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番外編:ルベル・ホーキングの朝支度
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ルベル・ホーキングの朝は早い。
起きがけ。まずは寝ているうちに吹っ飛ばしてしまったタオルケットを綺麗に畳み、ついでにシーツのよれた部分を直す。
ベッドの乱れを直した後はすぐさま寝巻きを脱ぎハンガーにかける。それから昨日の夜アイロンをかけておいたシャツとスラックスを身につけて、お気に入りの靴下を履く。
お洒落は足元からするものだと教えてくれたのは母親だった。ネクタイは首元が苦しいのであまり好きではないが、校章が入ったデザインは古めかしくて格好いいので気に入っている。
それからルベルは共用の洗面所へと行き洗顔と歯磨きをさっさと済ませる。鏡の前で今日もコンプレックスの雀斑は薄くなっていやしないことを確認して、別に今更悲しくなんてないけどなんとなく「あーあ」という気分になる。
しかしながら落ち込んでいる暇はない。ルベルの朝は忙しいのだ。
続いてルベルは共用キッチンへと赴く。
冷蔵庫から取り出したのはベーコン、ウィンナー、玉子、トマト。フライパンに放り込んでまとめて焼く。ちなみにルベルの好物は焼きトマトである。
完成したらそれを皿に乗せてテーブルに移動する。早食いは良くないことだと知りつつ、あまり噛まないで飲み込んでしまうのがもう癖になってしまったので朝食の時間は極めて短い。
ルベルの朝の支度が素早いのは、彼に年下の弟妹が合わせて4人いるからだ。
ルベルは5人兄妹の長男である。幼い弟妹の面倒を見ながらの朝はそれはそれはもう大変で、両親が見ている間に自分の支度をさっさと済ませなくてはならない。
寮生活を始めてから弟妹の面倒を見る必要はなくなったが、その習慣は抜けなかった。身体に染みついているというのもあるが、弟妹と同じように世話の焼ける奴がいるからである。
ルベルは自分の支度がある程度終わった後、鍵がぶっ壊れたとある扉を遠慮なく開け放ち、室内の中央に置かれた天蓋付きベッドのカーテンも同様に勢いよく開ける。
そしてタオルケットに全身を包み込んで布の塊になった生き物から、タオルケットを無理やり剥いで人間に戻す。
「ジェイ! 起きろ! ジェイ・スタンリー!」
「………おい、勝手に部屋に入るなと言っただろ」
寝起きの掠れて低い声。苛立ちを隠さない声色に怯むルベルではない。
ジェイ・スタンリーはルベルの同室者である。
茶色い髪に茶色い瞳。シャープな顔立ちをしていて、少し近寄りにくい鋭さはあるものの全体的に整っている。初めて会った時、ルベルは「綺麗な顔だなー」と思った。
ジェイは見た目こそ大人びているが、声をかけなければいつまでも寝ているし、食事の栄養バランスも偏っていて、とにかくルベルがアレコレと面倒を見てやりたくなるような奴なのだ。
だからジェイに弟がいると聞いた時、結構驚いた。末っ子か一人っ子なんだろうなと思い込んでいたから、実際に弟を見るまで冗談だと思っていたほどだ。しかし弟がいる場ではジェイは案外〝お兄ちゃん〟だったので、ルベルはもしかしてジェイって自分が相手だと気が抜けるのか? とも思った。
ちなみに朝のこのやり取りは入学時から数えきれないほど繰り返している。
ルベルは朝型でジェイは完全に夜型。しかし学校というのは夜型にとって都合の悪いようにできていて、なのでルベルは朝早くから授業が入っている日はジェイのことを起こしてやる。尤も、授業がなくともルベルはほとんど毎日ジェイを起こす。それは休日ですら同じことだ。
「ほらジェイ! 遅刻しても知らないぞ!」
「……俺は、水曜は午後からだ……」
ルベルに背を向けて再び眠りにつこうとするジェイを強く揺さぶる。窓際のカーテンを開けて朝日を浴びさせると、ジェイは低く唸りながらルベルを恨めしそうに睨んだ。
その後、ジェイはなんとか起き上がって朝食をとった。身支度をするうえでほとんど魔法を使わないルベルと違って、ジェイは息をするように魔法を使う。10代半ばに魔力が発現したルベルと違ってジェイは幼い頃から家庭で魔法に触れていたらしい。
「ジェイ、俺は先に行くけど二度寝したらダメだからな」
「わかってるよ」
「よし。……じゃ、行ってくる!」
「ああ」
部屋を出るルベルの背を眺めながらジェイはオニオンスープを一口飲んだ。
面倒見がよくて他人を放っておけない兄貴肌のルベル。手はかかるものの要領がよく、素っ気ないがゆえに構ってやりたくなるジェイ。二人は相性がよかった。
それに、ジェイは口では勝手に部屋に入るなと再三言うが、鍵を修理することは今日までしていない。その事実が自分を拒否していない証左だと信じて、ルベルは今日も明日も明後日もジェイを起こす。同じ部屋で暮らす同居人として、カレッジで初めてできた友達として、ルベルはジェイに構う。
モラトリアムとも呼ばれるこの学生期間。思い返して「あの時は楽しかったなー」と笑えるものにできればルベルはそれで十分だった。
