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言葉より近く
22.窪地に潜むモノ
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「狙いを外すかもしれない。その時は頼む」
「応」
耳の良いガルドさんには聞こえるだろうと、吐息に乗せて囁けば隣から低く短い確かな応えが返ってくる。
オレ達の背には、オルン達の山小屋側にある崖のような岩肌。
山羊達がいるのは、いくらか傾斜がゆるい窪地のある斜面。
山頂から吹き下ろす風は稜線を境に向きが変わり、窪地側には大きな岩がゴロゴロ転がっているのもあり、風の動きが乱れ巻いて厄介だ。
岩陰から窪地の周りに目を凝らしても、風向きを推し量るための草もなく、山羊達も興奮して動き回っているから風になびく毛も当てにならない。
「気づいて、かかって来い」
立ち上がって岩に足をかけ、弓に矢をつがえる。
家畜の山羊と比べれば大きさが段違いの大角山羊は、体高が大人の男の胸の辺りまであるだろう。あれだけ興奮してるんだ、攻撃されたと分かればオレに向かって突っ込んでくるはず。
風に負けないように、オレが使っている中で一番強い弓矢を持ってきた。
矢が反れても、窪地の山羊に当たらない場所に大角山羊が移動するのを静かに待つ。
距離と風、動きを読み、呼吸を絞り放った矢は、大角山羊に届く直前で右に逸れ、地面に刺さった。
一瞬の間を置いて、周囲に響き渡る大きな鳴き声。
こちらを向いた大角山羊と目が合う。
「来い」
二本目の矢をつがえ狙おうとした所で、予想外のことが起きた。
こちらへ向かって猛然と斜面を駆けてきたのは、大角山羊ではなく単なる雄山羊。オルン達が世話している群れの雄だろう。大角山羊は、蹄で斜面を掻きながらこちらを睨みつけて動かない。
「くそっ。何でだよ」
雄山羊の後ろには、若い大角山羊や雌山羊まで付いてくる。普通の山羊なら外敵に向かって雌が突っ込んでくるなんてあり得ない。
「リオ、出るぞ」
「ああ!」
このまま、この場所で山羊の突進を受けてしまうと、背後の崖に落ちていく山羊が出る。一匹でも多くの山羊を飼い主に戻すのが、今回の依頼だ。
先に動いたガルドさんが岩を飛び越えて斜面に身を躍らせ、手にした盾とガントレットを打ち合わせて山羊の気を引いてくれる。
なるべく山羊を傷つけないように突進を躱し、いなして斜面下方へ受け流す。
オレはガルドさんと距離を空けて斜面に立ち、風上にいる大角山羊を狙う。窪地を背に立つ大角山羊の長い毛が風に煽られ、広がり、山羊とは思えない圧を放つ。
頭を下げオレに向かって突っ込んでくる大角山羊に向かって、矢を放とうとした瞬間。オレの背中を悪寒が走り抜けた。
体当たりを食らわせようとしてきた大角山羊を避けたところで、身を寄せてくれたガルドさんが大盾で弾き飛ばして、更に距離を作ってくれる。
「リオ!」
「あいつか!」
大角山羊の背後に、いつの間にか「ソレ」は立っていた。
甲高く鋭い鳴き声は、大角山羊のもの。
だが、その体躯は大角山羊の倍なんかじゃきかない。馬か、牛だ。弓なりに伸びた角の先が途中から複雑に枝分かれして広がり、灰色と茶が混ざったような毛は地面に着きそうなほどに長い。
「あんなの居たか?!」
「気配、不自然」
あれだけの巨体で、オレもガルドさんも気づかなかったなんて、悔しいが魔獣の能力に上を行かれたようだ。
「魔獣化した山羊なんて、初めて見たっ」
「同意」
山の上から吹き下ろしてくる風の魔素濃度が上がったのか、息を吸う度に腹の中が熱くなるような心地がする。
魔獣化した大角山羊に率いられているから雌まで襲い掛かってきたんだろう。
となれば、オレ達の狙いは、あの魔獣だけだ。
長い毛が分厚そうで、オレの矢で致命傷を負わせるのは難しいか。
「ガルドさん」
「応」
オレは周りの山羊の牽制。ガルドさんに前に出てもらうのが良策。
言葉にしなくても、矢をつがえたオレが足の向きを変えたのに合わせ、背負った剣の柄を握りガルドさんが音もなく前に出る。
彼我の距離、勾配、周りを囲む山羊達。
弦を引いたオレの弓がキリキリと小さく音を立てたのに合わせ、ガルドさんの巨体が沈み大きく一歩踏み出したその瞬間。
魔獣が後ろ脚で立ち上がり、高く持ち上げた前足に体重を乗せて地面に叩きつけた。
地響きと共に地面が揺れ、石が砕けて辺りに飛び散り、グラついた大きな岩がアッという間に斜面を転がり落ちていく。
「何て力だよ」
滑る足元に体勢を崩しながら射た矢は、魔獣の身体に届く直前で風に勢いを削がれ、毛に絡まって地面に落ちたのが見えた。
「掴まれ」
「すまないっ」
谷側に大きく傾いた身体がガルドさんの手で引き戻され、斜面を踏みしめ直すと手はすぐに離れた。
