子持ち主婦がメイドイビリ好きの悪役令嬢に転生して育児スキルをフル活用したら、乙女ゲームの世界が変わりました

あさひな

文字の大きさ
37 / 55
第三章 魔王編

【アルフレッド視点】

「ふん、下らん罠などに引っかかりやがって」

 僕は目の前で驚いた顔をしている男、アーサーに声を掛けた。

「アルフレッド……? 俺の後をつけて来たのか?」

 そう、俺はアーサーが森の深くへ行く所を偶然見ていた。
 あの時の魔獣の動きは不自然で、直感で罠だと気付いた僕はアーサーを追い掛けてここまでやって来たのだ。

「お前は馬鹿か! 冷静になれば魔獣の動きが不自然だった事に気付くだろう!? ったく」
「すまん」

 アーサーの脚を見ると血が滲んでいる。
 先程の戦闘で負傷したのだろう。

「それより、怪我しているんだろう」
「あ、ああ。この程度は擦り傷だ、大した事はない」
「まだ先は長いんだ、ここで応急処置をしておかねば後々使い物にならなくなるぞ」

 アーサーをその場に座らせ、自身の服の裾をビッと裂き、太腿にキツく巻いていく。
 アーサーは申し訳なさそうな表情をしながら大人しく僕の応急処置を受けている。

 ったく、手のかかる奴だ。

「雑魚にかまけている時間はないんだ。次からは気を付けろ」
「アルフレッド、すまない」
「ほら、一先ずこれで血は止まる筈だ。補助は必要か?」
「このくらいなら一人で歩ける。必要ない」
「そうか。では皆の所へ戻るぞ」

 ザッザッと蔦を踏みながら元来た場所へと戻ると、メンバー達が全員揃っていた。
 どうやら残りの魔獣達は殲滅した様である。
 アーサーを見るなり、マリア嬢が慌てて駆け寄って来た。

「アーサー様、大変! 脚から血が!」
「ああ、これくらい大した事はない」
「大した事ないって、こんなに血が出ているではないですか! ちょっと見せて下さい!」

 マリア嬢はアーサーを座らせると傷口を確認した。

「結構深いですね」

 僕達のやり取りを聞き付けたのか、ヘンリーとエスタ卿もやって来た。

「アーサー君、大丈夫~?」
「アルフ、アーサーが怪我をしたそうだな」
「ああ、止血はしているが、それなりに深い傷だ」
「そうか。アーサー、歩けるか」
「ああ、これくらい問題ない」

 僕達の話を聞いていたマリア嬢が神妙な面持ちで口を開いた。

「あの……アーサー様。私、力を使ってみたいのですが、いいでしょうか?」

 力を使う? 
 何の事だ……?
 ま、まさか、浄化の魔法を使う気なのか!?

 エスタ卿とヘンリーも動揺した様で、険しい顔でマリア嬢に向かって話掛けた。

「マリア君、どうしたの? まさか浄化の魔法を使うなんて言わないよね?」
「マリア嬢、何をする気だ」
「……実は昨夜、夢の中で知ったのです。浄化の魔法の本当の力を」
「本当の、力?」

 夢? マリア嬢は一体何を言っているんだ?

「はい。昨夜、女神が夢に現れて私に教えてくれたのです。……浄化の魔法とは、この世を救う為に我々に与えられた癒しの力であると」
「「癒しの力!?」」

 ヘンリーとエスタ卿は動揺を隠せない様子でマリア嬢の言葉を繰り返す。
 この二人、何か知っているのか?

「ええ。三人の創造神は、この世界の毒を消し去れなかった代わりに、我々を助けるための救済措置を取ったそうです。その中で女神が与えたのは毒に侵されし者たちを癒すための光の魔力。浄化の魔法とは毒に犯されし者からその毒素を抜き去り、抜き去る際に傷付いた組織を修復する作用を持ち合わせているそうです」

 な、なんだその話は!?

