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第二部 絆ぐ伝説
第一一話九章 機会は一回
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「パンゲアの正規騎士団はおよそ六〇万っス。それに、地域の治安を守るための地域騎士団も含めると総兵力は一〇〇万を超えるっス」
マークスⅡたちは砦の会議室に集まり、今後のための意見調整を行っていた。
まずはパンゲアの諜報員として、その内実にもっともくわしいレディ・アホウタが兵力について説明していた。
「総兵力は一〇〇万以上。以前から思っていましたが、パンゲアの人口や経済規模から考えると異常なほどに多くの兵力ですね」
レディ・アホウタの言葉を受けてそう言ったのは、レムリア伯爵領の領主クナイスルである。人口や経済規模から兵力の数を推し量るあたりはさすがに一国の主と言えた。普段の所構わぬ愛妻家振りもこのときばかりは陰をひそめ、深刻な面持ちになっている。もっとも、卓の下では隣に座る妻のソーニャとしっかり手を握り合っているのだが。
それを知ってか知らずか、レディ・アホウタはクナイスルの言葉に対していたって真面目くさって答えた。
「パンゲアは騎士団から発展してできた国っスから。建国当初から清貧と尚武を尊んできたっス。そのために、民生部門を犠牲にしても騎士団の充実を図ってきたっスから」
「しかし、それでは、国としての発展は望めないでしょう」
「そうです。民生部門をないがしろにして経済発展はない。生活ぶりは苦しかったのでは?」
クナイスルが言うと、ロスタムも『砂漠の王子さま』と呼ばれる美貌に『信じられない!』という表情でつづけた。
商人国家であるゴンドワナに生まれ『国は金なり』の金言を母乳として育ってきたロスタムである。『軍事力を優先して経済を後回しにする』など、正気の沙汰とは思えない。それこそ『死んでもいいから鍛錬だ!』ぐらいのことを言われたような、なんとも受け入れがたい表情を浮かべている。
「そこが清貧の国っスから。暮らしが貧しいのも、経済が発展しないのもすべて『悪しき贅沢に染まることなく神のもとで慎ましく生きる』という美徳になっていたっス」
「……なんということだ」
クナイスルが『信じられない』と言いたげに、息をつきながら首を何度も左右に振った。
「神への奉仕として日々の楽しみを捨てるとは。それでは、なんのための人生だ」
「まったくです。そのような国に生まれなくてよかったとつくづく思いますわ。だからこそ、あなたとこうして愛しあい、楽しい日々を送れているのですから」
「その通りだ、ソーニャ。私たちは幸運だ」
「はい、あなた」
クナイスルとソーニャがそう言ったのはさすが、享楽主義で知られるレムリア人と言うべきだった。しかし――。
「だからって、そこで見つめあって♡を飛ばしまくることはないだろ!」
とは、その場にいる全員が肚の底で叫んだことだった。
「それにしても、一〇〇万以上か」
会議に戻ろう。
そう言いたげに重々しい声を発したのは盤古帝国の誇る宿将、方天将軍である。
「それだけの数の兵士、いや、パンゲア風に言うなら騎士でしたな。その騎士たちがあのような亡道の怪物と化して襲ってくるわけですか。なんとも、難儀な話ですな」
百戦錬磨の武人であればこそ、その事態の深刻さを肌で感じとることができるのだろう。さしもの剛胆な方天将軍が腕を組み、眉をひそめ、甘ったるい栗羊羹を肴に酒を飲んでいるときのようなムッツリした顔付きになっている。
「怪物と化すのは騎士だけではありません」
マークスⅡが方天将軍の認識の甘さを指摘するように言った。
「パンゲアのすべては、すでに亡道に侵食されています。それはつまり、パンゲアに存在するすべて、鳥も、獣も、虫たちも、土や、水や、空気さえも、そのすべてが亡道の怪物と化して襲ってくるということです」
「なんと! 土や水までもが⁉」
大袈裟な身振りでそう叫んだのは、重度の健康食品愛好家として怪しい食品をむさぼり食い『健康になるのが先か、死ぬのが先か』という賭けの対象に――領主であるクナイスル自らに――されていることで知られるレムリアの力天将軍ヴァレリである。
