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第二話 今度はフェニックス!
戦いはランチのあとで
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「うむむぅ~、なんと言うことじゃ。フェンリルの乳から作ったチーズがこれほど美味じゃとは。思いもよらなかったのじゃ」
世界の命運を懸けて宿敵たるフェンリルと雌雄を決すべく、不死なる神鳥は決戦の場へと姿を表わした……はずだった。それなのになぜか、すっかりくつろいだ様子でチーズフォンデュに舌鼓を打っている。
大鍋のなかでクツクツと煮える白ワイン入りのチーズ。
山ほども用意されだバゲット。
人間であればバゲットを一口大にスライスして、チーズをスプーンですくってバゲットに載せて食べるところだ。
しかし、そこはさすが巨大なる神鳥。バケットを丸々一本、嘴にくわえ、直接、鍋のなかにぶっ込み、チーズをどさっとすくっていく。そのまま上を向いて一気呑みである。
――そんなんで味がわかるのか?
そう思うところだが、ちゃんとわかるらしい。味わいを満喫している。
「ううむ、うまい! うまいのじゃ。まったく、かようにうまいものを食ったことはいままでにないのじゃ」
フェニックスは次々にバゲットとチーズを平らげていく。あわてたのはフェンリルである。
「少しは遠慮せんか、フェニックス。この欲張りめ。我の分がなくなるではないか」
「なんじゃ、フェンリル。おぬしは自らの乳で作ったチーズを自ら食おうというのか。それは共食いじゃろう。やはり、おぬしは非道の存在なのじゃ」
「なにを抜かすか。のどかな一時をいきなり邪魔しおったくせに」
「まあまあ、おふたりとも。喧嘩はなさらずに。チーズもバゲットもまだまだたっぷりありますからね」
と、カティは胸いっぱいに夢と希望ならぬチーズとバゲットを抱え、その場に差し出した。
「チーズによく合うシードルもあります。三人で心ゆくまで楽しみましょう」
「おお、これはすまぬのじゃ。フェンリルめはともかく、おぬしには詫びねばならんな、娘よ。実に申し訳なかったのじゃ」
「いいえ、わかっていただければいいんです。それより、おふたりはずっと戦ってこられたとか」
「うむ、その通りじゃ。わらわとこやつとは神話の時代から宿命づけられた敵同士。共に天をいただくことのできぬ仲なのじゃ」
フェニックスはそう言ったあと、忌々しさを込めてつづけた。
「口惜しくも、前回の戦いでは負けてしまったのじゃ。じゃが! 通算成績ではわらわの方が勝っておるのじゃ」
「なにを抜かす。我とおぬしの戦績は五分であろうが」
「いいや、わらわがふたつ、勝ち越しているのじゃ。戦いのたびに毎回、日記をつけて記録しておるのじゃ。まちがいないのじゃじゃ!」
「怖いわ!」
フェニックスの主張にフェンリルが思わずツッコむ。
カティは思わず吹き出した。
「ふふ。おふたりとも、仲がよろしいんですね」
「な、仲が良いじゃと……」
「……まあ、無限とも思える時を戦ってきた相手だからな。他人とは思えぬ」
「な、なにを抜かす……⁉ おぬしなぞ他人じゃ、他人!」
カティは小首をかしげた。
「でも、それなら、そもそもなぜ、おふたりは戦うのです?」
「むむ……? 改めてそう問われると困るのじゃじゃ」
「生まれ、と言うものか。我は太陽を呑むものとして生を受けた。そして、こやつは……」
「わらわは太陽の化身。この魔狼めから太陽を守らねばならんのじゃ」
「と言うことは、フェンリルさんが太陽を呑むことをやめれば、戦う必要もなくなると言うことですね?」
「むむ……? ……まあ、それはそうなのじゃが」
フェニックスのその答えに――。
カティはにっこりと微笑んだ。
「それなら、もうだいじょうぶです。フェンリルさんはもう太陽を呑んだりしません。もっとずっとおいしい食べ物がたくさんあることをお知りになりましたから。これから先、どんなにお腹が空いても太陽を呑むようなゲテモノ食いはしませんよ」
