10 / 14
二章
五
しおりを挟む
母のところへ来ていた。初めて訪れた時の母の印象を覆すよう、肌に血の通いが見て取れる母。最近では、起き上がり、周囲の住民と会釈も交わしているのだと言う。
どうしても娘にお茶を入れるのだと言ってきかない母の補佐で、クレアも台所へ行ってしまっている。
ラトヤはつと手をお腹に添えていた。
母が私を身ごもったとき、このような不安を抱えたのだろうか。夫に勤め口があるとはいえ、何が起きるかわからない日々。赤子を産み、育てるだけのお金と環境を用意できるか心塞ぎはしなかったのだろうか。
それとも、授かった子に現実も忘れ、喜びだけを感じあったのだろうか。
夫が亡くなり、悲しむ暇もなく母に押し迫った現実の日々。産んだことを恨んだりしなかっただろうか。この子がいなければ、と、思ったのかもしれない。
でも、それは、母に選択肢が無かったからだ。感情があっても、それを押し殺すしかない現実が、母に子へ愛情を注げとは囁かなかっただろうし、囁いたとしたら、人の苦悶する様を悦に入って眺めたかった現実の世が非道なだけだ。母に非はない。
大変な決断なのだ。婚姻も、子を育むことも。
私が産まれた時に両親にその決意が合ったかは知らないが、私にはないままその現実に向き合ってしまった。父は雇われ人で、母にとって子を産む現実は、身を削る現実へと変わる瞬間だったはず。奴隷院へ手放すことになったにせよ、両親は私をこの世に産みだしてくれた。不安や幸せを綯交ぜにしてでも、産み落としてくれた。母が私を産んでくれたことを感謝しなければ。
ラトヤは、おぼつかない足取りでお盆を運ぶ母を迎えに出た。
「私が、お母さん」
良く見えていない薄い瞳を、パシパシと老女が瞬いた。心なしか、手を添えているクレアも潤ませた瞳をラトヤへ向けてきた。
「ええ…ええ。そうね、ラトヤ、お願いするわね」
「はい、お母さん」
ラトヤが出入りするようになり、椅子が一つ、家具に増えた。母と話し込めるよう、背もたれが丸く広がって肩を包み、傾いだ頭も受け止めてくれる椅子だ。深く腰を据え、茶器を手にしつつ、母の話に相槌を打つ時間。
「こんな日がくるなんてね」母はいつもこの言葉を零す。
「うん」ラトヤの返事もいつもこう。
母が語る、自分の知らぬ過去。聞きたくもあり、でも、何故、と振り返ってしまう気持ちの攻め際に苛まされるひと時だが、逆境を話すのは、許しを欲してなのだと、分かっているから、締めくくりの言葉も決まっている。
「お母さん、感謝してる。産んでくれてありがとう、しか思ってないの。ほんとよ?」
でも、今日は、次の会話がまだ残っている。口出そうと何度も喉を行き来しては、唇の縁から中々こぼれ出ないのだ。だが、先延ばしにもできない。
背もたれから身を起こし、ラトヤは茶器を置いた。
「お母さんにね、会えたこと、奇跡だって思ってる」
不意に口調を変えた娘に、おびえた目を開く母。そのおびえも、じわと浮かんだ涙ごと、拭い去ってあげたい。これ以上の労苦をかけたくない。子とは、親にとって何なのだろう。身を削って世に出して、育てる間は共にいても、何れ、伴侶見つけ、手元を離れていく。
ラトヤは母の元に居なかった。今が漸く母の娘でいる日々なのに、これからは生涯暮らす相手と人生を共に過ごすと伝えるのだ。
「私ね、結婚するの」
涙が母の瞳に瞬時に溢れ、これだけの握力が戻ったのかと思うほど、老女の手がラトヤの手を覆い、握りしめてくる。
「本当は、許しを請うのよね。結婚の許しを。報告じゃなくて。ごめんなさい、勝手に決めて。会えて言うことがこれで、ごめんなさい」
ラトヤにも一気に噴き出した涙が襲い掛かる。喉を閉め、言葉も口にこもっていく。
「私…探さなくて、ごめんね」
母と過ごすひと時は、もっと早くに向き合っていれば、と、後悔が押し寄せる日々でもあった。奴隷であることに諦め、安住し、自分の過去を見ずして、パンカロッレ家の家紋に寄り縋って生きていた。
