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二章
四
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裏口から大量の荷を抱えて外へ出た。前が閊えて足取りが思うようにいかない。木戸を
閉めようと手を伸ばしたが、届かない。戸が閉まっている。と、驚きに落とした荷を、元凶の男が支えていた。
「ルテナイ家の使いなんだが」
見れば、あの靴磨きの男だ。やや引いて眺めれば、帽子のつばに隠れる顔には、これが好機と意気揚々としている。
「何か用でしょうか?」
「旦那様が面通しをご希望で」
「仕事がありますので」
「それはないよ、お嬢さん。こちとらずっと張ってたんで」
「でも、先日使いは来ましたけど」
不振がって訊けば、男は面倒臭そうに苛立った。
「ダンテオーリオ様に内緒で会いたいんでさ」と、もう質問は無しとばかりに付け足した。「それは知らないよ、直に旦那様に訊けばいい」
男に強要する凄みは無い。見回しても、馬車はない。徒歩だ。渋々ラトヤは承諾した。
「主人に行く先を知らせてから向かいます」
伝言をして、男と二人通りを進めば、見知った馬車が横に並んだ。パンカロッレ家の馬車だ。御者に訊けば、主が出してくれたそう。男と別れて、ラトヤは乗り込んだ。
先に要件を済ますと、ルテナイ家の門に到着すれば、あの男が既に待っていた。喜々と門番に指さし、何がしか受け取っては平越しの会釈を送り、ラトヤを待たずに去って行く。御者が門番へと話し、ラトヤはそのまま運ばれて表玄関の前に降り立つ。
ルテナイ家の佇まいは、列然とした館で、趣を湛えたパンカロッレ家の風情と異なり、植栽も小ざっぱりと並んでいる。窓も門へ向け列挙し、涼しい姿を強調している。
ラトヤは長く息を吐いた。身なりはいつものままだ。他家へこの格好で表玄関から入るのは正気の沙汰ではない。だが、御者も門番もそう振る舞った。観念してかからねば、と、足を踏み入れた。
使用人の根目回しも無く部屋へ通されたラトヤは、感心してこの館を眺めた。使用人の落ち着き具合と言い、客を迎える室内の設えとい、適格だが余所余所しくはない。名を馳せる家に招かれたのだと、染み入る一時を過ごしていた。
「待たせたな。あなたがラトヤと申す者か?」開口一番、着席を勧める初老の男が、ダンテオーリオの父だと自らを名乗った。「婚姻を約束する前に一度会いたかったのだが、仕方ない。これよりは私共の家族となるのだから、こちらへも機会あれば顔を出すように」
「はい。申し訳ありませんでした」
やはり責めはこちらへ来たと、覚悟して唾を呑めば、義父となる男が首を振った。
「あなたを責めた積りはない。息子が慌ただしく事を運んだようで、迷惑を蒙っているのはお互い様だと、愚痴でも言い合わないか? うん?」
「いえ」
随分と寛容な父だと目を見張れば、穏やかな笑いを立てて、椅子へ背を預けた。ラトヤにも寛げと、茶器を回し勧めて。
「色々と確認もあった。こちらより念を押したいこともな。今となっては、命令に近いが、我が家には家訓があるのでな、あなたにも理解して欲しいのだ」
「はい」
「いい返事だ。だが、続くかな」と、茶を煤って、一間置き、ラトヤを見定めてまた口を開いた。「我が家の成り立ちは知っているのか?」
「はい。ダンテオーリオ様より」
「そうか。では、商いを軸としてここまでの家になった我が家には、迷信にも近い家訓がある。仲違いは金の浪費だ」
考えを巡らすラトヤを、さも面白そうに観察していた主人だが、ラトヤがダンテオーリオが言う家訓とはこの事かと思い当たった間際、頷いた。
「離婚は絶対にない」
「はい」剣幕に、間髪入れず返事をした。
「戸籍が分かれれば、折角設けた子も半数だ。財も分散する。代々培ってきた先代からの地位も財も、一代の離婚で躍進を望めなくなる。その代は足踏みだ。分かるな?」
「はい」
「では、これも同じだ。仲良きは金を育む」
「お、お金をですか? 商いがですか?」
「そうだ」と、皺交じりの笑みを広げた。「夫婦喧嘩をする。妻は別室で寝る。どうだ? あなたなら分かるかな? あなたの立場なら何が変わる?」
「私の? はい。先ず部屋の整えが増えます」
