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その八四
シカクマメ、食べてみた
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いよいよ、この日がやって来た。
シカクマメを食す日が。
熱帯原産のマメなのに夏の間、花は咲かず、九月に入ってからようやく咲いてもポロポロ落ちるばかりで実はつかず。そんななか、わずかについた実が順調に育ち、食べ頃にまで育ってくれた。
感無量。
まさに、その心地。
正直、あきらめていただけに感慨もひとしおだ。
今年の初物、どころか、人生の初物。
生涯ではじめて食べるシカクマメ。
まずは、その味を直に感じられるよう、ニンジン、カボチャともにタジン鍋でレンジで蒸して、添え野菜とした。
メインとなるのは油あげギョウザ。
半分に切った油あげのなかにギョウザのタネをつめて、両面を焼いたもの。生のままのタネを詰めてもちゃんと火は通るらしいが、生焼けになるのがいやだったのでフライパンで炒めてから詰め込んだ。
「ギョウザは生のままのタネを包んで焼くだろう」って?
それはそうなのだがやはり、油あげとギョウザの皮では厚みがちがう。本当に、油揚げに詰めてから焼くだけできちんと火が通るかどうか不安だったので先に火を通した。べつに、それで味が落ちるわけでもあるまい。
いやまあ、油あげギョウザのことはいいのだ。
問題は、人生初のシカクマメだ。
結論から言う。
クセがない。
なんともあっさりした食味で、特徴がない。
マメの味も感じられなかった。
これは、サヤばかりで、なかのマメがまだ育っていなかったからだろう。
シカクマメは大きくなるとすぐにサヤが固くなるし、苦みも出る。
検索してみたところそう書いてあったので、早めに収穫した。あるいは、収穫するには早すぎたのかも知れない。そのせいで、マメが育っておらず、マメの味がしなかったのかも知れない。そもそも、マメではなく、サヤを食べるもの、という可能性もあるわけだが。
ともあれ、マメの味はしなかったがその分、苦みもない。サヤも柔らかく、筋張ってもいなくて食べやすかった。これと言った味がない分、どんな料理にも合わせやすそう。煮ても、焼いても、炒めても、和風、洋風、中華風、どんな味付けでも存分に食べることができるだろう。
マメだから栄養も豊富だし、特に、タンパク質がダイズ並というのは肉類をあまり好まない身にはありがたい。
あればあるだけ、日々の料理に使えて非常に便利な作物だと実感した。なお――。
シカクマメは若くて新鮮なものなら生でも食べられる。
そう書いてあったので、生でも食べてみた。
まだ育ちはじめたばかりの赤ちゃんサヤをつまんで、口に運ぶ。
やはり、クセのない味わい。しかし、そのなかにほのかなマメの味とかすかな苦みが感じられた。
まさに、青豆。
そう思わせる味だった。
あるいは、タジン鍋で蒸したことでマメの味や苦みが消えたのかも知れない。
なんにしても、生で食べられる赤ちゃんサヤはちょっとしたつまみにピッタリ。私は酒は飲まないが、ビール好きならきっと、気に入るだろう。大きく育ったサヤはそれこそどんな料理にも使える万能食材。これはもう、あればあるだけ都合のいい食材。
今年はろくにとれないだろうが、来年は環境を工夫して多収に挑戦するとしよう。もし、本にあるように鈴生りに生る……なんて言うことになれば、日々の食事がかなり助かることになる。
とりあえず、今年、実った数少ないマメを育てて種取りし、来年の春に蒔くとしよう。自家採種をつづけていると徐々に環境に馴染んで品質があがっていくと言うし、種取りをつづけていれば我が家のベランダ菜園の環境に慣れて、たっぷり採れるようになるかも知れない。
夏冬問わずに栽培できればいいのだが……寒さには弱くて一〇度以下ではほとんど生育せず、霜にも弱いと言うから、さすがに秋蒔き春採りは無理だろう。いくら、温暖化が進んでいると言っても冬はそこまで暖かくない。もし、冬にシカクマメの栽培ができるようになってしまったら、その頃の夏は、人の住める状態ではなくなっているにちがいない。
そこまで温暖化が進行しないことを祈りつつ――。
来年の成果に期待しよう。
シカクマメを食す日が。
熱帯原産のマメなのに夏の間、花は咲かず、九月に入ってからようやく咲いてもポロポロ落ちるばかりで実はつかず。そんななか、わずかについた実が順調に育ち、食べ頃にまで育ってくれた。
感無量。
まさに、その心地。
正直、あきらめていただけに感慨もひとしおだ。
今年の初物、どころか、人生の初物。
生涯ではじめて食べるシカクマメ。
まずは、その味を直に感じられるよう、ニンジン、カボチャともにタジン鍋でレンジで蒸して、添え野菜とした。
メインとなるのは油あげギョウザ。
半分に切った油あげのなかにギョウザのタネをつめて、両面を焼いたもの。生のままのタネを詰めてもちゃんと火は通るらしいが、生焼けになるのがいやだったのでフライパンで炒めてから詰め込んだ。
「ギョウザは生のままのタネを包んで焼くだろう」って?