「ゲテモノ食いとはなんじゃ⁉ 太陽に失礼じゃろう」
「……腹が減るとか、そういうことで太陽を呑むわけではないのだが」
「しかし、言われてみれば今回はおぬし、いまだに太陽を呑もうとはしておらぬのじゃな。もしや、この娘の言ったことは本当なのかじゃじゃ?」
「うむ。それなのだが……」
フェンリルはチーズをつまみ、シードルをあおりながら答えた。
「この通り、太陽に照らされた世界には美味なるものが多々あることを知った。このカティが教えてくれたのだ。この美味の数々を知っては、なにゆえ太陽を呑み、世を闇で覆わなくてはならないのかと疑問に思ってな」
「むむ……。それはわからないでもないのじゃ。たしかに、この美味の数々を失うのは惜しいのじゃ」
「もちろんです!」
カティは自慢げに胸を張った。
「チーズは母の愛! チーズは至高! チーズがあればみんな幸せ! と言うわけで、あたしとフェンリルさんはいま、世界中の魔獣神獣のおっぱいからチーズを作るための旅をしているのです」
「魔獣神獣の乳からチーズを作るじゃと?」
「そうです! フェンリルさんのおっぱいから作ったチーズのおいしいことはいま、体験していただいたとおり。この世界にはフェンリルさんの他にもグリフォン、ペガサス、ユニコーンと、様々な魔獣神獣が存在しています。かの人たちのおっぱいから作ったチーズはどれも、とってもおいしいにちがいありません。そのチーズを味わい尽くすのです!」
「むむむ……。まだまだ、これほどに美味なるチーズがあると申すのかじゃじゃ。それと聞いては捨て置けぬのじゃ。わらわもぜひ、味わいたいのじゃ」
「ならば、フェニックスよ。おぬしも共に来るとよい。我の乳から作ったチーズでよければいつでも振る舞ってやるぞ」
「むむむ……。それは魅力的な提案なのじゃ。しかし……」
「なんだ?」
「わらわとおぬしの戦いは神話の時代からつづいた宿命なのじゃ。いまの代でその宿命を破ってよいものかじゃじゃ」
「それよ、フェニックス。おぬしは炎に焼かれ、炎のなかから生まれる。我は生涯の最後に分身となる子を孕み、産み落とすことで、代を重ねてきた。つまり、我らはともに初代とはまったく別の存在なのだ。それがなぜ『宿命』の二文字のもとに戦いつづけなくてはならぬ? 我らもそろそろ、自分の道を自分で選んでよい頃ではないか?」
「むむ、しかし……」
「それにだ。我らの寿命からすれば人の世の営みなどほんの一瞬。前回の戦いでは人の世の時間にして一千年ほども戦いつづけたであろうが。それに比べればこのカティの寿命など、その一〇分の一にも足りん。ならば、カティが天寿を全うするまで旅に付き合い、それから戦っても遅くはないではないか。その間、お互いに美味なるものを味わいつくそうぞ」
「そうです、フェニックスさん! 一緒にチーズを食べて幸せになりましょう」
「むむむ……。その提案にはなんとも心を揺さぶられるのじゃが……。しかし、それには問題があるのじゃじゃ」
「問題?」
「わらわは乳は出せぬ。そなたのチーズ作りに協力することはできぬのじゃ」
「あ、そうですね。鳥さんですものね。おっぱいは出せないですよね。あ、でも、卵なら産め……って、それはダメですよね。卵はお子さんですものね。お子さんを食べるわけにはいかないですよね」
「……いや、わらわはそもそも卵も産めぬのじゃが」
「えっ? 鳥さんなのに卵を産めないんですか?」
「わらわはフェニックス。炎に焼かれ、炎に産まれる。故に、子を成すために卵を産む必要がないのじゃ」
そう言われて――。
カティはフェニックスをマジマジと見つめた。そして――。
「……チッ」
「舌打ちしたじゃじゃ⁉ いま、舌打ちしたのじゃ!」
「いえ、気のせいですよ、気のせい。舌打ちなんてそんな……」
「いや、絶対、したのじゃ! むむむ、そのような扱い、わらわの誇りが許さぬ。おう、そうじゃ。こうすれば……」
