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「……ねえ、ミレイア。」
私は振り返って反射的に眉をひそめる。
その目は、見慣れた悪意に満ちていた。
「このブローチ……欲しくなぁい?」
ジュリアの一言に私の視界がわずかに揺らいだ。
彼女の手には、見覚えのある銀の小さな装飾品が握られている。
――それは、ミレイアの母親の形見。
「売ってあげてもよろしくてよ?」
彼女は軽く手のひらを上に向けて、ひらひらとそれを揺らした。まるで私を試すように。
「ただし――」
唇が、にやりと歪む。
悪意が形を持つ瞬間。
「値段は、そうね……1000万クラン、いえ、もっとかしら?――それと、私を傷つけたことを誠心誠意謝罪しなさいよ!!!!」
私は何も言わずに、ただ彼女の顔を見つめた。
胸の奥底に、静かに何かが降り積もる。怒りではない。憎しみでもない。ただ、冷たい確信。
これが、ジュリアの本性だ。最後の最後まで彼女は変わらない。反省もしなければ悔いることもない。ただ、自分が優位に立てると信じる限り、どこまでも残酷で、どこまでも傲慢。
そう思った瞬間、私はごく自然に微笑んだ。
「もう少し、よく見せてもらえる?」
――あくまで静かに、しかしはっきりとした声で言わなくては。ジュリアが手にしているブローチに視線を向けながら、考えを巡らせる。
彼女の表情には、一切の動揺はなかった。
むしろ余裕の笑みさえ浮かべている。
「まあ、いいわ。」
ゆったりとした仕草で腕を持ち上げると、手の中で銀細工が光を受けて鈍く輝いた。
かすかなざわめきが広がる。
「……ほら、ご覧なさい? とても素敵なブローチでしょう?」
ジュリアは自信に満ちた声でそう告げる。
まるでそれが当然のように、誰も異を唱えられないかのように。
しかし――
「――ッ!」
最初の異変は、貴族の一人が息を呑む音だった。
続いて、別の令嬢が、顔を強張らせながら震える声を上げる。
「それは……アマーリエ様の……!」
まるで水面に小石を投げたように、その言葉を皮切りに、波紋が広がる。それまで静観していた貴族たちが、一斉に息を呑み、口々に騒ぎ始めた。
「間違いない……あのブローチは……!」
「どうして……ジュリアが……?」
動揺が大広間を駆け抜ける。
まるで、ひそかに積もり積もった雪が、一瞬で崩れ落ちるかのように。
ジュリアの余裕に満ちた微笑みが、わずかに揺らぐ。
彼女は、あくまで落ち着いた表情を装っている。だがほんの少し、目の奥に浮かんだ動揺を私は見逃さなかった。
そして、それを見逃さなかったのは私だけではない。
「ジュリア様……それは、どこで手に入れたのですか?」
ひとりの貴族が、慎重に、しかし疑念を隠しきれない口調で問いかけた。
「……さあ?そんな昔のこと、覚えていませんわ。」
ジュリアは努めて軽く微笑む。
しかし、その言葉は誰の耳にも不自然に響いた。
――沈黙の中、私は確信する。
「どうしてあなたが、ブランフォード家のブローチを持っているの?」
周囲の囁きは潮が引くように止まり、煌びやかなシャンデリアの光すら、今は冷たく感じるほどだった。
――今、私が発した言葉の意味を、どれほどの人間が即座に理解しただろう。
ジュリアの指先が微かに震えた。
唇を噛みしめながら、彼女はゆっくりと私を見た。
「……何のこと?」
声はいつも通りの調子を装っている。
だが、その裏に潜むもの――焦燥と動揺は、隠しきれていなかった。
――見え透いた演技よ。
私は冷静にジュリアの手元へと視線を落とした。彼女が無造作に持つそのブローチ。
銀の装飾に繊細な細工が施され、中央には美しいカメオ細工が嵌め込まれている。
月の光を纏ったかのような気品あるそれは、決してジュリアの持ち物ではない。
私は一歩前に出た。
誰もが固唾を呑む中、静かに、はっきりと告げる。
「それはただの装飾品ではないの。貴族の家紋が刻まれたブローチよ。」
ジュリアの顔がみるみる青ざめた。
「……な、何を言ってるの?」
しらばっくれるつもりなのだろう。
だが、明らかに目が泳いでいる。
私は微笑みながら続ける。
「知らなかったの? 貴族の娘に贈られるブローチには、その家の名誉と誇りを示す家紋が刻まれているのよ。」
ジュリアの喉が、小さく鳴る。
私はその反応を見逃さなかった。
ジュリアが貴族社会に正式に迎えられたのは、ほんの数年前のこと。
淑女教育をまともに勉強しなかった故に、貴族の間で「家紋入りのブローチ」が何を意味するのか、理解できていなかった。
そう、彼女は知らなかったのだ。
自分が持っていたものが、どれほど危険な証拠になり得るのか。
「どこで手に入れたのか、今ここで説明してもらえるかしら?」
私が静かに告げると、ジュリアは完全に動きを止めた。
そして、じわじわと理解する。
自分が決定的な「ミス」を犯したことを。
「……違うの!……私、私……知らなかった……聞いてない…!」
もはや取り繕う余裕すらない。
彼女は、震える手でブローチを握りしめたまま、ただ、沈黙するしかなかった。
「窃盗よ。」
私の言葉が、大広間に響き渡る。