「おお、いい所を突く。そうだ、使用人の手間が増える。寝具の洗濯、食事も別にとれば、皿の温めも二度になる。それに、仲直りをすれば、妻の甘えに貢物も高価な物になりがちだ。つまりだ、普段から仲睦まじい事が望ましい。慈しみを日々の贈り物に捧げ、感謝を持って日々尽くす。我が家はこれでやって来た」
含み笑う所を見れば、ラトヤに今過ぎった心配を見透かしてなのだろう。主人は声色を労わるよう変え、ラトヤに請け負った。
「当然、浮気は断じて許さない」も、ラトヤの返事も待たず、はたと真面目な顔をした。「ダンテオーリオにも当然の如く死守させる。だが、あなたにも頼みたい。あいつの心を生涯掴んで余所見をさせぬよう、浮気の咎はあなたにも心してもらいたい」
「はい」
「自信なさげだな。まあ、前評判がああだからな」
暫し二人で無言に思いめぐらす。ラトヤは宙を見続けるしかないし、主人は手に顎を乗せて考え込む始末だ。
口火を切ったのはラトヤの方。ダンテオーリオ様もこうまで言われては立場がない。
「約束してくださいました。だから、私が努めれば」
「果たしてそうかな?」
「はい。お父様の言葉を違えぬ様努めます」
「あなたではない。息子だ、気がかりなのは」鼻息を深く吐いた主人は、身を起こして語る。やや声は低めだ「あの子には可哀想な事をした。養子の事だ。聴いているのかな?」
「はい」
「なら、分かるだろう。私はあの子を甘やかし続けてきた。欲しがるものは特に何でも与えてやった。だからああなったのだ。女を漁り、手にすれば関心が薄れて放る。玩具と同じ手合いでいる」
「今は違うと約束くださいました」
「そうであって欲しいものだ。だが、あなたとの結婚を突然言い出した時は、こう思ったのだよ。まだ私への充て付けを画策するのかと」
庇う口も開けず、ラトヤは口ごもった。充て付け…彼に割に見る行為だ。
「女を次々に。地位を愚弄した行為だ。家訓とも反する。まるで、家訓の外に居るのだと私に吹聴するようなものだ。結婚などばかげていると、私を否定したかったのだろう。自分だけ取り除かれたのだから」
同じ同情を身に覚えがあるラトヤは同意できない。それを嫌うだろうから、ダンテオーリオは。
「私も耐えた。それがどうした、好きにしなさいと。いつか飽きるだろうとね」と、同調の相槌を寄越した。「そして、待ち望んだ終わりが来た。結婚を認めさせようと言うのだから、笑ったな。私が否定するのではと焦っていたが、快諾したら拍子抜けしたようだ」
コロコロと喉で笑う姿に、冷めた瞳を見つけてしまう。この先をどう話そうかと考えあぐねる時の視線だ。ラトヤは、息子にも同じ瞳を見たことがある。親子なのだ。
「息子を容認したく、快諾はしたが。あなたを悪くは思っていないが、すまないね、これが同位の娘なら、心の底から感涙しただろう。息子の成長を確信して。だが、違った」
「奴隷の、身だからですね」
「何度も言うが、奴隷がどうのではない。息子が敢えてそういう身の上の娘を突き付けたのかと、懸念を抱いてしまってね。それだけの話で、奴隷が嫁にふさわしくないなどとは言う積りはないのでね」
ラトヤは頭を捻らせた。無いと言えば、真実ではない。その直感を抱いたのはラトヤも同じだったから。主人の話の矛先を次第に悟り、腹に手を添えた。
どうだろう? 男の手際を良く知らないが、ダンテオーリオはその手を統べていそうだ。だが、父親への抗いで私を選んでいたなら? 結婚は破綻へ直ぐに転じそうだ。家訓を守れそうにない。主人が話すには、話すだけの訳があったのだ。
主人の誠意に胸も詰まり、ラトヤは首を縦に振った。
「少し、待ちたいと仰せなのですね?」
「そうだ。あなたにも悪い話ではないと思う。遊びと結婚は別だ。あの子も家庭を構えるなら、男として家族を守る義務を知らないといけない。船で手広くやってはいるが、先日の荷高は目に余る。恐らくあなたへの贈り物と荷が消えたのだろうが、それではあなたを守れなくなる。一度は必要だと乗船を命じたのに、あなたに気取られて乗らなかった。由々しい態度だ、結婚するなら」
「乗船を? あの、次の」
「そうだ。それを命じる。あなたも待つよう望んでいるのだが?」
伏し目がちの視線を起こせそうにもない。直視できない理由を抱えているから。だが、それは自己の責任であって、訳を話すには至らない。既に一つ義父の期待を裏切った自分に、言い訳はない。
「はい」
