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第八章
ぱかっとエルダー
昨日よりも食感のあるスープがメインで、そばには小さな白パンが置いてあった。それをスープに浸して食べると美味しい。
「やっぱりゴードンの料理は美味しいな」
「ありがとな」
以前なら「当たり前だろ」と得意げな顔をしていたけれど、今日はどこか遠慮がちだ。そっとエルダーに視線を送ってみると、彼は静かに首を横に振った。
これ以上は何も言わない方がいいなと思い、それからは食事が終わるまで言葉を発することはなかった。
皿を下げられ、部屋を出て行こうとするゴードンの背中を見て思わず声をかけようと口を開くが、エルダーがそれを止めた。
「昼食も頼みましたよ、ゴードン」
「わあってますよ」
それを機にぱたりと扉が閉まり、エルダーが嘆息する。
「申し訳ありませんフィリアス様」
「エルダーが謝ることはない。むしろ、多分俺が無神経なんだろう。ゴードンやリュシアンがとても気に掛けていることで俺はその当事者なのに、全然緊張感がないんだ」
俺は自分のことに疎い。だから生きているだけでいいじゃないかと楽観的な考えができる。
けれどゴードンにはそれが難しいのだと思う。もし俺がゴードンの立場になったとしたら、俺は多分先程の彼と同じ反応をしてしまう自信があった。
「……リュシアンの食事は今どうなっているんだ?」
「今は他の者が作られた料理を。ですが内容は以前のものに戻ってしまわれております」
「そうか」
予想はしていたけれど、実際聞くと少し辛いものがある。
「どうにかしたいが、難しいだろうか」
「すぐには。けれど時間がいずれ解決してくれると、私は信じております」
その言葉に俺は頷くしかなく、それからリオルと会うための準備を始めた。その間に手紙を保管する場所について話した。
「館に戻れば保管場所もあると思うんだが」
「そのことですがフィリアス様。これは私の予想にはなるのですがな、多分あなた様が館に戻られることはもうないかと」
「ん?」
予想外の言葉に目を瞬かせているとエルダーが言葉を続けた。
「リュシアン様がきっとお許しになりません」
「で、でも俺の立場上そういうわけには」
「ここではリュシアン様のご意見が絶対ですので」
そう言われてしまうと俺に言えることはなくなってしまう。食い下がっても無駄だとわかりつつ、俺は窺うように口を開いた。
「その、でもそしたら、寝室とかは」
「このままと思われた方がよろしいかと」
当然とでも言うような口振りに驚きと羞恥と、それと少しの心配が湧き上がる。
「え、エルダーはそれでいいと思うか? 公爵位を継がないとしても、リュシアンはいずれ……」
婚約とか結婚とかしてしまうかもしれないじゃないか。という続きが言えなかった。喉に蓋がされたみたいに苦しくなったからだ。
肩を落とした俺を見てか、エルダーがやや驚いているのがわかった。
「失礼ですがフィリアス様」
「ん?」
「リュシアン様とお心を通わせたのでは?」
「‼︎」
目を見開き、一気に顔が赤くなる。
ぱくぱくと口を開閉させ言葉に迷っていたが、やがて俺はなんとかして首を横に振った。それにエルダーがぱかっと口を開く。
「た、大切とは言ってくれたけど、その」
「なんという……」
エルダーが額を抑えて天を仰いだ。
「正攻法でなければダメだとあれ程申し上げたというのに……」
「エルダー?」
ぽそぽそと呟かれた言葉が上手く聞き取れず首を傾げると、エルダーが弱々しく首を振ってから俺を見た。
「独り言でございます。まったく、リュシアン様にも困ったものだ」
溜息と共に落ちた言葉も多分独り言だと解釈して、昨日のうちに運び込まれた自分の服に袖を通す。気が付けばリュシアンの部屋なのにいくつか俺の部屋にあったものが運ばれている。
