我が家のベランダ菜園物語

藍条森也

文字の大きさ
71 / 86
その六九

番外編・コメが消えた

しおりを挟む
 コメが消えた。
 コメを買いに行ったら、店からコメが消えていた。近所にある二軒のスーパーと一軒のドラッグストアをまわったのだが、その三軒からコメが見事に消えていた。
 玄米や餅米なら小さい袋が少しはあった。レンチン用のパックご飯もある。モチなどの加工品もある。しかし、生のうるち米がない。本当に、一袋もなかった。そして、コメ売り場には、
 『コメの供給が不安定になっています。お買いあげはお一人さま一袋でお願いします』
 との、注意書き。
 こんなのははじめて見た。
 いままで様々な食品で『品不足』というニュースを聞いたことはあるが実際に、スーパーでその品がなくなったのは見たことがなかった。食品棚が空になっているのを見たのは、それこそ東日本大震災の直後ぐらいだ。
 品不足になって値上がりすることはあっても、という状況はなかったのだ。いままでは。
 それが今回は状況になってしまった。
 いや、もちろん、売っているところでは売っているはずだし、いつまでもつづくわけでもないだろう。コメ以外にも食べるものは色々とあるのだし、これ自体は騒ぐほどのことでもない。
 問題はコメ不足に陥っていること。
 大地震が来たわけでもない。巨大台風が吹き荒れたわけでもない。特別な日照りや旱魃が起きたわけでもない。原発事故もない。
 いたって平穏な日常。
 そのなかで、コメが不足している。
 猛暑の影響というものはあるが、猛暑はすでに日常だ。もう何年も激しい暑さがつづいているし、これからもずっとつづく。その猛暑によって食糧不足が起こるというのならそれは、ということだ。
 いままでさんざん警告されながらも現実のものになることはなかった食糧危機だが、いよいよ現実になろうとしているのかも知れない。
 となれば、とにかく対策は立てておかなくてはならないわけだが、そのためのひとつの手段が『都市農業の拡充』と言うことになる。
 キューバはかつて、食料品を旧ソ連に依存していた。そのため、旧ソ連が崩壊するとたちまち食糧危機に陥った。そのとき、キューバの首都ハバナでは人々が空き地という空き地を見つけては野菜を作りはじめた。
 都市農業が一気に広まったのだ。それによって、ハバナは食糧危機を乗りきった。そして、キューバは都市農業の聖地となった。
 世界的に見ても都市農業は拡大をつづけている。もはや、『個人の趣味』の範疇を超えて、多くの国で主要な食糧生産手段になっている。
 日本でも本気になって都市農業を推進すれば食糧危機に対処することは可能だろう。ちょっとした隙間があれば野菜ぐらいは作れる。人々がこぞって野菜を作って自給するようになれば、プロ農家は主食である穀類やイモ類の栽培に専念できる。それだけでも、栽培量は格段に増える。
 都市部であっても建物の屋根と屋根を結んで栽培地にするという方法で、農地はいくらでも増やせる。屋根の上でもニワトリぐらいは飼える。牛肉や豚肉は無理でも、鶏肉と卵は生産できる。強すぎる日差しは太陽電池の屋根を架けることで、発電しながら和らげることができる。
 高温に対してはミストの噴霧で対処できる。必要な水は燃料電池を普及させれば確保できるだろう。ミストの噴霧はそのまま水やりともなるから無駄はない。
 食糧危機が迫っているとしても対処する方法はいくらでもあるし、そのために必要な技術はすべてそろっている。必要なのは、これまでの常識を一切、捨てて新しい世界を作ろうという発想力と、何がなんでもやり遂げようとする断固たる覚悟。人々を動かす指導力。そして、一人ひとりが労多くして益の少ない農業に日常的に関わろうとする気概。
 果たして、いまの日本と日本人にそれだけの意思と能力があるだろうか。
 まあ、なかったところで、日本中が餓死体で埋まるだけの話だが。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

処理中です...