雲霧を被る

越知 学

文字の大きさ
6 / 9

6話

しおりを挟む
 トンボの群れがせわしなく動き回っているのを窓の内から見てると、天矢がおーいと声を掛けてきた。
「次、君の番だよ」
 俺はゆっくりとスマホの画面に目を戻す。今、俺の家で彼とパズルゲームの協力プレイをしている最中である。
「あー俺の分もやっといて」
「それじゃあ協力プレイの意味ないじゃん。君の方が上手いんだからやってよ」
「大丈夫!てっちゃんでもいける!」
「失敗しても怒んないでね」
 彼は予防線を張ると、仕方ないと言った様子で、俺のスマホを手に取る。鮮やかな手捌きで指を動かしている。
「てっちゃんも上手くなったもんだねー」
「ドハマりしちゃってね。だからやりたくなかったんだよ」
 彼はスマホに目を落としたまま、わざとらしく抑揚をつけて言う。
 彼の言う通り、そのゲームは人気があって俺が何度誘っても彼は頑なに断り続けた。「ハマるゲームはしたくない」「世の中の波に吞まれたくない」と言って、一向にしようとしなかった。
 痺れをきらした俺は、電話したいからスマホ貸してという嘘をついて、勝手にダウンロードし、チュートリアルを済ませてやった。彼は少し怒ったが、
「一日して慣れなかったら即止めるから」
 そう言って、画面を凝視しながら、ぎこちなく手を動かし始めた。
 何回か俺が勝手に指導したおかげで、彼は1時間足らずで慣れてしまって、見事ゲームの仲間入りを果たしたのである。
 彼は一度始めると突き詰める癖があるので、それからは俺が聞かずとも、どんどん質問してきて腕を磨いていった。
「この形式ムズイんだよなー」「どうしよう」
 そんなことをブツブツ言っている彼を横目に、再び窓に視線を向けようとすると、一瞬見ている風景に雲のようなものが出てきて、視界を遮った。すぐにその雲は晴れたが、今まで味わったことのある感覚に俺はひとまず時計を見る。
 時刻は19時04分。
 次に周りを見渡す。特に変わった様子はない。
 すると着信音が流れてきた。その音は俺のスマホから鳴っていた。
「彼女からだよ」
 彼が俺のスマホの画面を見せながら言った。
 俺は返事もせずにそのスマホを受け取り応答する。
「もしもし」
「………」
 返答がない。
「どうしたん?何かあった?」
「……殺した」
 その声はやけに低かった。男の声だ。
「誰だよあんた」
「へ……へへ……お前の彼女を殺した……。気分はどうだ?」
 殺した?彩を?何言ってんだこいつ。
「彩そこにいるんだろ?誰か知らねえけど早く替われよ」
「だから殺したって言ってんだろ!!もっと取り乱せよ!!」
 意味が分からない。
 先に発狂した電話越しの男は大きな舌打ちをしたかと思うと、大声で笑いだした。
「次はお前の番だ。明日俺がメールした所に来い。逃げるなよ?」
「は?言ってる意――」
 途中で通話が切れた。ほどなくしてメールが届く。
 それと同時に再び視界に雲がかかる。それが晴れると、元の風景が見える。
 時刻を見ると、17時03分。そしてたった今04分になる。
 俺が天矢の手にしているスマホに目をやると、着信音が流れ始めた。
「彼女からだよ」
 彼が俺のスマホ画面を見せながら言った。
 俺は返事もせずに恐る恐るスマホを受け取り応答する。
「……もしもし」
「………」
「誰だよ」
「……殺した」
「だから誰だって言ってんだよ」
「へ……へへ……お前の彼女を殺した……気分はどうだ?」
「彩をか?意味わかんないんだけど?」
「だからそうだって言ってんだろ!!もっと取り乱せよ!!」
「だから何なんだよお前は!」
「チッ……ハハッ……ハハハハハ!!次はお前の番だ。明日俺がメールした所に来い。逃げるなよ?」
 プチッ。ツーツー。
 電話が切れる。そしてすぐにメールが届いた。
 その内容を確認する。
『19時、○○ビルの地下にてお前を待つ』
 味気のない文字が羅列しているのみだ。
 しばらく俺が硬直していると、彼が声を小さくして尋ねてきた。
「大丈夫か?」
 俺は変に気を遣わせないように、いや、巻き込まないように必死にごまかす。
「何だろうな?彩のやつ、俺という彼氏がいながら浮気か?」
 彼は何も答えなかった。少し考えて、
「もうこんな時間だし、僕そろそろ帰るね」
 逆に気を遣うようにして、それじゃあと手をふっと挙げながら、部屋を出ていった。
 取り残された俺は、一人で思考を巡らせる。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

『専属メイド全員が重すぎる愛で迫ってくる!~大学生の僕、10人の美女に24時間甘やかされ尽くす生活~』

まさき
青春
僕は、ちょっと普通じゃない日常を送ることになった――それは、専属メイドが全員僕のことを溺愛してくれる暮らしだ。 朝は髪を整えてくれるリナ、朝食で笑顔を見せてくれるミユ、どの瞬間も全力で僕を甘やかす。掃除、料理、悩み相談まで、僕のためだけに動くメイドたち。 「ご主人様の笑顔が見たいんです」 その一言で、僕の毎日はちょっとドキドキ、ちょっと幸せ。 全員が僕を独占したいと競い合う日常の中、僕はどうやってこの溺愛地獄(?)を生き抜けばいいのか――!? 甘々、至れり尽くせりの日常ラブコメ、開幕。

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

不倫妻への鎮魂歌 ―サレ夫が選んだ、最も残酷で静かな復讐―

MisakiNonagase
大衆娯楽
「サレ夫、再生。不倫妻、転落。──その代償は、あまりに重い。」 「嘘で塗り固めた20年より、真実で歩む明日がいい。」 失って初めて気づく、守られていた日々の輝き。 46歳の美香にとって、誠実な夫と二人の息子に囲まれた生活は、退屈で窮屈な「檻」だった。若い男からの甘い誘惑に、彼女は20年の歳月を投げ打って飛び込んだ。 しかし、彼女が捨てたのは「檻」ではなく「聖域」だったのだ。 不倫、発覚、離婚、そして孤独。 かつての「美しい奥様」が、厚化粧で場末のスナックのカウンターに立つまでの足取りと、傷つきながらも真実の幸福を掴み取っていく夫・徹の再生を描く。 家族とは何か、誠実さとは何か。一通の離婚届が、二人の人生を光と影に分かつ。

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

処理中です...