それはそうなのだがやはり、油あげとギョウザの皮では厚みがちがう。本当に、油揚げに詰めてから焼くだけできちんと火が通るかどうか不安だったので先に火を通した。べつに、それで味が落ちるわけでもあるまい。
いやまあ、油あげギョウザのことはいいのだ。
問題は、人生初のシカクマメだ。
結論から言う。
クセがない。
なんともあっさりした食味で、特徴がない。
マメの味も感じられなかった。
これは、サヤばかりで、なかのマメがまだ育っていなかったからだろう。
シカクマメは大きくなるとすぐにサヤが固くなるし、苦みも出る。
検索してみたところそう書いてあったので、早めに収穫した。あるいは、収穫するには早すぎたのかも知れない。そのせいで、マメが育っておらず、マメの味がしなかったのかも知れない。そもそも、マメではなく、サヤを食べるもの、という可能性もあるわけだが。
ともあれ、マメの味はしなかったがその分、苦みもない。サヤも柔らかく、筋張ってもいなくて食べやすかった。これと言った味がない分、どんな料理にも合わせやすそう。煮ても、焼いても、炒めても、和風、洋風、中華風、どんな味付けでも存分に食べることができるだろう。
マメだから栄養も豊富だし、特に、タンパク質がダイズ並というのは肉類をあまり好まない身にはありがたい。
あればあるだけ、日々の料理に使えて非常に便利な作物だと実感した。なお――。
シカクマメは若くて新鮮なものなら生でも食べられる。
そう書いてあったので、生でも食べてみた。
まだ育ちはじめたばかりの赤ちゃんサヤをつまんで、口に運ぶ。
やはり、クセのない味わい。しかし、そのなかにほのかなマメの味とかすかな苦みが感じられた。
まさに、青豆。
そう思わせる味だった。
あるいは、タジン鍋で蒸したことでマメの味や苦みが消えたのかも知れない。
なんにしても、生で食べられる赤ちゃんサヤはちょっとしたつまみにピッタリ。私は酒は飲まないが、ビール好きならきっと、気に入るだろう。大きく育ったサヤはそれこそどんな料理にも使える万能食材。これはもう、あればあるだけ都合のいい食材。
今年はろくにとれないだろうが、来年は環境を工夫して多収に挑戦するとしよう。もし、本にあるように鈴生りに生る……なんて言うことになれば、日々の食事がかなり助かることになる。
とりあえず、今年、実った数少ないマメを育てて種取りし、来年の春に蒔くとしよう。自家採種をつづけていると徐々に環境に馴染んで品質があがっていくと言うし、種取りをつづけていれば我が家のベランダ菜園の環境に慣れて、たっぷり採れるようになるかも知れない。
夏冬問わずに栽培できればいいのだが……寒さには弱くて一〇度以下ではほとんど生育せず、霜にも弱いと言うから、さすがに秋蒔き春採りは無理だろう。いくら、温暖化が進んでいると言っても冬はそこまで暖かくない。もし、冬にシカクマメの栽培ができるようになってしまったら、その頃の夏は、人の住める状態ではなくなっているにちがいない。
そこまで温暖化が進行しないことを祈りつつ――。
来年の成果に期待しよう。
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