突然、フェニックスの全身が光に包まれた。あまりのまぶしさにカティは両手で目を覆った。その光が収まったとき、そこには巨大な鳥の姿はなかった。そのかわり、なんとも愛らしい人間の幼女の姿があった。
「ふふん。これなら、よかろうなのじゃ」
「フェニックスさん、フェニックスさんですか⁉」
「そうなのじゃじゃ。神鳥たるわらわにとって、人の姿をとるなどいともたやすいことなのじゃじゃ」
「でも、どうして幼女? そういうご趣味ですか?」
「趣味ではないのじゃ! わらわはまだ転生したばかり。ゆえに、人間の歳にすればこの程度なのじゃじゃ」
幼女化フェニックスはそう言ってからつづけた。
「この姿ならば、そなたの畑仕事を手伝えるのじゃ。お荷物にはならずにすむのじゃ」
「えっ? フェニックスさん、農作業をご存じなんですか?」
「うむ。知らぬのじゃ!」
きっぱりと――。
笑顔でそう言い切る幼女化フェニックスであった。
「じゃが、わらわは太陽の化身、生命力の象徴じゃ。わらわがいればそれだけですべての生命は健やかに育つのじゃ。わらわがそなたの携帯農場にいれば、それだけでそなたの野菜はグンと育ちが良くなるのじゃじゃ」
「わあっ、素敵です。さすが、フェニックスさん!」
「はっはっはっ、もっと褒めるが良いのじゃじゃ。もちろん、畑仕事も手伝うぞ。教えてくれなのじゃ」
「ふむ。と言うことは我らの旅に同行すると。そう言うことで良いのだな、フェニックスよ」
「その通りじゃ、フェンリルよ。たしかに、おぬしが太陽を呑まないと言うのであれば戦う理由もないのじゃ。それになにより、このような美味の数々を知らずに戦いのみで生涯を終えるのはあまりにもわびしいのじゃ。おぬしの言うとおり、戦うのならば、この娘が天寿を全うしてからでも遅くないのじゃ。それまでは共に美味を探求しつつ、『戦う理由』を考えてみるとするのじゃじゃ」
「その意気です、フェニックスちゃん! 世界一のチーズを求めて世界の果てまで行進しましょう」
「おお! わらわの翼をもってすれば世界の果てなどひとっ飛びなのじゃ。いつでも、わらわの翼に乗るがよいのじゃじゃ」
「カティが乗るのは我の背中だ!」
こうして、新たな仲間を得たチーズ令嬢カティの旅はつづくのだった。
第二話完
世界の命運を懸けて宿敵たるフェンリルと雌雄を決すべく、不死なる神鳥は決戦の場へと姿を表わした……はずだった。それなのになぜか、すっかりくつろいだ様子でチーズフォンデュに舌鼓を打っている。
大鍋のなかでクツクツと煮える白ワイン入りのチーズ。
山ほども用意されだバゲット。
人間であればバゲットを一口大にスライスして、チーズをスプーンですくってバゲットに載せて食べるところだ。
しかし、そこはさすが巨大なる神鳥。バケットを丸々一本、嘴にくわえ、直接、鍋のなかにぶっ込み、チーズをどさっとすくっていく。そのまま上を向いて一気呑みである。
――そんなんで味がわかるのか?
そう思うところだが、ちゃんとわかるらしい。味わいを満喫している。
「ううむ、うまい! うまいのじゃ。まったく、かようにうまいものを食ったことはいままでにないのじゃ」
フェニックスは次々にバゲットとチーズを平らげていく。あわてたのはフェンリルである。
「少しは遠慮せんか、フェニックス。この欲張りめ。我の分がなくなるではないか」
「なんじゃ、フェンリル。おぬしは自らの乳で作ったチーズを自ら食おうというのか。それは共食いじゃろう。やはり、おぬしは非道の存在なのじゃ」
「なにを抜かすか。のどかな一時をいきなり邪魔しおったくせに」
「まあまあ、おふたりとも。喧嘩はなさらずに。チーズもバゲットもまだまだたっぷりありますからね」
と、カティは胸いっぱいに夢と希望ならぬチーズとバゲットを抱え、その場に差し出した。
「チーズによく合うシードルもあります。三人で心ゆくまで楽しみましょう」
「おお、これはすまぬのじゃ。フェンリルめはともかく、おぬしには詫びねばならんな、娘よ。実に申し訳なかったのじゃ」
「いいえ、わかっていただければいいんです。それより、おふたりはずっと戦ってこられたとか」