「それでは、いまのパンゲアの兵力は無限と言っていい。すべてが一度に襲ってきたら対処のしようがありませんな」
「その通りです」
マークスⅡがうなずいた。いまさら、その現実に恐れおののいたりはしないが、事態の深刻さは真一文字に結ばれた口元にはっきりと表れている。
「数の面はもちろん、質という点でも脅威です。現状、人類側には亡道の怪物相手に本当の意味で戦えるのはおれと野伏、行者の三人しかいない」
おれと野伏、行者の三人しかいない。
マークスⅡのその言葉に――。
プリンスがギリッと奥歯を噛みしめ、眉を吊りあげた。そのことに気がついたものがこの場にいただろうか。
マークスⅡは――少なくとも表面上は――プリンスの変化に気がついた様子もなくつづけた。
「数にものをいわせて、おれたちのいない場所に出没されたら事実上、防ぎようがない。たちまちのうちに侵食され、亡道の世界に変わり果ててしまう。そんなことになれば手の打ちようがなくなる。そうなる前に、アルヴィルダとアルテミシア、ふたりの施してくれた封印が解ける前に勝負を挑み、亡道の司を倒す。それ以外に我々の、この世界の勝利はありません」
マークスⅡのその言葉に、その場にいる全員がうなずいた。
「ふたりの封印が生きている間に、総力を結集して大軍団を結成して大聖堂ヴァルハラに攻め込む。そして、亡道の司を退ける。それ以外に我々の勝利する方法はありません。そして、それをするには我々、人類の力だけでは足りない。この世界のすべての存在の力が必要です。そのためにいまビーブ一家が各地を巡り、野生の生き物たちの協力を頼んでくれています」
頼もしいきょうだい分に対する信頼をにじませながら、マークスⅡは言った。
「そう。この戦いはまさに、この世界のすべての力を注ぎ込んだものとなる。機会は一回。ただ一度の機会にすべてを懸けて挑むしかない。その戦いに勝てなければ次はない。我々は、この世界は、亡道に呑み込まれて滅びることになる」
マークスⅡのその言葉はその場にいる全員の胸に深くふかく染み込んだ。寄せては返す波が砂浜に染み込み、くっきりと跡を残すように。
「そのために」
〝ビルダー〟・ヒッグスが力強く答えた。技師として、決して戦場に出ることはないかの人だが、その言葉に込められた力強さ、覚悟はまさに、命を懸けて戦う『戦士』のものだった。
「パンゲア内に築かれた砦を鉄道でつなげる。水も食糧も手に入れられない異界と化したパンゲア内で戦えるよう、充分な物資の補給ができるように」
「へへっ、そう言うこったぜ」
金に対する欲望をむき出しにした下品極まりない笑顔を浮かべ、そう言ったのはもちろん『嫌われものの天才』ブージである。
「パンゲア内の鉄道工事に関しちゃあ、このおれさまが一手に引き受けることになったからな。金の支払いのほうはよろしくな」
と、『ガッポガッポ』の夢に酔いしれているブージであった。
「大陸鉄道網の建設。その構想に関してはここに来る途中で何度も聞いたけど……」と、マークスⅡ。
「実際に、そんなことができるものなのか? 大変なことだと思うが」
「へっ。おれさまを誰だと思ってる。金に対する愛情にかけちゃあ、天下に並ぶものなきブージさまだぜ。出すもんさえ出してくれりゃあ、この世とあの世の間にだって鉄道を走らせてやるさ」
ブージはふんぞり返ってそう豪語する。
その大言壮語を馬鹿にするものは、この場には誰もいなかった。実際、ブージが納得いくだけの給料を支払いさえすればきわめて有能な人物であることは皆、承知している。
「だから、腹が立つ!」
と、思われるのが『嫌われものの天才』と言われる所以なのだが。
「お前の金に対する愛情はもちろん、知っているが……」
ブージに対してだけは相変わらす『お前』呼ばわりのマークスⅡである。
「それだけで、鉄道建設なんてできないだろう。実際の作業に当たる人手は確保できるのか?」
「作業に関しては、おれたちの配下の兵を当てる」
そう答えたのはプリンスである。
「おれの配下、自由の国の兵士、ボーラ傭兵団の団員。そのほとんどは元海賊や元盗賊といった連中だ。それだけに、元鉱夫やら、元指物職人やら、様々な職歴をもった人間が大勢いる。作業に当てるにはうってつけだからな」
