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第七章
もっと
「リオルから離れろ、ラナ」
理解が追いつかない言葉の直後に、悲鳴のような呼吸音がした。
「っ、私を裏切ったわねゴードン! お前が私に毒を渡したくせに!」
ラナの叫びに息が止まりそうになった。
予想だにしていなかった名前が聞こえたからだ。
否、そもそもラナが犯人だとして、どうして毒を盛る必要があるんだ。それも俺に。しかもゴードンが裏で手を引いていた……? 意味がわからずに混乱していると、エルダーの手が俺の目を塞いだ。
「大丈夫ですよ、フィリアス様」
こんな状況なのに穏やかとも思える声にますます混乱が深まる。
「おー怖い。人聞きの悪いこと言わねえでくれよ」
少し離れたところでゴードンの声がした。重たく気怠げな、いつも聞いているのとは違うトーンだから、一瞬誰かわからなかった。
「俺ぁ確かにお前に毒の在処は教えたけどなぁ、使えとは一言だって言ってねえぜ? やったのはお前だし、そもそも俺はこっち側だ」
「この傭兵崩れが……!」
「それに騙されてんだから世話ねえな」
「っ!」
目を覆うエルダーの手に力が入ったのがわかった。
「私は間違ってない!」
金切り声が庭園に響く。
「あんな男がリュシアン様のお心を奪っているのも、こんな子供が次期公爵になるのも間違ってる! だから私が正すの。こんな間違いすぐに正して、そしてっ」
昂ったラナの声が途中で途切れた。
「部をわきまえろ」
どさりと何かが地面に倒れ込む音と同時に、幾つもの甲冑が擦れる音がした。
「元とはいえ王族に毒盛ったんだ。素敵な未来が待ってると思うぜ」
俺の意識の外で急激に事態が動いているのがわかる。気になることも聞きたいことも山のようにあるのに、急激に意識が保てなくなっているのがわかった。
「フィリアス様っ」
エルダーの手が目から離れ、目を閉じているはずなのに空の眩しさがわかった。ひどく眠たい。リオルは無事だろうか、俺以外に被害は出ていないだろうか。
そんな支離滅裂な考えが泡のように浮かんでは消えていく中で、今度は耳すら遠くなっていく。
「フィリアス、フィリアス!」
リュシアンの声も遠くに聞こえる。
脳裏に浮かんだのは、つい先程見たリュシアンの瞳だった。
陽の光の下で見るリュシアンの目はとても綺麗だった。願わくはもっと見ていたかったけれど、それはもう難しいかもしれない。
全てを失った日から正直なところいつ死んでもいいと思っていたけれど、いざその瞬間がくると後悔ばかりが浮かぶ。
もっと素直になればよかった。もっとちゃんと生きればよかった。もっと、もっと。
リュシアンにももっときちんと向き合えばよかった。けれどもう声を発するどころか、目を開けることすら叶わない。
最後にもう一度だけリュシアンの顔が見たかったな。
そう思うと同時に、意識がぷつりと途切れた。
理解が追いつかない言葉の直後に、悲鳴のような呼吸音がした。
「っ、私を裏切ったわねゴードン! お前が私に毒を渡したくせに!」
ラナの叫びに息が止まりそうになった。
予想だにしていなかった名前が聞こえたからだ。
否、そもそもラナが犯人だとして、どうして毒を盛る必要があるんだ。それも俺に。しかもゴードンが裏で手を引いていた……? 意味がわからずに混乱していると、エルダーの手が俺の目を塞いだ。
「大丈夫ですよ、フィリアス様」
こんな状況なのに穏やかとも思える声にますます混乱が深まる。
「おー怖い。人聞きの悪いこと言わねえでくれよ」
少し離れたところでゴードンの声がした。重たく気怠げな、いつも聞いているのとは違うトーンだから、一瞬誰かわからなかった。
「俺ぁ確かにお前に毒の在処は教えたけどなぁ、使えとは一言だって言ってねえぜ? やったのはお前だし、そもそも俺はこっち側だ」
「この傭兵崩れが……!」
「それに騙されてんだから世話ねえな」
「っ!」
目を覆うエルダーの手に力が入ったのがわかった。
「私は間違ってない!」
金切り声が庭園に響く。
「あんな男がリュシアン様のお心を奪っているのも、こんな子供が次期公爵になるのも間違ってる! だから私が正すの。こんな間違いすぐに正して、そしてっ」
昂ったラナの声が途中で途切れた。
「部をわきまえろ」
どさりと何かが地面に倒れ込む音と同時に、幾つもの甲冑が擦れる音がした。
「元とはいえ王族に毒盛ったんだ。素敵な未来が待ってると思うぜ」
俺の意識の外で急激に事態が動いているのがわかる。気になることも聞きたいことも山のようにあるのに、急激に意識が保てなくなっているのがわかった。
「フィリアス様っ」
エルダーの手が目から離れ、目を閉じているはずなのに空の眩しさがわかった。ひどく眠たい。リオルは無事だろうか、俺以外に被害は出ていないだろうか。
そんな支離滅裂な考えが泡のように浮かんでは消えていく中で、今度は耳すら遠くなっていく。
「フィリアス、フィリアス!」
リュシアンの声も遠くに聞こえる。
脳裏に浮かんだのは、つい先程見たリュシアンの瞳だった。
陽の光の下で見るリュシアンの目はとても綺麗だった。願わくはもっと見ていたかったけれど、それはもう難しいかもしれない。
全てを失った日から正直なところいつ死んでもいいと思っていたけれど、いざその瞬間がくると後悔ばかりが浮かぶ。
もっと素直になればよかった。もっとちゃんと生きればよかった。もっと、もっと。
リュシアンにももっときちんと向き合えばよかった。けれどもう声を発するどころか、目を開けることすら叶わない。
最後にもう一度だけリュシアンの顔が見たかったな。
そう思うと同時に、意識がぷつりと途切れた。
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