夜に滲むはきみのまぼろし

浦見晴

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11.サウィン祭① - 篝火

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「ジェイはもう灯したのか?」
「………?」
「まさかまだ灯してないのかよ、サウィン祭の篝火!」
「……ああ、そんなもんあったな」
「早くしないと篝なくなっちゃうぞ? 俺の横まだ空いてるかなー」
「………」

 ていうか、勝手に部屋に入るんじゃねぇよ。

 今日も今日とてルベルは鍵のぶっ壊れた俺の部屋に無断で入り込み、天蓋付きベッドのカーテンを勢いよく開けて熱烈なモーニングコールをかましてきた。
 ちなみに今日は日曜日。
 もちろん休日である。



 サウィン祭とはブラッツ・カレッジにおいて毎年10月末日に行われるイベントのことで、当日の1週間ほど前よりその準備が行われる。
 ちなみにカレッジには三大イベントと呼ばれるものがあり、サウィン祭の他に交流祭と夏至祭がある。交流祭は3月に、夏至祭は6月に行われる。

 サウィン祭において生徒が必ずやらなくてはならないことは一つだけ。
 篝火を一人につき一つ灯すこと。たったこれだけだ。

 イベント中はカレッジ内に篝火を灯す用の小さな篝(鉄製の、炎を灯すためのランプ台のようなもの)が学内のあらゆる所に置かれるので、好きなところに魔法で火を灯すだけでいい。
 あとは各々好きなように学内を装飾したり、この期間だけいたずらグッズが売店に並ぶから、それらを用いて遊んだりすればいい。
 学生、教員、用務員などカレッジに関わる者なら良識の範囲内で自由に楽しむことが許されるので、毎年この時期は少々羽目を外す輩も出てくる。

 そしてサウィン祭当日の夜、学長ロデリックによる聖祝詞の詠唱と、巨大な聖なる炎を以てサウィンの儀式が執り行われる。
 生徒の参加は強制ではないものの、俺は去年も一昨年も儀式に参加した。
 偉大なる魔法士の魔法を見ることができる貴重な機会であるし、日中の騒がしさと反して夜のあの静けさは中々心地がいい。今年も儀式には参加する予定だ。

「ジェイ、その様子だと衣装も準備してないな?」
「する気もねえよ」
「えー!」

 また、こちらも任意ではあるが、当日は皆さまざまな仮装をしてカレッジ内を練り歩く。
 ……俺からしてみれば、わざわざ仮装などしなくとも、この学園には普段から仮装してるような奴らで溢れているというのに。



 カレッジに入学するより以前、俺は魔法がほとんどない地域で暮らしていた。
 魔族も自分の家族以外にはいなかったし、家族も皆見た目はほとんど人間族と変わらなかったので、入学と同時にロストルム中心地へと訪れた時はそれはそれは驚いたものだった。
 人間よりも魔族の方が多い街中。どこを見ても当然のように魔法を使っている光景は、地方から出てきたばかりの俺にとって何もかもが見慣れなかった。

 ロストルムの北端にあるここブラッツ・カレッジは、さらに人間族が少ない。
 一見すると人間族のような外見だが、実は魔族の血が入っている『リーベリー』であるパターンがほとんどだ。
 それ以外に、例えばロデリックも見た目だけは俺となんら変わらない人間族のように見えるが、あれでいて実は純血の精霊族である。よく見れば人間族より瞳孔が細く、耳がやや尖っている。

 そういえば、人間族かそうでないかの違いが一番わかりやすい指標に『耳の形』がある。
 人間族は皆、耳の上部が丸い。ゆえに魔族から『丸耳族』と呼ばれることもある。
 反対に、少しでも魔族の血を引いていれば耳の上部が尖っている。顕著なのは妖精族だ。妖精族は細長く尖った耳をしていて、それが彼らの代名詞になっている節もある。



 とまあ、話は逸れたが。
 俺は誰に何を言われようと仮装する気などない。

「よーしジェイ、さっさと篝火灯しに行こうぜ」
「はあ……とりあえずお前は出てけ」

 ベッドサイドにあった杖を一振りする。
 ルベルは風に攫われるようにして部屋から追い出された。最近覚えた気流を操る魔法だ。
 わー! と言いながら共用スペースへと飛ばされるルベルを見送って、仕方なくベッドから降りる。

 気は進まないが行事は行事。どうせ図書館に行こうと思ってたから、ついでに篝火を灯すくらい大した用事ではない。と思いつつもやはり面倒なものは面倒だ。
 大きな欠伸をしながら、扉の向こうで何やら喋っているルベルを無視して緩慢な動作で寝巻きを脱ぎ捨てた。


──✂︎──


 のんびりと朝食をとった後、ルベルに急かされながら訪れたのは、主にイベントや交友スペースとして使用されているカレッジの西棟1階だった。3階まで吹き抜けになっていてかなり広い。
 普段は石造りで所々にソファやカウチが置いてあるだけのシンプルな場所なのだが、今はそこら中にカボチャやコウモリを模したが飾りが散在しており、まさにイベント開催中といった様相だった。