「建設作業に当たるのが兵士たちなら、襲われたときもすぐに対処できるし」
〝ブレスト〟・ザイナブがプリンスの言葉を引き取った。
「東方世界からの援軍のおかげで、そうできるだけの余裕ができたわ。わたしたちの配下を三つにわけて、戦闘・建設・休養と順番に回転させる。効率的に運用できるわ」
「あたしはサラフディンに戻るよ」
ボーラ傭兵団の団長、ボーラが肩をすくめながら言った。
「正直、あたしもいい歳だからね。プリンスや〝ブレスト〟みたいに思い通りに動くってわけにゃあいかなくなってきてるからね。足手まといにならないうちに、新兵の訓練係に徹することにするよ」
「補給物資の調達に関しては我がゴンドワナにお任せを」
ゴンドワナ議長ヘイダールの名代、『砂漠の王子さま』ことロスタムがゴンドワナ商人の誇りを込めて言った。
「ゴンドワナ商人の名に懸けて、この戦いの間中、いかなる物資にも不自由はさせないとお約束いたします」
さらに、クナイスルもつづけた。
「外の世界の守りは我々に任せていただきたい。我がレムリアも軍事力増強に最大限の努力をしています。結界の外に表れた亡道の怪物たちを退治してまわる程度のことはやらせていただきます」
「我が故郷からの援軍も、これから続々と到着します」
方天将軍が力強く請け負った。
「この戦いはこの世界すべてを守るためのもの。そのような戦いに参加できるとは武人の本懐。東方の武人の名に懸けて、身命は惜しみませんぞ。存分に使われよ」
それぞれの言葉を聞いて、マークスⅡは再びうなずいた。
力強く、立ちあがった。
「それでは、方針は決まった。それぞれに、それぞれの持ち場で全力を尽くしてくれ。東方からの援軍が到着し、布陣がそろった時点で大聖堂ヴァルハラを目指して進軍する。一気に決着をつける!」
その宣言に――。
皆が一斉に立ちあがり、決意を示した。
そのなかでただひとり、立ちあがらないものがいた。椅子に座ったまま冷たい視線をマークスⅡに向け、それ以上に冷たい口調で話しかけた。
「そっちの話は終わった? じゃあ、そろそろ、こっちの話をしたいんだけど」
セアラだった。
「姉さんとのこと、決着をつけさせてもらうわ」
マークスⅡたちは砦の会議室に集まり、今後のための意見調整を行っていた。
まずはパンゲアの諜報員として、その内実にもっともくわしいレディ・アホウタが兵力について説明していた。
「総兵力は一〇〇万以上。以前から思っていましたが、パンゲアの人口や経済規模から考えると異常なほどに多くの兵力ですね」
レディ・アホウタの言葉を受けてそう言ったのは、レムリア伯爵領の領主クナイスルである。人口や経済規模から兵力の数を推し量るあたりはさすがに一国の主と言えた。普段の所構わぬ愛妻家振りもこのときばかりは陰をひそめ、深刻な面持ちになっている。もっとも、卓の下では隣に座る妻のソーニャとしっかり手を握り合っているのだが。
それを知ってか知らずか、レディ・アホウタはクナイスルの言葉に対していたって真面目くさって答えた。
「パンゲアは騎士団から発展してできた国っスから。建国当初から清貧と尚武を尊んできたっス。そのために、民生部門を犠牲にしても騎士団の充実を図ってきたっスから」
「しかし、それでは、国としての発展は望めないでしょう」
「そうです。民生部門をないがしろにして経済発展はない。生活ぶりは苦しかったのでは?」
クナイスルが言うと、ロスタムも『砂漠の王子さま』と呼ばれる美貌に『信じられない!』という表情でつづけた。
商人国家であるゴンドワナに生まれ『国は金なり』の金言を母乳として育ってきたロスタムである。『軍事力を優先して経済を後回しにする』など、正気の沙汰とは思えない。それこそ『死んでもいいから鍛錬だ!』ぐらいのことを言われたような、なんとも受け入れがたい表情を浮かべている。
「そこが清貧の国っスから。暮らしが貧しいのも、経済が発展しないのもすべて『悪しき贅沢に染まることなく神のもとで慎ましく生きる』という美徳になっていたっス」
「……なんということだ」
クナイスルが『信じられない』と言いたげに、息をつきながら首を何度も左右に振った。
