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無口な獣人と出会った日
06.村と二人の請負人4
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軽口を叩きながら小屋のすぐ近くにある村長の家へ向かえば、いくつもの視線が向けられるのが感じられた。今この村にいるのは女性と子供、そして年寄りで、戦力になるような年頃の男手は出払っている。見知らぬ人間がいるだけでも怖いだろうに、一人はどう見ても熊だからな。
ということで、まだ熱があって起きられない村長に挨拶だけをして、元村長に村にいる全員を集めてもらい自己紹介をした。
襟元から引っ張り出した銀色のタグが、日の光を反射して綺麗に光る。
「オレは銀級請負人のリオ。これがその証拠だ。こっちはオレの相棒で、獣人のガルド。見た目はおっかない熊だけど、この村を助けようって言ったのは相棒なんだぜ。人は襲わないから安心してくれ」
「私、名前ガルド。害獣駆除、任せる」
「昨日の夜の内に罠をしかけて鼠を捕まえた。気になることがあるから、今日は畑や村の中を調べたい。仕事の邪魔はなるべくしないようにするから、畑に入ることを許してくれ」
ガルドさんが自分のタグを出さなかったから、村の人たちは二人とも銀級だと思ったらしい。銀タグを見て何やら拝みだした婆ちゃんまでいる。少ない依頼料ながら、義侠心にかられた銀級が依頼を受けてくれた、と勘違いしたんだろうな。
まあ、勘違いされても依頼には影響がないし、そのままにしておくか。身振り手振りが入ってたから、名前と頼もしさは通じたはずだ。
オレとガルドさんが、村長代理と畑や村を見て回る段取りをしていると、小さな子供が母親の手を振りほどいて走ってきた。
「オジチャンたち、強いの? 魔物、倒せる?」
オジチャンにはカチンときたが、大人が遠巻きにして近寄って来ないのに、オレ達のすぐそばまでやってきたのは見どころがある。オレはしゃがみ込んで、スカートの裾を掴んだ女の子と視線を合わせた。
「おー、この熊さんは強いぞー。そんでオレは弓と罠が得意だから、鼠なんか直ぐに退治しちまうよ」
「シビのかたき、取ってくれる?」
「シビって?」
「茶色い猫ちゃん。畑とアタシたちを守ってくれてたのに、死んじゃった……」
「猫か……。なるほど、村の守り神みたいなヤツだったんだな」
オレの背後で小さく鎧が音を立てて、大きな影がオレと女の子の上に落ちる。かがみこんだガルドさんは、なんとかヒト語を絞り出した。
「約束、する」
精一杯優しい声を出そうとしたのが、オレには伝わってくる。ヒト語で話せる言葉が約束だなんて…。オレも驚いて声が出せずにいると、女の子は突然泣き出してしまい、母親に抱えられて家に戻っていった。
「シビっちゅうのは、鼠除けに村で飼っとった雄猫のことだ。一抱えもあるようなデカい猫なんだけんども、少し前に畑の隅で死んでるのが見つかってなぁ。それから鼠どもが畑の中さどんどん入ってくるようになっちまって」
村長代理が自分の腕で作った輪を見れば、街中で見る猫より一回り大きい猫だったのが伝わってくる。そんな猫を殺せるとなると、やっぱり魔物化した鼠がいるんだろう。
オレ達は昨日仕掛けた罠を確認しながら、畑を見て回った。
毒餌を仕込んだカゴ罠は、どれもこれも鼠の死骸でいっぱいになっていた。オレが罠をほどき、ガルドさんがズダ袋の上で罠をひっくり返して鼠を回収していく。
そして鼠の移動経路にいくつか作っておいた落とし穴にも、たっぷり鼠がかかっていた。
「これ、罠、何?」
「ん? ああ、この底に入れてある木の実が仕掛けだよ」
「私、知らない」
落とし穴を真剣に覗き込んでいるガルドさんが鼻をヒクつかせる。オレが仕掛けた実は、わざと果肉に傷をつけてあるから、青臭い匂いがするんだよな。
「この辺じゃ、グリーベルの実って呼んでる。子どもは、熟れて赤くなるまでは食っちゃいけないって大人に口を酸っぱくして言われるんだ」
「理由、ある?」
「熟れる前の実から出る汁がつくと口も肌も痺れるし、食ったら腹を下すんだ。鼠なら足が弱って這い上がれなくなる」
とは言っても、何匹も仲間が穴に落ちれば警戒するはずなのに、毒餌のカゴ罠と一緒で落とし穴にも鼠がたっぷりだ。
痺れて動きが鈍った鼠を掴んでは、ガルドさんが持っていた袋に入れながら話をする。二つ目の落とし穴を覗き込むと、ちょうど一匹なんとか這い上がって物陰に逃げていくやつがいた。
「仲間、捨てる、逃げた。どうする?」
「放っといて良いよ。鼠を全部駆除しちまったら、鼠を食う獣が飢えて村に来る。だから駆除依頼でも狩り過ぎはダメなんだ」
人間を襲う中型以上の魔物は別だけど。と付け加えると、ガルドさんが何度も頷くのが見える。爆発的に増えた時なんかはかなりの数を間引くことになるけど、どの程度狩るのか見極めるのも請負人の腕と言える。