「うむ、その通りじゃ。わらわとこやつとは神話の時代から宿命づけられた敵同士。共に天をいただくことのできぬ仲なのじゃ」
フェニックスはそう言ったあと、忌々しさを込めてつづけた。
「口惜しくも、前回の戦いでは負けてしまったのじゃ。じゃが! 通算成績ではわらわの方が勝っておるのじゃ」
「なにを抜かす。我とおぬしの戦績は五分であろうが」
「いいや、わらわがふたつ、勝ち越しているのじゃ。戦いのたびに毎回、日記をつけて記録しておるのじゃ。まちがいないのじゃじゃ!」
「怖いわ!」
フェニックスの主張にフェンリルが思わずツッコむ。
カティは思わず吹き出した。
「ふふ。おふたりとも、仲がよろしいんですね」
「な、仲が良いじゃと……」
「……まあ、無限とも思える時を戦ってきた相手だからな。他人とは思えぬ」
「な、なにを抜かす……⁉ おぬしなぞ他人じゃ、他人!」
カティは小首をかしげた。
「でも、それなら、そもそもなぜ、おふたりは戦うのです?」
「むむ……? 改めてそう問われると困るのじゃじゃ」
「生まれ、と言うものか。我は太陽を呑むものとして生を受けた。そして、こやつは……」
「わらわは太陽の化身。この魔狼めから太陽を守らねばならんのじゃ」
「と言うことは、フェンリルさんが太陽を呑むことをやめれば、戦う必要もなくなると言うことですね?」
「むむ……? ……まあ、それはそうなのじゃが」
フェニックスのその答えに――。
カティはにっこりと微笑んだ。
「それなら、もうだいじょうぶです。フェンリルさんはもう太陽を呑んだりしません。もっとずっとおいしい食べ物がたくさんあることをお知りになりましたから。これから先、どんなにお腹が空いても太陽を呑むようなゲテモノ食いはしませんよ」
「ゲテモノ食いとはなんじゃ⁉ 太陽に失礼じゃろう」
「……腹が減るとか、そういうことで太陽を呑むわけではないのだが」
「しかし、言われてみれば今回はおぬし、いまだに太陽を呑もうとはしておらぬのじゃな。もしや、この娘の言ったことは本当なのかじゃじゃ?」
「うむ。それなのだが……」
フェンリルはチーズをつまみ、シードルをあおりながら答えた。
「この通り、太陽に照らされた世界には美味なるものが多々あることを知った。このカティが教えてくれたのだ。この美味の数々を知っては、なにゆえ太陽を呑み、世を闇で覆わなくてはならないのかと疑問に思ってな」
「むむ……。それはわからないでもないのじゃ。たしかに、この美味の数々を失うのは惜しいのじゃ」
「もちろんです!」
カティは自慢げに胸を張った。
「チーズは母の愛! チーズは至高! チーズがあればみんな幸せ! と言うわけで、あたしとフェンリルさんはいま、世界中の魔獣神獣のおっぱいからチーズを作るための旅をしているのです」
「魔獣神獣の乳からチーズを作るじゃと?」
「そうです! フェンリルさんのおっぱいから作ったチーズのおいしいことはいま、体験していただいたとおり。この世界にはフェンリルさんの他にもグリフォン、ペガサス、ユニコーンと、様々な魔獣神獣が存在しています。かの人たちのおっぱいから作ったチーズはどれも、とってもおいしいにちがいありません。そのチーズを味わい尽くすのです!」
「むむむ……。まだまだ、これほどに美味なるチーズがあると申すのかじゃじゃ。それと聞いては捨て置けぬのじゃ。わらわもぜひ、味わいたいのじゃ」
「ならば、フェニックスよ。おぬしも共に来るとよい。我の乳から作ったチーズでよければいつでも振る舞ってやるぞ」
「むむむ……。それは魅力的な提案なのじゃ。しかし……」
「なんだ?」
「わらわとおぬしの戦いは神話の時代からつづいた宿命なのじゃ。いまの代でその宿命を破ってよいものかじゃじゃ」
「それよ、フェニックス。おぬしは炎に焼かれ、炎のなかから生まれる。我は生涯の最後に分身となる子を孕み、産み落とすことで、代を重ねてきた。つまり、我らはともに初代とはまったく別の存在なのだ。それがなぜ『宿命』の二文字のもとに戦いつづけなくてはならぬ? 我らもそろそろ、自分の道を自分で選んでよい頃ではないか?」
