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第六章
叶うかどうかは別
「フィル様はもうちょいゆっくりしてていいぜ。下拵えとかあるからよー」
「俺も手伝うことは」
「無理無理無理無理刃物とか持たせたのが万が一エルダー様にバレたら市中引き回しの刑に処されちまう」
「お前にとってエルダーはどんな存在なんだ」
「戦場の敵大将よりも怖え」
それは相当なのでは、と思いながら皿に乗っていたフルーツを食べる。甘く爽やかな味わいのそれを堪能しつつ、頭の中にはラナの言葉が浮かぶ。
「……俺は身の程知らずだろうか」
「あ? リュシアン様が好きなことに対してか?」
「こ、声が大きい!」
一切の配慮をしない声の大きさに思わず立ち上がると、ゴードンは豪快に笑って俺の方を見た。
「そういう感情は誰にも止められねえもんだぜフィル様。好きなら好きでいいじゃねえか。誰に迷惑を掛けるわけでもねえんだからよ」
真っ直ぐで、それでいて底抜けに明るい声に目を丸くする。
「まあ叶うかどうかは別の話だけどな! ガハハ!」
天から地に落とされるというのはまさにこのことである。
けれどあまりにゴードンが明るいものだから、もう悩むことすら馬鹿らしくなってしまった。つられるように俺も笑い、残ったフルーツとハーブティーを胃に納める。
すっかり気分も元に戻り、ゴードンの後ろから作業を見守ることにした。
「トマトソースで米を炒めるとはなぁ、恐れ入ったぜ」
「思い付きだ。美味しいといいな」
「こりゃあ絶対に美味いぜ! 俺の勘がそう言ってる!」
厨房に広がる香ばしい匂いに頬が緩む。
それから少しして畑中陽一の記憶にあったオムライスと寸分変わらないものが出来上がり、俺は驚嘆した。ゴードンと二人でそれを食べ、美味しさに拳を突き合わせる。
「俺たちは天才かもしれねえぜ、フィル様……!」
「再現できるお前がすごいんだ」
「確かに俺は天才だけどよ!」
二人であっという間に一皿を食べ切ってしまい、これだとエルダーに食べてもらう分がなくなってしまうとまた新しくオムライスを作る。
その作業を見ながら俺はゴードンと色々な話をした。
エルダーにさえリュシアンの話が出来なかったから、俺はここぞとばかりにリュシアンのことを話した。もちろん夢の中で会っていることは言ってない。
それでも小さい頃から睨まれていた話や、ここに来たばかりの頃の話、それから少し仲良くなれた頃の話をする頃にはもうゴードンが首を振っていた。
「もうお腹いっぱいです。あんたがリュシアン様のことが大好きなのはよく伝わったよ」
ゴードンが出来上がったオムライスを皿に乗せ、形容し難い生暖かい目で俺を見ていた。オムライスをテーブルに置き、ゴードンの手が俺の肩にぽんと乗った。
「恋だねえ」
楽しそうな声と顔に今更ながら羞恥で顔に熱が集まる。自分でも話し過ぎたと片手で顔を覆い「すまない」と蚊の鳴くような声で呟くと、ゴードンがまた豪快に笑い飛ばした。
「随分と賑やかですな」
その時リオルのマナー講師を終えたらしいエルダーがやってきて、俺は思わずゴードンを見て首を横に振る。それに親指を立てたゴードンがいい笑顔で頷いた。
「男同士の秘密だよな」
「ほお」
「エルダー! 試作品があるんだがよかったら食べないかっ」
ゴードンに無言を貫くという芸当を期待した俺が悪かった。慌てふためいてテーブルの上に置いたオムライスを指し、なんとか話題を逸らすことに成功したものの内心は冷や汗が流れて止まらない。
きっとエルダーには俺の気持ちなんてお見通しだけれど、それでもあまり話していい内容ではないと理解できるからだ。
「ふむ、これは美味しい。これならばリオル様もお喜びになるでしょう」
「だよなぁ! じゃあ早速今日の晩にでも──」
「それなんですがねゴードン」
それからエルダーは朝に俺に話してくれたことをゴードンに話した。するとゴードンも楽しそうだと引き受けてくれて、この料理は今度のリュシアンの休みに合わせて昼食として出すことに決まった。
その日は他にもデザートについてや、今ある食材を使った違うメニューの相談もした。
「さて時間ですな。フィリアス様、館に戻りましょう」
「ああ、今日もありがとうゴードン」
これからゴードンは厨房で夕飯を作らなくてはならないため、その前に俺たちは厨房から出る。
