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無口な獣人と出会った日
05.村と二人の請負人3
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「ガルドさん、干し甘芋食う?」
「私の国、ない。芋、甘いない。違う」
「手で裂いて、水と一緒に口に入れとくと柔らかくなるから」
依頼期間中の滞在場所として借りた村長所有の小屋の前で、仮眠明けのオレとガルドさんは携帯食を食っている。夜明け前のほんの短い時間だったが、身体を横たえて休めることが出来るとその後の身体と頭の動きが違う。
「リオ、水、必要?」
「大丈夫。まだ自分のがあるよ。けど、後で井戸の水汲ませてもらわないと」
今回、討伐依頼を受けるにあたっての準備もそれぞれで行ったから、ガルドさんが携帯食に何をどの程度準備したかも分かっていない。昨日の夜はお湯を沸かして細かく切った干し肉と堅パンを煮たスープにしたが、今朝だって似たような物だ。
表面がカチカチの白い板にしか見えない干し甘芋を手で裂いて、欠片を口に入れ革袋の水を含む。ゆっくりと水がしみ込んで柔らかくなった芋を噛めば、ねっとりとした甘さが口内に広がっていく。少しの量で腹が膨れて甘みも感じられる干し甘芋は、オレの好物だった。
「! 甘い! 芋、甘い。芋?」
「美味いだろ。あ、でも店によって味が違うんだぜ。これはオレが贔屓にしてる露店ので、甘みが強くなるような作り方のコツがあるんだってさ」
分けた干し甘芋の味に驚いたのか、ガルドさんが手に持った物をじっと見つめている。頭の上で小さな耳が動いていて、なんだか可愛らしさを感じてしまう。いやいや、こんな2ノルを軽々超えるような大柄な相手に何考えてんだオレ。
寝起きは良いはずだが、まだハッキリ目が覚めてないのかもしれない。もう一切れ干し甘芋を口に入れて、噛み応えのあるむっちりとした食感と甘みを味わえば、一段と頭がすっきりした。やっぱり鼠の罠に全部使わずに残しておいて正解だった。
「リオ。失敗。駆除、予想。毒薬、購入、必要?」
「前にも鼠の駆除依頼を受けたことがあるんだよ。オレの獲物の弓でさえ、一匹ずつ鼠をやるのは手間ばかりかかって仕方ない。そこで、罠の出番って学んだわけ」
「薬、金銭、負担」
干し甘芋を一切れ食べ終え、ナイフで削ぐように薄く切り出した味付き干し肉を口に入れ噛んでいると、真っすぐにオレを見てガルドさんが尋ねてくる。肩が少し落ちているところを見ると、ガルドさんの剣で駆除できた鼠が1匹しかいないことが随分堪えているらしい。
ここは銀級のオレが、銅級のガルドさんに指南すべき場面だろう。
「鼠用なら薬は少ない量で済むし、カゴなんかの材料はこっちに来てから林で手に入れてタダだ。時間と金と手間、何をどれだけかけるか考えるとこに、請負人としての差が出るんだよ」
「……リオ、請負人、いくら?」
いくらってのは、どれだけの年月って意味かな。商売のための単語が多いから、近い言葉だけどおかしな使い方になることが良くあるんだよな。オレも分からなくなるとこだ。
仕事の最中にそんな事を考えられるくらいには余裕が持てるようになった。請負人になって何年かは、毎日毎日、生きるのに必死で余計な事を考える暇なんかなかったなあ。
ガルドさんには、オレは何年仕事をしているように見えているんだろうか。そもそも、22だって年を教えたときも随分驚かれたもんだが。
「10年。12の年から10年だ」
「長い。……とても」
「ガルドさんだって、10年以上軍人やってたんだろ。似たようなもんだよ。…オレは、これしか生きる方法がなかったんだ」
自分で言ってから、やっぱり10年は長いな、と思った。
11の年に生まれ故郷の村は山崩れに飲み込まれて、たまたま麓の村にお使いに出ていたオレ以外誰も助からなかった。親父も、母さんも、祖母ちゃんも、兄ちゃんも妹も。隣の家の伯父さん伯母さん、大叔父さん。今になって思えば、山の中に数軒だけのオレの故郷はひどく辺鄙で不便だったけれど、全員が親戚で助け合って生きていた。
「親父や兄さん、周りの親戚に狩りの腕を鍛えられてたし、オレの弓は無事だったから。1年、麓の村でなんとか食わせてもらって、請負人になれる年になってすぐに登録したんだ」
最初は弓矢が生かせる依頼なんて受けられなかったから、薬草詰んだり、掃除したり、畑の手伝いしたり。周りの上手く稼いでる大人のやり方を必死に覚えて、少しずつ請負人等級上げて。
「ずっと一人でやってきたから、買い出しも、依頼を選ぶのも、討伐部位をはぐのも、全部自分の責任って訳。その分、依頼料は全部自分の物だ」
干し肉を切ったナイフの表面を服の袖で拭いてから鞘にしまうと、オレは立ち上がりガルドさんを見下ろした。さすがに起きてきた村人たちが、小屋の前にいる見知らぬオレ達に──というか、明らかにガルドさんに驚いて慌てて家の戸をしめているのが分かる。
「そろそろ村長の爺さんに、オレ達を紹介してもらって、畑や村の中見て回る許可もらった方が良さそうだ。じゃないと、今度は熊の魔物の駆除依頼を出されちまう」
「ここ、獣人、なし。私、獣、狩る?」
大きな背中を丸めて視線を地面に落とす姿は、狩られる心配をして落ち込んでいるらしい。自分で言っておいてなんだが、そんなガルドさんが随分可愛く感じられて、笑い混じりの声が出てしまった。
