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第八章
お口を閉じてくださる?
そう言ったロザリアが背を向けて、テーブルに置いてあった書簡を手に取った。ちらりと見えたそれに王家の紋章があり、俺は目を丸くする。
「正式にリオルが家督継承者と認められましたわ。これがその勅書」
「ああ、ありがとう」
さらりとされたやりとりに目を丸くする。
この書簡はそんな簡単なやり取りで渡されていいものではないからだ。だが二人のやり取りがあまりに自然で目を白黒させていると、不意にロザリアと目が合った。
「……それともう一つ」
ロザリアが微笑む。優しくて、それでいて美しい笑顔で口を開いた。
「陛下からお二人に」
手渡された書簡を手に取り、文章に目を通す。
そこに書かれていた内容に、俺は呆然と立ち尽くした。
王命により、ここに宣する。
そう書き出された書面には、こう書いてあった。
フィリアスを王家の血を引く者として、その身柄をフォークナー公爵家に預ける。
公爵家当主および後継者は、王の名の下にこれを庇護し、身の安全と生活を確保せよ。
なお、当該者の処遇については、公爵家の裁量に委ねるものとする。
最後に国王の名があるところまで見て、俺はゆっくりとリュシアンを見上げた。
彼は優しい顔で微笑んでいる。慈愛すら感じる表情のまま、俺をじっと見つめていた。
「監視ではなく、あなたを公爵家で庇護することになった。完全とまではいかないが、今までよりはずっと自由に過ごせるはずだ」
腰を抱いていた手が離れ、リュシアンの手が頬に触れた。
けれど俺は思わず首を横に振り、書簡を持つ手に力を入れた。
「な、なんで? 俺は許されないことをした。極刑になってもおかしくないことをしたのに、どうしてこんな」
頭が混乱している。何もしていないのに罪が軽くなるなんておかしい。
俺はそんな待遇を受けるべき存在じゃない。そう思って取り乱しかけたその時、凛とした声が俺の行動を諌めた。
「お変わりになられたからですわ、フィリアス様が」
ロザリアの真っ直ぐな視線が俺を貫く。
「あなた様の行動は全てエルダーから報告を受けております。それらを鑑みたうえでの判断ですわ」
「でも」
「少しは誇ってくださいませ。フィリアス様は公爵家にとって有益なことを二つも成し遂げておりますのよ」
大きな目を細めながらロザリアが言う。
なんのことかと困惑していれば、彼女は一つ息を吐いた。
「以前のフィリアス様でしたら鬼の首を取ったようにご自慢なさっていたのに、そんな自信の持ち方もお忘れになってしまったのかしら。お兄様の隣に並ばれるのなら虚勢でも胸をお張になったら?」
言葉が鋭利な刃物のように俺の胸を突き刺してくる。
それでも何も言い返せずにいると、仕方がないとばかりにロザリアが口を開いた。
「一つはお兄様の偏食を治されたことですわ」
「そ、それはリュシアンが頑張ったから」
「お口を閉じてくださる?」
「……」
ぴしゃんとした語気に逆らわず口を閉じる。隣のリュシアンをちらと見ても、彼もロザリアには敵わないのか口を閉じたまま、少しだけ申し訳なさそうに俺を見た。
「そしてもう一つ。これはわたくしからもお礼を申し上げますわ」
す、とドレスの裾を引き、ロザリアが俺に深く頭を下げる。
驚きのあまり声も出せずにいると、そのまま声が響く。
「リオルを助けていただき、感謝いたします。あの子は公爵家の宝物なのです。その子を身を挺して庇ってくださったこと、感謝してもしきれません」
時間が止まったように感じる程の衝撃だった。
けれどそれは一瞬で、俺は慌ててロザリアの肩に触れた。
「顔を上げてくれ。それに庇ってなんていないんだ、あれは」
「どんな形、どんな意図があったにせよ」
ロザリアが顔を上げ、姿勢を正す。
「フィリアス様の存在がリオルを守ったのです。そこに嘘偽りはございません。そうですわね、お兄様」
「……不本意ながらその通りだ」
低い声でリュシアンが呟き、大きな手が俺の手を掬うように取った。その手を持ち上げられ、指先に唇が触れる。
「遅くなったが、あなたのおかげでリオルに怪我一つなく事態を収束させることができた。リオルを救ってくれて、本当にありがとう」
