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第三章 魔王編
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しおりを挟む「イザベル嬢か?……本当に?」
ああ、これは夢じゃない! 本物のヘンリー殿下だわ!
早く、貴方の側に行きたい!
私は居ても立っても居られなくなり、令嬢の矜持をかなぐり捨ててその場から駆け出した。
「ヘンリー殿下!」
やっと、貴方に会えた!
「イザベル嬢!」
ヘンリー殿下もこちらに向かって駆け出した。
ああ、後少しで、貴方に触れられる……!
そう思った、次の瞬間。
凄い力で身体がグンっと後ろに引き寄せられた。
「きゃあっ!!」
「イザベル嬢!?」
な、何!?
強烈な力になす術もなく、飛ぶ様に後ろに引き寄せられると、ポスッと背中に温かい物が触れた。
「まさか隠し通路を探し当てるとはな。全く、お前には驚かされる」
聞き覚えのある声に後ろを振り向くと、燃える様な赤眼が私を見下ろしている。
「ラウル! なぜ、ここに!?」
「お前は以前から我に隠れてコソコソ何かをしていた様だからな。念のため、離れる時はいつもお前に追跡魔法を掛けていたのだ」
嘘っ! 隠し通路を探していた事がバレていたの!?
「貴様は魔王か!? 今すぐイザベル嬢を解放しろ!」
ヘンリー殿下は剣を構え、殺気立った様子でラウルを睨み付けている。
そして、私達の声を騒ぎを聞きつけたのか、ヘンリー殿下の背後から続々と人が集まってきた。
「ふん、お仲間の登場か」
ラウルは背後で吐き捨てる様に呟いた。
人集りを見ると、見覚えのある顔ぶれが混じっている事に気付いた。
あれはリュカ先生!?
それに、アルフ兄様、アーサー様、クロエ様に……マリア様まで!
リュカ先生はヘンリー殿下の横に並ぶとラウルに向かって話しかけた。
「やぁ、君が魔王だね☆ あのさ、そこにいる女性は我が国の未来の王妃殿下なんだ。君みたいな人物が手出し出来るような御方ではないんだよ。さぁ、分かったらさっさと解放してくれないかな」
「それは出来ぬ。我には娘の力が必要なのだ」
ラウルは私の身体を片腕で抱き寄せた。
抵抗しようとしたが、身体が動かない。
どうやら魔法を掛けられているようだ。
「ラウル、話がしたい。まずは魔法を解いて!」
私の叫びなど聞き入れる様子のないラウルは、私を無視して相手の出方を伺っている様だ。
「ラウル聞いて! 私の魔力は闇の魔力を増幅させるためだけじゃない、光の魔力も増幅させる事が出来るの! 光の魔力を増幅させて本来の力の使い方をすれば、魔素を消滅させて魔獣達も本来の姿に戻るのよ!」
ラウルが訝しげな様子で私を見下した。
「本来の、姿?」
「そうよ! 魔獣達は本来の獣の姿に、きゃっ!」
ドンッ! という衝撃がラウル越しに伝わる。
そして、ラウルが勢い良く手を払うとガガガッ!という衝撃音と共に木々が薙ぎ倒されて行く。
「ちょっとちょっと魔王君、僕のこと無視しないでよ☆」
「リュカ先生!」
駄目! このままじゃラウルと話が出来ないまま戦いが始まってしまうわ!
「ふん、減らず口が。我には使命がある。邪魔をする者は容赦せぬぞ」
「ラウル、止めて! きゃっ!」
ラウルは前に手を翳すと黒い光を作り出し、リュカ先生目掛けて放った。
ドンッ、ドンッ、ドンッ!
立て続けに放った光は木々を倒し、地面に穴を開けて行く。
「っ!! ダメ! お願い、話を聞いて!!」
ラウルは私の言葉を無視し、手を振り上げると巨大な黒炎を作り出す。
その炎を、土煙で前の見えなくなった場所に目掛けて投げ付けた。
ゴオオォォ!! という音と共に、辺りは炎に包まれた。
なんて事を……!