「結婚とは、好いた惚れたとは、また違う。家族を健やかに育むよう、環境を整える結束だ。少なくとも、我が家はそう信じている」
閉めようと手を伸ばしたが、届かない。戸が閉まっている。と、驚きに落とした荷を、元凶の男が支えていた。
「ルテナイ家の使いなんだが」
見れば、あの靴磨きの男だ。やや引いて眺めれば、帽子のつばに隠れる顔には、これが好機と意気揚々としている。
「何か用でしょうか?」
「旦那様が面通しをご希望で」
「仕事がありますので」
「それはないよ、お嬢さん。こちとらずっと張ってたんで」
「でも、先日使いは来ましたけど」
不振がって訊けば、男は面倒臭そうに苛立った。
「ダンテオーリオ様に内緒で会いたいんでさ」と、もう質問は無しとばかりに付け足した。「それは知らないよ、直に旦那様に訊けばいい」
男に強要する凄みは無い。見回しても、馬車はない。徒歩だ。渋々ラトヤは承諾した。
「主人に行く先を知らせてから向かいます」
伝言をして、男と二人通りを進めば、見知った馬車が横に並んだ。パンカロッレ家の馬車だ。御者に訊けば、主が出してくれたそう。男と別れて、ラトヤは乗り込んだ。
先に要件を済ますと、ルテナイ家の門に到着すれば、あの男が既に待っていた。喜々と門番に指さし、何がしか受け取っては平越しの会釈を送り、ラトヤを待たずに去って行く。御者が門番へと話し、ラトヤはそのまま運ばれて表玄関の前に降り立つ。
ルテナイ家の佇まいは、列然とした館で、趣を湛えたパンカロッレ家の風情と異なり、植栽も小ざっぱりと並んでいる。窓も門へ向け列挙し、涼しい姿を強調している。
ラトヤは長く息を吐いた。身なりはいつものままだ。他家へこの格好で表玄関から入るのは正気の沙汰ではない。だが、御者も門番もそう振る舞った。観念してかからねば、と、足を踏み入れた。
使用人の根目回しも無く部屋へ通されたラトヤは、感心してこの館を眺めた。使用人の落ち着き具合と言い、客を迎える室内の設えとい、適格だが余所余所しくはない。名を馳せる家に招かれたのだと、染み入る一時を過ごしていた。
「待たせたな。あなたがラトヤと申す者か?」開口一番、着席を勧める初老の男が、ダンテオーリオの父だと自らを名乗った。「婚姻を約束する前に一度会いたかったのだが、仕方ない。これよりは私共の家族となるのだから、こちらへも機会あれば顔を出すように」
「はい。申し訳ありませんでした」
やはり責めはこちらへ来たと、覚悟して唾を呑めば、義父となる男が首を振った。
「あなたを責めた積りはない。息子が慌ただしく事を運んだようで、迷惑を蒙っているのはお互い様だと、愚痴でも言い合わないか? うん?」
「いえ」
随分と寛容な父だと目を見張れば、穏やかな笑いを立てて、椅子へ背を預けた。ラトヤにも寛げと、茶器を回し勧めて。
「色々と確認もあった。こちらより念を押したいこともな。今となっては、命令に近いが、我が家には家訓があるのでな、あなたにも理解して欲しいのだ」
「はい」
「いい返事だ。だが、続くかな」と、茶を煤って、一間置き、ラトヤを見定めてまた口を開いた。「我が家の成り立ちは知っているのか?」
「はい。ダンテオーリオ様より」
「そうか。では、商いを軸としてここまでの家になった我が家には、迷信にも近い家訓がある。仲違いは金の浪費だ」
考えを巡らすラトヤを、さも面白そうに観察していた主人だが、ラトヤがダンテオーリオが言う家訓とはこの事かと思い当たった間際、頷いた。
「離婚は絶対にない」
「はい」剣幕に、間髪入れず返事をした。
「戸籍が分かれれば、折角設けた子も半数だ。財も分散する。代々培ってきた先代からの地位も財も、一代の離婚で躍進を望めなくなる。その代は足踏みだ。分かるな?」
「はい」
「では、これも同じだ。仲良きは金を育む」
「お、お金をですか? 商いがですか?」
「そうだ」と、皺交じりの笑みを広げた。「夫婦喧嘩をする。妻は別室で寝る。どうだ? あなたなら分かるかな? あなたの立場なら何が変わる?」
「私の? はい。先ず部屋の整えが増えます」
「おお、いい所を突く。そうだ、使用人の手間が増える。寝具の洗濯、食事も別にとれば、皿の温めも二度になる。それに、仲直りをすれば、妻の甘えに貢物も高価な物になりがちだ。つまりだ、普段から仲睦まじい事が望ましい。慈しみを日々の贈り物に捧げ、感謝を持って日々尽くす。我が家はこれでやって来た」