「貴族籍の剥奪だけでなく、あなたは犯罪者になるのよ、ジュリア。」
私は振り返って反射的に眉をひそめる。
その目は、見慣れた悪意に満ちていた。
「このブローチ……欲しくなぁい?」
ジュリアの一言に私の視界がわずかに揺らいだ。
彼女の手には、見覚えのある銀の小さな装飾品が握られている。
――それは、ミレイアの母親の形見。
「売ってあげてもよろしくてよ?」
彼女は軽く手のひらを上に向けて、ひらひらとそれを揺らした。まるで私を試すように。
「ただし――」
唇が、にやりと歪む。
悪意が形を持つ瞬間。
「値段は、そうね……1000万クラン、いえ、もっとかしら?――それと、私を傷つけたことを誠心誠意謝罪しなさいよ!!!!」
私は何も言わずに、ただ彼女の顔を見つめた。
胸の奥底に、静かに何かが降り積もる。怒りではない。憎しみでもない。ただ、冷たい確信。
これが、ジュリアの本性だ。最後の最後まで彼女は変わらない。反省もしなければ悔いることもない。ただ、自分が優位に立てると信じる限り、どこまでも残酷で、どこまでも傲慢。
そう思った瞬間、私はごく自然に微笑んだ。
「もう少し、よく見せてもらえる?」
――あくまで静かに、しかしはっきりとした声で言わなくては。ジュリアが手にしているブローチに視線を向けながら、考えを巡らせる。
彼女の表情には、一切の動揺はなかった。
むしろ余裕の笑みさえ浮かべている。
「まあ、いいわ。」
ゆったりとした仕草で腕を持ち上げると、手の中で銀細工が光を受けて鈍く輝いた。
かすかなざわめきが広がる。
「……ほら、ご覧なさい? とても素敵なブローチでしょう?」
ジュリアは自信に満ちた声でそう告げる。
まるでそれが当然のように、誰も異を唱えられないかのように。
しかし――
「――ッ!」
最初の異変は、貴族の一人が息を呑む音だった。
続いて、別の令嬢が、顔を強張らせながら震える声を上げる。
「それは……アマーリエ様の……!」
まるで水面に小石を投げたように、その言葉を皮切りに、波紋が広がる。それまで静観していた貴族たちが、一斉に息を呑み、口々に騒ぎ始めた。
「間違いない……あのブローチは……!」
「どうして……ジュリアが……?」
動揺が大広間を駆け抜ける。
まるで、ひそかに積もり積もった雪が、一瞬で崩れ落ちるかのように。
ジュリアの余裕に満ちた微笑みが、わずかに揺らぐ。
彼女は、あくまで落ち着いた表情を装っている。だがほんの少し、目の奥に浮かんだ動揺を私は見逃さなかった。
そして、それを見逃さなかったのは私だけではない。
「ジュリア様……それは、どこで手に入れたのですか?」
ひとりの貴族が、慎重に、しかし疑念を隠しきれない口調で問いかけた。
「……さあ?そんな昔のこと、覚えていませんわ。」
ジュリアは努めて軽く微笑む。
しかし、その言葉は誰の耳にも不自然に響いた。
――沈黙の中、私は確信する。
「どうしてあなたが、ブランフォード家のブローチを持っているの?」
周囲の囁きは潮が引くように止まり、煌びやかなシャンデリアの光すら、今は冷たく感じるほどだった。
――今、私が発した言葉の意味を、どれほどの人間が即座に理解しただろう。
ジュリアの指先が微かに震えた。
唇を噛みしめながら、彼女はゆっくりと私を見た。
「……何のこと?」
声はいつも通りの調子を装っている。
だが、その裏に潜むもの――焦燥と動揺は、隠しきれていなかった。
――見え透いた演技よ。
私は冷静にジュリアの手元へと視線を落とした。彼女が無造作に持つそのブローチ。
銀の装飾に繊細な細工が施され、中央には美しいカメオ細工が嵌め込まれている。
月の光を纏ったかのような気品あるそれは、決してジュリアの持ち物ではない。
私は一歩前に出た。
誰もが固唾を呑む中、静かに、はっきりと告げる。
「それはただの装飾品ではないの。貴族の家紋が刻まれたブローチよ。」
ジュリアの顔がみるみる青ざめた。
「……な、何を言ってるの?」
しらばっくれるつもりなのだろう。
だが、明らかに目が泳いでいる。
私は微笑みながら続ける。
「知らなかったの? 貴族の娘に贈られるブローチには、その家の名誉と誇りを示す家紋が刻まれているのよ。」
ジュリアの喉が、小さく鳴る。
私はその反応を見逃さなかった。
ジュリアが貴族社会に正式に迎えられたのは、ほんの数年前のこと。
淑女教育をまともに勉強しなかった故に、貴族の間で「家紋入りのブローチ」が何を意味するのか、理解できていなかった。
そう、彼女は知らなかったのだ。
自分が持っていたものが、どれほど危険な証拠になり得るのか。
「どこで手に入れたのか、今ここで説明してもらえるかしら?」
私が静かに告げると、ジュリアは完全に動きを止めた。
そして、じわじわと理解する。
自分が決定的な「ミス」を犯したことを。
「……違うの!……私、私……知らなかった……聞いてない…!」
もはや取り繕う余裕すらない。
彼女は、震える手でブローチを握りしめたまま、ただ、沈黙するしかなかった。
「窃盗よ。」
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