子持ち主婦がメイドイビリ好きの悪役令嬢に転生して育児スキルをフル活用したら、乙女ゲームの世界が変わりました

あさひな

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第三章 魔王編

36

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 ふぅ……
 予想外の話に、頭が付いていかないわ。

 最初にいた部屋に戻ってきた私は、侍女がいなくなったことを確認すると、バフっと無駄に広いベッドに向かって倒れ込んだ。
 触り心地の良い枕をモフモフと触りながら、ぼんやりと先程のラウルの話を思い出した。

 魔獣を劇的に減らすには国力を総動員させて長期間魔獣狩りをするか、マリア様が浄化の魔法で魔獣を消滅させるか、二択になるだろう。
 国力総動員での魔獣狩りは現実的に考えると難しいだろうし、かといってマリア様の浄化の魔法はいつ使えるようになるか分かんないし。
 それに、私の魔力じゃ脆ラウルと対立しても敵わない。
 はぁぁ、困ったなぁ。
 ……でも、所詮彼だって人間。
 人が完全無欠の存在ではない以上、絶対に帰る方法があるはずよ。

 ゴロンと寝返りを打ちながら、この城から抜け出す方法はないか考えを巡らせる。

 ……そうだ!
 ここがお城ってことは、敵襲に備え、いくつか逃げ道を作ってある事が多いはず。
 そこから上手く逃げ出すことは出来ないかしら?
 隠し通路の存在を探すのなら、まずこの城の全体を把握することから始めないといけないわね。
 それに、こうしてぼんやりしている間も時間は過ぎ去っていく。
 元居た場所に戻りたいなら、まずは行動に移さなければ。

 腹筋にググッと力を入れて上体を起こし、ベットから降りる。

 よし、手始めにこの部屋に隠し通路がないか調べてみよう。

 試しに床をトントン叩いてみたが、特に変わった様子はない。
 床がダメなら壁はどう?
 壁に手を這わせながらゆっくりと歩いてみたが、特に変わった様子はない。

 うーん、ここには何もないのかな?

 うーむ、と手を組みながら悩んでいると、ふとクローゼットの扉が視界に入った。
 あ、まだクローゼットの中は調べていなかったわね。

 ギイッと扉を開け、無数のドレスをかき分けながら壁や床を隈なくチェックするも、何も見当たらない。

 うーん、やっぱりダメかぁ……。

 はぁ、と深いため息を吐き肩を落としていると、何やら部屋の中でガサガサと音がする。
 
 ん? 侍女が来たのかしら。

 不審に思われないように慌ててクローゼットから出ると、部屋には誰もいない。

 あれ? 気のせいだったのかな?

 部屋中捜索して少し疲れたため、再びベッドに腰を降ろすと、柔らかい感触と「キャンッ」という声が聞こえた。

「!?」

 な、何!? なんか居る!!

 バッと布団を捲ると、小さい動物が尻尾を抱えて丸まっている。
 え! 動物!? さっきまでは居なかったのに!!
 驚いて固まっていると、いきなり扉がバンッ!と開いた。

「坊主、ここかっ!?」
「……!! ラ、ラウル!?」

 び、びっくりした! 
 動物といい、ラウルといい、いきなり何事!?

「キューン!」

 一見子犬のように見えるその動物は、犬のような声を出してプルプル震えている。

「お前は何度言ったら分かるんだ! つまみ食いはダメだと散々教えたはずだぞ!?」

 ラウルはズンズンと部屋の中に入ると、動物を強引に抱き抱えようとした。

「キュウン! キュウン! ラウル、ごめんなさい!」
「今日という今日は許さん! お尻ペンペンと食事抜きだ!」
「やだー!! もうしないから!!」

 動物は暴れてラウルの手からすり抜けると、私の後ろに隠れてプルプル震えている。

 この子、言葉が話せるのね。

「ラウル、この子は反省しているみたいだし、随分怖がっているみたいだから、そのくらいにしといてあげては?」
「イザベル、こいつは何度言っても我の話を聞かずにつまみ食いを繰り返しているんだ。一度、強く躾けねばならん。さ、坊主を渡せ」
「キューン!!」

 事情はよく分からないけど、これだけ怖がっているのに強い躾を施すのはあまり良い判断だと思えないわ。
 よし、ラウルに交渉してみよう。

「ラウル、気持ちは分かりますが、まずは落ち着かないと適切な躾が施せないと思いますよ。それに、この子も少し落ち着かせないと」

 ラウルにも思うところがあった様で、顰めっ面をしながらも「う、うむ」と、伸ばした手を一旦引っ込めた。

 ふぅ、とりあえず話を聞いてくれそうで良かったわ。
 後は、この子犬、いや、魔獣……かしら?
 とにかく落ち着かせないといけないわね。

「ねぇ、君。ラウルおじちゃんはもう怖い事しないみたいだから、どうしてつまみ食いしちゃったのか私に教えてくれるかな?」
「お、おじちゃん!? 我はそこまで歳を食ってはおらぬ!」
「ラウル、ちょっと静かにしていて下さい」
「う、うむ」

 その子は上目遣いでジーッと私を見つめ、しばらくすると話し出した。

「僕、お腹空いた」
「そっか、お腹空いていたんだね。それは周りの人に伝えたのかな?」
「みんな、忙しい。僕、待ってた。みんな、気づいてくれない」

 ああ、きっと、この子は周りに気遣って我慢していたんだけど、空腹に負けてしまったのね。
 それなら……

「そう、ずっと我慢していたの。辛かったね。でもね、今度からは我慢しないで周りに伝えていいのよ。お話してくれないと、みんな分からないよ?」

 その子はコクリと頷いた。

「お話聞けて偉いね! じゃあ次からはちゃんとみんなにお腹空いたって言おうね。よしよし」

 優しく頭を撫でてあげると、その子はペロリと私の指を舐めた。

 ぐはぁっ! なんて可愛い生き物なのかしら! 
 言葉の感じからすると、人間の三歳児くらい? 
 でも、魔獣の子みたいだし、人間とは違うのかしら?
 そんな事を考えていると、背後にいたラウルが私に向かって話しかけて来た。

「お前、凄いな」
「え?」

 ラウルの話を聞こうと振り向いた時、ガシッとラウルに肩を掴まれた。

「よし、イザベルは我と共に坊主の世話役を担って貰おう。丁度良い人材が来てくれて助かったぞ!」

 あれ!? 何かこの下り、既視感が……!

 嫌な予感に冷や汗をかく私とは正反対に、ラウルは満足そうな笑みを浮かべた。
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