「神への奉仕として日々の楽しみを捨てるとは。それでは、なんのための人生だ」
「まったくです。そのような国に生まれなくてよかったとつくづく思いますわ。だからこそ、あなたとこうして愛しあい、楽しい日々を送れているのですから」
「その通りだ、ソーニャ。私たちは幸運だ」
「はい、あなた」
クナイスルとソーニャがそう言ったのはさすが、享楽主義で知られるレムリア人と言うべきだった。しかし――。
「だからって、そこで見つめあって♡を飛ばしまくることはないだろ!」
とは、その場にいる全員が肚の底で叫んだことだった。
「それにしても、一〇〇万以上か」
会議に戻ろう。
そう言いたげに重々しい声を発したのは盤古帝国の誇る宿将、方天将軍である。
「それだけの数の兵士、いや、パンゲア風に言うなら騎士でしたな。その騎士たちがあのような亡道の怪物と化して襲ってくるわけですか。なんとも、難儀な話ですな」
百戦錬磨の武人であればこそ、その事態の深刻さを肌で感じとることができるのだろう。さしもの剛胆な方天将軍が腕を組み、眉をひそめ、甘ったるい栗羊羹を肴に酒を飲んでいるときのようなムッツリした顔付きになっている。
「怪物と化すのは騎士だけではありません」
マークスⅡが方天将軍の認識の甘さを指摘するように言った。
「パンゲアのすべては、すでに亡道に侵食されています。それはつまり、パンゲアに存在するすべて、鳥も、獣も、虫たちも、土や、水や、空気さえも、そのすべてが亡道の怪物と化して襲ってくるということです」
「なんと! 土や水までもが⁉」
大袈裟な身振りでそう叫んだのは、重度の健康食品愛好家として怪しい食品をむさぼり食い『健康になるのが先か、死ぬのが先か』という賭けの対象に――領主であるクナイスル自らに――されていることで知られるレムリアの力天将軍ヴァレリである。
「それでは、いまのパンゲアの兵力は無限と言っていい。すべてが一度に襲ってきたら対処のしようがありませんな」
「その通りです」
マークスⅡがうなずいた。いまさら、その現実に恐れおののいたりはしないが、事態の深刻さは真一文字に結ばれた口元にはっきりと表れている。
「数の面はもちろん、質という点でも脅威です。現状、人類側には亡道の怪物相手に本当の意味で戦えるのはおれと野伏、行者の三人しかいない」
おれと野伏、行者の三人しかいない。
マークスⅡのその言葉に――。
プリンスがギリッと奥歯を噛みしめ、眉を吊りあげた。そのことに気がついたものがこの場にいただろうか。
マークスⅡは――少なくとも表面上は――プリンスの変化に気がついた様子もなくつづけた。
「数にものをいわせて、おれたちのいない場所に出没されたら事実上、防ぎようがない。たちまちのうちに侵食され、亡道の世界に変わり果ててしまう。そんなことになれば手の打ちようがなくなる。そうなる前に、アルヴィルダとアルテミシア、ふたりの施してくれた封印が解ける前に勝負を挑み、亡道の司を倒す。それ以外に我々の、この世界の勝利はありません」
マークスⅡのその言葉に、その場にいる全員がうなずいた。
「ふたりの封印が生きている間に、総力を結集して大軍団を結成して大聖堂ヴァルハラに攻め込む。そして、亡道の司を退ける。それ以外に我々の勝利する方法はありません。そして、それをするには我々、人類の力だけでは足りない。この世界のすべての存在の力が必要です。そのためにいまビーブ一家が各地を巡り、野生の生き物たちの協力を頼んでくれています」
頼もしいきょうだい分に対する信頼をにじませながら、マークスⅡは言った。
「そう。この戦いはまさに、この世界のすべての力を注ぎ込んだものとなる。機会は一回。ただ一度の機会にすべてを懸けて挑むしかない。その戦いに勝てなければ次はない。我々は、この世界は、亡道に呑み込まれて滅びることになる」
マークスⅡのその言葉はその場にいる全員の胸に深くふかく染み込んだ。寄せては返す波が砂浜に染み込み、くっきりと跡を残すように。
「そのために」
〝ビルダー〟・ヒッグスが力強く答えた。技師として、決して戦場に出ることはないかの人だが、その言葉に込められた力強さ、覚悟はまさに、命を懸けて戦う『戦士』のものだった。