自分の生まれを察し、自分をパンカロッレ家の名でカモフラージュして立ち回ってきた。親を恥じていたのだ、と思う。産んでくれた母なのに。
寝具に突っ伏して泣きじゃくるラトヤの頭に、母の手が掛かる。この手をどんなにか欲したはずなのに。どこかで親を恨み、得ようとしなかった。
「ラトヤ、捨てたんだよ、お前を、私は」
「ううん、ううん!」
「そうなんだよ、そんな女なんだよ、ここにいるのは」
「違う!」
「気に病まないで、だから。いつ捨てたっていいんだ。今度はラトヤが捨てなさい。それがいい」
「違うの!」
「一時、会えて、もうね、心残りはないんだよ」
「ほら!心配してたんじゃない!」
ラトヤはキッと涙目で母を睨んだ。
そして、ストンと心が会得した。
母の瞳に淀みはない。母は私を愛してくれている。だから、選んだのだ。だから、奴隷院に委ねたのだと、心が瞬時に合点した。
「お母さんがくれたの。この暮らしを。お母さんが案じてくれたから、私、こうやって生きているの。お母さん、私を奴隷院に連れたほうが、私が幸せだって思ったのよね?」
母が瞼を結んでは、涙を絞り出している。皺に吸い込まれてた水滴は、皺の溝を決壊したのか、粒となって頬も通さず寝具に落ちていく。
「ほら、私、立派よ?お母さんが望む生活をしていない?お母さんよりいい物食べて育ったわ。文字も書けるし、勘定もできる。結婚だってするのよ?」
「そんなことない、そんなことない。そう言い訳して、親の義務を怠ったんだ、私が間違ってたんだよ。そんなことは立派でもなんでもないって、私が教えなきゃいけなかった。それをやらなかったんだよ、私は。まっとうな親だったらこんな結婚、認めさせやしない。ちゃんとした親がついてれば、こんな…身売りする結婚なんて、相手を玄関からたたき出しているよ。いいんだよ、ラトヤ。やめなさい。こんな女のために、人生縛られることない、魂を買われることはないんだから」
「違う…売ってなんかない。自分の意思で結婚するの」
言っておいて、睨む目も緩む。母の瞳が鋭く光った。
「あんた、愛しているかい? あの方を愛おしいと思うかい? 状況に流されて選んじゃいけないよ。あの方の心意気には感謝してるね。でも、私の大切なラトヤの心を無理やり言うこときかせるなんてこと、目にしたくなかったよ。これが罰なのかい? 娘を捨てた罰なら甘んじて受けるけどね。だが、ラトヤは別だよ。苦しまないでおくれ。私が言えた義理じゃない。けど、いいんだよ。自分だけ幸せになりなさい。願うのはそればかりだよ」
今度は首を振るばかりだったラトヤも、気丈に話した母に、涙を拭いて向き合った。
「愛している。お母さんを、心より。産んでくれたお母さんを尊敬しているの。奴隷院に連れたお母さんの気持ち、今なら、私にも想像がつく。お母さんも傷ついたんだって、ずっと苦しかったんだろうって、思うの。だから、もういいの。私、お母さんのおかげで、幸せになれるの。お母さんのおかげなのよ?」
「ああ、ラトヤ。どうしたもんかね、どうしたもんかね、ラトヤ。なんでこんな馬鹿な選択を…」
「ううん、違う。大好き、お母さん」
「なんてこと…」
「祝福してくれる?」
笑みをひねり出すラトヤの頬を、ごわごわと皺ぐれた手が、涙の跡を消さんと動く。ラトヤもまた、その手に頬を埋めた。
「だーい好き、お母さん。会いたかった」
「うん」
「一生お母さんを大事にする」
「うん」
「でね? 幸せになるの。怖いぐらい愛されてるの」
「うん、うん」
「いいでしょ?」
「ああ、いいよ。そうだね、幸せになるんだよ、ラトヤ。思いっきり、幸せになりな」
「そうする。ありがとう」
「掴んだんだね、私の娘は」
「そうよ。お母さんのおかげなのよ?」
頬を乗せた母の手が、ピクと痙攣した。見れば、寝息を立て始めている母。朗らかな寝息だ。
もう遠慮することもない。責めたり、振り返ったりしなくていい。母にたっぷり甘え、母を案じ、夫に寄り添って生きる。この世で一番幸せな娘だ、私は。
音を立てぬよう、戸を閉めれば、湿った海の香を嗅ぐ。