「っ! 止めてーーっ!!」
悲鳴にも似た叫びで必死に訴えるも、ラウルはこちらを見ようとしない。
くっ! せめて身体が動けば……!
ギリギリッと拳を握り締め、手に力を込めるもビクともしない。
爪が手のひらに刺り、ジワっと痛みが走る。
動け、動け、動けぇっ!!
どんなに力を込めようとも身体は動かない。
抵抗しようと必死になっていると、目の前の炎はパンッ! という衝撃波と共に跡形も無く消え去った。
そして、土煙の中からリュカ先生を筆頭に、皆の姿が現れた。
ああ、良かった!
「ぐふふ☆ いいね、いいねぇ、その強さ! でもさぁ、人質を側に置くのは狡くな~い?」
リュカ先生は片手を振り上げると、手の様な黒い影を作り出した。
その影はグワッと私達を覆うように襲いかかって来た。
「小賢しい真似を!」
ラウルは私から手を離し、結界を作ろうと両手を広げた。
……恐らく私から手を離すその一瞬狙っていたのだろう。
黒い影に紛れて、ギラリと光る剣先がラウル目掛けて飛んで来た。
「はぁぁあっ!!」
ガキンッ! という衝撃音が響く。
慌てて衝撃音のする方を見ると、ヘンリー殿下がラウルの肩目掛けて剣を振り下ろしていた。
「……っ」
「ヘンリー殿下!」
ラウルは一瞬体勢を崩したが、すぐに身を捩り剣を振り払った。
ラウルの肩を覆っていた甲冑はガシャンと音を立てて地面に落ち、じわりと血が滲んでいる。
「パパッ!!」
その光景を間近で見ていたポチは慌てて駆け寄り、ラウルを守る様にヘンリー殿下の前に立ちはだかると、グルルルッ! とヘンリー殿下を威嚇をした。
「オマエ、パパを傷付けたな。……コイツラミンナコロス!!」
ポチはガアァァァッ!! という唸り声と上げると、辺りの森から魔獣が一斉に姿を現した。
魔獣が現れた事により、辺りは騒然とする。
「魔獣が現れたぞ!」
「戦闘開始だ!」
どうしよう、このままじゃ魔獣と人との全面対決になってしまう!
ポチはガァッと牙を剥けると、ヘンリー殿下目掛けて襲い掛かった。
「ポチ、駄目よ!!」
怒りで我を忘れたポチには私の声など届いていないようだ。
ポチはヘンリー殿下の喉元目掛けて跳び上がった。
「魔獣に用は無い! 失せろ!」
ヘンリー殿下は疾風でポチを吹き飛ばした。
ダンッ! という衝撃音と共にポチの体は近くの木に叩きつけられた。
「ポチッ!!」
ヘンリー殿下はそのまま剣を構え直すと、ラウル目掛けて駆け出した。
「魔王、覚悟っ!」
「ふん、その程度の力で我を止められると思っているのか、若造よ」
ラウルは手を翳すと再び黒い光を練り出し、ヘンリー殿下目掛けて放った。
ドンッ! ドンッ! ドンッ! ドンッ!
間髪開けずに続く攻撃に、土煙と共にヘンリー殿下の姿が見えなくなった。
「いやーーーーっ!! ヘンリー殿下!!」
「なんだ、もう死んだか? つまらんな」
そ、そんな……!
まさか、ヘンリー殿下が……?
いや! そんなの嘘よ!!
「ヘンリー殿下!! ヘンリーで」
私の叫び声がドガァァァン! という衝撃音と共に掻き消される。
「なっ!?」
土煙と共にゆらりと人影が見える。
ザッザッという足音が近付くと共に現れたのは、あちこち破れた騎士服を身に纏ったヘンリー殿下と、恍惚とした表情を浮かべたリュカ先生だった。
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