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序章 月でピザを食うために
序の二
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「四つの手順⁉ そんな簡単にできるものなの?」
さくらがそう叫んだのは『いたって常識人』として当然の反応だったろう。何千年、ことによったら何万年もの間、人類が解決しようとして出来ずにいることを『たった四つの手順』で解決できてしまうなんて。
――いくら兄さんが『地球進化史上最強の知性』を自認しているからって、それは無理よね。
当然のごとく、そう思った。
心のなかだけで呟いて口には出さなかったのは、妹として兄への思いやり、と言うものだ。
見てみると他の五人もさくらと似たり寄ったりな様子で口をあんぐりと開けている。さくら同様、常識人である瀬奈とつかさのみならず、同じマンガ家として非常識な発想には慣れているあきらやトウノ、森也に対しては子供らしい全面的な信頼感をもっているひかるでさえ、さすがに信じられないようだ。
しかし、『常識の天敵』、藍条森也はこともなげに断言した。
「出来るさ」と。
「実際、人類を争いから卒業させるなんて至って簡単なことなんだ。いま言った四つの手順を踏めばいい」
「四つの手順て?」
ひかるが尋ねた。
やはり、子供だけあって無邪気な信頼感が強い分、立ち直るのも早い。すでに不審よりも好奇心の方が勝っているらしく、興味津々の体で身を乗り出している。
「まず、第一にやるべきことは共同体の自立。金のないやつには権利も自由もないのが人の世だからな。この世界のどこの、どんな共同体であろうとも経済的に自立し、自分たちの暮らしを作っていける。そんなシステムに世界を作りあげる」
「経済的な自立、か。そして、自分の望む暮らしを作りあげる。我ら富士幕府がやろうとしていることだな」と、あきら。
「そういうことだ」
「具体的にどうするの?」
さくらが尋ねた。
ひかると『妹の座』を争っているとは言え、こちらはやはり、高校生になる身。多少は世間ずれもしている。信じたいとは思っていても怪しむ気持ちの方が強くなる。
森也はそんな妹の思いを知ってか知らずかやはり、こともなげに答えた。
「現代文明を維持する上でまず必要なのはエネルギー。何はなくても電力だ。そして、地球上、どこでも手に入れられる電力源と言えば太陽の光。と言うわけで、まずは太陽電池を世界中に普及させる。太陽電池で電気を作り、水を電気分解して水素を製造。その水素を使って燃料電池で発電。そうすれば発電も安定するし、エネルギーを貯蔵してもおける」
「太陽電池と燃料電池の組み合わせか。この家で使っているのと同じ仕組みだな」と、瀬奈。
「しかし……」
と、瀬奈は眉をひそめた。
「建築家の立場から言わせてもらうとそれは無理だぞ。太陽電池も燃料電池もまだまだコストが高い。世界中に普及させるためにはもっと安くならないと……」
「コストをさげる必要なぞない。今のままでタダに出来る」
「どうやって⁉」
実際に叫んだのは瀬奈ひとりだったが、その場にいる全員が同じ思いをしていたのはまちがいない。それぞれに、それぞれの表情で頭の上に『?』マークを飛ばしている。
森也はやはり、こともなげに答えたが、その答えはその場にいる誰もが想像だにしないものだった。
「アイドル業界とコラボする」
「アイドル業界⁉」
「どういうことだ、それは⁉」
かわいい女の子大好き、故に必然的にアイドルも大好きなトウノとあきらが同時に叫んだ。森也は逆に尋ねた。
「アイドル業界の市場規模はどれくらいだ?」
「一五〇〇億円規模だ」
あきらとトウノが同時に、しかも、即座に答えたのはさすがだった。
「一五〇〇億円⁉ そんなにするの?」
アイドルに興味のないさくらが驚きの声をあげた。
「……うう、いいなあ。各務彫刻もそれぐらい売れてくれればいいのに」
つかさが涎を垂れ流しそうな表情でそう言ったのは――。
かの人の立場からすれば無理もない。
「大金が動いているのはわかったが……」と、瀬奈。
「それと、太陽電池とどういう関係があるんだ?」
