壊れたオルゴール ~三つの伝説~

藍条森也

文字の大きさ
333 / 414
第二部 絆ぐ伝説

第一三話一八章 撤退戦

しおりを挟む
 砲撃音とともに何発もの流線型の砲弾が空を舞い、大地に落ちた。
 その衝撃で内部に仕込まれた火薬が爆発し、轟音と共に火花と金属の破片をまき散らす。着弾時に吹き飛ばされた地面の欠片と爆風、そして、まき散らされた火花と金属片とを叩きつけられて兵士たちが吹き飛ばされる。
 パンゲアの兵士たちが。
 砲撃したのはパンゲアの獣砲兵たちではない。くろひょう率いる世界連合の砲兵隊だった。パーヴェル基地を守る怪物たちがその正体を見せた瞬間、くろひょうは素早く判断を下し、自らの部隊を進軍させ、砲撃の準備をさせていたのだ。
 「第二撃、斉射! 部隊の退却を援護しろ!」
 クロヒョウの口が大きく開き、指令を下す。その指令に応えて、自走砲に取りつけられた爆砕ばくさいしゃが火を放ち、パンゲア兵のなかに次々と砲弾が撃ち込まれる。
 「見たか! 二度も防がせはしないぞ!」
 その様子を後方から見守っていたセアラが叫んだ。その場で大きく跳びはね、全身で喜びを叫んでいる。
 先の戦いで爆砕ばくさいしゃによる砲撃を防がれたことは、科学大好き少女としてのセアラの誇りをいたく傷つけた。そのくやしさを晴らすべく、寝食を忘れて爆砕ばくさいしゃを強化改造してきたのだ。
 いま、その成果が試されている。
 そう思えばアツくなりすぎるのも致し方ない。
 その成果はたしかに出ていた。強化型爆砕ばくさいしゃは、その圧倒的な射程距離と破壊力とをもってパンゲア軍の陣列を乱し、東方兵たちを餌食にしようとした砲撃を阻止していた。ただし――。
 殺せたわけではない。
 相手は死もなければ生もない不死の存在。いくら、強力な爆発で吹き飛ばしたところでそれだけで殺すことはできない。吹き飛ばされようが、体の一部を失おうが、平気で起きあがってきては戦闘態勢をとる。その不死身振りはセアラなどから見れば、
 「ズルい!」
 と、叫んで地団駄じたんだを踏みたくなるぐらいのものだった。
 しかし、東方兵たちの退却を援護する、という目的だけを見ればそれで充分だった。
 時を同じくして、パーヴェル基地の後方に回り込んでいた野伏のぶせと〝ブレスト〟・ザイナブ率いる騎馬隊が強襲を仕掛けていた。
 銃火器が主役となった戦場において騎馬隊などとうに時代遅れ。そんなものを使っていれば銃の餌食となり、全滅するだけ。銃の撃ち合いによって勝負が決まるのが現代の戦場。しかし、銃の通用しない相手に高速で接近し、斬り込むためには、これが最適の手段。
 人類兵を乗せたウマたちは心臓も破れよとばかりにありったけの速度でパーヴェル基地に接近する。その背にまたがる人類兵たちが次々と火矢を放ち、パーヴェル基地に火をつけていく。
 それは、海軍伝統の海原うなばらを使ったもので一度、火がつけば容易に消せるものではない。
 次々と火矢を放ちながら接近し、一定距離に近づいたところで弓を投げ捨て、剣に、槍に、手にする武器をかえていく。そのままパンゲア兵に突っ込んでいく。
 もとより、このウマたちは軍用馬などではない。騎馬隊がとっくの昔に時代遅れになっている現代、これほどの数の軍用馬などどの国にもない。ビーブが集めてきてくれた野生馬たちである。
 軍用馬に比べて従順さにははるかに欠けるがその分、猛々しく、持久力がある。
 パンゲア兵に斬り込んだ瞬間、
 ――人間どもに任せてられるかっ!
 と、ばかりに大きくいななき、頭を振り、前足を振るい、当たるを幸いパンゲア兵をなぎ倒す。その上から人間の兵士たちが長い槍を突き出し、一撃を与えていく。
 一撃を加えた騎馬兵は即座に反転して距離をとり、次の騎馬兵が襲いかかる。反転した騎馬兵は弧を描いて疾走し、再び襲いかかる。
 それを繰り返し、間断かんだんなく攻めかかる。
 「敵を倒そうとするな!」
 ウマたちの疾駆する戦場に野伏のぶせの声が響く。
 「今回の目的はパンゲア兵の注意を引き、東方兵たちの退却を援護することだ! 敵を倒すことにこだわって自分が死ぬようなことは許さん! 断じて命じるぞ!」
 「動きをとめるな! 一撃を与えたらすぐに反転! 傷ついた兵馬はすぐに離脱! この場は決戦ではない、生き延びることを第一に考えなさい!」
 野伏のぶせと〝ブレスト〟・ザイナブの指令が響く。
 もとより、このふたりの麾下きかに置かれているのは世界連合軍のなかの最精鋭である。
 その選考基準としては戦闘能力だけではなく忠実さ、理解力も考慮されている。今回の作戦の目的も、野伏のぶせたちの指令も、しっかりと理解している。命令を忠実に遂行すいこうし、一撃を与えては躊躇ちゅうちょなく反転していく。
 自走砲による砲撃と騎馬隊による強襲。
