向上と喪失

越知 学

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3話

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 決意を固めた翌日、僕は高校に通って初となる小テストを目前にしていた。
 この学校では、学力向上の取り組みの一環として、毎週金曜日に7限目を設けて、数学と英語の小テストを行うしきたりがあった。これは学年共通の試験であり、結果は翌週の月曜日に通達されるという仕組みとなっている。
 担任からこれを告げられた時「聞いてねえよ」「小テストしようだなんて誰が言い出したんだよ」といった悲鳴が飛び交った。
 僕もテストは大嫌いだ。成績をつけるためには仕方がないとは思う。しかし、僕という人間を学力だけで判断されているような気がして癪に障るのだ。しかも、プレッシャーや緊張に弱い僕のような人には、とても不利な条件での判断材料となる。
 しかし、この時僕はチャンスであるとも考えた。これで学年1位を取れば、自分は特別になれる、普通の人では見れない景色を見ることができる、そう思った。だから僕は、この小テストを自分ができる最大の努力で臨むことにした。

 4月第2週目ーー15位。
 まだだ。こんなところで満足してられない。
 多くの人が正解した問題を見ている中、僕は間違った問題にのみ目を向けた。なぜ間違ったのか?なぜそのような間違えに至ったのか?そして、同じミスをしないように、何度も類問をこなした。

 4月第3週目ーー8位。
 まだだ。まだ上に行ける。僕はもっと上に行きたい。
 追い越した人になんて興味はない。振り返ったところで得られるものは何もないからだ。むしろ慢心してしまう危険性がある。だから僕はこれから追い越す人しか見ない。優越感に浸っている暇などない。

 4月第4週目ーー2位。
 あと少し。あと少しで僕は特別になれる。
 下を見るな。上だけ見て進み続けろ。
「今週の土日どっか遊びに行かない?」
 クラスメイトが僕を誘ってくれる。
「……ごめん、僕用事があるんだ」
 遊んでいる時間はない。何かを得るためには、何かを犠牲にしないといけない。
 僕は絶対に1位の景色を見るんだ。
 
 5月第1週目ーー1位。
 ……やった。
 僕はついに頂点に立った。その数字を見た時は嬉しさのあまり、人目をはばからずガッツポーズをした。ゴールデンウィーク、家族が旅行に出かけていた中、家に籠りがむしゃらに勉強した甲斐があった。
 しかし、目標を達成した自分に問いかける。
 ーー頂点に辿り着いた今、何か変わったか?
 先ほどまでの高揚感が幻であったかのように、僕は急に冷静になる。
 ………変わらない。
 特別な存在になれると思っていたのに、僕は僕のままで、大勢いる人の中の一人でしかない。
 おかしい。なぜだ。僕は特別になったんじゃないのか?僕が間違っていたのか?
 1位を取れば見れると思っていた景色。
 1位にしか味わえないと思っていた気分。
 しかし僕には見えない、感じない。
 じゃあーー特別って何なんだよ。
 それでも僕は、いつか分かる日が来ることを信じて努力を続けた。
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