「だからだ。ドルヲタという人種は多かれ少なかれ推しのグッズを買いあさっている。しかし、それはあくまで推しを応援するための課金であってグッズそのものが欲しいわけじゃない。たいていのドルヲタは応援のためにグッズを買ったはいいがもてあましている。そんなに沢山あっても使い切れるわけがないし、置き場にも困る。かと言って、買うはしから捨てるわけにもいかない」
「当然だな。推しへの愛が詰まったグッズ。捨てるなど言語道断」
ふんぬ! と、ばかりに薄い胸をふんぞり返らせて断言したのは、売れっ子マンガ家の財力にものを言わせて推しグッズを保管しておくための巨大倉庫を借り受けた赤岩あきらである。その横でコクコクとやたら熱心にうなずいているのはやはり、同じ売れっ子マンガ家として同じことをやってのけた紫条トウノである。ただし、こちらは小学生の娘に叱られて泣く泣く手放した……。
「まして、同じようなものばかり買い込んで置き場もない、となれば家族からは白い目で見られる。ある程度の年齢になれば『いい歳してそんなことに金、使って!』と責められる。しかし、いくら責められようと推しへの応援はやめられない。結局、グッズを買いあさって散財することになる」
その言葉に――。
トウノはいたたまれない様子で身をちぢこませた。そんな母親の様子を娘のひかるがジトッとした目で見つめている。母親が推しグッズを買いあさり、娘がそれに注意する、というのは、紫条家の日常である。
「そこでだ。グッズを買いあさる金を太陽電池の購入に充てる。具体的な計画としてはこうだ。まず、日本各地に戦国時代の城を模したソーラーファームを作る。ドルヲタは推しに課金する。アイドル事務所はその金でアイドル印の太陽電池を制作し、ソーラーファームに寄付。同一アイドルの太陽電池が一定の割合を超えればそのソーラーファームを制圧したことになる。つまり、『城をとった』と言うことだ。もし、日本中のすべての『城』を制圧すれば晴れて全国制覇。戦国の覇者となれるわけだ」
「おお! 我らの推しへの愛が推しの全国制覇につながるのだな! それは萌燃える!」
興奮のためか何なのか、妙な表現を使うあきらであった。
その表現はあっさりスルーして森也はつづけた。
「ドルヲタは課金することで推しを応援できる上に、再生可能エネルギーの普及に貢献できる。使い道のないグッズの置き場に困ることもない。家族から白い目で見られたり、責められたりすることもなくなる。何しろ、『太陽電池』という世の中の役に立つ設備のために課金してるんだからな。大威張りで出来る。アイドル事務所はちまちまグッズを開発・販売するよりもずっと効率的に稼げるようになる。そして、世間はアイドル印の太陽電池によってタダで電気を使えるようになる。これぞまさに、三方よし。全員が得をする仕組みだ」
おお~、と、ただひとりの例外をのぞいて全員が感心した声をあげた。
「でも……」
と、そのただひとりの例外、緑山さくらが言いずらそうに口にした。
「それだと、日本は何とかなっても世界的にってなると無理なんじゃないの?」
わざわざその点を指摘したのはごく常識人として森也の常識外れの発想に対して反発したくなったからだろう。森也はこれまた常識外の答えをした。
「アイドルが世界規模で売れないなんて誰が決めた?」
「誰がって……」
「アイドルだって音楽家だ。だったら、グラミー賞のひとつやふたつとったっておかしくはない」
「グラミー賞⁉」
さくらが驚きの声をあげた。
「そんなの、本当にとれるの?」
「野茂英雄がやってのけるまで、日本人がアメリカ球界で通用するなんて誰も思ってなかったさ」
妹の疑問を、森也はその一言で片付けた。
森也はつづけた。
「グラミー賞を取れば音楽家として世界中に名前を知られることになる。そうなれば、全世界規模で同じことができるようになる。世界征服は無理な話じゃない」
「うむ! 我らの推しへの愛があれば世界どころか宇宙だって征服できる!」
「そのと~り!」
あきらが胸を張って断言し、トウノが腕を突き上げる。
森也は真面目につづけた。
「太陽電池と燃料電池があれば地球上、どんな場所でも水と電気と熱を得ることができる。水と電気と熱があれば食糧も生産できる。産業も興せる。誰に依存することもなく、各共同体ごとに自立した経済が営める。経済的に自立できれば自分の望む暮らしを自分で作っていけるようになる。生きるために支配する・されると言う関係は必要なくなる。それだけでも争いの原因の大半は消えてなくなる。