同居人にとってもそうであれば、もっと嬉しかった。
起きがけ。まずは寝ているうちに吹っ飛ばしてしまったタオルケットを綺麗に畳み、ついでにシーツのよれた部分を直す。
ベッドの乱れを直した後はすぐさま寝巻きを脱ぎハンガーにかける。それから昨日の夜アイロンをかけておいたシャツとスラックスを身につけて、お気に入りの靴下を履く。
お洒落は足元からするものだと教えてくれたのは母親だった。ネクタイは首元が苦しいのであまり好きではないが、校章が入ったデザインは古めかしくて格好いいので気に入っている。
それからルベルは共用の洗面所へと行き洗顔と歯磨きをさっさと済ませる。鏡の前で今日もコンプレックスの雀斑は薄くなっていやしないことを確認して、別に今更悲しくなんてないけどなんとなく「あーあ」という気分になる。
しかしながら落ち込んでいる暇はない。ルベルの朝は忙しいのだ。
続いてルベルは共用キッチンへと赴く。
冷蔵庫から取り出したのはベーコン、ウィンナー、玉子、トマト。フライパンに放り込んでまとめて焼く。ちなみにルベルの好物は焼きトマトである。
完成したらそれを皿に乗せてテーブルに移動する。早食いは良くないことだと知りつつ、あまり噛まないで飲み込んでしまうのがもう癖になってしまったので朝食の時間は極めて短い。
ルベルの朝の支度が素早いのは、彼に年下の弟妹が合わせて4人いるからだ。
ルベルは5人兄妹の長男である。幼い弟妹の面倒を見ながらの朝はそれはそれはもう大変で、両親が見ている間に自分の支度をさっさと済ませなくてはならない。
寮生活を始めてから弟妹の面倒を見る必要はなくなったが、その習慣は抜けなかった。身体に染みついているというのもあるが、弟妹と同じように世話の焼ける奴がいるからである。
ルベルは自分の支度がある程度終わった後、鍵がぶっ壊れたとある扉を遠慮なく開け放ち、室内の中央に置かれた天蓋付きベッドのカーテンも同様に勢いよく開ける。
そしてタオルケットに全身を包み込んで布の塊になった生き物から、タオルケットを無理やり剥いで人間に戻す。
「ジェイ! 起きろ! ジェイ・スタンリー!」
「………おい、勝手に部屋に入るなと言っただろ」
寝起きの掠れて低い声。苛立ちを隠さない声色に怯むルベルではない。
ジェイ・スタンリーはルベルの同室者である。
茶色い髪に茶色い瞳。シャープな顔立ちをしていて、少し近寄りにくい鋭さはあるものの全体的に整っている。初めて会った時、ルベルは「綺麗な顔だなー」と思った。
ジェイは見た目こそ大人びているが、声をかけなければいつまでも寝ているし、食事の栄養バランスも偏っていて、とにかくルベルがアレコレと面倒を見てやりたくなるような奴なのだ。
だからジェイに弟がいると聞いた時、結構驚いた。末っ子か一人っ子なんだろうなと思い込んでいたから、実際に弟を見るまで冗談だと思っていたほどだ。しかし弟がいる場ではジェイは案外〝お兄ちゃん〟だったので、ルベルはもしかしてジェイって自分が相手だと気が抜けるのか? とも思った。
ちなみに朝のこのやり取りは入学時から数えきれないほど繰り返している。
ルベルは朝型でジェイは完全に夜型。しかし学校というのは夜型にとって都合の悪いようにできていて、なのでルベルは朝早くから授業が入っている日はジェイのことを起こしてやる。尤も、授業がなくともルベルはほとんど毎日ジェイを起こす。それは休日ですら同じことだ。
「ほらジェイ! 遅刻しても知らないぞ!」
「……俺は、水曜は午後からだ……」
ルベルに背を向けて再び眠りにつこうとするジェイを強く揺さぶる。窓際のカーテンを開けて朝日を浴びさせると、ジェイは低く唸りながらルベルを恨めしそうに睨んだ。
その後、ジェイはなんとか起き上がって朝食をとった。身支度をするうえでほとんど魔法を使わないルベルと違って、ジェイは息をするように魔法を使う。10代半ばに魔力が発現したルベルと違ってジェイは幼い頃から家庭で魔法に触れていたらしい。
「ジェイ、俺は先に行くけど二度寝したらダメだからな」
「わかってるよ」
「よし。……じゃ、行ってくる!」
「ああ」
部屋を出るルベルの背を眺めながらジェイはオニオンスープを一口飲んだ。
面倒見がよくて他人を放っておけない兄貴肌のルベル。手はかかるものの要領がよく、素っ気ないがゆえに構ってやりたくなるジェイ。二人は相性がよかった。
それに、ジェイは口では勝手に部屋に入るなと再三言うが、鍵を修理することは今日までしていない。その事実が自分を拒否していない証左だと信じて、ルベルは今日も明日も明後日もジェイを起こす。同じ部屋で暮らす同居人として、カレッジで初めてできた友達として、ルベルはジェイに構う。
モラトリアムとも呼ばれるこの学生期間。思い返して「あの時は楽しかったなー」と笑えるものにできればルベルはそれで十分だった。
同居人にとってもそうであれば、もっと嬉しかった。
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