孤独な請負人は獣人と組むことにした~無口で不器用で、とても強い男と出会って~

福屋 蒼助

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相棒が出来た日

30.どこで狩った?

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「入るぜー」
「あらあらあら、リオじゃない。久しぶりねえ」

 ルーデンからヴァルノートに戻ったオレ達は、斡旋所より先に工房が建ち並ぶ区画にある店に顔を出した。重い扉を開けた先、木製カウンターの向こうに座っているのは、灰色混じりの白い髪を緩く編んで胸元に垂らした女性だ。オレを見てニコニコと笑ってくれる。

「久しぶりってほど久しぶりだったっけ? ヘレナ、こっちはガルドさん。ガルドさん、この店を切り盛りしてるヘレナ」
「我、ガルド。リオ、相棒。よろぃく、頼む」
「まぁあ、貴方が噂の獣人さんね。ウチはしがない素材屋ですけど、どうぞご贔屓に」

 小柄なヘレナがカウンターの向こうから出て来てガルドさんの前に立つと、鎧に覆われた腹の辺りまでしかなかった。ガルドさんは大きな背中を丸め、膝を曲げてなるべく身長を合わせて小さなヘレナの手を取って頭を下げている。
 ここは、通称素材屋。動物や魔獣の毛皮や角、蹄、骨なんかを買い取ったり売ったりする店だ。斡旋所でも素材の買い取りをしてくれるが、値段は一律で少々安い。素材屋は状態に合わせて値を付けてくれるから、珍しい動物や魔獣の素材は素材屋に持ち込む方が実入りが良いんだ。獲物によるけど、オレはこの素材屋を何度も利用していた。

「ガルドさん、ヘレナは魔獣の素材が大好きでこの店に嫁に来た人なんだよ。たぶん、ヴァルノートいちの目利きだ」
「ほう」
「いやあねぇ、リオったら。こんなお婆ちゃんおだてても、何も出ないわよ。それで、今日は何を持ってきたの?」

 ふっくらした頬に手を添えて笑うヘレナには、13になる孫がいるからオレの婆ちゃんと言ってもおかしくない年のはずだが、ガルドさんが背中に担いだ袋をキラキラした目で見る姿は年下に見えてくる。

「大角山羊の頭と皮。あと、骨も少し。魔獣になったのを討伐してきたんだ」
「大角山羊の魔獣だなんて、私も初めて聞くわねえ。リネア、リネア。ちょっと盥を持ってきてくれなぁい?」

 ヘレナは店の奥に続くドアを開けて、随分明るい声をかけた。奥の作業場から軽い足音がしたかと思うと、茶色い髪を結った少女がひょいと顔をのぞかせた。

「お婆ちゃん、盥ってどの大きさが良いの?」
「よ、リネア」
「リオ、いらっしゃい。あ……、いらっしゃいませ。素材屋へようこそ」

 さすがヘレナの孫。店に出て普段から請負人や武器屋の親父たちと接しているからか、ガルドさんと会っても特に怖がる様子もなくガルドさんに挨拶をした。

「我、ガルド。よろぃく」
「盥はねぇ、あなたが抱えられる一番大きな盥が良いかしらね」
「分かった。お爺ちゃんも呼んでくるね」
「リネアは、ヘレナの孫なんだ。今年から店の仕事を勉強させてんだよな」
「えぇ、そうよ。リオ、皮と骨をこちらに出してもらえるかしら。ガルドさん、頭はもう少し待ってくださいね」
「構わぬ」

 背嚢を一度床におろし、丸めて持ってきた毛皮と骨を取り出して、買い取り用のカウンターに広げて置いた。しげしげと見つめるヘレナの前で、毛皮を端をめくって見せる。

「できるだけ丁寧に剥いだけど、どうかな。骨は、後ろ脚を蹄まで一揃いで2本」
「骨は傷もないし、良いわね。相当大きかったのかしら」
「うん。牛か馬みたいな大きさだった。頭の高さは、ガルドさんと同じくらい?」
「それは大きいわねえ」

 山で狩ってからここに来るまで5日以上経っている。脂や肉は極力剥いだが限界はある。皮や骨に残った脂と筋が臭っても、ヘレナは眉をしかめることもなく綺麗な布に触れるようにそっと骨を撫でた。

「お婆ちゃん、持ってきた。お客様、こちらにお願いします」
「うむ」
「リオ、よく来たな」
「バルディグ、こっちはガルドさん。覚えといて」

 リネアに続いて売り場にやってきたのは、ヘレナの旦那でこの店の店主だ。布に包んで背負ってきた魔獣の頭を盥に出すガルドさんを無言で見つめ、小さく頷いている。
 毛皮を出した時とは比べ物にならない生臭い臭いが、この場を満たす。顎が外れたように開いた口から、灰色の舌がだらりと外に垂れ下がっていた。

「……リオ。こいつは、どこで狩った?」
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