「歴代の巫女達にも勿論その力はありました。しかし、当時の権力者達は彼女達を操り、自分達に害を成す者の殲滅のみ……毒を抜き去る事のみに、その力を当てさせたそうです」

 なるほど……自分達を守るためだけに、その力を最大限に使わせたのか。

「女神は自分と似た魂を持つ者の前にしか現れることが出来ないため、これまでも必死に巫女達に訴えかけて来ました。魔獣はこの世界の毒を吸収してくれる大切な存在であり、浄化の力により解毒と回復を遂げた魔獣は本来の姿に戻るのだと。……しかし、権力者達による暗示は強力で、魔獣は悪だと教え込まれた巫女達は女神の訴えに耳を貸さなかったそうです」

 何!? 魔獣に本来の姿があるのか!?

「そして、浄化の力は一度だけではなく、力を弱めて使えば何度か発揮出来るそうで、人に使えば傷の回復効果があるそうです。……私は女神の話を信じます。そして、この力を少しでも多く役立てたいのです」

 初めて聞く話に、辺りにいる者達は皆言葉を失った。
 その沈黙を破ったのはアーサーだ。

「……俺は、マリア嬢の話を信じる。その力を使ってくれ」
「アーサー、止せ」
「アーサー君、マリア君の力はまだ不安定だし、僕は勧めない」
「アーサー、アルフやエスタ卿の言う通りだ。マリア嬢の魔力は不安定で、マリア嬢の話は国家機密の情報にもない話だぞ」

 皆の説得を、アーサーは振り切った。

「俺はマリア嬢が嘘をついている様には見えない。それに、マリア嬢が早く力を使える様になれば、魔王がイザベル嬢を解放してくれる可能性が高まるだろう? 俺は少しでもイザベル嬢が助かる道を選びたい。マリア嬢、俺の身体で良ければ使ってくれ」
「分かりました。……皆さん、集中するので少し離れていて下さい」

 アーサーのあの様子では、我々が説得しても聞かないだろうな。仕方ない、様子を見る事にしよう。

 アーサーの説得を諦め、一旦マリア嬢から離れて様子を伺う事にした。

 しばらくすると、マリア嬢の辺りの空間がキラキラと輝き始め、それが辺りに広がり出した。
 その光景を目の当たりにした者達がザワザワと騒ぎ出す。

「こ、これは何だ!?」
「ひ、光っている……」
「おい、広がって来たぞ!」

 広がった光は一気にアーサーに向かって集まり、一瞬強い光を放った後に跡形もなく消え去った。

「皆さん、終わりました。もう来て貰って大丈夫です」

 アーサーは無事なのだろうか。
 容態が気になり急いで戻ると、アーサーは脚を摩りながら驚いた様子で呟いた。

「傷が……癒えている」

 アーサーの言葉通り、あの深い傷は跡形もなく消えていた。
 マリア嬢の話は本当だったのか!

「あぁ、良かった! これで私も皆さんの戦力になりますね!」

 マリア嬢はにっこり笑うと、我々に向けてVサインをした。
感想 69

あなたにおすすめの小説

よかった、わたくしは貴女みたいに美人じゃなくて

碧井 汐桜香
ファンタジー
美しくないが優秀な第一王子妃に嫌味ばかり言う国王。 美しい王妃と王子たちが守るものの、国の最高権力者だから咎めることはできない。 第二王子が美しい妃を嫁に迎えると、国王は第二王子妃を娘のように甘やかし、第二王子妃は第一王子妃を蔑むのだった。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました

kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」 王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

婚約破棄された翌日、兄が王太子を廃嫡させました

由香
ファンタジー
婚約破棄の場で「悪役令嬢」と断罪された伯爵令嬢エミリア。 彼女は何も言わずにその場を去った。 ――それが、王太子の終わりだった。 翌日、王国を揺るがす不正が次々と暴かれる。 裏で糸を引いていたのは、エミリアの兄。 王国最強の権力者であり、妹至上主義の男だった。 「妹を泣かせた代償は、すべて払ってもらう」 ざまぁは、静かに、そして確実に進んでいく。