転生先が婚約破棄された伯爵令嬢でしたが、私の自走式ゴミ箱が最強すぎて負ける気がしません

松本雀

文字の大きさ
14 / 79

2台の馬車と秘密の作戦

しおりを挟む
朝の空気は冷たく澄んでいて、庭の花々が一枚ずつ陽光を浴びる様子はまるで優雅な舞台装置のようだった。

時計の針が10時を指す頃、私は書斎の机の上に並べられた手紙に目をやった。今日届いた中に、見覚えのある紋章と蜜蝋があるのを見つけ文面を確認する。

「ふふ……来たわね。」

返事は予想通り、私の期待に応えてくれる内容だった。私は封筒を指で軽く撫で、手紙をもう一度読み返しながら笑った。

――これで、準備が整った!

「アルフレッド、エリオット。」

私が名前を呼ぶと、書斎の入口で控えていた二人が近づいてくる。その表情は真剣そのものだったが、私の余裕のある笑顔を見て、二人は一瞬眉をひそめた。

「お嬢様……?その笑みは、何か良からぬことを考えてらっしゃいますね。」

アルフレッドの冷静な声が静かに響いた。さすがは長年ミレイアに仕えてきた執事だ。私が何を企んでいるのか大体察し始めているらしい。

「まあまあ、そんな怖い顔しないで。」

私は軽やかに手を振りながら、窓の外を指差した。

「今日は忙しくなるわよ。」

「……どういう意味でしょうか?」

エリオットが警戒心を隠せない表情を浮かべた。

「馬車を2台用意してちょうだい。」

「2台……?」

二人が同時に驚いたように声を漏らす。普通なら、社交界のお茶会に行くのに2台も馬車を用意する理由はない。豪華な馬車で目立とうという見栄ではなく、何か意味があると分かっているからこそ、彼らは困惑していた。

「どうして2台の馬車が必要なのですか?」

エリオットが問いかける。私は少しだけ肩をすくめて、顔を近づけた。

「……こっそり種明かしをしてあげるわ。」

声をひそめながら耳打ちするように説明を始めた。二人は私の言葉を聞くたびに、驚きと疑念の入り混じった表情を浮かべる。

「ま、まさか……そんな方法が……!」

エリオットの目が大きく見開かれる。彼の真面目な顔には、普段は見られないほどの動揺が走っていた。

「いや、しかし……本当にそれで……?」

アルフレッドもいつになく声を揺らしている。執事として冷静であろうとする彼が、こうも驚く姿はなかなか見られないものだ。

「ええ、本気よ。」

私は力強く頷いた。

「いざという時、しっかりフォローしてね。私の相棒――このゴミ箱も、あなたたちを頼りにしてるから。」

アルフレッドとエリオットは無言のまま互いに顔を見合わせ、そして深く頷いた。

「……承知いたしました。」

「お任せください、お嬢様!」

頼もしい返事を聞いた私は満足げに微笑み、書斎の扉に手をかけた。

「さあ、出発の準備よ!」

扉を開くと、明るい陽射しが私たちを包んだ。柔らかな風が髪を揺らし、花々が見送るかのように静かに揺れている。

――グリフィーネ公爵令嬢のお茶会は、私にとって試練の場であり、同時に逆転の舞台への足がかりでもある。まずはこの初演、演じきってみせる!

二台の馬車が並んで準備される様子を見ながら、私は心の中でそう誓った。目立たない方の馬車には、ふかふかの布団と一緒に大きな箱がしっかりと積まれている。赤いリボンで飾られたその箱は、一見すると大きな贈り物にしか見えない。だが――中身は当然“ただの贈り物”ではない。

「……次は、私が仕掛ける番よ。」

馬車の扉が開かれ、私は優雅な足取りで乗り込んだ。戦いの舞台に向かうその瞬間、心の中は静かで、けれど確かな熱で満ちていた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

愛人を選んだ夫を捨てたら、元婚約者の公爵に捕まりました

由香
恋愛
伯爵夫人リュシエンヌは、夫が公然と愛人を囲う結婚生活を送っていた。 尽くしても感謝されず、妻としての役割だけを求められる日々。 けれど彼女は、泣きわめくことも縋ることもなく、静かに離婚を選ぶ。 そうして“捨てられた妻”になったはずの彼女の前に現れたのは、かつて婚約していた元婚約者――冷静沈着で有能な公爵セドリックだった。 再会とともに始まるのは、彼女の価値を正しく理解し、決して手放さない男による溺愛の日々。 一方、彼女を失った元夫は、妻が担っていたすべてを失い、社会的にも転落していく。 “尽くすだけの妻”から、“選ばれ、守られる女性”へ。 静かに離婚しただけなのに、 なぜか元婚約者の公爵に捕まりました。

婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。

黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」 豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。 しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。

結婚して3年経っても子供ができないという理由で離縁されたエマは、前世の記憶を思い出して幸せになる。周りが勝手に復讐してくれました。

山田 バルス
恋愛
 結婚三年目の春、エマは伯爵家の夫アンドレオから突然、側室を迎える話を告げられる。子をなせなかったことを理由に、彼女は僅かな補償のみで離縁された。妻として過ごした三年間は「無価値だった」と突きつけられ、エマは貴族社会から静かに切り捨てられる。  また実家の父母の墓参りに行くと、当主になっていた兄に離縁金を奪われてしまう。  大ピンチのエマには、秘密があった。なんと彼女は幼少期に前世の記憶を思い出していたのだ。  かつて観光地で石を磨き、アクセサリーを作り、人に喜ばれる仕事をしていた人生。何も持たない今だからこそ、もう一度「自分の手で生きる」ことを選び、あの人が住む商業国家スペイラ帝国へ向かう決意をする。  国境への道中、盗賊に襲われるが、護衛兵ロドリゲスの活躍で難を逃れる。彼の誠実な態度に、エマは「守られる価値のある存在」として扱われたことに胸を打たれた。  スペイラ帝国では身分に縛られず働ける。エマは前世の技術を活かし、石を磨いてアクセサリーを作る小さな露店を始める。石に意味を込めた腕輪やペンダントは人々の心を掴み、体験教室も開かれるようになる。伯爵夫人だった頃よりも、今の方がずっと「生きている」と実感していた。  ある朝、ロドリゲスが市場を訪れ、エマの作ったタイガーアイの腕輪を購入する。ところがその夜、彼は驚いた様子で戻り、腕輪が力を一・五倍に高める魔道具だと判明したと告げる。エマ自身は無意識だったが、彼女の作るアクセサリーには確かな力が宿っていた。  後日二人は食事に出かけ、エマは自分が貴族の妻として離縁された過去を打ち明ける。ロドリゲスは強く憤り、「最悪な貴族だ」と彼女と一緒になって怒ってくれた。その気持ちが、エマにとって何よりの救いだった。彼は次に防御力を高める腕輪を依頼し、冒険者ギルドで正式な鑑定を受けるよう勧める。  翌日、冒険者ギルドで鑑定を行った結果、エマの腕輪は高い防御効果を持つことが判明。さらに彼女自身を鑑定すると、なんと「付与特化型聖女」であることが明らかになる。聖女が付与した魔道具は現実の力として強く発現するのだ。  価値がないと切り捨てられた人生は、ここでは確かな力となった。スペイラ帝国で、聖女エマの新しい人生が、静かに、そして輝かしく始まる。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……

buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。 みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……

側妃契約は満了しました。

夢草 蝶
恋愛
 婚約者である王太子から、別の女性を正妃にするから、側妃となって自分達の仕事をしろ。  そのような申し出を受け入れてから、五年の時が経ちました。

悪役令嬢は調理場に左遷されましたが、激ウマご飯で氷の魔公爵様を餌付けしてしまったようです~「もう離さない」って、胃袋の話ですか?~

咲月ねむと
恋愛
「君のような地味な女は、王太子妃にふさわしくない。辺境の『魔公爵』のもとへ嫁げ!」 卒業パーティーで婚約破棄を突きつけられた悪役令嬢レティシア。 しかし、前世で日本人調理師だった彼女にとって、堅苦しい王妃教育から解放されることはご褒美でしかなかった。 ​「これで好きな料理が作れる!」 ウキウキで辺境へ向かった彼女を待っていたのは、荒れ果てた別邸と「氷の魔公爵」と恐れられるジルベール公爵。 冷酷無慈悲と噂される彼だったが――その正体は、ただの「極度の偏食家で、常に空腹で不機嫌なだけ」だった!? ​レティシアが作る『肉汁溢れるハンバーグ』『とろとろオムライス』『伝説のプリン』に公爵の胃袋は即陥落。 「君の料理なしでは生きられない」 「一生そばにいてくれ」 と求愛されるが、色気より食い気のレティシアは「最高の就職先ゲット!」と勘違いして……? ​一方、レティシアを追放した王太子たちは、王宮の食事が不味くなりすぎて絶望の淵に。今さら「戻ってきてくれ」と言われても、もう遅いです! ​美味しいご飯で幸せを掴む、空腹厳禁の異世界クッキング・ファンタジー!

処理中です...