子持ち主婦がメイドイビリ好きの悪役令嬢に転生して育児スキルをフル活用したら、乙女ゲームの世界が変わりました

あさひな

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第三章 魔王編

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 ポチは私達の話に飽きてきたのか、ぴょんとラウルの膝から飛び降りると私の方に寄ってきた。

「僕、お腹空いた」

 そういえば、つまみ食いをしたのもお腹が空いたからって言っていたもんね。

「そうねぇ。そろそろご飯が出来るといいのだけど」

 すると、ちょうどいいタイミングで扉をノックする音が聞こえ「食事の準備が整いました」との侍女の声が聞こえてきた。

「あら、丁度良かったわね。ポチ、ご飯が出来たみたいよ」
「ポチ?」
「そう、今日から君の名前は『ポチ』って言うのよ。ラウルおじ」

 『おじちゃん』と言おうとしたところ、ラウルの顔が見る見るうちに険しくなった。
 うん、違う呼び方に変更しましょう。

「……じゃなかった、ラウルパパが名前を付けてくれたのよ」
「我が、パパ!?」
「ポチからしたら、ラウルは親代わりのような存在ですから、パパで良いのではないでしょうか」
「う、うむ」

 ラウルは気難しい顔をしながらもパパ呼びを受け入れたようだ。
 そして、私の側にいるポチは首を傾げながら、言われた言葉を理解しようとしているようだ。

「僕、ポチ? ラウル、パパ?」
「そうよ。君はポチって名前で、ラウルはポチのパパよ」

 ポチは返事をするようにウォン!! と力強く吠えると、ぶんぶんと尻尾を振った。

 こうやってみると完全に子犬だよね。かわいいなぁ。

「さて、そろそろ食堂に向かうか。お前達、我に着いてこい」

 私たちはラウルの後に続いて食堂に向かった。
 食堂では立派なシャンデリアが煌めき、立派なテーブルには美しい花が生けられていた。

「我は堅苦しいマナーが苦手でな。ここで食事を取るのは我とお前達しかおらぬし、好きな席で食べるといい」

 そう言われても、あまり遠い席では会話しにくいしなぁ。
 とりあえずは無難に対面の席にしましょう。

 私が座るとポチはラウルの側に座った。
 ラウルは運ばれてきた料理を適当に切り分け、余分に用意された皿によそってあげている。
 ポチは、バクバクと美味しそうに皿の料理を平らげていく。

「魔獣も人間と同じ食事でいいのですね」
「いや、魔獣は魔の森に自生している木の実や虫、死にかけの魔獣などが本来の主食だ。本来は人間用の食事など食わぬが、ポチはなぜか我と同じものを食べたがってな」
「もしかしたら、ポチはラウルと同じ人間だと思っているのかもしれませんね」

 『人間』という聞きなれないフレーズに、ポチが首を傾げて訪ねてきた。

「にんげん? それ、美味しい?」

 うーん、魔獣からしたら人間は餌に近い存在かもしれないけど、ラウルや私と一緒に暮らすなら食べ物ではないことを教えた方がいいかしら?

 私が回答に困っていると、ラウルがポチに向かって話しかけた。

「ポチ、人間は本来餌ではない。しかし、お前が成長し、その内に抱えた苦しみに耐えられなくなった時は、必要になる存在かも知れんな」
「……ラウル」
「我は魔獣全体の統率はするが、人間の肩を持つことはせん。此奴の苦しみを考えたら、人間を襲うなと言うのはあまりに酷な話だ」
「……」

 ラウルの話も分かるが、人間側の私からすると複雑な心境だ。

 人間と魔獣が共存する方法はないのかしら……。

「さ、食事が済んだら、食後の運動がてらポチの遊びに付き合うぞ。イザベルも付き合え」

 ラウルはさっさと食事を切り上げるとガタッと席を立った。
 私は慌てて残りの食事を食べ終えると、ラウルの後へ続いて食堂を後にした。
 ラウルの後に続き城内を抜けると、広い庭園に辿り着いた。

「天気も良いし、今日はここで遊ぶとしよう」

 ラウルは木陰まで行きごそごそと何かを探すと、大量の何かを抱えてこちらに戻ってきた。
 両手いっぱいに抱えていたのは、大量の枝だ。

「ポチ、今日はこれで遊ぶか」

 ポチは嬉しそうにウォン! と吠えると、ラウルの周りをクルクルと回った。
 そしてラウルは大量の枝の中から一つの枝をブンッと放り投げると、ポチは嬉しそうに枝を追いかけて走り出した。
 ポチが枝を取ってきている間に、ラウルは一旦枝を地面に置くと、別の枝に魔法をかけた。
 枝は黒い光を放ちながらグネグネと形を変え、丸い球体へと物質変化を起こした。

 こ、これは物質変化の魔法!?