オレ達は落とし穴にかかった鼠を全て回収し、そいつらを袋ごと村の裏を流れる川に沈めた。
今夜の狙いは野鼠じゃなく、魔物化した方だ。
畑に戻って、オレとガルドさんは、野鼠じゃない魔鼠の痕跡を探し始めた。
ということで、まだ熱があって起きられない村長に挨拶だけをして、元村長に村にいる全員を集めてもらい自己紹介をした。
襟元から引っ張り出した銀色のタグが、日の光を反射して綺麗に光る。
「オレは銀級請負人のリオ。これがその証拠だ。こっちはオレの相棒で、獣人のガルド。見た目はおっかない熊だけど、この村を助けようって言ったのは相棒なんだぜ。人は襲わないから安心してくれ」
「私、名前ガルド。害獣駆除、任せる」
「昨日の夜の内に罠をしかけて鼠を捕まえた。気になることがあるから、今日は畑や村の中を調べたい。仕事の邪魔はなるべくしないようにするから、畑に入ることを許してくれ」
ガルドさんが自分のタグを出さなかったから、村の人たちは二人とも銀級だと思ったらしい。銀タグを見て何やら拝みだした婆ちゃんまでいる。少ない依頼料ながら、義侠心にかられた銀級が依頼を受けてくれた、と勘違いしたんだろうな。
まあ、勘違いされても依頼には影響がないし、そのままにしておくか。身振り手振りが入ってたから、名前と頼もしさは通じたはずだ。
オレとガルドさんが、村長代理と畑や村を見て回る段取りをしていると、小さな子供が母親の手を振りほどいて走ってきた。
「オジチャンたち、強いの? 魔物、倒せる?」
オジチャンにはカチンときたが、大人が遠巻きにして近寄って来ないのに、オレ達のすぐそばまでやってきたのは見どころがある。オレはしゃがみ込んで、スカートの裾を掴んだ女の子と視線を合わせた。
「おー、この熊さんは強いぞー。そんでオレは弓と罠が得意だから、鼠なんか直ぐに退治しちまうよ」
「シビのかたき、取ってくれる?」
「シビって?」
「茶色い猫ちゃん。畑とアタシたちを守ってくれてたのに、死んじゃった……」
「猫か……。なるほど、村の守り神みたいなヤツだったんだな」
オレの背後で小さく鎧が音を立てて、大きな影がオレと女の子の上に落ちる。かがみこんだガルドさんは、なんとかヒト語を絞り出した。
「約束、する」
精一杯優しい声を出そうとしたのが、オレには伝わってくる。ヒト語で話せる言葉が約束だなんて…。オレも驚いて声が出せずにいると、女の子は突然泣き出してしまい、母親に抱えられて家に戻っていった。
「シビっちゅうのは、鼠除けに村で飼っとった雄猫のことだ。一抱えもあるようなデカい猫なんだけんども、少し前に畑の隅で死んでるのが見つかってなぁ。それから鼠どもが畑の中さどんどん入ってくるようになっちまって」
村長代理が自分の腕で作った輪を見れば、街中で見る猫より一回り大きい猫だったのが伝わってくる。そんな猫を殺せるとなると、やっぱり魔物化した鼠がいるんだろう。
オレ達は昨日仕掛けた罠を確認しながら、畑を見て回った。
毒餌を仕込んだカゴ罠は、どれもこれも鼠の死骸でいっぱいになっていた。オレが罠をほどき、ガルドさんがズダ袋の上で罠をひっくり返して鼠を回収していく。
そして鼠の移動経路にいくつか作っておいた落とし穴にも、たっぷり鼠がかかっていた。
「これ、罠、何?」
「ん? ああ、この底に入れてある木の実が仕掛けだよ」
「私、知らない」
落とし穴を真剣に覗き込んでいるガルドさんが鼻をヒクつかせる。オレが仕掛けた実は、わざと果肉に傷をつけてあるから、青臭い匂いがするんだよな。
「この辺じゃ、グリーベルの実って呼んでる。子どもは、熟れて赤くなるまでは食っちゃいけないって大人に口を酸っぱくして言われるんだ」
「理由、ある?」
「熟れる前の実から出る汁がつくと口も肌も痺れるし、食ったら腹を下すんだ。鼠なら足が弱って這い上がれなくなる」
とは言っても、何匹も仲間が穴に落ちれば警戒するはずなのに、毒餌のカゴ罠と一緒で落とし穴にも鼠がたっぷりだ。
痺れて動きが鈍った鼠を掴んでは、ガルドさんが持っていた袋に入れながら話をする。二つ目の落とし穴を覗き込むと、ちょうど一匹なんとか這い上がって物陰に逃げていくやつがいた。
「仲間、捨てる、逃げた。どうする?」
「放っといて良いよ。鼠を全部駆除しちまったら、鼠を食う獣が飢えて村に来る。だから駆除依頼でも狩り過ぎはダメなんだ」
人間を襲う中型以上の魔物は別だけど。と付け加えると、ガルドさんが何度も頷くのが見える。爆発的に増えた時なんかはかなりの数を間引くことになるけど、どの程度狩るのか見極めるのも請負人の腕と言える。
オレ達は落とし穴にかかった鼠を全て回収し、そいつらを袋ごと村の裏を流れる川に沈めた。
今夜の狙いは野鼠じゃなく、魔物化した方だ。
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