今までは貰った人生だった。これからは、身に溢れる幸せを注ぐ番だ。
どうしても娘にお茶を入れるのだと言ってきかない母の補佐で、クレアも台所へ行ってしまっている。
ラトヤはつと手をお腹に添えていた。
母が私を身ごもったとき、このような不安を抱えたのだろうか。夫に勤め口があるとはいえ、何が起きるかわからない日々。赤子を産み、育てるだけのお金と環境を用意できるか心塞ぎはしなかったのだろうか。
それとも、授かった子に現実も忘れ、喜びだけを感じあったのだろうか。
夫が亡くなり、悲しむ暇もなく母に押し迫った現実の日々。産んだことを恨んだりしなかっただろうか。この子がいなければ、と、思ったのかもしれない。
でも、それは、母に選択肢が無かったからだ。感情があっても、それを押し殺すしかない現実が、母に子へ愛情を注げとは囁かなかっただろうし、囁いたとしたら、人の苦悶する様を悦に入って眺めたかった現実の世が非道なだけだ。母に非はない。
大変な決断なのだ。婚姻も、子を育むことも。
私が産まれた時に両親にその決意が合ったかは知らないが、私にはないままその現実に向き合ってしまった。父は雇われ人で、母にとって子を産む現実は、身を削る現実へと変わる瞬間だったはず。奴隷院へ手放すことになったにせよ、両親は私をこの世に産みだしてくれた。不安や幸せを綯交ぜにしてでも、産み落としてくれた。母が私を産んでくれたことを感謝しなければ。
ラトヤは、おぼつかない足取りでお盆を運ぶ母を迎えに出た。
「私が、お母さん」
良く見えていない薄い瞳を、パシパシと老女が瞬いた。心なしか、手を添えているクレアも潤ませた瞳をラトヤへ向けてきた。
「ええ…ええ。そうね、ラトヤ、お願いするわね」
「はい、お母さん」
ラトヤが出入りするようになり、椅子が一つ、家具に増えた。母と話し込めるよう、背もたれが丸く広がって肩を包み、傾いだ頭も受け止めてくれる椅子だ。深く腰を据え、茶器を手にしつつ、母の話に相槌を打つ時間。
「こんな日がくるなんてね」母はいつもこの言葉を零す。
「うん」ラトヤの返事もいつもこう。
母が語る、自分の知らぬ過去。聞きたくもあり、でも、何故、と振り返ってしまう気持ちの攻め際に苛まされるひと時だが、逆境を話すのは、許しを欲してなのだと、分かっているから、締めくくりの言葉も決まっている。
「お母さん、感謝してる。産んでくれてありがとう、しか思ってないの。ほんとよ?」
でも、今日は、次の会話がまだ残っている。口出そうと何度も喉を行き来しては、唇の縁から中々こぼれ出ないのだ。だが、先延ばしにもできない。
背もたれから身を起こし、ラトヤは茶器を置いた。
「お母さんにね、会えたこと、奇跡だって思ってる」
不意に口調を変えた娘に、おびえた目を開く母。そのおびえも、じわと浮かんだ涙ごと、拭い去ってあげたい。これ以上の労苦をかけたくない。子とは、親にとって何なのだろう。身を削って世に出して、育てる間は共にいても、何れ、伴侶見つけ、手元を離れていく。
ラトヤは母の元に居なかった。今が漸く母の娘でいる日々なのに、これからは生涯暮らす相手と人生を共に過ごすと伝えるのだ。
「私ね、結婚するの」
涙が母の瞳に瞬時に溢れ、これだけの握力が戻ったのかと思うほど、老女の手がラトヤの手を覆い、握りしめてくる。
「本当は、許しを請うのよね。結婚の許しを。報告じゃなくて。ごめんなさい、勝手に決めて。会えて言うことがこれで、ごめんなさい」
ラトヤにも一気に噴き出した涙が襲い掛かる。喉を閉め、言葉も口にこもっていく。
「私…探さなくて、ごめんね」
母と過ごすひと時は、もっと早くに向き合っていれば、と、後悔が押し寄せる日々でもあった。奴隷であることに諦め、安住し、自分の過去を見ずして、パンカロッレ家の家紋に寄り縋って生きていた。
自分の生まれを察し、自分をパンカロッレ家の名でカモフラージュして立ち回ってきた。親を恥じていたのだ、と思う。産んでくれた母なのに。