これは本当にもう館には戻れないのでは、と思いながらリオルに会うための準備を終わらせた。
「やっぱりゴードンの料理は美味しいな」
「ありがとな」
以前なら「当たり前だろ」と得意げな顔をしていたけれど、今日はどこか遠慮がちだ。そっとエルダーに視線を送ってみると、彼は静かに首を横に振った。
これ以上は何も言わない方がいいなと思い、それからは食事が終わるまで言葉を発することはなかった。
皿を下げられ、部屋を出て行こうとするゴードンの背中を見て思わず声をかけようと口を開くが、エルダーがそれを止めた。
「昼食も頼みましたよ、ゴードン」
「わあってますよ」
それを機にぱたりと扉が閉まり、エルダーが嘆息する。
「申し訳ありませんフィリアス様」
「エルダーが謝ることはない。むしろ、多分俺が無神経なんだろう。ゴードンやリュシアンがとても気に掛けていることで俺はその当事者なのに、全然緊張感がないんだ」
俺は自分のことに疎い。だから生きているだけでいいじゃないかと楽観的な考えができる。
けれどゴードンにはそれが難しいのだと思う。もし俺がゴードンの立場になったとしたら、俺は多分先程の彼と同じ反応をしてしまう自信があった。
「……リュシアンの食事は今どうなっているんだ?」
「今は他の者が作られた料理を。ですが内容は以前のものに戻ってしまわれております」
「そうか」
予想はしていたけれど、実際聞くと少し辛いものがある。
「どうにかしたいが、難しいだろうか」
「すぐには。けれど時間がいずれ解決してくれると、私は信じております」
その言葉に俺は頷くしかなく、それからリオルと会うための準備を始めた。その間に手紙を保管する場所について話した。
「館に戻れば保管場所もあると思うんだが」
「そのことですがフィリアス様。これは私の予想にはなるのですがな、多分あなた様が館に戻られることはもうないかと」
「ん?」
予想外の言葉に目を瞬かせているとエルダーが言葉を続けた。
「リュシアン様がきっとお許しになりません」
「で、でも俺の立場上そういうわけには」
「ここではリュシアン様のご意見が絶対ですので」
そう言われてしまうと俺に言えることはなくなってしまう。食い下がっても無駄だとわかりつつ、俺は窺うように口を開いた。
「その、でもそしたら、寝室とかは」
「このままと思われた方がよろしいかと」
当然とでも言うような口振りに驚きと羞恥と、それと少しの心配が湧き上がる。
「え、エルダーはそれでいいと思うか? 公爵位を継がないとしても、リュシアンはいずれ……」
婚約とか結婚とかしてしまうかもしれないじゃないか。という続きが言えなかった。喉に蓋がされたみたいに苦しくなったからだ。
肩を落とした俺を見てか、エルダーがやや驚いているのがわかった。
「失礼ですがフィリアス様」
「ん?」
「リュシアン様とお心を通わせたのでは?」
「‼︎」
目を見開き、一気に顔が赤くなる。
ぱくぱくと口を開閉させ言葉に迷っていたが、やがて俺はなんとかして首を横に振った。それにエルダーがぱかっと口を開く。
「た、大切とは言ってくれたけど、その」
「なんという……」
エルダーが額を抑えて天を仰いだ。
「正攻法でなければダメだとあれ程申し上げたというのに……」
「エルダー?」
ぽそぽそと呟かれた言葉が上手く聞き取れず首を傾げると、エルダーが弱々しく首を振ってから俺を見た。
「独り言でございます。まったく、リュシアン様にも困ったものだ」
溜息と共に落ちた言葉も多分独り言だと解釈して、昨日のうちに運び込まれた自分の服に袖を通す。気が付けばリュシアンの部屋なのにいくつか俺の部屋にあったものが運ばれている。
これは本当にもう館には戻れないのでは、と思いながらリオルに会うための準備を終わらせた。
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