子持ち主婦がメイドイビリ好きの悪役令嬢に転生して育児スキルをフル活用したら、乙女ゲームの世界が変わりました

あさひな

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第三章 魔王編

【アーサー視点】1

「なっ!?」

 たった一人であの巨大な魔獣を倒しやがっただと!?
 エスタ卿の圧倒的な力を前にし、俺はただただ呆然と立ち尽くす。
 俺は騎士団の中でもエリート枠で採用されており、己の力には自信があった。
 しかし、たった今、その自信は粉々に砕け散り、その思考は驕りであったと痛感した。

 何なんだ、あの圧倒的な力は!? 
 こんなバケモノが近くにいたとは……!

 エスタ卿は魔法省の長であり、その力は魔王すらも凌駕する程だと言われている。
 しかし、手合わせをした事がない俺は、どこかエスタ卿の力を侮っていた。
 それが、いざ蓋を開けてみれば、一発の魔法であの巨体を跡形も無く消し去る、とんでもない力の持ち主だった。

 クソッ! 悔しいが、あの力の前では俺など無力に等しい……!

 如何に己の力が頼りないか、嫌でも痛感させられる。
 今まで俺が積み重ねて来た物は何だったのか……。いや、今は己の非力さを嘆いている場合ではない!

 ここは俺達にとっては戦場だ。
 気の緩みは命取りになる。

 強力な戦力が味方にいるのだ。その力を駆使し、如何に効率良くイザベル嬢を助け出すかを念頭において行動すべきだ。

 そうだ、己の力に拘っている場合ではない。
 俺に出来ることは、イザベル嬢を救う為に己の力を差し出すことだけだ。

 巨大な穴をじっと見つめてそんな事を考えていると、剣を納めたヘンリー殿下は何事もなかったかのように皆に向けて指示を出した。

「魔獣の駆除は完了した! 死体は消失しているが、血痕に他の魔獣が引き寄せられる可能性がある! 皆、注意して進め!」

 気を引き締め、まだ見ぬ敵に全身の神経を集中させる。
 再び隊列を組み、一定の間隔を保ちながら蔦を掻き分けひたすら前に進んだ。
 しばらく無心で歩くと、ガササッと前方で複数の生き物らしき物音が聞こえた。

「魔獣だ! 複数いるぞ!!」

 来たな。

 国軍所属の者達に混じり、俺は前線へと一斉に駆け出した。
 心臓の音と、草木を踏む己の足音がやけに耳に響く。
 そして、前線にいたメンバーに合流すると同時に、目の前の光景に目を疑った。

「な、何っ!?」

 こ、これは……魔獣の群れか!?

 目の前に現れた魔獣は人間と同程度の大きさで、先程の魔獣より小振りだ。
 しかし、その数は軽く数十はいる。
 此奴らは群れを成す魔獣で、集団で攻撃を仕掛けてくるのが特徴だ。

 見えているだけでも三十余り。まだ茂みに隠れている者がいれば、その倍以上いる可能性がある。

 駆け寄って来たエスタ卿とヘンリー殿下も同じことを考えていた様だ。

「数が多いな。茂みに隠れている奴がいた場合はそれなりの数になりそうだ」
「そうですねぇ。目の前の魔獣については僕の魔法で大方片付きそうですけど、残りがいた場合は見つけ次第片っ端から退治していくしかなさそうですねぇ」
「分かった。皆、良く聞け! エスタ卿が先制攻撃を仕掛けるが、まだ隠れている魔獣が近くにいる可能性がある! そいつらを見付け次第、残さずに駆除せよ!」

 ヘンリー殿下の合図でエスタ卿は真っ先に前線へと駆け出し、得意の攻撃魔法で先制攻撃を仕掛けた。

 ドオォォン!

 凄まじい轟音と共に再び地面に巨大な穴が空き、目の前の魔獣達は一瞬で吹き飛んだ。
 しかし、我々の見立て通り、残りの魔獣共が森に隠れていた。
 四方から一斉に飛び出した魔獣は、我々に襲いかかって来た。

「ちっ! やはり残りがいたか!」

 俺は剣を振りかぶり目の前にいた魔獣目掛けて斬り付けた。

 ブシュッ!

 剣先は目の前の魔獣の肉へ刺さる。
 魔法を発動するためにそのままの状態で詠唱をし、剣に魔力を込めて強度と鋭利さを補強する。そして、ググッと更に力を込めれば、メリメリッと剣先は魔獣の奥へと食い込んだ。
 そのまま剣を一気に下まで叩き付ければ、魔獣の断末魔と共に、辺りに血飛沫が舞う。

 まずは一体。次は!?

 身を翻し辺りを見渡す。
 すると、女の周りを囲む様に複数の魔獣がいるのが視界に入った。

 あれは、クロエとマリア嬢か!

 女二人にあの数の魔獣では分が悪いはず。
 俺は二人を助けるためにその場から離れ、二人の元へ全力で駆け出した。

「クロエ、マリア嬢! 大丈夫か!?」
「お兄様!? ええ、無事ですわ!」
「クロエ様が守って下さっているので、私も無事です!」
「そうか! 俺はこちら側の二体を相手する! 残り一体はクロエに任せていいか!?」
「まぁ、お兄様! 私を侮らないで下さいませ! それなら私が二体退治しますわ!」
「お前……」
「ほらほら、お兄様はこちら側と入れ替わって下さいな! さぁ、雑魚はさっさと始末致しますわよ!」

 クロエは隠し持っていたメイスを手にすると勢い良く放ち、魔獣の目と胸元に命中させた。
 攻撃を受けた魔獣は痛みに暴れ出し、敵であるクロエに向かって襲いかかって来た。
 クロエはトドメを刺すべく、腰にさしていた短剣を抜き、魔獣に向かって駆け出した。

 あの様子なら大丈夫そうだな。さて、俺はコイツを始末するか。

 俺は剣を握り直し、目の前にいる獲物目掛けて駆け出した。
 魔獣はクロエの攻撃に怯んだようで、その場から逃げ出した。
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