寝具に突っ伏して泣きじゃくるラトヤの頭に、母の手が掛かる。この手をどんなにか欲したはずなのに。どこかで親を恨み、得ようとしなかった。
「ラトヤ、捨てたんだよ、お前を、私は」
「ううん、ううん!」
「そうなんだよ、そんな女なんだよ、ここにいるのは」
「違う!」
「気に病まないで、だから。いつ捨てたっていいんだ。今度はラトヤが捨てなさい。それがいい」
「違うの!」
「一時、会えて、もうね、心残りはないんだよ」
「ほら!心配してたんじゃない!」
ラトヤはキッと涙目で母を睨んだ。
そして、ストンと心が会得した。
母の瞳に淀みはない。母は私を愛してくれている。だから、選んだのだ。だから、奴隷院に委ねたのだと、心が瞬時に合点した。
「お母さんがくれたの。この暮らしを。お母さんが案じてくれたから、私、こうやって生きているの。お母さん、私を奴隷院に連れたほうが、私が幸せだって思ったのよね?」
母が瞼を結んでは、涙を絞り出している。皺に吸い込まれてた水滴は、皺の溝を決壊したのか、粒となって頬も通さず寝具に落ちていく。
「ほら、私、立派よ?お母さんが望む生活をしていない?お母さんよりいい物食べて育ったわ。文字も書けるし、勘定もできる。結婚だってするのよ?」
「そんなことない、そんなことない。そう言い訳して、親の義務を怠ったんだ、私が間違ってたんだよ。そんなことは立派でもなんでもないって、私が教えなきゃいけなかった。それをやらなかったんだよ、私は。まっとうな親だったらこんな結婚、認めさせやしない。ちゃんとした親がついてれば、こんな…身売りする結婚なんて、相手を玄関からたたき出しているよ。いいんだよ、ラトヤ。やめなさい。こんな女のために、人生縛られることない、魂を買われることはないんだから」
「違う…売ってなんかない。自分の意思で結婚するの」
言っておいて、睨む目も緩む。母の瞳が鋭く光った。
「あんた、愛しているかい? あの方を愛おしいと思うかい? 状況に流されて選んじゃいけないよ。あの方の心意気には感謝してるね。でも、私の大切なラトヤの心を無理やり言うこときかせるなんてこと、目にしたくなかったよ。これが罰なのかい? 娘を捨てた罰なら甘んじて受けるけどね。だが、ラトヤは別だよ。苦しまないでおくれ。私が言えた義理じゃない。けど、いいんだよ。自分だけ幸せになりなさい。願うのはそればかりだよ」
今度は首を振るばかりだったラトヤも、気丈に話した母に、涙を拭いて向き合った。
「愛している。お母さんを、心より。産んでくれたお母さんを尊敬しているの。奴隷院に連れたお母さんの気持ち、今なら、私にも想像がつく。お母さんも傷ついたんだって、ずっと苦しかったんだろうって、思うの。だから、もういいの。私、お母さんのおかげで、幸せになれるの。お母さんのおかげなのよ?」
「ああ、ラトヤ。どうしたもんかね、どうしたもんかね、ラトヤ。なんでこんな馬鹿な選択を…」
「ううん、違う。大好き、お母さん」
「なんてこと…」
「祝福してくれる?」
笑みをひねり出すラトヤの頬を、ごわごわと皺ぐれた手が、涙の跡を消さんと動く。ラトヤもまた、その手に頬を埋めた。
「だーい好き、お母さん。会いたかった」
「うん」
「一生お母さんを大事にする」
「うん」
「でね? 幸せになるの。怖いぐらい愛されてるの」
「うん、うん」
「いいでしょ?」
「ああ、いいよ。そうだね、幸せになるんだよ、ラトヤ。思いっきり、幸せになりな」
「そうする。ありがとう」
「掴んだんだね、私の娘は」
「そうよ。お母さんのおかげなのよ?」
頬を乗せた母の手が、ピクと痙攣した。見れば、寝息を立て始めている母。朗らかな寝息だ。
もう遠慮することもない。責めたり、振り返ったりしなくていい。母にたっぷり甘え、母を案じ、夫に寄り添って生きる。この世で一番幸せな娘だ、私は。
音を立てぬよう、戸を閉めれば、湿った海の香を嗅ぐ。
今までは貰った人生だった。これからは、身に溢れる幸せを注ぐ番だ。
0
あなたにおすすめの小説
完結 愚王の側妃として嫁ぐはずの姉が逃げました
