夜に滲むはきみのまぼろし

浦見晴

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12.サウィン祭② - 言い伝え

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「てかさー、そもそもサウィン祭ってなんでカレッジでこんな大々的にやるんだろうな? 入学した時に説明された気するけどあんま覚えてねーや」
「起源はカレッジ創設期に遡るよ」
「創設期?」
「うん。創設者の一人であるイスラ様がサウィン祭を行う宗教の敬虔な信者だったんだ。それゆえカレッジでも同様にサウィン祭を祝うようになったというわけだよ」

 少しばかり3人で座って雑談をしていた時だった。
 まるで最初からそこにいたかのように4人目の声が会話に割り込んできた。
 あまりにも自然な介入だったので、シルキーがなるほど……と深々と相槌を打つほどだった。俺も同様に、その違和感に気付いたのは一瞬間を置いてからだった。

「……ウワーッ!! いつからいたんだよ!?」
「いつでもどこにでもいるよ。こんにちはホーキングくん、ジェイくん。それに君はシルキー・ルノワールくんだね」
「な、なんで俺の名前……」
「僕はマカ・オルセン。気軽にマカと呼んでくれたまえ」

 違和感の正体はマカだった。
 彼はもうとっくに冬用の制服に衣替えをしていて、さらにローブとマフラーを身につけていた。確かにまだ暖炉が焚かれていないので少し肌寒く感じるときもあるが、それにしても室内でマフラーは早いだろう。どうも彼は寒がりらしい。

 マカはいつのまにかルベルの横に脚を組んで座っていた。
 ちょうどその向かいに座るシルキーはマカへの警戒心が隠しきれず、先程から尻尾が忙しなく動いている。
 これは、無意識に動かしているのだろうか。
 時折隣に座る俺の手を掠めていくので、くすぐったく思いながらも指摘はしない。尻尾は案外ふわふわとしていて気持ちがよかった。……ちょっと触ってみたかったんだよな。

「元々は収穫祭の要素の方が強かったけど、今や仮装だのイタズラだのと結構やりたい放題になっちゃったね。君たちは何かするのかい?」
「俺は実家から送られてきたキャンドルを売ろうかなーと思って! 蜜蝋で作られてるからいい匂いがするんだ。マカも欲しけりゃ当日声かけてくれよな」
「蜜蝋かぁ。いいね、是非そうさせてもらおう」

 ルベルはマカが違和感なく混ざってきたことにあれだけ驚いていたくせに、今は平然と会話を進めている。
 初対面のシルキーにも物怖じせず握手を求めていたし、ルベルのやけに肝が据わっているところだけは俺も少しだけ尊敬していた。
 
 蜜蝋のキャンドルは、去年俺も売れ残った1本を貰った。
 実はルベルの実家──ホーキング家は養蜂業をやっていて、キャンドルの他にも食用蜂蜜を売って生計を立てているらしい。
 蜂蜜は定期的にルベルの元へ送られてくるので、俺も日頃お世話になっている。甘いものは苦手だが、ホーキング家の蜂蜜は人工的な甘味料を使用していないので甘さが控えめで、結構好みの味だ。

 俺がやや思考を逸らしていると、不意にマカと目が合った。緑色の丸い瞳が弓形に細くなり、じっと俺を見つめる。

「ジェイくん」
「なんだ」
「楽しみだね、サウィン祭」

 にっこり。
 そう効果音が聞こえそうなほどの笑顔を作ったマカに、俺は口の端を引き攣らせながら「そうだな」と返した。
 相変わらず不気味な奴だ。話している内容は普通のことなのに、どうも何か裏があるように感じてしまう。
 マカはまたルベルに向き直って話し始める。

「そういえばカレッジに伝わるサウィン祭の言い伝えを知ってるかい?」
「伝説? 聞いたことないな。そんなモノあるのか?」
「うん、すごーい昔の話なんだけどね……」



 ──遥か昔、ブラッツ・カレッジでまだサウィン祭がこれほど世俗化していなかった頃の話だ。
 その年は、月末には珍しく満月が出ていた。月がちょうどカレッジの真上に昇る時刻、当時の学長は巨大な篝火を灯し祝詞を紡いだ。
 本来であれば祝詞は篝火──聖なる炎に捧げるものだ。夏の終わりと冬の始まりを祝い、これからの繁栄を願う。それらの祈りを聖なる炎に込めて天に届ける。