「ガルドさんに立ち向かおうって根性があるヤツがいたら、請負人になるよう勧めるよ」
「私の国、ない。芋、甘いない。違う」
「手で裂いて、水と一緒に口に入れとくと柔らかくなるから」
依頼期間中の滞在場所として借りた村長所有の小屋の前で、仮眠明けのオレとガルドさんは携帯食を食っている。夜明け前のほんの短い時間だったが、身体を横たえて休めることが出来るとその後の身体と頭の動きが違う。
「リオ、水、必要?」
「大丈夫。まだ自分のがあるよ。けど、後で井戸の水汲ませてもらわないと」
今回、討伐依頼を受けるにあたっての準備もそれぞれで行ったから、ガルドさんが携帯食に何をどの程度準備したかも分かっていない。昨日の夜はお湯を沸かして細かく切った干し肉と堅パンを煮たスープにしたが、今朝だって似たような物だ。
表面がカチカチの白い板にしか見えない干し甘芋を手で裂いて、欠片を口に入れ革袋の水を含む。ゆっくりと水がしみ込んで柔らかくなった芋を噛めば、ねっとりとした甘さが口内に広がっていく。少しの量で腹が膨れて甘みも感じられる干し甘芋は、オレの好物だった。
「! 甘い! 芋、甘い。芋?」
「美味いだろ。あ、でも店によって味が違うんだぜ。これはオレが贔屓にしてる露店ので、甘みが強くなるような作り方のコツがあるんだってさ」
分けた干し甘芋の味に驚いたのか、ガルドさんが手に持った物をじっと見つめている。頭の上で小さな耳が動いていて、なんだか可愛らしさを感じてしまう。いやいや、こんな2ノルを軽々超えるような大柄な相手に何考えてんだオレ。
寝起きは良いはずだが、まだハッキリ目が覚めてないのかもしれない。もう一切れ干し甘芋を口に入れて、噛み応えのあるむっちりとした食感と甘みを味わえば、一段と頭がすっきりした。やっぱり鼠の罠に全部使わずに残しておいて正解だった。
「リオ。失敗。駆除、予想。毒薬、購入、必要?」
「前にも鼠の駆除依頼を受けたことがあるんだよ。オレの獲物の弓でさえ、一匹ずつ鼠をやるのは手間ばかりかかって仕方ない。そこで、罠の出番って学んだわけ」
「薬、金銭、負担」
干し甘芋を一切れ食べ終え、ナイフで削ぐように薄く切り出した味付き干し肉を口に入れ噛んでいると、真っすぐにオレを見てガルドさんが尋ねてくる。肩が少し落ちているところを見ると、ガルドさんの剣で駆除できた鼠が1匹しかいないことが随分堪えているらしい。
ここは銀級のオレが、銅級のガルドさんに指南すべき場面だろう。
「鼠用なら薬は少ない量で済むし、カゴなんかの材料はこっちに来てから林で手に入れてタダだ。時間と金と手間、何をどれだけかけるか考えるとこに、請負人としての差が出るんだよ」
「……リオ、請負人、いくら?」
いくらってのは、どれだけの年月って意味かな。商売のための単語が多いから、近い言葉だけどおかしな使い方になることが良くあるんだよな。オレも分からなくなるとこだ。
仕事の最中にそんな事を考えられるくらいには余裕が持てるようになった。請負人になって何年かは、毎日毎日、生きるのに必死で余計な事を考える暇なんかなかったなあ。
ガルドさんには、オレは何年仕事をしているように見えているんだろうか。そもそも、22だって年を教えたときも随分驚かれたもんだが。
「10年。12の年から10年だ」
「長い。……とても」
「ガルドさんだって、10年以上軍人やってたんだろ。似たようなもんだよ。…オレは、これしか生きる方法がなかったんだ」
自分で言ってから、やっぱり10年は長いな、と思った。
11の年に生まれ故郷の村は山崩れに飲み込まれて、たまたま麓の村にお使いに出ていたオレ以外誰も助からなかった。親父も、母さんも、祖母ちゃんも、兄ちゃんも妹も。隣の家の伯父さん伯母さん、大叔父さん。今になって思えば、山の中に数軒だけのオレの故郷はひどく辺鄙で不便だったけれど、全員が親戚で助け合って生きていた。
「親父や兄さん、周りの親戚に狩りの腕を鍛えられてたし、オレの弓は無事だったから。1年、麓の村でなんとか食わせてもらって、請負人になれる年になってすぐに登録したんだ」
最初は弓矢が生かせる依頼なんて受けられなかったから、薬草詰んだり、掃除したり、畑の手伝いしたり。周りの上手く稼いでる大人のやり方を必死に覚えて、少しずつ請負人等級上げて。
「ずっと一人でやってきたから、買い出しも、依頼を選ぶのも、討伐部位をはぐのも、全部自分の責任って訳。その分、依頼料は全部自分の物だ」
干し肉を切ったナイフの表面を服の袖で拭いてから鞘にしまうと、オレは立ち上がりガルドさんを見下ろした。さすがに起きてきた村人たちが、小屋の前にいる見知らぬオレ達に──というか、明らかにガルドさんに驚いて慌てて家の戸をしめているのが分かる。
「そろそろ村長の爺さんに、オレ達を紹介してもらって、畑や村の中見て回る許可もらった方が良さそうだ。じゃないと、今度は熊の魔物の駆除依頼を出されちまう」
「ここ、獣人、なし。私、獣、狩る?」
大きな背中を丸めて視線を地面に落とす姿は、狩られる心配をして落ち込んでいるらしい。自分で言っておいてなんだが、そんなガルドさんが随分可愛く感じられて、笑い混じりの声が出てしまった。
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