らむ
恋愛
とある国に食欲に色欲に娯楽に遊び呆け果てには金にもがめついと噂の、見た目も醜い王がいる。
そんな愚王の側妃として嫁ぐのは姉のはずだったのに、失踪したために代わりに嫁ぐことになった妹の私。
しかしいざ対面してみると、なんだか噂とは違うような…
完結決定済み
さようならの定型文~身勝手なあなたへ
宵森みなと
恋愛
「好きな女がいる。君とは“白い結婚”を——」
――それは、夢にまで見た結婚式の初夜。
額に誓いのキスを受けた“その夜”、彼はそう言った。
涙すら出なかった。
なぜなら私は、その直前に“前世の記憶”を思い出したから。
……よりによって、元・男の人生を。
夫には白い結婚宣言、恋も砕け、初夜で絶望と救済で、目覚めたのは皮肉にも、“現実”と“前世”の自分だった。
「さようなら」
だって、もう誰かに振り回されるなんて嫌。
慰謝料もらって悠々自適なシングルライフ。
別居、自立して、左団扇の人生送ってみせますわ。
だけど元・夫も、従兄も、世間も――私を放ってはくれないみたい?
「……何それ、私の人生、まだ波乱あるの?」
はい、あります。盛りだくさんで。
元・男、今・女。
“白い結婚からの離縁”から始まる、人生劇場ここに開幕。
-----『白い結婚の行方』シリーズ -----
『白い結婚の行方』の物語が始まる、前のお話です。
記憶を無くした、悪役令嬢マリーの奇跡の愛
三色団子
恋愛
豪奢な天蓋付きベッドの中だった。薬品の匂いと、微かに薔薇の香りが混ざり合う、慣れない空間。
「……ここは?」
か細く漏れた声は、まるで他人のもののようだった。喉が渇いてたまらない。
顔を上げようとすると、ずきりとした痛みが後頭部を襲い、思わず呻く。その拍子に、自分の指先に視線が落ちた。驚くほどきめ細やかで、手入れの行き届いた指。まるで象牙細工のように完璧だが、酷く見覚えがない。
私は一体、誰なのだろう?
次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢
さら
恋愛
名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。
しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。
王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。
戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。
一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。
【完結】好きでもない私とは婚約解消してください
里音
恋愛
騎士団にいる彼はとても一途で誠実な人物だ。初恋で恋人だった幼なじみが家のために他家へ嫁いで行ってもまだ彼女を思い新たな恋人を作ることをしないと有名だ。私も憧れていた1人だった。
そんな彼との婚約が成立した。それは彼の行動で私が傷を負ったからだ。傷は残らないのに責任感からの婚約ではあるが、彼はプロポーズをしてくれた。その瞬間憧れが好きになっていた。
婚約して6ヶ月、接点のほとんどない2人だが少しずつ距離も縮まり幸せな日々を送っていた。と思っていたのに、彼の元恋人が離婚をして帰ってくる話を聞いて彼が私との婚約を「最悪だ」と後悔しているのを聞いてしまった。
皆が望んだハッピーエンド
木蓮
恋愛
とある過去の因縁をきっかけに殺されたオネットは記憶を持ったまま10歳の頃に戻っていた。
同じく記憶を持って死に戻った2人と再会し、再び自分の幸せを叶えるために彼らと取引する。
不運にも死に別れた恋人たちと幸せな日々を奪われた家族たち。記憶を持って人生をやり直した4人がそれぞれの幸せを求めて辿りつくお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる