孤独な請負人は獣人と組むことにした~無口で不器用で、とても強い男と出会って~

福屋 蒼助

文字の大きさ
28 / 30
相棒が出来た日

28.山を下りて

しおりを挟む
 魔獣を倒した日から数えて3日後の夕暮れ前、オレとガルドさんはルーデンの斡旋所にいた。
 解体した魔獣の皮を剥ぎ、肉を焼き、骨を砕いてバラバラにして魔素が一か所に溜まらないようにするのに、なんだかんだ2日近くかかってしまったからだ。オルン達の山小屋に泊まらせてもらって、荷車に大角山羊を乗せ犬や山羊と山を下り里を進み。ルーデンの町に入ったところで、エダが先走って斡旋所に駆けこんだもんだから、オレ達が付いた時にはちょっとした人だかりができていた。
 おい、エダ。こっちを指さして大きな身振り手振りで騒いでるが、あんた何て話したんだ。

「うぉお、すんげえなぁ。初めで見る魔獣だべ」
「あれが、ソロの弓使いで銀級だっていうヤツか」
「頭だけであのデカさの魔獣を、弓で狩れるってのかよ」

 請負人らしい風体の男たちだけでなく、斡旋所の近くの店の人間まで出てきて、荷車に積んだ大角山羊の、更に上に乗せた魔獣の頭を指さして勝手に盛り上がっている。
 数年前まで仕事をしてた場所だから顔見知りもチラホラいるが、オレの後ろにいるガルドさんを見て顔を引き攣らせたり、後ろに下がったりするのはどうなんだ。山に登る前にオレ達は町に寄ってるんだから、ガルドさんを見てる人間もいただろうに。
 獣人を初めてみる人間が多いとはいえ、露骨に怯えた表情を浮かべるのに嫌気がさして、オレはガルドさんの二の腕を叩いて行き先を変えることにした。

「まずは山羊を素材受付に持って行こう。こっちだ」
「応」

 ガラガラと重い音を立てて動く荷車を引いてくれているのはガルドさんだ。オレとエダと2人かかりで動かそうと思ってたのを、一人で引き受けてくれたおかげでオレは山道を下るのも楽をさせてもらった。
 斡旋所の建物を回り込み、素材受付がある入り口のドアを開け中に声をかける。カウンターの向こうに見える背中は、数年前まで世話になっていた人のものだ。変わらず元気そうな様子に思わず笑顔が浮かぶ。

「バルバのおっちゃん! 大角山羊4匹、持ってきたぜ!」
「おうリオ! なんだかヤバイ魔獣まで狩ったんだろう?! 見せろ見せろ」
「魔獣は山で解体してきたから、頭しかない。それより、山羊だよ山羊」

 革の前掛けと手袋をつけたまま作業場を出てきたバルバのおっちゃんは、荷車を見て目を丸くした。濃い髭が生えた顎を撫でて、紐で荷車に括り付けた魔獣の頭を色々な角度から検分し始める。

「こいつぁ……大角山羊の魔獣か? オレも長いこと此処にいるが、これは初めて見るな。なあ、そうだろう? ドーガン」

 オレ達が真っすぐ斡旋所に行かなかったからか、ルーデンのギルド長がわざわざ出てきておっちゃんの隣に並んだ。背は低いが分厚い身体に薄手の半袖シャツの素材受付の主と、きっちり服を着こんだ細身で長身のギルド長が並ぶとその差が面白い。

「ああ、初耳だ。リオ、よくやってくれた」
「今回はオレの手柄じゃない。コイツの首を落としたのは、こっちのガルドさんだ」

 山に登る前、情報を仕入れるために斡旋所に立ち寄ったが、あの時は急いでいたしトップに会う必要もないからガルドさんとギルド長は初対面だった。昔は請負人だったというギルド長が足の先から頭のてっぺんまで、じっくりとガルドさんを見てから口を開く。

