孤独な請負人は獣人と組むことにした~無口で不器用で、とても強い男と出会って~

福屋 蒼助

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無口な獣人と出会った日

07.村と二人の請負人5

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「この辺の畑は、実も枝も根っこも齧られてるな」
「ああ、小さい実。未熟」
「鼠だってバカじゃない。よっぽど森や野が不作でなけりゃ、熟れて美味い所を食ってくのに、硬い枝も幹も食ってるのはおかしい」

 畑を囲む低い柵が途切れた場所の近くは、手あたり次第に野鼠にやられたらしく根も幹も齧られて作物は散々な有様だった。芋にしろ豆にしろ、他の作物にしろ、大抵は収穫間近の美味い所を齧っていくもんだ。よほど飢えているのか、魔鼠に率いられて活動が活発になっているのか。

「ま、おかしいとは言え、野鼠の仕業で納得できるといえば、納得できる」
「ああ。歯形、痕跡、小さい。鼠。魔鼠、違う」

 畑の畝の間にしゃがみこんで、土を掬い色や匂いを確かめたあと、オレとガルドさんは立ち上がって畑を見回した。ぽつぽつと畑の世話をしている女性や子どもが、オレ達をじっと見てくるが気にしていたら何もできない。

「向こうの……林に近い、ヒュルザの木が途切れてる方が気になる」
「うむ。同意。色、悪い」

 オレが指さした方向をみて、ガルドさんも頷いた。故郷で狩りの基礎を叩きこまれて育ったから目は良い方だと思ってたが、ガルドさんも同じくらい目が良いらしい。緑の中に見え隠れする赤茶色が気になったのに気づいたようだ。

「行って確かめよう」
「ああ」

 作物を踏んだり傷つけたりしないように気を付け、畔を歩いて移動し林に近い方の畑に向かう。日中、鼠が隠れているのは林だからか、林に向かうほど畑の被害も大きくなっているようだった。

「これ……、大きい、被害。色、痕跡」
「歯形が一回り以上デカいし、妙な変色の仕方をしてる」

 齧られた跡のある芋は赤紫色に、掘り返された土は暗い紫がかった色になり、幹や葉は赤茶色になって捩くれていた。手持ちの小さなナイフで芋を刺し、持ち上げてみれば、生の芋だとは思えないほどグズグズになっていて、ボトリと嫌な音を立てて地面に落ちる。

「臭い、嫌い──毒。嗅ぐ、大丈夫。食べる、ダメ」
「オレは鼻が利くほうだと思ってたけど、毒の臭いも混ざってるのか。芋がおかしくなった臭いだと思ってた」

 すんすんと鼻を鳴らして臭いを嗅いでいたガルドさんが鼻筋に皺を寄せるほどの臭いなのか。獣人族は人族より耳や鼻が良いと聞くから、その差かもしれない。

「作物、腐敗。大きく少し、臭う。毒」
「まいったな。魔物だと思ったら、毒持ちか。あんな依頼料じゃ割に合わないどころじゃないぞ」
「魔物、でも、鼠。毒、私強い。問題、ない」

 鞘に入れたままの大剣の先で畑の土を掘り返し、変色が表面に収まっているのを確認するガルドさんの声は特に気負った風でもない。どれだけ強い毒かも分からないってのに、なんでそんなに平気そうなんだ。

「まあね。魔鼠の強さなんてたかが知れてるよ。野鼠を率いて大群で町に押し寄せでもしない限り、脅威とは言えない」
「同意。駆除、仕事」
「って言っても、ガルドさんの剣でどうにかなるか? 万が一にも毒を喰らったら、どうなるか分からないぞ」

 地面に転がった芋の中には、土がついた皮の表面に4本の赤紫の筋が入っている物もある。口だけじゃなく爪にも毒を持っているんだとすると、注意しなきゃならない度合いが高くなる。
 魔物化すると動物だった時に比べて知恵がつくから、たいてい罠にかかりにくくなるんだよな。

「昨日、鼠をだいぶ駆除したし、今夜は魔物が出てきてもおかしくない。魔鼠がガルドさんの正面に出るように、上手く誘導するしかないな」
「作戦? 成功?」
「上手くいくようにするんだよ」

 笑って見せたら、なぜかガルドさんの肩がビクっと動いた。自分が有利になるように敵を誘導するのも、一人で戦ってきたオレにとっては基本中の基本。
 となれば、昨日以上に畑にあれこれ細工することになるし、村長代理の爺さんに話を通しておくほうが良いだろう。
 ついでに川に沈めた鼠も引き上げて、ギルドへの報告用に尻尾を切っておくか。

「川経由で村に戻ろう」
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