 このふたつによってパンゲア軍は動きをとめた。
 その瞬間、
 「全軍、逃げろ! ためらうな、いまは生き延びることだけを考えろ!」
 行者ぎょうじゃがためらうことなくそう命じたのは、かのの軍将としての適性を証明するものだった。
 パンゲアの甲冑兵たちの一斉射撃によって、すでに気勢を削がれていた東方兵たちは一も二もなくその指令に従った。
 我先にと逃げ出した。それでも、恐慌に陥ることなく一定の秩序を保っていたのはさすが、鍛えられた精兵だけのことはあった。
 もし、これが人間の兵士相手の戦いであれば問題はなかった。相手の混乱に乗じて一戦も交えることなくまんまと逃げおおせることができていた。
 しかし、相手は亡道もうどう怪物かいぶつ
 それほど甘い相手ではない。
 自走砲による砲撃を、騎馬隊による強襲をかいくぐり、甲冑兵たちが追撃に飛びだしてきた。
 黒光りする装甲に包まれたバッタのようにたくましい脚を動かし、追ってくる。その速度は人間をはるかに超えていた。まさに、人の大きさをしたバッタが追ってくるかと思うほどの勢い。
 そのままならすぐに追いつかれ、乱戦に巻き込まれ、逃げる機を失っていたことだろう。
 しかし、そのときにはすでに方天ほうてん、ヴァレリ両将軍が率いる大部隊が援軍として到着していた。
 「壁を作れ! パンゲアの怪物どもを押しとどめよ!」
 方天ほうてんが、ヴァレリが、異口同音にそう叫ぶ。百戦錬磨の麾下きかの兵士たちはその命令を忠実に実行し、金城鉄壁の壁と化してパンゲアの甲冑兵を受けとめた。
 激突した。
 人類兵と、
 パンゲア兵とが。
 互いに剣を使っての白兵戦がはじまるなか、行者ぎょうじゃ率いる東方兵部隊にはもうひとつの援軍がやって来ていた。黒人の少女たちを中心とする医療班である。
 「怪我人はすぐにこちらへ!」
 「案内します! すぐに撤退してください」
 「助かった。よろしく頼むよ」
 行者ぎょうじゃはにこやかな顔でそう言って、医療班の案内に身を任せた。
 この状況で『助けられっぱなしで退却するなんて面目が立たない! せめて、一太刀……!』などと、よけいなことを思わず、さっさと逃げることに徹するのが行者ぎょうじゃのいいところ。
 実際、援軍の目的は行者ぎょうじゃ率いる東方兵の退却を援護することなのだから、さっさと逃げてくれないと困るのである。
 そうでないと、援軍自体が退却できない。このままズルズルと乱戦に持ち込まれ、貴重な兵を消耗するわけにはいかないのだ。
 行者ぎょうじゃはそのことをよく理解していた。だからこそ、素直に逃げるのだ。たとえ、にこやかな笑顔の下で自分のうかつさをののしる思いが渦巻いていたとしても。
 「東方兵、退却完了! 全軍、退け!」
 野伏のぶせ、〝ブレスト〟・ザイナブ、方天ほうてん、ヴァレリ。各将軍のもとに、気球に乗って空から戦場全体を見下ろしているハーミドを通じて、マークスⅡの指令が届く。
 その指令に全員がうなずいた。目的を超えて戦おうなどという愚かものはこの場にはひとりもいない。とは言え――。
 亡道もうどう怪物かいぶつ相手に退却するとなれば容易なことではない。将としての腕の見せ所である。
 「しっかり連携せいよ、小僧!」
 方天ほうてん将軍が轟! とばかりに吠えた。
 それまで、方天ほうてん軍とヴァレリ軍とは交互に前進と後退を繰り返し、パンゲア軍の陣形を乱しながら痛手を与えてきた。相手がその動きに慣れて対応しはじめたその瞬間、
 「いまだ!」
 方天ほうてん、ヴァレリ両将軍が同時に叫んだ。
 全軍が横一列の生きた壁となって前進した。
 それはもはや、兵の損失を問わない力ずくの前進。どんな犠牲を払っても相手を倒せればいい。そう割りきっての強引な進軍。そうとしか思えないものだった。
 その勢いと圧とに、さしもの亡道もうどう怪物かいぶつたちが一瞬、後退した。その瞬間、
 「全軍、撤退!」
 新たな指示が放たれ、世界連合軍は一目散に逃げ出した。見ていて気持ちの良いほどの逃げっぷりだった。
 この激戦のなかにあってそれだけの一糸乱れぬ動きができる。そのあたりはさすが、百戦ひゃくせん錬磨れんま宿将しゅくしょうたちだった。
 あまりの迅速さにパンゲア軍の反応が一瞬、遅れた。慌てて追おうとした。そこを野伏のぶせと〝ブレスト〟・ザイナブ率いる騎馬隊がかすめるように両脇を通り、一撃を加えながら撤退していく。
 さらに、くろひょう率いる砲兵隊がありったけの砲弾を叩き込み、動きをとめる。その間に、方天ほうてん・ヴァレリ両将軍の率いる部隊も撤退を完了させていた。
 こうして、パーヴェル基地を巡る攻防戦の緒戦は終わった。
 一〇〇〇を越える東方兵の犠牲を出して。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)

MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います

とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。 食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。 もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。 ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。 ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。

薬師の名門ブレルスクに入学した私は、退学するまで暴れます。〜少年アレクの倫理で殴る学園ファンタジー〜

鮒捌ケコラ
ファンタジー
入学式から3週間目にして『退学」を言い渡された。 (早くない?RTAじゃないんだからさ。) 自分で言うのもアレだけど、入学してからは結構真面目に通ってた。 けど、どうやら教員の不況を買ってしまったらしい。 幸か不幸か、退学まで1週間の執行猶予が与えられた。 けど、今更どう足掻いても挽回する事は不可能だろうし、 そもそも挽回する気も起こらない。 ここまでの学園生活を振り返っても 『この学園に執着出来る程の魅力』 というものが思い当たらないからだ。 寧ろ散々な事ばかりだったな、今日まで。 それに、これ以上無理に通い続けて 貴族とのしがらみシミッシミの薬師になるより 故郷に帰って自由気ままな森番に復職した方が ずっと実りある人生になるだろう。 私を送り出した公爵様も領主様も、 アイツだってきっとわかってくれる筈だ。 よし。決まりだな。 それじゃあ、退学するまでは休まず毎日通い続けるとして…… 大人しくする理由も無くなったし、 これからは自由気ままに、我儘に、好き勝手に過ごす事にしよう。 せっかくだし、教員達からのヘイトをカンストさせるのも面白そうだ。 てな訳で……… 薬師の名門ブレルスクに入学した私は、退学するまで暴れます。 …そう息巻いて迎えた執行猶予満了日、 掲示板に張り出された正式な退学勧告文を 確認しに行ったんだけど…… どういう事なの?これ。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

処理中です...