孤独な請負人は獣人と組むことにした~無口で不器用で、とても強い男と出会って~

福屋 蒼助

文字の大きさ
6 / 30
無口な獣人と出会った日

06.村と二人の請負人4

しおりを挟む
 軽口を叩きながら小屋のすぐ近くにある村長の家へ向かえば、いくつもの視線が向けられるのが感じられた。今この村にいるのは女性と子供、そして年寄りで、戦力になるような年頃の男手は出払っている。見知らぬ人間がいるだけでも怖いだろうに、一人はどう見ても熊だからな。
 ということで、まだ熱があって起きられない村長に挨拶だけをして、元村長に村にいる全員を集めてもらい自己紹介をした。
 襟元から引っ張り出した銀色のタグが、日の光を反射して綺麗に光る。

「オレは銀級請負人のリオ。これがその証拠だ。こっちはオレの相棒で、獣人のガルド。見た目はおっかない熊だけど、この村を助けようって言ったのは相棒なんだぜ。人は襲わないから安心してくれ」
「私、名前ガルド。害獣駆除、任せる」
「昨日の夜の内に罠をしかけて鼠を捕まえた。気になることがあるから、今日は畑や村の中を調べたい。仕事の邪魔はなるべくしないようにするから、畑に入ることを許してくれ」

 ガルドさんが自分のタグを出さなかったから、村の人たちは二人とも銀級だと思ったらしい。銀タグを見て何やら拝みだした婆ちゃんまでいる。少ない依頼料ながら、義侠心にかられた銀級が依頼を受けてくれた、と勘違いしたんだろうな。
 まあ、勘違いされても依頼には影響がないし、そのままにしておくか。身振り手振りが入ってたから、名前と頼もしさは通じたはずだ。
 
 オレとガルドさんが、村長代理と畑や村を見て回る段取りをしていると、小さな子供が母親の手を振りほどいて走ってきた。

「オジチャンたち、強いの? 魔物、倒せる?」

 オジチャンにはカチンときたが、大人が遠巻きにして近寄って来ないのに、オレ達のすぐそばまでやってきたのは見どころがある。オレはしゃがみ込んで、スカートの裾を掴んだ女の子と視線を合わせた。

「おー、この熊さんは強いぞー。そんでオレは弓と罠が得意だから、鼠なんか直ぐに退治しちまうよ」
「シビのかたき、取ってくれる?」
「シビって?」
「茶色い猫ちゃん。畑とアタシたちを守ってくれてたのに、死んじゃった……」
「猫か……。なるほど、村の守り神みたいなヤツだったんだな」

 オレの背後で小さく鎧が音を立てて、大きな影がオレと女の子の上に落ちる。かがみこんだガルドさんは、なんとかヒト語を絞り出した。
「約束、する」

 精一杯優しい声を出そうとしたのが、オレには伝わってくる。ヒト語で話せる言葉が約束だなんて…。オレも驚いて声が出せずにいると、女の子は突然泣き出してしまい、母親に抱えられて家に戻っていった。

「シビっちゅうのは、鼠除けに村で飼っとった雄猫のことだ。一抱えもあるようなデカい猫なんだけんども、少し前に畑の隅で死んでるのが見つかってなぁ。それから鼠どもが畑の中さどんどん入ってくるようになっちまって」

 村長代理が自分の腕で作った輪を見れば、街中で見る猫より一回り大きい猫だったのが伝わってくる。そんな猫を殺せるとなると、やっぱり魔物化した鼠がいるんだろう。
 オレ達は昨日仕掛けた罠を確認しながら、畑を見て回った。
 毒餌を仕込んだカゴ罠は、どれもこれも鼠の死骸でいっぱいになっていた。オレが罠をほどき、ガルドさんがズダ袋の上で罠をひっくり返して鼠を回収していく。
そして鼠の移動経路にいくつか作っておいた落とし穴にも、たっぷり鼠がかかっていた。

「これ、罠、何?」
「ん? ああ、この底に入れてある木の実が仕掛けだよ」
「私、知らない」

 落とし穴を真剣に覗き込んでいるガルドさんが鼻をヒクつかせる。オレが仕掛けた実は、わざと果肉に傷をつけてあるから、青臭い匂いがするんだよな。

「この辺じゃ、グリーベルの実って呼んでる。子どもは、熟れて赤くなるまでは食っちゃいけないって大人に口を酸っぱくして言われるんだ」
「理由、ある?」
「熟れる前の実から出る汁がつくと口も肌も痺れるし、食ったら腹を下すんだ。鼠なら足が弱って這い上がれなくなる」

 とは言っても、何匹も仲間が穴に落ちれば警戒するはずなのに、毒餌のカゴ罠と一緒で落とし穴にも鼠がたっぷりだ。
 痺れて動きが鈍った鼠を掴んでは、ガルドさんが持っていた袋に入れながら話をする。二つ目の落とし穴を覗き込むと、ちょうど一匹なんとか這い上がって物陰に逃げていくやつがいた。