「パンゲア内に築かれた砦を鉄道でつなげる。水も食糧も手に入れられない異界と化したパンゲア内で戦えるよう、充分な物資の補給ができるように」
「へへっ、そう言うこったぜ」
金に対する欲望をむき出しにした下品極まりない笑顔を浮かべ、そう言ったのはもちろん『嫌われものの天才』ブージである。
「パンゲア内の鉄道工事に関しちゃあ、このおれさまが一手に引き受けることになったからな。金の支払いのほうはよろしくな」
と、『ガッポガッポ』の夢に酔いしれているブージであった。
「大陸鉄道網の建設。その構想に関してはここに来る途中で何度も聞いたけど……」と、マークスⅡ。
「実際に、そんなことができるものなのか? 大変なことだと思うが」
「へっ。おれさまを誰だと思ってる。金に対する愛情にかけちゃあ、天下に並ぶものなきブージさまだぜ。出すもんさえ出してくれりゃあ、この世とあの世の間にだって鉄道を走らせてやるさ」
ブージはふんぞり返ってそう豪語する。
その大言壮語を馬鹿にするものは、この場には誰もいなかった。実際、ブージが納得いくだけの給料を支払いさえすればきわめて有能な人物であることは皆、承知している。
「だから、腹が立つ!」
と、思われるのが『嫌われものの天才』と言われる所以なのだが。
「お前の金に対する愛情はもちろん、知っているが……」
ブージに対してだけは相変わらす『お前』呼ばわりのマークスⅡである。
「それだけで、鉄道建設なんてできないだろう。実際の作業に当たる人手は確保できるのか?」
「作業に関しては、おれたちの配下の兵を当てる」
そう答えたのはプリンスである。
「おれの配下、自由の国の兵士、ボーラ傭兵団の団員。そのほとんどは元海賊や元盗賊といった連中だ。それだけに、元鉱夫やら、元指物職人やら、様々な職歴をもった人間が大勢いる。作業に当てるにはうってつけだからな」
「建設作業に当たるのが兵士たちなら、襲われたときもすぐに対処できるし」
〝ブレスト〟・ザイナブがプリンスの言葉を引き取った。
「東方世界からの援軍のおかげで、そうできるだけの余裕ができたわ。わたしたちの配下を三つにわけて、戦闘・建設・休養と順番に回転させる。効率的に運用できるわ」
「あたしはサラフディンに戻るよ」
ボーラ傭兵団の団長、ボーラが肩をすくめながら言った。
「正直、あたしもいい歳だからね。プリンスや〝ブレスト〟みたいに思い通りに動くってわけにゃあいかなくなってきてるからね。足手まといにならないうちに、新兵の訓練係に徹することにするよ」
「補給物資の調達に関しては我がゴンドワナにお任せを」
ゴンドワナ議長ヘイダールの名代、『砂漠の王子さま』ことロスタムがゴンドワナ商人の誇りを込めて言った。
「ゴンドワナ商人の名に懸けて、この戦いの間中、いかなる物資にも不自由はさせないとお約束いたします」
さらに、クナイスルもつづけた。
「外の世界の守りは我々に任せていただきたい。我がレムリアも軍事力増強に最大限の努力をしています。結界の外に表れた亡道の怪物たちを退治してまわる程度のことはやらせていただきます」
「我が故郷からの援軍も、これから続々と到着します」
方天将軍が力強く請け負った。
「この戦いはこの世界すべてを守るためのもの。そのような戦いに参加できるとは武人の本懐。東方の武人の名に懸けて、身命は惜しみませんぞ。存分に使われよ」
それぞれの言葉を聞いて、マークスⅡは再びうなずいた。
力強く、立ちあがった。
「それでは、方針は決まった。それぞれに、それぞれの持ち場で全力を尽くしてくれ。東方からの援軍が到着し、布陣がそろった時点で大聖堂ヴァルハラを目指して進軍する。一気に決着をつける!」
その宣言に――。
皆が一斉に立ちあがり、決意を示した。
そのなかでただひとり、立ちあがらないものがいた。椅子に座ったまま冷たい視線をマークスⅡに向け、それ以上に冷たい口調で話しかけた。
「そっちの話は終わった? じゃあ、そろそろ、こっちの話をしたいんだけど」
セアラだった。
「姉さんとのこと、決着をつけさせてもらうわ」
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