もう一度さっきの踏みつけが来たら、斜面全体が崩れそうな嫌な予感がする。
「一度退こう」
「了」
「応」
耳の良いガルドさんには聞こえるだろうと、吐息に乗せて囁けば隣から低く短い確かな応えが返ってくる。
オレ達の背には、オルン達の山小屋側にある崖のような岩肌。
山羊達がいるのは、いくらか傾斜がゆるい窪地のある斜面。
山頂から吹き下ろす風は稜線を境に向きが変わり、窪地側には大きな岩がゴロゴロ転がっているのもあり、風の動きが乱れ巻いて厄介だ。
岩陰から窪地の周りに目を凝らしても、風向きを推し量るための草もなく、山羊達も興奮して動き回っているから風になびく毛も当てにならない。
「気づいて、かかって来い」
立ち上がって岩に足をかけ、弓に矢をつがえる。
家畜の山羊と比べれば大きさが段違いの大角山羊は、体高が大人の男の胸の辺りまであるだろう。あれだけ興奮してるんだ、攻撃されたと分かればオレに向かって突っ込んでくるはず。
風に負けないように、オレが使っている中で一番強い弓矢を持ってきた。
矢が反れても、窪地の山羊に当たらない場所に大角山羊が移動するのを静かに待つ。
距離と風、動きを読み、呼吸を絞り放った矢は、大角山羊に届く直前で右に逸れ、地面に刺さった。
一瞬の間を置いて、周囲に響き渡る大きな鳴き声。
こちらを向いた大角山羊と目が合う。
「来い」
二本目の矢をつがえ狙おうとした所で、予想外のことが起きた。
こちらへ向かって猛然と斜面を駆けてきたのは、大角山羊ではなく単なる雄山羊。オルン達が世話している群れの雄だろう。大角山羊は、蹄で斜面を掻きながらこちらを睨みつけて動かない。
「くそっ。何でだよ」
雄山羊の後ろには、若い大角山羊や雌山羊まで付いてくる。普通の山羊なら外敵に向かって雌が突っ込んでくるなんてあり得ない。
「リオ、出るぞ」
「ああ!」
このまま、この場所で山羊の突進を受けてしまうと、背後の崖に落ちていく山羊が出る。一匹でも多くの山羊を飼い主に戻すのが、今回の依頼だ。
先に動いたガルドさんが岩を飛び越えて斜面に身を躍らせ、手にした盾とガントレットを打ち合わせて山羊の気を引いてくれる。
なるべく山羊を傷つけないように突進を躱し、いなして斜面下方へ受け流す。
オレはガルドさんと距離を空けて斜面に立ち、風上にいる大角山羊を狙う。窪地を背に立つ大角山羊の長い毛が風に煽られ、広がり、山羊とは思えない圧を放つ。
頭を下げオレに向かって突っ込んでくる大角山羊に向かって、矢を放とうとした瞬間。オレの背中を悪寒が走り抜けた。
体当たりを食らわせようとしてきた大角山羊を避けたところで、身を寄せてくれたガルドさんが大盾で弾き飛ばして、更に距離を作ってくれる。
「リオ!」
「あいつか!」
大角山羊の背後に、いつの間にか「ソレ」は立っていた。
甲高く鋭い鳴き声は、大角山羊のもの。
だが、その体躯は大角山羊の倍なんかじゃきかない。馬か、牛だ。弓なりに伸びた角の先が途中から複雑に枝分かれして広がり、灰色と茶が混ざったような毛は地面に着きそうなほどに長い。
「あんなの居たか?!」
「気配、不自然」
あれだけの巨体で、オレもガルドさんも気づかなかったなんて、悔しいが魔獣の能力に上を行かれたようだ。
「魔獣化した山羊なんて、初めて見たっ」
「同意」
山の上から吹き下ろしてくる風の魔素濃度が上がったのか、息を吸う度に腹の中が熱くなるような心地がする。
魔獣化した大角山羊に率いられているから雌まで襲い掛かってきたんだろう。
となれば、オレ達の狙いは、あの魔獣だけだ。
長い毛が分厚そうで、オレの矢で致命傷を負わせるのは難しいか。
「ガルドさん」
「応」
オレは周りの山羊の牽制。ガルドさんに前に出てもらうのが良策。
言葉にしなくても、矢をつがえたオレが足の向きを変えたのに合わせ、背負った剣の柄を握りガルドさんが音もなく前に出る。
彼我の距離、勾配、周りを囲む山羊達。
弦を引いたオレの弓がキリキリと小さく音を立てたのに合わせ、ガルドさんの巨体が沈み大きく一歩踏み出したその瞬間。
魔獣が後ろ脚で立ち上がり、高く持ち上げた前足に体重を乗せて地面に叩きつけた。
地響きと共に地面が揺れ、石が砕けて辺りに飛び散り、グラついた大きな岩がアッという間に斜面を転がり落ちていく。
「何て力だよ」
滑る足元に体勢を崩しながら射た矢は、魔獣の身体に届く直前で風に勢いを削がれ、毛に絡まって地面に落ちたのが見えた。
「掴まれ」
「すまないっ」
谷側に大きく傾いた身体がガルドさんの手で引き戻され、斜面を踏みしめ直すと手はすぐに離れた。
もう一度さっきの踏みつけが来たら、斜面全体が崩れそうな嫌な予感がする。
「一度退こう」
「了」
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