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相棒が出来た日
29.凱旋?
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ギルド長に続いてオレが斡旋所に入ると、男たちの野太い歓声がオレ達を包んだ。低いどよめきが収まると、次はオレやガルドさんを指差して、口々に話始める。
「オルン、エダ!」
「リオ、お前すげぇんだな! 銀級さ生意気な口きいたのがって怒らっでしまた」
斡旋所のカウンター前で待っていたらしい二人に歩みよると、エダが興奮してまくしたててきた。依頼主はオルンとエダだから、先に割符を受け取っておいても良かったんだが、どうしても二人が斡旋所職員立ち合いが良いというもんだから仰々しいことになっている。
依頼達成受付に魔獣の頭が入った盥を置き、改めて職員とギルド長まで交えて話をする。
「オルンさん、エダさん。依頼は達成ということでよろしいですか?」
「ああ。俺家の山羊はほとんど帰ってきたからよ。それに、魔獣も倒してもらって、来年も安心して山羊を連れて山に登れる」
「んだんだ。あんな、聞いたごどもねぇ、おっかねえ音させる魔獣がいたなんてよぉ」
オルンが差し出した割符を受け取り、腰のポーチに仕舞った。これはオレ達が依頼を受けたヴァルノートの斡旋所に提出だから、ここでは山羊を探す仕事の金は出ない。
斡旋所の職員が、カウンターの上に置いた盥を見て、おずおずと口を開く。
「ギルド長、その……魔獣討伐の追加料金は、どうしますか?」
「思いがけず大角山羊も手に入ったし、出さない訳にはいかないだろう」
「話が早くて助かる」
牧童のオルンやエダに金が出せるとも思えないから、追加料金はギルド持ちかルーデンの町が払うことになるか。受け取るオレ達としては、出る物が出ればどちらでも構わない。そんな気持ちでガルドさんの顔を仰ぎ見れば、いつもと変わらない平静な様子で頷いてくれるのが分かった。
「今晩はここに泊まるだろう? 朝一番で発つなら、四の鐘までに渡せるように急がせるが」
「ガルドさん、どうする? 明日の朝に報酬を受け取っても良いか?」
「リオ、ギルド、任せる」
「だそうだ。じゃあ、明日の二の鐘で受け取りに来るよ」
町の役人に魔獣の頭を見せて、出せる金の相談をする時間も必要だろう。朝一番で発つのも、斡旋所に寄ってから発つのも、オレ達の脚なら大して変わらない。そう思って答えたところで、背後から声がかかった。
「リオ! 今夜は飲もうぜ!」
「そうだそうだ! ここを出てからの話を聞かせろよ!」
「この魔獣だって、どうやって狩ったのか聞きてぇしな」
「頭だけでこの大きさの魔獣を弓で狩るたぁ、さすがイスヴァトの出だ。あそこは腕っこきの狩人の村だったからなあ」
オレがここの斡旋所を根城に仕事をしていた時の顔見知りが、我先にやってきて話しかけてくる。けど、オレの隣にいる人を無視して良い理由にはならない。
「ちょっと待ってくれ。この魔獣の首を落としたのは、こっちのガ……」
「まあまあまあ! 細けぇ事は良いんだよ! 魔獣がいなくなったってのが大事なんだからよ!」
ガルドさんの腕を取って皆の前に押し出そうとしたオレの声と動きは遮られ、顔も知らない請負人の言葉に斡旋所内が同意の声を上げる。
違うってのに、聞けよ。ガルドさんがいなけりゃ、どれだけ苦戦したか。
チラチラとガルドさんに視線をやるヤツもいるけど、わざとガルドさんを見ないようにしてオレにばかり話しかけてくる人間が多い。一度に話しかけてくるから、誰が何を言ってるのか聞き取れなくて適当にあしらっていたら、オルンと一緒に顔見知りがやってきた。
「俺達じゃあ、山羊を連れ戻せなかったから、恩に着る」
「ユード達の判断は間違ってなかったよ。下手に近づかなくて正解だった」
「オレの知ってるリオは、こんな小さい子供だったのに。いつの間にか銀級サマだもんなあ」
「なんだよ、その、銀級サマって。止めてくれよ」
「パーティーならともかく、ソロの弓使いで銀級だぞ? ルーデンの出世頭だろ」
