子持ち主婦がメイドイビリ好きの悪役令嬢に転生して育児スキルをフル活用したら、乙女ゲームの世界が変わりました

あさひな

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第三章 魔王編

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 暫く歩くと木々が割れてポッカリと空いた空間に辿り着いた。
 葉で遮られていた日光が差し込み、眩しく感じる。

「さ、着いたぞ。ここだ」
「わぁ……!」

 辺りに広がるのは綺麗な泉。
 良く見ると水面が波立っておりポコポコと小さい音がしている。恐らく湧水になっているのだろう。
 澄んだ色の泉は、光が差し込み水面がキラキラと輝いて見えた。

「凄い、綺麗です!」
「そうだろう。ここは湧水地になっていて水も綺麗なのだ。さ、腹も減ってきた頃合いだろう、飯にするか」

 ラウルは持ってきたピクニックセットを広げ出した。
 私はラウルやポチと一緒に敷物の上に座るとラウルはズイとお弁当を差し出した。

「イザベルの分の弁当だ」
「ありがとうございます」

 パカッと中を開けると、色とりどりのおかず達がぎっしり詰められている。
 おお、結構ボリューミーだわ。

「イザベルは食が細いからな。今日は森の中を移動したからいつもより腹が減るだろう?」

 確かに、こちらに来てからは色々考えてしまい、前世の食細な性格も相まってあまり食事が進まなかった。
 でも、今日は外を歩いて気分転換になったようでいつもよりお腹が空いている。

「はい」
「たくさん食べると良い」
「パパー!! 僕のごはんは!?」
「ポチのはこっちだ。がっつかずによく噛んで食え」
「うん!」

 ポチは先程の果物だけでは足りなかったのか、勢い良くお弁当を食べ始めた。

「だから、しっかり噛めと言っているだろうに。全く」
「ふふ、ポチは育ち盛りですからお腹が空くのでしょう。では、私もいただきます」

 あ、このハム美味しい! このマリネも丁度いい味付けね。
 空腹も相まって、気付けば私はペロリとお弁当を平らげてしまった。

「茶も持ってきているから、少しゆっくりするか」
「え、お茶まで持ってきているのですか?」
「ああ、使用人に持たされたのだ」

 ラウルは水筒の様な物を取り出し、持ってきていた簡易カップにお茶を入れてくれた。

「ふふ、何だか至り尽くせりですね」
「イザベルはこっちに来てから表情が固かったからな。たまにはこういうのも良いだろう」

 まぁ、いきなりラウルに連れ去られたからね。事情があるにせよ誘拐なんて完全に犯罪だしね。
 当然、今でも元いた場所に早く戻りたい気持ちは変わらないわ。
 でも……ラウルなりに私の事を気にかけてくれていたのね。その気持ちは素直に嬉しい。
 
「ありがとうございます、ラウル」
「うむ」

 お茶を飲みながらふとラウルが以前言っていた「使命」という言葉が頭を過ぎる。
 ラウルは「魔王」という、人間界から隔離された孤独な使命受け入れ、直向きに生きている。
 いや、ラウルだけではない。
 この世界の人達は、意識をせずとも己の立場を受け入れ生きているのだろう。

 でも、私はどうだろう。

 前世の記憶を持つ私は、きっとまだこの世界を受け止め切れていない。

 そして、ヘンリー殿下から受けた、愛の誓い。

 あの場で受け入れたものの、どこかこの世界を受け止めきれずフワフワとした私に、本当の意味で彼の愛情に応える事が出来るのだろうか。

 ……いけない、何だか後ろ向きな考えばかりが過ぎってしまうわ。

「イザベル、どうした」
「あ、いえちょっと考え事をしていました」
「そうか。顔色も少し悪いな、先程魔力を消費したから疲れが出たのかも知れん。我はポチの遊び相手になってくるから少し休むと良い」

 ポチは尻尾をぶんぶん振り回しながら「遊ぼっ! 遊ぼっ!」とラウルに話しかけている。

「よし、ポチ。行くぞ」

 ラウルとポチが近くの草むらでボール遊びを始めるのを近くの木に寄りかかりながら見届けていると、段々と瞼が重くなってくる。
 ああ、平和な光景だわ。
 温かい日差しと遠くで聞こえるラウルとポチの楽しそうな声をBGMに、私は重くなった瞼をゆっくりと閉じた。
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