「むむ、しかし……」
「それにだ。我らの寿命からすれば人の世の営みなどほんの一瞬。前回の戦いでは人の世の時間にして一千年ほども戦いつづけたであろうが。それに比べればこのカティの寿命など、その一〇分の一にも足りん。ならば、カティが天寿を全うするまで旅に付き合い、それから戦っても遅くはないではないか。その間、お互いに美味なるものを味わいつくそうぞ」
「そうです、フェニックスさん! 一緒にチーズを食べて幸せになりましょう」
「むむむ……。その提案にはなんとも心を揺さぶられるのじゃが……。しかし、それには問題があるのじゃじゃ」
「問題?」
「わらわは乳は出せぬ。そなたのチーズ作りに協力することはできぬのじゃ」
「あ、そうですね。鳥さんですものね。おっぱいは出せないですよね。あ、でも、卵なら産め……って、それはダメですよね。卵はお子さんですものね。お子さんを食べるわけにはいかないですよね」
「……いや、わらわはそもそも卵も産めぬのじゃが」
「えっ? 鳥さんなのに卵を産めないんですか?」
「わらわはフェニックス。炎に焼かれ、炎に産まれる。故に、子を成すために卵を産む必要がないのじゃ」
そう言われて――。
カティはフェニックスをマジマジと見つめた。そして――。
「……チッ」
「舌打ちしたじゃじゃ⁉ いま、舌打ちしたのじゃ!」
「いえ、気のせいですよ、気のせい。舌打ちなんてそんな……」
「いや、絶対、したのじゃ! むむむ、そのような扱い、わらわの誇りが許さぬ。おう、そうじゃ。こうすれば……」
突然、フェニックスの全身が光に包まれた。あまりのまぶしさにカティは両手で目を覆った。その光が収まったとき、そこには巨大な鳥の姿はなかった。そのかわり、なんとも愛らしい人間の幼女の姿があった。
「ふふん。これなら、よかろうなのじゃ」
「フェニックスさん、フェニックスさんですか⁉」
「そうなのじゃじゃ。神鳥たるわらわにとって、人の姿をとるなどいともたやすいことなのじゃじゃ」
「でも、どうして幼女? そういうご趣味ですか?」
「趣味ではないのじゃ! わらわはまだ転生したばかり。ゆえに、人間の歳にすればこの程度なのじゃじゃ」
幼女化フェニックスはそう言ってからつづけた。
「この姿ならば、そなたの畑仕事を手伝えるのじゃ。お荷物にはならずにすむのじゃ」
「えっ? フェニックスさん、農作業をご存じなんですか?」
「うむ。知らぬのじゃ!」
きっぱりと――。
笑顔でそう言い切る幼女化フェニックスであった。
「じゃが、わらわは太陽の化身、生命力の象徴じゃ。わらわがいればそれだけですべての生命は健やかに育つのじゃ。わらわがそなたの携帯農場にいれば、それだけでそなたの野菜はグンと育ちが良くなるのじゃじゃ」
「わあっ、素敵です。さすが、フェニックスさん!」
「はっはっはっ、もっと褒めるが良いのじゃじゃ。もちろん、畑仕事も手伝うぞ。教えてくれなのじゃ」
「ふむ。と言うことは我らの旅に同行すると。そう言うことで良いのだな、フェニックスよ」
「その通りじゃ、フェンリルよ。たしかに、おぬしが太陽を呑まないと言うのであれば戦う理由もないのじゃ。それになにより、このような美味の数々を知らずに戦いのみで生涯を終えるのはあまりにもわびしいのじゃ。おぬしの言うとおり、戦うのならば、この娘が天寿を全うしてからでも遅くないのじゃ。それまでは共に美味を探求しつつ、『戦う理由』を考えてみるとするのじゃじゃ」
「その意気です、フェニックスちゃん! 世界一のチーズを求めて世界の果てまで行進しましょう」
「おお! わらわの翼をもってすれば世界の果てなどひとっ飛びなのじゃ。いつでも、わらわの翼に乗るがよいのじゃじゃ」
「カティが乗るのは我の背中だ!」
こうして、新たな仲間を得たチーズ令嬢カティの旅はつづくのだった。
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