ユード以外にも、オレが請負人になりたての頃に一緒に仕事をしてくれた人間があれこれ言ってくるから相手をしていると、オレの近くにあった気配が急に薄くなった。
オレの手を外したガルドさんは音も立てずに隣からいなくなり、気づいたら、あの巨体が人の少ない壁際にひっそり佇んでいた。カウンターの近くに寄れなかったヤツが、近くに移動してきたガルドさんから距離を取ろうと後退りするのが見える。
「何でそんな……」
遠慮なんかしなくて良いのに。
むしろ、魔獣を狩ったのは俺だって大きな声で言えば良いのに。
近くに呼ぼうとしたオレに、ガルドさんは静かな目でそっと首を振って見せた。
「ああああ、あの! 自分も弓使いでっ! リ、リオさんがどんな弓使ってるか教えてもらえないですか?!」
急に甲高い声が聞こえたと思ったら、オレの胸位の身長の子供が短弓を握りしめてこっちを見上げていた。後ろに同年代の子供が何人かいて、そわそわ落ち着かない様子でオレを見てくるから、無視するわけにもいかない。
「オレは、何本か使い分けてるよ。今回持ってきたのは、ヴァルノートの武器屋で買った複合弓」
「やっぱり強い弓使った方が良いですか?!」
「弓でも稼げますか?! 剣のが良いですか?!」
「銀になったらモテますかっ?!」
「あく、握手してくださいっ」
子供に交じって、オレより随分年上が握手とか言うな。え、これどうすりゃ良いの? そんな尊敬してますみたいな顔で見られても、困るんだけど。
こんな風に人に囲まれることがないから、困ってガルドさんのいた方に顔を向けるけど、床に座ったのか人波の陰に隠れて全然姿が見えなかった。
知らないヤツと話し、顔見知りと話し、最後は斡旋所の職員に終わりにしろと言われて請負人たちが帰り、やっと斡旋所の中が静かになった。
「ガルドさん、お待たせ。うるさかっただろ」
「良い。故郷、凱旋」
「ガルドさん、人混みが苦手で逃げたんじゃないよな? オレだって得意じゃないってのに、置いてくなんて、ひでぇ」
凱旋、になるのか。そんなつもりはなかったけど、そうなのかな。
でもオレは、オレの相棒のこと、他の奴らにちゃんと知ってほしかったけどな。
「そろそろ宿行こうぜ。オレのオススメの宿が空いてると良いんだけど」
「応」
「オルン、エダ!」
「リオ、お前すげぇんだな! 銀級さ生意気な口きいたのがって怒らっでしまた」
斡旋所のカウンター前で待っていたらしい二人に歩みよると、エダが興奮してまくしたててきた。依頼主はオルンとエダだから、先に割符を受け取っておいても良かったんだが、どうしても二人が斡旋所職員立ち合いが良いというもんだから仰々しいことになっている。
依頼達成受付に魔獣の頭が入った盥を置き、改めて職員とギルド長まで交えて話をする。
「オルンさん、エダさん。依頼は達成ということでよろしいですか?」
「ああ。俺家の山羊はほとんど帰ってきたからよ。それに、魔獣も倒してもらって、来年も安心して山羊を連れて山に登れる」
「んだんだ。あんな、聞いたごどもねぇ、おっかねえ音させる魔獣がいたなんてよぉ」
オルンが差し出した割符を受け取り、腰のポーチに仕舞った。これはオレ達が依頼を受けたヴァルノートの斡旋所に提出だから、ここでは山羊を探す仕事の金は出ない。
斡旋所の職員が、カウンターの上に置いた盥を見て、おずおずと口を開く。
「ギルド長、その……魔獣討伐の追加料金は、どうしますか?」
「思いがけず大角山羊も手に入ったし、出さない訳にはいかないだろう」
「話が早くて助かる」
牧童のオルンやエダに金が出せるとも思えないから、追加料金はギルド持ちかルーデンの町が払うことになるか。受け取るオレ達としては、出る物が出ればどちらでも構わない。そんな気持ちでガルドさんの顔を仰ぎ見れば、いつもと変わらない平静な様子で頷いてくれるのが分かった。
「今晩はここに泊まるだろう? 朝一番で発つなら、四の鐘までに渡せるように急がせるが」
「ガルドさん、どうする? 明日の朝に報酬を受け取っても良いか?」
「リオ、ギルド、任せる」
「だそうだ。じゃあ、明日の二の鐘で受け取りに来るよ」
