりゃくらっと来ちまうよな」
「違うが」
「あんたホントに嘘吐く才能がねえな」
「!」
若干呆れたような顔で言われて嵌められたのに気が付き目を丸くする。
「これが年の功ってやつよ」
「……卑怯だぞゴードン」
「いいじゃないの。でもラナじゃねえとしたら誰だ? フィル様と歳が近くて側にいる奴なんて……」
内心でダラダラと冷や汗を流しながらゴードンから顔を逸らす。無心でフルーツを貪っていればゴードンの方から「嘘だろ」と驚愕の声がした。
「あんだけいじめられてんのに⁉︎」
「……」
「特殊な性癖してんなぁ」
「感心するな」
もう誤魔化せないだろうと溜息を吐き、ちょうどいい温度になったハーブティーでまた喉を潤した。蜂蜜のほのかな甘味が口に広がり、ハーブの香りも手伝ってか、いつもより心中穏やかでいられている気がする。
「リュシアン様のどこに惚れたのよ。こう言っちゃなんだが、茨の道だぜ?」
「……わかっている。自分でもどうして好きになったのかわからないんだ。気がついたら好きだった。不毛だというのは、わかっているつもりだ」
「そうなぁ。あの人公爵様になるんだもんなぁ」
わかりきった現実を突き付けられるとやはり心が痛い。思わず唇を噛むと、そんな俺の顔を見たゴードンが少し慌てるのがわかった。
「いやそのなんだ、……フルーツ食うか?」
「……ありがとう」
そっとこちらに押し出された皿に乗っているフルーツにフォークを指す。そのまま口に運んで無言で咀嚼していると、ゴードンが息を吐いた。
「……貴族ってのは難儀だなぁ。好きなやつがいてもなんも自由にできねえ」
「仕方のないことだ。貴族にとって婚姻は道具でしかないからな。稀に互いに想い合って結ばれる人もいると聞くが、少数派だ」
「はあ嫌だ嫌だ、やっぱ庶民が一番よ」
ぐい、と先にハーブティーを飲み干したゴードンがカップを手に食事の方に進む。その中から今日使うものを厳選しつつ、俺に声を掛けた。
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