子持ち主婦がメイドイビリ好きの悪役令嬢に転生して育児スキルをフル活用したら、乙女ゲームの世界が変わりました

あさひな

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第三章 魔王編

【ヘンリー視点】

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「イザベル嬢!? 駄目だ!!」

 私の声もアーサーの声も、イザベル嬢には届いていないのか、イザベル嬢はアーサーの手を振り解き、アルフを庇う様にして魔王に立ちはだかった。

「ラウル、止めてーーっ!!」

 くっ! この距離では間に合うか!?

 咄嗟に風魔法を発動し魔王に向けて放ち、同時に自身の足に風魔法を纏いながらイザベル嬢の元へ駆け出すも、魔王の攻撃はイザベル嬢に向かって放たれた後だ。

「イザベル嬢っ!!」

 頼む! 私の攻撃が届いてくれ!

 しかし、私の攻撃が届く前にイザベル嬢に魔王の攻撃が当たってしまった。
 ドンッ! という鈍い衝撃音と共にイザベル嬢の身体が宙を舞う。

「っ! イザベルーーっ!!」

 足に纏った風魔法により高速でイザベル嬢の元へ駆け寄ると、地面に着地する前の身体を抱き止めた。

「イザベル! イザベル!!」

 必死に叫ぶもイザベル嬢の身体はピクリとも動かない。
 周りにいた者達もイザベル嬢の元へと駆け寄って来たのか、辺りが騒がしくなる。

「ベル! 君は何てことを……!」
「イザベル嬢! しっかりするんだ!」
「いやーーっ!! お姉様!!」
「イザベル様!!」
「イザベル君! 魔王君、よくもやってくれたな!?」

 エスタ卿の攻撃は強過ぎて、ここで放たれたらイザベル嬢の身体に障る!

「エスタ卿、この場で攻撃魔法を使えばイザベル嬢の身体に障る! 攻撃魔法は使わずに魔王を捕らえてくれ!」
「……了解です」

 エスタ卿は黒い影を出すと、魔王目掛けて放った。
 魔王は抵抗する様子もなくエスタ卿の影に捕らえられた。
 魔王を捕らえたと同時に、マリア嬢は我々を押し除けイザベル嬢の身体に触れる。

「イザベル様! ああ良かった、まだ息がある! これなら私の魔法が効くかもしれないです!」
「それは……アーサーに使った浄化の魔法か!?」
「はい。ただ前回のアーサー様とは違い、イザベル様は重症です。この魔法でどれだけ回復するかは分かりませんが、今使わないとイザベル様は手遅れになってしまいます!」

 マリア嬢の魔力は不安定だが、アーサーの傷を治した実績がある。
 ここは彼女の可能性に賭けるしかない。

「分かった。マリア嬢、頼む。イザベル嬢を救ってくれ」
「わかりました。皆さん、集中したいので少し下がっていてください!」

 我々は一旦身を引くと、マリア嬢はイザベル嬢の身体を横にし、静かに両手を当てた。
 しばらくすると、マリア嬢の辺りの空間がキラキラと輝き始め、光は辺りに広がって行く。
 始まったか。
 頼む、どうか成功してくれ!
 広がった光は一気にイザベル嬢に向かって集まり、パァッと強い光を放った後に跡形もなく消え去った。
  
 終わった、か……?

 マリア嬢の表情を見ると、不安そうな表情を浮かべながらイザベル嬢の身体を軽く揺すっている。

「イザベル様、傷が治りましたよ。イザベル様、起きて下さい」

 ん? マリア嬢の様子がおかしい。
 
 イザベル嬢の元へ駆け寄り身体の状態を確認すると、イザベル嬢の呼吸は先程より穏やかになっている様だ。
 しかし、マリア嬢の呼び掛けにピクリともせず、閉じた瞼を開けることはない。

 なぜ、目を覚まさない?

 隣にいたアルフが痺れを切らしたのか声を荒げた。

「マリア嬢、本当に浄化の魔法は効いたのか!?」
「はい、腕にあった傷は治っていますし、効いているはず……なのですが……」
「では、なぜベルは目を覚さない!?」
「アルフ、マリア嬢が怖がっているだろう。詰め寄るのはよせ」
「お前に何が分かる!?」

 不安で周りに当たりたくなるアルフの気持ちは痛いほど分かる。
 私とてイザベル嬢の事を想うと、心配や不安で思考が止まりそうになる。
 しかし、今は己の感情よりも、イザベル嬢を救う道を考えなければ!
 
「目を覚ませ、アルフ!」

 私はアルフの胸ぐらを掴んだ。

「今はイザベル嬢が目を覚ます方法を考える事が先決だろう!?」

 側にいたクロエ嬢が私とアルフの間に割ってきた。

「二人ともお止めになって! マリア様、もう一度浄化の魔法を使ってみて下さい。そうしたらイザベル様が目を覚ますかも知れませんわ」
「それが……先程の魔法でほとんどの魔力を消費してしまい、浄化の力を発動させるには魔力の回復が必要なのです」

 嘘だろ! では、他に助かる方法は!?

 しかし、この中に回復魔法を使える人間はいない。
 それはつまり、現段階でイザベル嬢を助ける方法がない、ということだ。

「な、何!? ベルが助かる方法は他にないのか!?」
「……」

 くそっ! どうする事も出来ないのか!?

 力無く横たわるイザベル嬢の身体を抱き上げ、軽く譲ってみる。

「イザベル、私の声が聞こえるか? 早く目を覚ましてくれ」

 イザベル嬢の瞼は閉じたまま、身体はピクリとも動かない。
 穏やかだった呼吸は少しずつか細くなり、美しい顔からは徐々に血の気が引いていく。

「可愛いイザベル、どうか目を覚まして……?」

 やがて呼吸も分からなくなり、腕越しに伝わる身体が徐々に冷たくなって行くのが分かる。

 イザベル、お願いだ。私を置いていかないでくれ……。

 本当の私は、卑怯で弱い人間だ。
 未来の王として生まれた私は、常に周りからの期待と重圧が付き纏った。
 そして、近付く者は私を利用しようとする者ばかりだ。
 そんな気の休まる時などない環境の中で、私はどこか冷めた目で人を見てきた。
 しかし、貴女という愛おしい存在に出会って、私は内に宿る感情に気付いたのだ。

 貴女といる時は、時間を忘れてしまう。
 貴女がいない時は、貴女のことばかり考えて職務すら手に付かない。
 貴女と過ごす時間が増えるほど、私の中に宿る貴女の存在は大きくなっていく。
 いつしかそれは、私の生きる目的になっていた。

 貴女が何者かなど、どうでもいい。
 貴女さえいてくれたら、私は、私は……!

「イザベル! イザベル!! 頼む、目を開けてくれ……!」
「ベル! ベル!!」
「くっ、イザベル嬢……!」
「お姉様……っ、ぐすっ」
「イザベル様、目を開けて……!」

 ギュッと強く身体を抱き締めた時だ。
 ドクンッと力強い心音を感じ、フッとイザベル嬢が深呼吸をした。

「!? イザベル!!」

 イザベルの顔を確認すると青白い顔色は血色を取り戻し、ふるりと瞼が震えた。
 そして、長い睫毛に縁取られた瞼がゆっくりと持ち上がり、瑠璃色の美しい瞳が私を映し出した。
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