雲霧を被る

越知 学

文字の大きさ
5 / 9

5話

しおりを挟む
 彩の第一印象は不器用。
 生徒会に入りたての1年生だった俺でも、それはちょっと違うのではないか思うくらい、少しずれた方法で時間をかけている2年生の先輩がいた。
 彼女は当時、整美委員長を務めていたが、人への伝え方があまり上手ではなく、非効率的なやり方で働き、よく泣いているような人だった。俺が憧れていた誰もから慕われるようなタイプではなかったのだ。しかし、誰よりも一生懸命で、何事にも真剣に取り組み、人のために涙を流せる先輩の姿に俺は惹かれていった。
 彼女の仕事を手伝いたくなり、自ら彼女と共に働くことを志願した。そして、傍にいるうちにどんどん彼女の魅力が見えてきて、自然と好意を持つようになっていったのである。いつからか、彼女に告白したいという気持ちが芽生えていた。
 しかし、自分に自信を持って言える長所がなく、想いを伝える勇気が持てなかった。何か自信をつけられるものはないかと悩んだ挙句、学力を上げることを目指した。
 ここで問題が発生する。当時の俺は自他共に認めるお墨付きの馬鹿だった。五教科の平均点は32点。実力テストの順位は、下から5番目で、先生からは卒業は疎か、進級すら怪しいと言われていた。
 馬鹿な男は女子に嫌われると思っていた俺は、今のままでは好かれるどころか、相手にさえしてもらえないと思った。だから俺は、テストで五教科平均80点以上取ったら告白するという、かなりハードルの高い明確な目標を立て、死に物狂いに勉強した。
 天矢の力を借りるか迷ったが、今回は自分の力で成し遂げたいと考え、彼の申し出は断った。もしかしたら人生でこれほど勉強する時は来ないのではないかというぐらい頑張った。
 その結果、1年生の夏の期末テストで、五教科平均85点という自分でも驚くような点数を取ることができた。
 その日の放課後、彼女と二人きりの生徒会室で俺は告白した。心が躍っているのに、はち切れそうな変な感覚は始めて味わうものだった。彼女は少し不自然な挙動をみせたが、「私なんかで良ければ」と恥ずかしがりながら承諾してくれた。
「報われない努力は努力とは言えない。つまり報われた君の努力は本物だったんだね。おめでとう」
 天矢の祝福の言葉は、まるで「俺の世界へようこそ」と言っているようだった。無論、彼はそんなタイプではないのは百も承知だが……。
 俺が初めて行った努力は、こういった形で実を結んだのだった。

 付き合い始めても、生徒会での関係性は変わらない。先生にいいようにこき使われ、二人でこなしていく。
 彼女の不器用なやり方を俺が指摘し、散々言い返すくせして、俺の方を採用する。それが上手くいったら、
「まあ……今回はありがとね」
 そうやってちょっと不服そうにお礼を言う。なんて見事なツンデレなんだと俺は歓喜してしまう。
 字を書く仕草、用具点検するときの姿、上手くいったときに見せる晴れやかな笑顔。そのどれもが俺を惹きつけてやまない。
 彩と特別な関係になってから今日に至るまで、俺は幸せの絶頂にいた。恋は盲目というのはどうやら本当らしい。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

『専属メイド全員が重すぎる愛で迫ってくる!~大学生の僕、10人の美女に24時間甘やかされ尽くす生活~』

まさき
青春
僕は、ちょっと普通じゃない日常を送ることになった――それは、専属メイドが全員僕のことを溺愛してくれる暮らしだ。 朝は髪を整えてくれるリナ、朝食で笑顔を見せてくれるミユ、どの瞬間も全力で僕を甘やかす。掃除、料理、悩み相談まで、僕のためだけに動くメイドたち。 「ご主人様の笑顔が見たいんです」 その一言で、僕の毎日はちょっとドキドキ、ちょっと幸せ。 全員が僕を独占したいと競い合う日常の中、僕はどうやってこの溺愛地獄(?)を生き抜けばいいのか――!? 甘々、至れり尽くせりの日常ラブコメ、開幕。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

不倫妻への鎮魂歌 ―サレ夫が選んだ、最も残酷で静かな復讐―

MisakiNonagase
大衆娯楽
「サレ夫、再生。不倫妻、転落。──その代償は、あまりに重い。」 「嘘で塗り固めた20年より、真実で歩む明日がいい。」 失って初めて気づく、守られていた日々の輝き。 46歳の美香にとって、誠実な夫と二人の息子に囲まれた生活は、退屈で窮屈な「檻」だった。若い男からの甘い誘惑に、彼女は20年の歳月を投げ打って飛び込んだ。 しかし、彼女が捨てたのは「檻」ではなく「聖域」だったのだ。 不倫、発覚、離婚、そして孤独。 かつての「美しい奥様」が、厚化粧で場末のスナックのカウンターに立つまでの足取りと、傷つきながらも真実の幸福を掴み取っていく夫・徹の再生を描く。 家族とは何か、誠実さとは何か。一通の離婚届が、二人の人生を光と影に分かつ。

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

処理中です...