エルダーのあとに着いて歩いていれば、エルダーから声を掛けられてどきりとした。
「俺も手伝うことは」
「無理無理無理無理刃物とか持たせたのが万が一エルダー様にバレたら市中引き回しの刑に処されちまう」
「お前にとってエルダーはどんな存在なんだ」
「戦場の敵大将よりも怖え」
それは相当なのでは、と思いながら皿に乗っていたフルーツを食べる。甘く爽やかな味わいのそれを堪能しつつ、頭の中にはラナの言葉が浮かぶ。
「……俺は身の程知らずだろうか」
「あ? リュシアン様が好きなことに対してか?」
「こ、声が大きい!」
一切の配慮をしない声の大きさに思わず立ち上がると、ゴードンは豪快に笑って俺の方を見た。
「そういう感情は誰にも止められねえもんだぜフィル様。好きなら好きでいいじゃねえか。誰に迷惑を掛けるわけでもねえんだからよ」
真っ直ぐで、それでいて底抜けに明るい声に目を丸くする。
「まあ叶うかどうかは別の話だけどな! ガハハ!」
天から地に落とされるというのはまさにこのことである。
けれどあまりにゴードンが明るいものだから、もう悩むことすら馬鹿らしくなってしまった。つられるように俺も笑い、残ったフルーツとハーブティーを胃に納める。
すっかり気分も元に戻り、ゴードンの後ろから作業を見守ることにした。
「トマトソースで米を炒めるとはなぁ、恐れ入ったぜ」
「思い付きだ。美味しいといいな」
「こりゃあ絶対に美味いぜ! 俺の勘がそう言ってる!」
厨房に広がる香ばしい匂いに頬が緩む。
それから少しして畑中陽一の記憶にあったオムライスと寸分変わらないものが出来上がり、俺は驚嘆した。ゴードンと二人でそれを食べ、美味しさに拳を突き合わせる。
「俺たちは天才かもしれねえぜ、フィル様……!」
「再現できるお前がすごいんだ」
「確かに俺は天才だけどよ!」
二人であっという間に一皿を食べ切ってしまい、これだとエルダーに食べてもらう分がなくなってしまうとまた新しくオムライスを作る。
その作業を見ながら俺はゴードンと色々な話をした。
エルダーにさえリュシアンの話が出来なかったから、俺はここぞとばかりにリュシアンのことを話した。もちろん夢の中で会っていることは言ってない。
それでも小さい頃から睨まれていた話や、ここに来たばかりの頃の話、それから少し仲良くなれた頃の話をする頃にはもうゴードンが首を振っていた。
「もうお腹いっぱいです。あんたがリュシアン様のことが大好きなのはよく伝わったよ」
ゴードンが出来上がったオムライスを皿に乗せ、形容し難い生暖かい目で俺を見ていた。オムライスをテーブルに置き、ゴードンの手が俺の肩にぽんと乗った。
「恋だねえ」
楽しそうな声と顔に今更ながら羞恥で顔に熱が集まる。自分でも話し過ぎたと片手で顔を覆い「すまない」と蚊の鳴くような声で呟くと、ゴードンがまた豪快に笑い飛ばした。
「随分と賑やかですな」
その時リオルのマナー講師を終えたらしいエルダーがやってきて、俺は思わずゴードンを見て首を横に振る。それに親指を立てたゴードンがいい笑顔で頷いた。
「男同士の秘密だよな」
「ほお」
「エルダー! 試作品があるんだがよかったら食べないかっ」
ゴードンに無言を貫くという芸当を期待した俺が悪かった。慌てふためいてテーブルの上に置いたオムライスを指し、なんとか話題を逸らすことに成功したものの内心は冷や汗が流れて止まらない。
きっとエルダーには俺の気持ちなんてお見通しだけれど、それでもあまり話していい内容ではないと理解できるからだ。
「ふむ、これは美味しい。これならばリオル様もお喜びになるでしょう」
「だよなぁ! じゃあ早速今日の晩にでも──」
「それなんですがねゴードン」
それからエルダーは朝に俺に話してくれたことをゴードンに話した。するとゴードンも楽しそうだと引き受けてくれて、この料理は今度のリュシアンの休みに合わせて昼食として出すことに決まった。
その日は他にもデザートについてや、今ある食材を使った違うメニューの相談もした。
「さて時間ですな。フィリアス様、館に戻りましょう」
「ああ、今日もありがとうゴードン」
これからゴードンは厨房で夕飯を作らなくてはならないため、その前に俺たちは厨房から出る。
エルダーのあとに着いて歩いていれば、エルダーから声を掛けられてどきりとした。
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