これが、四つの手順のひとつめ。共同体ごとの自立だ。そして、ふたつ目は……」
森也は右手の指を二本、立てた。
さくらがそう叫んだのは『いたって常識人』として当然の反応だったろう。何千年、ことによったら何万年もの間、人類が解決しようとして出来ずにいることを『たった四つの手順』で解決できてしまうなんて。
――いくら兄さんが『地球進化史上最強の知性』を自認しているからって、それは無理よね。
当然のごとく、そう思った。
心のなかだけで呟いて口には出さなかったのは、妹として兄への思いやり、と言うものだ。
見てみると他の五人もさくらと似たり寄ったりな様子で口をあんぐりと開けている。さくら同様、常識人である瀬奈とつかさのみならず、同じマンガ家として非常識な発想には慣れているあきらやトウノ、森也に対しては子供らしい全面的な信頼感をもっているひかるでさえ、さすがに信じられないようだ。
しかし、『常識の天敵』、藍条森也はこともなげに断言した。
「出来るさ」と。
「実際、人類を争いから卒業させるなんて至って簡単なことなんだ。いま言った四つの手順を踏めばいい」
「四つの手順て?」
ひかるが尋ねた。
やはり、子供だけあって無邪気な信頼感が強い分、立ち直るのも早い。すでに不審よりも好奇心の方が勝っているらしく、興味津々の体で身を乗り出している。
「まず、第一にやるべきことは共同体の自立。金のないやつには権利も自由もないのが人の世だからな。この世界のどこの、どんな共同体であろうとも経済的に自立し、自分たちの暮らしを作っていける。そんなシステムに世界を作りあげる」
「経済的な自立、か。そして、自分の望む暮らしを作りあげる。我ら富士幕府がやろうとしていることだな」と、あきら。
「そういうことだ」
「具体的にどうするの?」
さくらが尋ねた。
ひかると『妹の座』を争っているとは言え、こちらはやはり、高校生になる身。多少は世間ずれもしている。信じたいとは思っていても怪しむ気持ちの方が強くなる。
森也はそんな妹の思いを知ってか知らずかやはり、こともなげに答えた。
「現代文明を維持する上でまず必要なのはエネルギー。何はなくても電力だ。そして、地球上、どこでも手に入れられる電力源と言えば太陽の光。と言うわけで、まずは太陽電池を世界中に普及させる。太陽電池で電気を作り、水を電気分解して水素を製造。その水素を使って燃料電池で発電。そうすれば発電も安定するし、エネルギーを貯蔵してもおける」
「太陽電池と燃料電池の組み合わせか。この家で使っているのと同じ仕組みだな」と、瀬奈。
「しかし……」
と、瀬奈は眉をひそめた。
「建築家の立場から言わせてもらうとそれは無理だぞ。太陽電池も燃料電池もまだまだコストが高い。世界中に普及させるためにはもっと安くならないと……」
「コストをさげる必要なぞない。今のままでタダに出来る」
「どうやって⁉」
実際に叫んだのは瀬奈ひとりだったが、その場にいる全員が同じ思いをしていたのはまちがいない。それぞれに、それぞれの表情で頭の上に『?』マークを飛ばしている。
森也はやはり、こともなげに答えたが、その答えはその場にいる誰もが想像だにしないものだった。
「アイドル業界とコラボする」
「アイドル業界⁉」
「どういうことだ、それは⁉」
かわいい女の子大好き、故に必然的にアイドルも大好きなトウノとあきらが同時に叫んだ。森也は逆に尋ねた。
「アイドル業界の市場規模はどれくらいだ?」
「一五〇〇億円規模だ」
あきらとトウノが同時に、しかも、即座に答えたのはさすがだった。
「一五〇〇億円⁉ そんなにするの?」
アイドルに興味のないさくらが驚きの声をあげた。
「……うう、いいなあ。各務彫刻もそれぐらい売れてくれればいいのに」
つかさが涎を垂れ流しそうな表情でそう言ったのは――。
かの人の立場からすれば無理もない。
「大金が動いているのはわかったが……」と、瀬奈。
「それと、太陽電池とどういう関係があるんだ?」
「だからだ。ドルヲタという人種は多かれ少なかれ推しのグッズを買いあさっている。しかし、それはあくまで推しを応援するための課金であってグッズそのものが欲しいわけじゃない。たいていのドルヲタは応援のためにグッズを買ったはいいがもてあましている。そんなに沢山あっても使い切れるわけがないし、置き場にも困る。かと言って、買うはしから捨てるわけにもいかない」