「仲間、捨てる、逃げた。どうする?」
「放っといて良いよ。鼠を全部駆除しちまったら、鼠を食う獣が飢えて村に来る。だから駆除依頼でも狩り過ぎはダメなんだ」

 人間を襲う中型以上の魔物は別だけど。と付け加えると、ガルドさんが何度も頷くのが見える。爆発的に増えた時なんかはかなりの数を間引くことになるけど、どの程度狩るのか見極めるのも請負人の腕と言える。
 オレ達は落とし穴にかかった鼠を全て回収し、そいつらを袋ごと村の裏を流れる川に沈めた。
 今夜の狙いは野鼠じゃなく、魔物化した方だ。
 畑に戻って、オレとガルドさんは、野鼠じゃない魔鼠の痕跡を探し始めた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

貴方に復讐しようと、思っていたのに。

黒狐
BL
 前世、馬車の事故で亡くなった令嬢(今世は男)の『私』は、幽霊のような存在になってこの世に残っていた。  婚約者である『彼』が私と婚約破棄をする為に細工をしたのだと考え、彼が無惨な末路を迎える様を見てやろうと考えていた。  しかし、真実はほんの少し違っていて…?  前世の罪や罰に翻弄される、私と彼のやり直しの物語。 ⭐︎一部残酷な描写があります、ご注意下さい。

君と秘密の部屋

325号室の住人
BL
☆全3話 完結致しました。 「いつから知っていたの?」 今、廊下の突き当りにある第3書庫準備室で僕を壁ドンしてる1歳年上の先輩は、乙女ゲームの攻略対象者の1人だ。 対して僕はただのモブ。 この世界があのゲームの舞台であると知ってしまった僕は、この第3書庫準備室の片隅でこっそりと2次創作のBLを書いていた。 それが、この目の前の人に、主人公のモデルが彼であるとバレてしまったのだ。 筆頭攻略対象者第2王子✕モブヲタ腐男子

七日後に神罰が落ちる。上層部は「下を切り捨てろ」と言った——私は全員を逃がす

蒼月よる
ファンタジー
七日後、この港に神罰が落ちる。 追放された元観測士イオナだけが、その事実を知っていた。 しかも災害は自然現象ではない——誰かが、意図的に引き起こそうとしている。 港の上層部はすでに手を打っていた。「下層区画を緩衝被害区として切り捨てる」秘密契約。被害を最小限に見せかけ、体制を守る冷徹な計画だ。 イオナは元護送隊長ガルム、荷運び組合長メラとともに動き出す。 犯人を暴き、証拠を公開し、住民を逃がし、工廠を止める——すべてを七日で。 被害を「選ぶ」管理か、全員を「残す」運用か。 追放観測士の、七日間の港湾カウントダウン・サスペンス。 この作品は以下の箇所にAI(Claude Code)を利用しています。 ・世界観・設定の管理補助 ・プロット段階の壁打ち ・作者による執筆後の校正

【完結】ここで会ったが、十年目。

N2O
BL
帝国の第二皇子×不思議な力を持つ一族の長の息子(治癒術特化) 我が道を突き進む攻めに、ぶん回される受けのはなし。 (追記5/14 : お互いぶん回してますね。) Special thanks illustration by おのつく 様 X(旧Twitter) @__oc_t ※ご都合主義です。あしからず。 ※素人作品です。ゆっくりと、温かな目でご覧ください。 ※◎は視点が変わります。

美澄の顔には抗えない。

米奏よぞら
BL
スパダリ美形攻め×流され面食い受け 高校時代に一目惚れした相手と勢いで付き合ったはいいものの、徐々に相手の熱が冷めていっていることに限界を感じた主人公のお話です。 ※なろう、カクヨムでも掲載中です。

来世はこの人と関りたくないと思ったのに。

ありま氷炎
BL
前世の記憶を持つ、いずる。 彼は前世で主人だった三日月と、来世で関わらない事を願った。 しかし願いは叶わず、幼馴染として生まれ変わってしまった。

寂しいを分け与えた

こじらせた処女
BL
 いつものように家に帰ったら、母さんが居なかった。最初は何か厄介ごとに巻き込まれたのかと思ったが、部屋が荒れた形跡もないからそうではないらしい。米も、味噌も、指輪も着物も全部が綺麗になくなっていて、代わりに手紙が置いてあった。  昔の恋人が帰ってきた、だからその人の故郷に行く、と。いくらガキの俺でも分かる。俺は捨てられたってことだ。

[BL]愛を乞うなら君でなければ。

わをん
BL
離婚歴のある子持ち主人公。人生に何の希望もなく日々を消化するかのごとく過ごしていた時に出会ったハウスキーパーの『吉野』。たとえ同性であっても、裏表のない真っ直ぐな言葉を紡ぐ彼に惹かれる気持ちは抑えられない。彼に教わる愛の作法ーー。[子持ちリーマン×新米ハウスキーパー]

処理中です...