 初めて見る物質変化の魔法にあっけに取られていると、ラウルはその球体をズイと差し出してきた。

「イザベルはこのボールでポチと遊んでやれ」

 これは……投げればいいのかしら? 
 それにしても、魔法って凄いわね。枝からボールが出来るなんて。
 手にしたボールをしげしげと眺めていると、ラウルはため息を吐いた。

「お前、さっきの我の行動を見ていただろう。それを投げてやればいいだけだ。ポチの体力は無尽蔵だから、長時間付き合うと我の肩が痛むのだ。だからお前も付き合え」

 ため息吐かなくてもいいじゃない、感じ悪っ!

 私が心の中でラウルに悪態を吐いているうちに、ポチは枝咥えてあっという間に戻ってきて「まだ? まだ?」と目を輝かせながら今度は私の周りをクルクル回り始めた。

「あ、ポチ、ごめんね! じゃあ私とも遊びましょう。行くわよ、そーれっ!」

 ボールは綺麗な弧を描き、遠くの木まで飛んで行った。
 それを見ていたラウルは「おお!」と感心したような声を上げ、嬉々とした表情で私に話しかけた。

「イザベルは公爵令嬢の割にはボール投げが上手いな! よし、たくさんボールを作ってやるから遺憾なくその力を発揮せよ」

 ラウルは私の頭をヨシヨシと撫でながら側に落ちていた枝に次々と物質変化の魔法をかけ始めた。
 ちょっ! 私は子どもじゃない!! それにそんなにボール作られても困るってば!!

「ラウル! 先程も私の頭を撫でていましたが、私は幼児ではありません! それにポチ一人に対してそんなに大量にボールを作られても困りますわ」
「ポチはああ見えて力のある奴だから、すぐに壊れるゆえに沢山作らねばならんのだ。何、イザベルは頭を撫でられるのは好みではないのか。なら、こちらの方が好みか?」

 ラウルはニヤッと意地の悪い笑みを浮かべると、グイッと私の腕を強く引いた。

「きゃっ」

 うわわ、倒れる!! と、慌てて手を付こうとしたが、ラウルの堅い胸へすっぽりと抱き止められた。
 そして、そのままラウルにぎゅうと抱き締められてしまった。

 ギャーー!! 何!?

「ちょ、ラウル!?」
「そうか、イザベルは濃厚な接触の方が好みのようだな」
「ち、ちがっ!」
「そうか? 顔が赤くなっているぞ」

 ラウルは片手で私の顎をぐいっと持ち上げると、妖艶な光を宿した赤い双眼で私を見つめる。
 そして、ペロリと舌なめずりをすると、ぐぐっと顔を近付けて来た。

 え!? ちょっと待ったーー!!

 キスされると思った私は、咄嗟に手を体の間に入れて距離を取ろうとするも、顎を掴まれているので身動きが取れない。
 思わずぎゅっと目を瞑ると、ラウルの息がふっと耳に掛かる。

「抵抗されると逆に唆られるな。それとも、それがお前の誘いの手口か? イザベル」
「なっ! ち、違います!!」

 ラウルはふっと鼻で笑うと、私を拘束していた手を離した。

「そんな顔をしながらでは、説得力に欠けるがな。ま、機会はいくらでもあるし、じっくりお前を攻略することにしよう」

 こ、この俺様魔王め……!!

 思わず拳に力が籠る私の足元で、はっはっはっという息遣いと、きゅうんという鳴き声がした。

「パパ、イザベル、何してるの?」

 うわーーっ!! ポチに見られていた!?

「ポチっ!? な、何でもないわ! さ、遊びの続きをいたしましょう!?」

 ポチを誤魔化すために、私は慌てて側にあったボールを手にすると、それをポーンと遠くに投げた。
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