 あたりは見たところ下級生が多い。入学式が9月半ば、サウィン祭は10月末日に行われる。1年生にとっては入学以来初めての大型イベントだから楽しみなんだろう。皆どこか浮ついた雰囲気が漂っていた。
 その中に一人、大きな体躯に白黒の尻尾。見覚えのある背中が居心地悪そうに立ちすくんでいた。

「シルキー?」
「? ……ジェイ! 初めてだな。植物園以外で会うのは」
「そうだな」

 植物園で知り合った獣人族の生徒、シルキー・ルノワールがそこにいた。

 初対面から少し経つが、カレッジ自体が広いのはもちろん、学年が違うために授業も被ることがなかったせいで、植物園ではない場所で会うのは初めてだ。
 ちなみに俺はあれから何回か植物園へと訪れている。オズワルドのお使いの時もあったが、あの秘密のアトリエに行くことが目的であることもあった。
 あそこは面倒な奴らに絡まれる心配がない。

「ジェイの知り合いか? 俺はルベル・ホーキング。ジェイの同室なんだ。よろしく!」
「よ、よろしく。シルキー・ルノワール、2年だ」

 ルベルとシルキーが握手を交わす。
 160cm半ばのルベルと俺より背が高い(恐らく190cmを超えていると思われる)シルキーが並ぶと、上下差が激しくて首が痛くなりそうだった。

「シルキーは何やってたんだ? なんか迷ってそうだったけど」
「どこに篝火を灯そうかと迷っていた。別にどこでもいいんだが……」
「そっか。ちょっと待ってな……お、まだ空いてる!」
「?」
「これ、俺の篝火なんだ! ちょうど隣に2人分空いてるし、ジェイもシルキーもここに灯しちゃえよ」

 ルベルの杖の先が示したのは、暖炉付近に設置された篝火だ。他の篝火よりも少しだけ火が大きく、色は赤とオレンジの間くらいだった。
 ルベルの篝火の左側には確かに二つの空いた篝がある。

「じゃあ、ありがたく隣にお邪魔させてもらおう」
「どーぞ!」

 シルキーの杖がゆらりと篝に向かって振られる。先端から魔力が溢れ出し、それらは徐々に炎としての形を整えながら篝におさまった。

「お! 珍しいな、シルキーの炎はアイスブルーなんだな」
「あ、ああ……やっぱりもっと端の方に灯せばよかったか。少し目立つな」
「目立つのがいいじゃんか! 俺のは普通の赤色だからなー」

 魔法を扱う者が生み出す炎は、その者が持つ特性や魔力量によって色が異なる。
 例えば人魚など海出身の者は深い青色の炎を出すことが多い。あるいは自然と縁が深い妖精族は緑色。人間の炎はほとんどが一般的な赤色やオレンジ色だという。
 ただあくまでそういった傾向があるだけで、必ずしもその色の炎が生まれるわけではない。赤い炎を出すマーメイドもいるし、緑色の炎を出す人間だっている。
 そして俺の生み出す炎は……

「でも見てろよ、ジェイの炎もすごいんだ」
「?」
「……そうでもねえよ」

 石のランプ台に杖を翳し、先端に魔力を込めればぶわりと熱風が生じる。程なくしてその中から炎が生まれた。
 ふわふわと揺れる炎。全てを飲み込んでしまいそうな深い『黒』。
 それが俺の炎だった。

「黒い炎……こんな色を持つ者がいるんだな」
「すげーよな! 俺も初めて見たときビックリしたよ、ジェイの篝火」
「すごくもねえだろ」
「いや、すごいよ。すごく綺麗だ」

 黒い炎を眺めながらシルキーがそう言う。
 自分を褒められたような錯覚に陥って、俺は気まずくなって視線を逸らした。シルキーはそれに気付かず、3つ並んだ色とりどりの炎を順番に見ている。

 入学した年、つまり1年生の時に初めてサウィン祭を迎えて炎を灯した時、俺は自分の本来の髪や目と同じ色の炎を見て驚愕した。それと同時に不安を覚えた。
 『黒』はこの魔法界で特別な意味を持つ色だ。
 幸い灯した場所が目立たない隅っこだったのでそれほど取り沙汰されなかったが、確か同じ学年の生徒が同じく黒い炎を灯して話題になっていたはずだ。彼は黒髪を持つことで有名なヴァンパイアの生徒だった。

 まあ、篝火を灯す瞬間を見られていなければ特に問題はないのでそれほど気にしていないのだが、シルキーの前で灯したのは少し不用意だっただろうか。
 ちなみにルベルには初めて灯した際に隣にいたので、彼には黒い炎を隠しようもない。
 ただ、ルベルは『黒』が魔法界で特別な意味を持つことをよく理解していないらしく、俺の炎を珍しがるもののそれを吹聴して回るようなことがなかったのは不幸中の幸いだった。

 まあ、念のため。
 俺は黒い炎を上塗り魔法で赤くする。

「あ! なんで隠すんだよジェイ」
「…………」
「無視すんな!」
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