「当然だな。推しへの愛が詰まったグッズ。捨てるなど言語道断」
ふんぬ! と、ばかりに薄い胸をふんぞり返らせて断言したのは、売れっ子マンガ家の財力にものを言わせて推しグッズを保管しておくための巨大倉庫を借り受けた赤岩あきらである。その横でコクコクとやたら熱心にうなずいているのはやはり、同じ売れっ子マンガ家として同じことをやってのけた紫条トウノである。ただし、こちらは小学生の娘に叱られて泣く泣く手放した……。
「まして、同じようなものばかり買い込んで置き場もない、となれば家族からは白い目で見られる。ある程度の年齢になれば『いい歳してそんなことに金、使って!』と責められる。しかし、いくら責められようと推しへの応援はやめられない。結局、グッズを買いあさって散財することになる」
その言葉に――。
トウノはいたたまれない様子で身をちぢこませた。そんな母親の様子を娘のひかるがジトッとした目で見つめている。母親が推しグッズを買いあさり、娘がそれに注意する、というのは、紫条家の日常である。
「そこでだ。グッズを買いあさる金を太陽電池の購入に充てる。具体的な計画としてはこうだ。まず、日本各地に戦国時代の城を模したソーラーファームを作る。ドルヲタは推しに課金する。アイドル事務所はその金でアイドル印の太陽電池を制作し、ソーラーファームに寄付。同一アイドルの太陽電池が一定の割合を超えればそのソーラーファームを制圧したことになる。つまり、『城をとった』と言うことだ。もし、日本中のすべての『城』を制圧すれば晴れて全国制覇。戦国の覇者となれるわけだ」
「おお! 我らの推しへの愛が推しの全国制覇につながるのだな! それは萌燃える!」
興奮のためか何なのか、妙な表現を使うあきらであった。
その表現はあっさりスルーして森也はつづけた。
「ドルヲタは課金することで推しを応援できる上に、再生可能エネルギーの普及に貢献できる。使い道のないグッズの置き場に困ることもない。家族から白い目で見られたり、責められたりすることもなくなる。何しろ、『太陽電池』という世の中の役に立つ設備のために課金してるんだからな。大威張りで出来る。アイドル事務所はちまちまグッズを開発・販売するよりもずっと効率的に稼げるようになる。そして、世間はアイドル印の太陽電池によってタダで電気を使えるようになる。これぞまさに、三方よし。全員が得をする仕組みだ」
おお~、と、ただひとりの例外をのぞいて全員が感心した声をあげた。
「でも……」
と、そのただひとりの例外、緑山さくらが言いずらそうに口にした。
「それだと、日本は何とかなっても世界的にってなると無理なんじゃないの?」
わざわざその点を指摘したのはごく常識人として森也の常識外れの発想に対して反発したくなったからだろう。森也はこれまた常識外の答えをした。
「アイドルが世界規模で売れないなんて誰が決めた?」
「誰がって……」
「アイドルだって音楽家だ。だったら、グラミー賞のひとつやふたつとったっておかしくはない」
「グラミー賞⁉」
さくらが驚きの声をあげた。
「そんなの、本当にとれるの?」
「野茂英雄がやってのけるまで、日本人がアメリカ球界で通用するなんて誰も思ってなかったさ」
妹の疑問を、森也はその一言で片付けた。
森也はつづけた。
「グラミー賞を取れば音楽家として世界中に名前を知られることになる。そうなれば、全世界規模で同じことができるようになる。世界征服は無理な話じゃない」
「うむ! 我らの推しへの愛があれば世界どころか宇宙だって征服できる!」
「そのと~り!」
あきらが胸を張って断言し、トウノが腕を突き上げる。
森也は真面目につづけた。
「太陽電池と燃料電池があれば地球上、どんな場所でも水と電気と熱を得ることができる。水と電気と熱があれば食糧も生産できる。産業も興せる。誰に依存することもなく、各共同体ごとに自立した経済が営める。経済的に自立できれば自分の望む暮らしを自分で作っていけるようになる。生きるために支配する・されると言う関係は必要なくなる。それだけでも争いの原因の大半は消えてなくなる。
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