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第八章
港へ到着、そして
「ありがとう。港に着いたらすぐに建物の中に入ってもらうことになる」
「その、何が起きているか聞いてもいいのか?」
おずおずと問い掛けると、リュシアンが嬉しそうに目を細めて微笑んだ。
「あなたに関わることだ、フィリアス。だが決して悪いものじゃない。むしろいい報せだと思ってくれ」
「俺に……?」
「ああ」
リュシアンが頷いてから少しして馬車の速度が落ちたのがわかった。カーテンを少しだけ開いたリュシアンが外を確認し、俺を見る。
「もうそろそろだ」
リュシアンはどこか嬉しそうに呟くけれど、俺には未だに何が何だかわからない。ただ悪い報せではないということだけを信じて、どうにかするしかない。
緊張で喉が渇いた頃馬車が止まり、それから少しして御者が扉を開けた。
まずリュシアンが颯爽と馬車から降り、そして俺の方を振り返る。
「お手をどうぞ、フィリアス」
まるで淑女に対するエスコートのように手を差し出す姿に頬が赤くなる。自分だけで降りられるなんて知っているはずなのに、あえてそうしているのだとわかるから余計に恥ずかしい。
でもそんな姿すら素敵だと思ってしまうから、俺はおずおずと手を伸ばしてリュシアンの手に触れた。
「いい子だ」
蕩けるような、という言葉がぴたりと嵌まる笑みだった。
リュシアンの顔を見るのすら久しぶりなくらいなのに、こんな笑みを真正面から食らってしまったらひとたまりもない。
自分の顔がとんでもなく赤いのがわかる。心臓はうるさいし、多分全身からリュシアンのことが好きだという何かが出てしまっている。
きっとそれもリュシアンにバレてしまっている。だってさっきからずっと楽しそうに俺の顔を見ているから。
「……リュシアンはずるい」
「その言葉はあなたにお返ししよう」
意味がわからず首を傾げたが、いつまでもそのままではダメだと意を決して馬車から降りる。すると今度は腰に手を添えられ、有無を言わせずに歩かされた。
「リ、リュシアンっ」
「静かに」
困惑のままに声を上げればそう言われ思わず口を噤む。
いっそ理不尽だと思うくらいの強引さに混乱しつつ、背を押されるままに石造りの建物の中を進む。
きっとここは軍事施設だ。この港はそもそもが軍港なのだから、多分この推測は間違っていない。内装の質素ではあるが張り詰めたような空気もその推測に信憑性を持たせる。
息を潜めたまま道を歩くことしばらく、リュシアンの足が止まった。
前にあるのは明らかに周囲とは作りの違う精巧な扉だ。そこをリュシアンが軽くノックすると、中から「どうぞ」と聞き覚えのある声がした。
緊張が走る。
リュシアンの手が取っ手に触れて、そしてかちゃりと扉が開く。
豊かな黒髪に、意志の強そうな金色の目。そして一分の隙もない凛とした佇まいは、間違いなく彼女のものだった。
「……ロザリア」
「お久しぶりですわ、フィリアス様」
赤く塗られた形のいい唇にお手本のような笑みを乗せ、最後に見た時と同じような完璧な所作で礼を取る姿に思わず見入っていたがはっとする。
「その、何が起きているか聞いてもいいのか?」
おずおずと問い掛けると、リュシアンが嬉しそうに目を細めて微笑んだ。
「あなたに関わることだ、フィリアス。だが決して悪いものじゃない。むしろいい報せだと思ってくれ」
「俺に……?」
「ああ」
リュシアンが頷いてから少しして馬車の速度が落ちたのがわかった。カーテンを少しだけ開いたリュシアンが外を確認し、俺を見る。
「もうそろそろだ」
リュシアンはどこか嬉しそうに呟くけれど、俺には未だに何が何だかわからない。ただ悪い報せではないということだけを信じて、どうにかするしかない。
緊張で喉が渇いた頃馬車が止まり、それから少しして御者が扉を開けた。
まずリュシアンが颯爽と馬車から降り、そして俺の方を振り返る。
「お手をどうぞ、フィリアス」
まるで淑女に対するエスコートのように手を差し出す姿に頬が赤くなる。自分だけで降りられるなんて知っているはずなのに、あえてそうしているのだとわかるから余計に恥ずかしい。
でもそんな姿すら素敵だと思ってしまうから、俺はおずおずと手を伸ばしてリュシアンの手に触れた。
「いい子だ」
蕩けるような、という言葉がぴたりと嵌まる笑みだった。
リュシアンの顔を見るのすら久しぶりなくらいなのに、こんな笑みを真正面から食らってしまったらひとたまりもない。
自分の顔がとんでもなく赤いのがわかる。心臓はうるさいし、多分全身からリュシアンのことが好きだという何かが出てしまっている。
きっとそれもリュシアンにバレてしまっている。だってさっきからずっと楽しそうに俺の顔を見ているから。
「……リュシアンはずるい」
「その言葉はあなたにお返ししよう」
意味がわからず首を傾げたが、いつまでもそのままではダメだと意を決して馬車から降りる。すると今度は腰に手を添えられ、有無を言わせずに歩かされた。
「リ、リュシアンっ」
「静かに」
困惑のままに声を上げればそう言われ思わず口を噤む。
いっそ理不尽だと思うくらいの強引さに混乱しつつ、背を押されるままに石造りの建物の中を進む。
きっとここは軍事施設だ。この港はそもそもが軍港なのだから、多分この推測は間違っていない。内装の質素ではあるが張り詰めたような空気もその推測に信憑性を持たせる。
息を潜めたまま道を歩くことしばらく、リュシアンの足が止まった。
前にあるのは明らかに周囲とは作りの違う精巧な扉だ。そこをリュシアンが軽くノックすると、中から「どうぞ」と聞き覚えのある声がした。
緊張が走る。
リュシアンの手が取っ手に触れて、そしてかちゃりと扉が開く。
豊かな黒髪に、意志の強そうな金色の目。そして一分の隙もない凛とした佇まいは、間違いなく彼女のものだった。
「……ロザリア」
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