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第三章 魔王編
【アーサー視点】
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「殿下、その話は本当ですか!?」
「ああ。残念だが事実だ」
ここは騎士団の練習場。
集められた騎士団員は、ヘンリー殿下から衝撃的な話を聞かされた。
「まさか、魔王が公爵令嬢を連れ去るとは……」
辺りがザワザワと騒がしくなる。
嘘だろ!! まさかイザベル嬢が魔王に連れ去られるなんて!!
「皆も知っているだろうが、魔王城は魔の森にある故、魔獣を討伐しながら進まねばならん。しかし、大人数でいけば我々の動きが筒抜けになり、魔王との全面対立にもなりかねん。そこで、少数の精鋭部隊を結成し、魔王の隙を付いてイザベル嬢を奪還することにした。ここにいる者達はそのメンバーに選ばれた者達だ」
「魔の森に入るのに、このメンバーのみですか?」
「いや、国軍と魔法省からも厳選した者達がメンバーに加わる」
いつもと変わらぬ様子で騎士団員に向け話をするヘンリー殿下の態度に苛立ちが募る。
なぜあいつはあんなに淡々としていられるんだ!! イザベル嬢はお前の婚約者だろう!?
俺は思わずヘンリー殿下に掴みかかりそうな手を抑えようとして、拳を強く握った。
ギリッと指が拳に食い込む。
「今晩、他の選抜メンバーも加わり打ち合わせする。少し余裕を持たせて三日後の出発を予定しているが、近辺整理は早めに頼む。では、話は以上だ」
話が終わると、俺は真っ先にヘンリー殿下の元へ駆け寄った。
「ヘンリー殿下」
「なんだ」
「婚約者が目の前で連れ去られたのに、随分と余裕があるな」
「さぁ、それはどうだろうな」
こ、の……っ! こんな冷淡な奴がイザベル嬢の婚約者とは!!
俺なら目の前でイザベル嬢が連れ去られたなら、すぐにでもイザベル嬢を救うために行動を起こすだろう。
みすみす魔王に奪われるなど言語道断だ!
イザベル嬢より、己の身の保身が大事だったということか!?
「はっ、ヘンリー殿下のイザベル嬢に対する気持ちはその程度だったという事か」
ついヘンリー殿下に嫌味を吐いた。
「はぁ?」
俺の言葉を聞いたヘンリー殿下の目の色が変わる。
そして、グイッと急に胸倉を掴まれ、鋭い眼差しで睨み付けられた。
「本当に私が何も思っていないと、そう思うか?」
「……っ」
碧眼の奥には、全てを焼き尽くさんばかりの業火のような激情がゆらりと顔を覗かせている。
ヘンリー殿下はバッと手を離すと、氷のように冷たい表情のまま口を開いた。
「私に減らず口を叩く余裕があるなら、お前のその力を作戦時に発揮せよ。アーサー」
ヘンリー殿下に言われずともそうするつもりだ。
俺はあの時、己の中で誓ったのだ。
……この力を、君に捧げると。
「貴方に言われずとも、そうしますよ」
ヘンリー殿下はふっと鼻で笑うとニヤリと意地の悪い笑みを浮かべた。
「そうか。くれぐれも魔王や魔獣相手に逃げ出すような真似はするなよ」
「その言葉、そのままお返しいたしますよ。殿下」
しばらく俺とヘンリー殿下は睨み合い、ヘンリー殿下はすっと顔を背け身を翻すと、練習場を後にした。
ふん、食えない男だ。
貴方に言われずとも、俺は己の誓のために戦う。
……イザベル嬢、待っていてくれ。
俺の命に代えてでも、必ず君を助け出す。
「ああ。残念だが事実だ」
ここは騎士団の練習場。
集められた騎士団員は、ヘンリー殿下から衝撃的な話を聞かされた。
「まさか、魔王が公爵令嬢を連れ去るとは……」
辺りがザワザワと騒がしくなる。
嘘だろ!! まさかイザベル嬢が魔王に連れ去られるなんて!!
「皆も知っているだろうが、魔王城は魔の森にある故、魔獣を討伐しながら進まねばならん。しかし、大人数でいけば我々の動きが筒抜けになり、魔王との全面対立にもなりかねん。そこで、少数の精鋭部隊を結成し、魔王の隙を付いてイザベル嬢を奪還することにした。ここにいる者達はそのメンバーに選ばれた者達だ」
「魔の森に入るのに、このメンバーのみですか?」
「いや、国軍と魔法省からも厳選した者達がメンバーに加わる」
いつもと変わらぬ様子で騎士団員に向け話をするヘンリー殿下の態度に苛立ちが募る。
なぜあいつはあんなに淡々としていられるんだ!! イザベル嬢はお前の婚約者だろう!?
俺は思わずヘンリー殿下に掴みかかりそうな手を抑えようとして、拳を強く握った。
ギリッと指が拳に食い込む。
「今晩、他の選抜メンバーも加わり打ち合わせする。少し余裕を持たせて三日後の出発を予定しているが、近辺整理は早めに頼む。では、話は以上だ」
話が終わると、俺は真っ先にヘンリー殿下の元へ駆け寄った。
「ヘンリー殿下」
「なんだ」
「婚約者が目の前で連れ去られたのに、随分と余裕があるな」
「さぁ、それはどうだろうな」
こ、の……っ! こんな冷淡な奴がイザベル嬢の婚約者とは!!
俺なら目の前でイザベル嬢が連れ去られたなら、すぐにでもイザベル嬢を救うために行動を起こすだろう。
みすみす魔王に奪われるなど言語道断だ!
イザベル嬢より、己の身の保身が大事だったということか!?
「はっ、ヘンリー殿下のイザベル嬢に対する気持ちはその程度だったという事か」
ついヘンリー殿下に嫌味を吐いた。
「はぁ?」
俺の言葉を聞いたヘンリー殿下の目の色が変わる。
そして、グイッと急に胸倉を掴まれ、鋭い眼差しで睨み付けられた。
「本当に私が何も思っていないと、そう思うか?」
「……っ」
碧眼の奥には、全てを焼き尽くさんばかりの業火のような激情がゆらりと顔を覗かせている。
ヘンリー殿下はバッと手を離すと、氷のように冷たい表情のまま口を開いた。
「私に減らず口を叩く余裕があるなら、お前のその力を作戦時に発揮せよ。アーサー」
ヘンリー殿下に言われずともそうするつもりだ。
俺はあの時、己の中で誓ったのだ。
……この力を、君に捧げると。
「貴方に言われずとも、そうしますよ」
ヘンリー殿下はふっと鼻で笑うとニヤリと意地の悪い笑みを浮かべた。
「そうか。くれぐれも魔王や魔獣相手に逃げ出すような真似はするなよ」
「その言葉、そのままお返しいたしますよ。殿下」
しばらく俺とヘンリー殿下は睨み合い、ヘンリー殿下はすっと顔を背け身を翻すと、練習場を後にした。
ふん、食えない男だ。
貴方に言われずとも、俺は己の誓のために戦う。
……イザベル嬢、待っていてくれ。
俺の命に代えてでも、必ず君を助け出す。
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