含み笑う所を見れば、ラトヤに今過ぎった心配を見透かしてなのだろう。主人は声色を労わるよう変え、ラトヤに請け負った。
「当然、浮気は断じて許さない」も、ラトヤの返事も待たず、はたと真面目な顔をした。「ダンテオーリオにも当然の如く死守させる。だが、あなたにも頼みたい。あいつの心を生涯掴んで余所見をさせぬよう、浮気の咎はあなたにも心してもらいたい」
「はい」
「自信なさげだな。まあ、前評判がああだからな」
暫し二人で無言に思いめぐらす。ラトヤは宙を見続けるしかないし、主人は手に顎を乗せて考え込む始末だ。
口火を切ったのはラトヤの方。ダンテオーリオ様もこうまで言われては立場がない。
「約束してくださいました。だから、私が努めれば」
「果たしてそうかな?」
「はい。お父様の言葉を違えぬ様努めます」
「あなたではない。息子だ、気がかりなのは」鼻息を深く吐いた主人は、身を起こして語る。やや声は低めだ「あの子には可哀想な事をした。養子の事だ。聴いているのかな?」
「はい」
「なら、分かるだろう。私はあの子を甘やかし続けてきた。欲しがるものは特に何でも与えてやった。だからああなったのだ。女を漁り、手にすれば関心が薄れて放る。玩具と同じ手合いでいる」
「今は違うと約束くださいました」
「そうであって欲しいものだ。だが、あなたとの結婚を突然言い出した時は、こう思ったのだよ。まだ私への充て付けを画策するのかと」
庇う口も開けず、ラトヤは口ごもった。充て付け…彼に割に見る行為だ。
「女を次々に。地位を愚弄した行為だ。家訓とも反する。まるで、家訓の外に居るのだと私に吹聴するようなものだ。結婚などばかげていると、私を否定したかったのだろう。自分だけ取り除かれたのだから」
同じ同情を身に覚えがあるラトヤは同意できない。それを嫌うだろうから、ダンテオーリオは。
「私も耐えた。それがどうした、好きにしなさいと。いつか飽きるだろうとね」と、同調の相槌を寄越した。「そして、待ち望んだ終わりが来た。結婚を認めさせようと言うのだから、笑ったな。私が否定するのではと焦っていたが、快諾したら拍子抜けしたようだ」
コロコロと喉で笑う姿に、冷めた瞳を見つけてしまう。この先をどう話そうかと考えあぐねる時の視線だ。ラトヤは、息子にも同じ瞳を見たことがある。親子なのだ。
「息子を容認したく、快諾はしたが。あなたを悪くは思っていないが、すまないね、これが同位の娘なら、心の底から感涙しただろう。息子の成長を確信して。だが、違った」
「奴隷の、身だからですね」
「何度も言うが、奴隷がどうのではない。息子が敢えてそういう身の上の娘を突き付けたのかと、懸念を抱いてしまってね。それだけの話で、奴隷が嫁にふさわしくないなどとは言う積りはないのでね」
ラトヤは頭を捻らせた。無いと言えば、真実ではない。その直感を抱いたのはラトヤも同じだったから。主人の話の矛先を次第に悟り、腹に手を添えた。
どうだろう? 男の手際を良く知らないが、ダンテオーリオはその手を統べていそうだ。だが、父親への抗いで私を選んでいたなら? 結婚は破綻へ直ぐに転じそうだ。家訓を守れそうにない。主人が話すには、話すだけの訳があったのだ。
主人の誠意に胸も詰まり、ラトヤは首を縦に振った。
「少し、待ちたいと仰せなのですね?」
「そうだ。あなたにも悪い話ではないと思う。遊びと結婚は別だ。あの子も家庭を構えるなら、男として家族を守る義務を知らないといけない。船で手広くやってはいるが、先日の荷高は目に余る。恐らくあなたへの贈り物と荷が消えたのだろうが、それではあなたを守れなくなる。一度は必要だと乗船を命じたのに、あなたに気取られて乗らなかった。由々しい態度だ、結婚するなら」
「乗船を? あの、次の」
「そうだ。それを命じる。あなたも待つよう望んでいるのだが?」
伏し目がちの視線を起こせそうにもない。直視できない理由を抱えているから。だが、それは自己の責任であって、訳を話すには至らない。既に一つ義父の期待を裏切った自分に、言い訳はない。
「はい」
「結婚とは、好いた惚れたとは、また違う。家族を健やかに育むよう、環境を整える結束だ。少なくとも、我が家はそう信じている」
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