二人からの言葉に胸がいっぱいになって何も言葉が出てこない。唇を噛んで黙っているともう片方の手でリュシアンが頬を撫でた。
「正式にリオルが家督継承者と認められましたわ。これがその勅書」
「ああ、ありがとう」
さらりとされたやりとりに目を丸くする。
この書簡はそんな簡単なやり取りで渡されていいものではないからだ。だが二人のやり取りがあまりに自然で目を白黒させていると、不意にロザリアと目が合った。
「……それともう一つ」
ロザリアが微笑む。優しくて、それでいて美しい笑顔で口を開いた。
「陛下からお二人に」
手渡された書簡を手に取り、文章に目を通す。
そこに書かれていた内容に、俺は呆然と立ち尽くした。
王命により、ここに宣する。
そう書き出された書面には、こう書いてあった。
フィリアスを王家の血を引く者として、その身柄をフォークナー公爵家に預ける。
公爵家当主および後継者は、王の名の下にこれを庇護し、身の安全と生活を確保せよ。
なお、当該者の処遇については、公爵家の裁量に委ねるものとする。
最後に国王の名があるところまで見て、俺はゆっくりとリュシアンを見上げた。
彼は優しい顔で微笑んでいる。慈愛すら感じる表情のまま、俺をじっと見つめていた。
「監視ではなく、あなたを公爵家で庇護することになった。完全とまではいかないが、今までよりはずっと自由に過ごせるはずだ」
腰を抱いていた手が離れ、リュシアンの手が頬に触れた。
けれど俺は思わず首を横に振り、書簡を持つ手に力を入れた。
「な、なんで? 俺は許されないことをした。極刑になってもおかしくないことをしたのに、どうしてこんな」
頭が混乱している。何もしていないのに罪が軽くなるなんておかしい。
俺はそんな待遇を受けるべき存在じゃない。そう思って取り乱しかけたその時、凛とした声が俺の行動を諌めた。
「お変わりになられたからですわ、フィリアス様が」
ロザリアの真っ直ぐな視線が俺を貫く。
「あなた様の行動は全てエルダーから報告を受けております。それらを鑑みたうえでの判断ですわ」
「でも」
「少しは誇ってくださいませ。フィリアス様は公爵家にとって有益なことを二つも成し遂げておりますのよ」
大きな目を細めながらロザリアが言う。
なんのことかと困惑していれば、彼女は一つ息を吐いた。
「以前のフィリアス様でしたら鬼の首を取ったようにご自慢なさっていたのに、そんな自信の持ち方もお忘れになってしまったのかしら。お兄様の隣に並ばれるのなら虚勢でも胸をお張になったら?」
言葉が鋭利な刃物のように俺の胸を突き刺してくる。
それでも何も言い返せずにいると、仕方がないとばかりにロザリアが口を開いた。
「一つはお兄様の偏食を治されたことですわ」
「そ、それはリュシアンが頑張ったから」
「お口を閉じてくださる?」
「……」
ぴしゃんとした語気に逆らわず口を閉じる。隣のリュシアンをちらと見ても、彼もロザリアには敵わないのか口を閉じたまま、少しだけ申し訳なさそうに俺を見た。
「そしてもう一つ。これはわたくしからもお礼を申し上げますわ」
す、とドレスの裾を引き、ロザリアが俺に深く頭を下げる。
驚きのあまり声も出せずにいると、そのまま声が響く。
「リオルを助けていただき、感謝いたします。あの子は公爵家の宝物なのです。その子を身を挺して庇ってくださったこと、感謝してもしきれません」
時間が止まったように感じる程の衝撃だった。
けれどそれは一瞬で、俺は慌ててロザリアの肩に触れた。
「顔を上げてくれ。それに庇ってなんていないんだ、あれは」
「どんな形、どんな意図があったにせよ」
ロザリアが顔を上げ、姿勢を正す。
「フィリアス様の存在がリオルを守ったのです。そこに嘘偽りはございません。そうですわね、お兄様」
「……不本意ながらその通りだ」
低い声でリュシアンが呟き、大きな手が俺の手を掬うように取った。その手を持ち上げられ、指先に唇が触れる。
「遅くなったが、あなたのおかげでリオルに怪我一つなく事態を収束させることができた。リオルを救ってくれて、本当にありがとう」
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