 しかし当時の学長は満月を凶兆と捉え、従来と異なる形で儀式を執り行ったという。
 学長は聖なる炎ではなく月に祝詞を捧げた。月に災いを導かないよう願い、カレッジの安全を保つためならば自らの身を捧げると誓った。そして篝火を月に向かわせて儀式は終了する。

 ──その晩、とある生徒が1人姿を消した。
 多くの人々はその生徒は満月に拐かされたのだと冗談混じりに言った。あるいはカレッジでの生活に嫌気が差して逃げ出したとか、何者かがイタズラで目眩し魔法をかけたとか、好き勝手その生徒について噂した。
 消え失せた生徒は徐々に話題に上がらなくなり、数ヶ月経った頃にはとうとう捜索が打ち切られた。実家にも戻っていない。目撃情報もない。遺体すら見つからない。そんな状況下で、誰もが彼の死を予感しながらもそれを直接口に出すことはしなかった。
 そのうえ、生徒があの日の満月に拐われたのだと思い込んだ当時の学長が、責任を感じてカレッジ学長の座を退任してしまった。退任後は孤独に田舎で暮らしたとか自分を追い詰めすぎて自殺したとかこれまた色々と言われているが、真偽は定かではない。

 その年以来、サウィン祭の儀式はどれだけ予想外のことが起ころうと形式を変えて執り行うことは禁止されるようになった。
 例え運悪く儀式当日に嵐が来ようと、学長は決まった時間に篝火を灯し、祝詞を一言一句間違えずに紡ぎ、そして炎を天に上げなくてはならない。そうしなければ何か不吉なことが起こる。



「知ってるかい? 今年のサウィン祭は148年ぶりに満月だそうだよ」
「エーッ!! ヤダ! 怖い!!」
「……ジェイは、今の話本当だと思うか?」
「さあな」

 横目でシルキーを伺うと、彼もまた半信半疑でいるのか微妙な顔をしていた。
 ちなみに俺は月に拐われたなどとは全く思っていない。そもそもこの言い伝えとやらも胡散臭い。マカが話しているのだから尚更だ。

 4人での雑談もそこそこに俺は図書館へ、シルキーは植物園へ向かうためにその場は解散となった。
 ルベルは俺に「なるべく早く帰ってこいよ!」と言いながら寮に戻っていった。マカはマフラーに顔の下半分を埋めて笑いながらその背中を見送っていた。
 それから俺の方へ向き直って珍しく真面目そうな表情を作る。

「ジェイくん、自分で気付いてる?」
「は?」
「君、〝寄せる〟才能があるね。匂いを隠しきれてないんだ」
「何を言っている」
「忠告はしたよ。くれぐれも気を付けてね」
「待て、どういうことだ」

 一歩前に足を踏み出した瞬間、マカはまたにっこりと笑ってローブを翻した。その瞬間にマカの実体は消え失せ、クッキーの僅かな残り香だけがそこにあった。
 高度な移動魔法でこの神出鬼没を演出しているのだろうが、自らの身体ごと空間移動させられる魔法士はそう多くない。A級の魔法士ですらそう何度も使用することは難しいだろう。
 何者なんだよ。アイツは。
 近くにいたシルキーも頭頂部の耳を外側に逸らし、目をまん丸にして驚いていた。

「な、なんだったんだあの人……」
「俺にもよくわからない。たぶん理解しようとするだけ無駄だから気にしなくていい」
「そう、なのか……?」



 その後、すぐに二手に分かれてお互いの目的地へと向かい始める。道中、俺は心の中で靄を燻らせながら考えていた。

 〝寄せる〟才能とは何か。匂いを隠しきれないとはどういうことなのか。マカは何が目的で自分に忠告したのか。
 気を付けるって、一体何に?
 どういう訳かマカは全てを知っているような雰囲気を纏っている。いや、本当に全てを知っているのかもしれない。そう思わせる雰囲気をマカは持っていた。

 あの忠告、決して無視するべきではない。
 直感でそう思った。
 恐らく匂いというのは自分の魔力のことだ。ロデリックに渡された腕輪で隠している俺の魔力が、隠しきれないほどに増幅している。その可能性はゼロではない。むしろあの口振りからしてほとんどそうだと確信している。
 しかし〝寄せる〟才能があると言われても、果たして何を寄せているのか見当がつかない。自分でもわからないうちに何かを寄せつけている。それは恐らく良からぬもの。

 こんがらがってきた脳内を整理するように俺は二、三度頭を振った。
 マカが妙な話をするから妙な気分になっただけだ。さっさと本を読むなり勉強するなりして考えを逸らしたい。日曜日ということもあり人数の少ない廊下を、早足で通り抜けた。
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