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quesera

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三章

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「元気にしているか?」
 海風ではカラッと乾かないのだが、それも味わいのうち、と、ラトヤが屋上で寝具を干していた時だ。下から声が掛かった。
「サンドス様、今日はお休みなのですか?」
「そちらもだろ? 事業所に顔を出したら、休みだと言うから、寄ってみたよ」
 海から上がった陽を背に抱えて、ラトヤを見上げるサンドスの表情は見えづらい。だが、手に掲げる果物の束を見れば、有無を言わせない意思を湛えてこちらを見ているはずだ。
「どうぞ。母に会ってくださいませ。私はこれが終われば降りますから」
「ああ、邪魔するよ」
 ラトヤは、白い布をパンパンと叩いて伸ばす。ひんやりとした洗濯物が、翻っては、陽を浴びた頬に涼しい。
 住み始めて三年ともなれば、屋上に居れば道行く人が声を掛けていく。ラトヤが何処に勤め、何に携わっているのか近所も周知の事実。見知った間柄の挨拶というより、頭を垂れていく。マテロ家の家業に関わる勤め人が多く住む地区だからだ。
 事業所の頭取に見習いを申し出た三年前は、当主の婚約者を扱えるかとあしらわれたが、アミアの執り成しもあって、受け入れてくれた。なら妻の籍に入ればいいだろう、と言わないでいてくれた頭取に、ラトヤも感謝している。
 事業所へ出る時は、少し華美な化粧を施して行くラトヤだが、休日は化粧せずに居る。事業所では、亡くなった当主の婚約者だったと見せたいからだ。矜持からではない。どうあってもそう見られるなら、堂々とその視線を集めたかった。
 当主の選んだ女がここを支えに入ったと。
 実質は右も左も分からないままだったが、最近は頭取から幾分かは任せてくれる作業が増えたとは思う。まだまだ、これからだ。
 ここへ越した後、サンドスは、暫くは姿を見せなかったのだが、ふと現れて、ラトヤに宣言をした。
「結婚を申し込む、ラトヤ」
「私にその余裕はありません、サンドス様」
「いつかは来るさ、その余裕とやらは」
「私はここに住む以外、考えていませんから」
「なら、そうするしかないな。それでも結婚をしたいから」
 ラトヤは、放っておくことに決めた。サンドスが足しげく通うことも、自分の気持ちが傾くかもしれない先も。
いつかは割り切れる日が来るかもしれないから。サンドスの言うように。
 胸がダンテオーリオを求めて暴れる日々の、静かな終焉が。
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