町の役人に魔獣の頭を見せて、出せる金の相談をする時間も必要だろう。朝一番で発つのも、斡旋所に寄ってから発つのも、オレ達の脚なら大して変わらない。そう思って答えたところで、背後から声がかかった。
「リオ! 今夜は飲もうぜ!」
「そうだそうだ! ここを出てからの話を聞かせろよ!」
「この魔獣だって、どうやって狩ったのか聞きてぇしな」
「頭だけでこの大きさの魔獣を弓で狩るたぁ、さすがイスヴァトの出だ。あそこは腕っこきの狩人の村だったからなあ」
オレがここの斡旋所を根城に仕事をしていた時の顔見知りが、我先にやってきて話しかけてくる。けど、オレの隣にいる人を無視して良い理由にはならない。
「ちょっと待ってくれ。この魔獣の首を落としたのは、こっちのガ……」
「まあまあまあ! 細けぇ事は良いんだよ! 魔獣がいなくなったってのが大事なんだからよ!」
ガルドさんの腕を取って皆の前に押し出そうとしたオレの声と動きは遮られ、顔も知らない請負人の言葉に斡旋所内が同意の声を上げる。
違うってのに、聞けよ。ガルドさんがいなけりゃ、どれだけ苦戦したか。
チラチラとガルドさんに視線をやるヤツもいるけど、わざとガルドさんを見ないようにしてオレにばかり話しかけてくる人間が多い。一度に話しかけてくるから、誰が何を言ってるのか聞き取れなくて適当にあしらっていたら、オルンと一緒に顔見知りがやってきた。
「俺達じゃあ、山羊を連れ戻せなかったから、恩に着る」
「ユード達の判断は間違ってなかったよ。下手に近づかなくて正解だった」
「オレの知ってるリオは、こんな小さい子供だったのに。いつの間にか銀級サマだもんなあ」
「なんだよ、その、銀級サマって。止めてくれよ」
「パーティーならともかく、ソロの弓使いで銀級だぞ? ルーデンの出世頭だろ」
ユード以外にも、オレが請負人になりたての頃に一緒に仕事をしてくれた人間があれこれ言ってくるから相手をしていると、オレの近くにあった気配が急に薄くなった。
オレの手を外したガルドさんは音も立てずに隣からいなくなり、気づいたら、あの巨体が人の少ない壁際にひっそり佇んでいた。カウンターの近くに寄れなかったヤツが、近くに移動してきたガルドさんから距離を取ろうと後退りするのが見える。
「何でそんな……」
遠慮なんかしなくて良いのに。
むしろ、魔獣を狩ったのは俺だって大きな声で言えば良いのに。
近くに呼ぼうとしたオレに、ガルドさんは静かな目でそっと首を振って見せた。
「ああああ、あの! 自分も弓使いでっ! リ、リオさんがどんな弓使ってるか教えてもらえないですか?!」
急に甲高い声が聞こえたと思ったら、オレの胸位の身長の子供が短弓を握りしめてこっちを見上げていた。後ろに同年代の子供が何人かいて、そわそわ落ち着かない様子でオレを見てくるから、無視するわけにもいかない。
「オレは、何本か使い分けてるよ。今回持ってきたのは、ヴァルノートの武器屋で買った複合弓」
「やっぱり強い弓使った方が良いですか?!」
「弓でも稼げますか?! 剣のが良いですか?!」
「銀になったらモテますかっ?!」
「あく、握手してくださいっ」
子供に交じって、オレより随分年上が握手とか言うな。え、これどうすりゃ良いの? そんな尊敬してますみたいな顔で見られても、困るんだけど。
こんな風に人に囲まれることがないから、困ってガルドさんのいた方に顔を向けるけど、床に座ったのか人波の陰に隠れて全然姿が見えなかった。
知らないヤツと話し、顔見知りと話し、最後は斡旋所の職員に終わりにしろと言われて請負人たちが帰り、やっと斡旋所の中が静かになった。
「ガルドさん、お待たせ。うるさかっただろ」
「良い。故郷、凱旋」
「ガルドさん、人混みが苦手で逃げたんじゃないよな? オレだって得意じゃないってのに、置いてくなんて、ひでぇ」
凱旋、になるのか。そんなつもりはなかったけど、そうなのかな。
でもオレは、オレの相棒のこと、他の奴らにちゃんと知ってほしかったけどな。
「そろそろ宿行こうぜ。オレのオススメの宿が空いてると良いんだけど」
「応」
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