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2章
14話
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「でもその後、お姉ちゃんは言いました。『もし麻衣ちゃんが途方に暮れてしまったとき、私の大好きな人がきっと麻衣ちゃんの帰る場所になってくれる。根拠もなければ、理屈も言えない。だけど私は確信している。きっと彼が麻衣ちゃんのかけがえのない人になる。麻衣ちゃんが彼を求めた時、必ず彼は現れてくれる。約束するよ。会えた時のために名前だけ教えておくね。彼の名前は――』
当然私の知っている人ではありません。だけどその名前を聞いたとき、不思議と救われたような気がしました。心が温かくなるような、強く生きる力を与えてくれるような感覚。その時決心しました。これから私は『空野芽依』として生きていくことを。大好きなお姉ちゃんの苗字を借りて、私も強く生きようと誓いました」
少女、いや空野麻衣は左斜め下に視線を落とす。
「そう決心して、薄暗い中自分の家に帰ると、両親はリビングでせわしなくあたふたしていました。母は電話をし、父は『外をみてくる』と勢いよく飛び出していきました。
私は走ってくる父をよけて、開けっ放しのリビングのドアから中に入りました。『どうしたの?』と言いましたが、母は見向きもしません。母は焦りながら、電話越しの相手にまとまりのない言葉を投げかけていました。『娘がいないんです。ランドセルもなくて。こんなことなかったんです。もし誘拐だったらどうしよう。どこかで事故にあったかもしれないわ。なんとか探してください』
文脈から察するに、相手は警察官なのだろうと思いました。でも、母の電話内容がまるで理解できませんでした。私は部屋全体に響き渡るぐらいの声量で叫びました。『ただいま!お母さん!私はここにいるよ!』
しかし、その言葉も届きません。母はドア付近と固定電話の前を何度も往復していました。もちろん私の存在に気づくことはありません。私は怖くなってランドセルをからったまま、家を出ました」
少しを呼吸を整えて、少女は続ける。
「行き場のない私は、もう一度お姉ちゃんの家があった場所に向かいました。その間に、帰宅途中のサラリーマンや巡回中のおまわりさんとすれ違いました。19時をゆうに過ぎているのに、小学生の女の子が一人で出歩いていることに不信感を抱き、声を掛けてくれる大人は誰一人いませんでした。試しにおまわりさんに触れてみようとしましたが、自分の存在を決定づけてしまうことが怖くて、できませんでした。
私は更地に着くと、お姉ちゃんの声を求めました。しかし、心を包み込んでくれるような温もりのあるお姉ちゃんの声は聞こえません。『お姉ちゃん!お姉ちゃん!』と何度も叫びましたが、何も変化はありませんでした。私は溢れ出そうな声や涙をぐっと堪え、公園へ向かいました。お姉ちゃんとたくさん遊んだ思い出の場所。私は真っ先にブランコへ向かいました。いつもお姉ちゃんが後ろから背中を押してくれた場所。私よりも大きな手で、私に安心感を与えてくれた場所。
私はブランコに座り、無理矢理笑顔を作りました。どんな状況でも笑顔を忘れなかったお姉ちゃんのように。いろんなことを教えてくれたお姉ちゃんのために」
少女は再び僕の目を見て、少し表情の明るさを取り戻した。
「すると私の目の前に一人の男性が現れました。映像を見るというよりは、誰かの記憶を辿っているような感覚です。私は話す男性の言葉を黙って聞きました。その男性は、いろんな話をしていました。何気ない内容から、自分の内に秘めていたであろう内容まで……。中には、辛い体験や苦しい思いを告白していて、私が涙してしまうこともありました。
でもその男性は、お姉ちゃんと同じくらい優しさで満ちていました。話し方、態度、雰囲気……。そのどれもが、私の心を軽くしていったんです。お姉ちゃんの確信は本当でした。その男性は私にとってかけがえのない存在となり、大切な帰る場所になったんです」
それって――。
「そうです、あなたのことですよ、お兄さん」
少女はまだ目に涙が残っていたが、にこっと僕に笑いかけた。
そのあまりの純粋な笑顔につられて、僕も不器用な笑みを浮かべる。
お互いが同じ一人の女性のことを考えながら――。
当然私の知っている人ではありません。だけどその名前を聞いたとき、不思議と救われたような気がしました。心が温かくなるような、強く生きる力を与えてくれるような感覚。その時決心しました。これから私は『空野芽依』として生きていくことを。大好きなお姉ちゃんの苗字を借りて、私も強く生きようと誓いました」
少女、いや空野麻衣は左斜め下に視線を落とす。
「そう決心して、薄暗い中自分の家に帰ると、両親はリビングでせわしなくあたふたしていました。母は電話をし、父は『外をみてくる』と勢いよく飛び出していきました。
私は走ってくる父をよけて、開けっ放しのリビングのドアから中に入りました。『どうしたの?』と言いましたが、母は見向きもしません。母は焦りながら、電話越しの相手にまとまりのない言葉を投げかけていました。『娘がいないんです。ランドセルもなくて。こんなことなかったんです。もし誘拐だったらどうしよう。どこかで事故にあったかもしれないわ。なんとか探してください』
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しかし、その言葉も届きません。母はドア付近と固定電話の前を何度も往復していました。もちろん私の存在に気づくことはありません。私は怖くなってランドセルをからったまま、家を出ました」
少しを呼吸を整えて、少女は続ける。
「行き場のない私は、もう一度お姉ちゃんの家があった場所に向かいました。その間に、帰宅途中のサラリーマンや巡回中のおまわりさんとすれ違いました。19時をゆうに過ぎているのに、小学生の女の子が一人で出歩いていることに不信感を抱き、声を掛けてくれる大人は誰一人いませんでした。試しにおまわりさんに触れてみようとしましたが、自分の存在を決定づけてしまうことが怖くて、できませんでした。
私は更地に着くと、お姉ちゃんの声を求めました。しかし、心を包み込んでくれるような温もりのあるお姉ちゃんの声は聞こえません。『お姉ちゃん!お姉ちゃん!』と何度も叫びましたが、何も変化はありませんでした。私は溢れ出そうな声や涙をぐっと堪え、公園へ向かいました。お姉ちゃんとたくさん遊んだ思い出の場所。私は真っ先にブランコへ向かいました。いつもお姉ちゃんが後ろから背中を押してくれた場所。私よりも大きな手で、私に安心感を与えてくれた場所。
私はブランコに座り、無理矢理笑顔を作りました。どんな状況でも笑顔を忘れなかったお姉ちゃんのように。いろんなことを教えてくれたお姉ちゃんのために」
少女は再び僕の目を見て、少し表情の明るさを取り戻した。
「すると私の目の前に一人の男性が現れました。映像を見るというよりは、誰かの記憶を辿っているような感覚です。私は話す男性の言葉を黙って聞きました。その男性は、いろんな話をしていました。何気ない内容から、自分の内に秘めていたであろう内容まで……。中には、辛い体験や苦しい思いを告白していて、私が涙してしまうこともありました。
でもその男性は、お姉ちゃんと同じくらい優しさで満ちていました。話し方、態度、雰囲気……。そのどれもが、私の心を軽くしていったんです。お姉ちゃんの確信は本当でした。その男性は私にとってかけがえのない存在となり、大切な帰る場所になったんです」
それって――。
「そうです、あなたのことですよ、お兄さん」
少女はまだ目に涙が残っていたが、にこっと僕に笑いかけた。
そのあまりの純粋な笑顔につられて、僕も不器用な笑みを浮かべる。
お互いが同じ一人の女性のことを考えながら――。
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