「噂には聞いていたが……。見掛け倒しじゃあない、確かな腕だな」
「オレ一人じゃ、こんなに早く依頼を達成できなかったよ」
「リオ、腕良い」

 オレとガルドさんは防具をつけた前腕同士をガツっと当てて見せた。どっちが欠けても苦戦しただろうからな。実力があると分かっている相手と認め合ってるってのは気分が良い。

「大角山羊は全部ウチで引き取って良いのか?」
「肉はこの間牙猪を狩ったから、今回は全部置いていく」

 手分けして魔獣の頭と大角山羊を素材受付に運び込み、石造りの床に並べればまあまあ見栄えのする成果だった。素早く、だがきっちりと一匹ずつ検分したおっちゃんが、カウンター前で待っていたオレ達に笑顔で頷いて見せる。

「良い型の大角だ。毛皮の傷も最小限。角も蹄も欠けがない」
「雄雌合わせて4匹。脂も乗って食うには良い時期だから、イロをつけてもらいたいね」
「それはドーガンの判断だな」

 ドアを開けて素材受付を覗き込む人たちを、おっちゃんが手振りで追い払った。普段は血生臭いと敬遠されるってのに、こんな時だけ物好きが湧いて騒がしい。自分で解体して肉は肉屋、毛皮や角は別の素材屋や防具屋に持ち込めば買い取り額は上がるが、それも丁寧に解体できればこその話だ。ガルドさんと相談して、今回は4頭解体して別々の店で商談をする時間をかけるより、時間も手間もかけずに斡旋所で一括買取をしてもらうことにした。

「魔獣の頭は?」
「それはヴァルノートに持って帰る」
「ここでも買い取れるが、その先を考えたらヴァルノートに持って行く方が賢明か。まあいい、オルンとエダも来ていて一緒に割符を確認してもらいたいらしい。向こうに来てくれ」

 魔獣素材は珍しく、色々な使い道があるから買い取りたいと粘る人間もいるが、ルーデンのギルド長はあっさり引き下がってくれた。オレやガルドさんに少しでも恩を売っておいて、先々の覚えを良くしておきたいのかもしれない。

「頭持ってくなら、たらい貸すぞ」

 血抜きも終わって断面は乾いてるが、さすがにそのままカウンターに置くのもまずいだろう。オレはありがたく盥を借り、ガルドさんに持ってもらってギルド長と斡旋所に続くドアを開けた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

貴方に復讐しようと、思っていたのに。

黒狐
BL
 前世、馬車の事故で亡くなった令嬢(今世は男)の『私』は、幽霊のような存在になってこの世に残っていた。  婚約者である『彼』が私と婚約破棄をする為に細工をしたのだと考え、彼が無惨な末路を迎える様を見てやろうと考えていた。  しかし、真実はほんの少し違っていて…?  前世の罪や罰に翻弄される、私と彼のやり直しの物語。 ⭐︎一部残酷な描写があります、ご注意下さい。

君と秘密の部屋

325号室の住人
BL
☆全3話 完結致しました。 「いつから知っていたの?」 今、廊下の突き当りにある第3書庫準備室で僕を壁ドンしてる1歳年上の先輩は、乙女ゲームの攻略対象者の1人だ。 対して僕はただのモブ。 この世界があのゲームの舞台であると知ってしまった僕は、この第3書庫準備室の片隅でこっそりと2次創作のBLを書いていた。 それが、この目の前の人に、主人公のモデルが彼であるとバレてしまったのだ。 筆頭攻略対象者第2王子✕モブヲタ腐男子

七日後に神罰が落ちる。上層部は「下を切り捨てろ」と言った——私は全員を逃がす

蒼月よる
ファンタジー
七日後、この港に神罰が落ちる。 追放された元観測士イオナだけが、その事実を知っていた。 しかも災害は自然現象ではない——誰かが、意図的に引き起こそうとしている。 港の上層部はすでに手を打っていた。「下層区画を緩衝被害区として切り捨てる」秘密契約。被害を最小限に見せかけ、体制を守る冷徹な計画だ。 イオナは元護送隊長ガルム、荷運び組合長メラとともに動き出す。 犯人を暴き、証拠を公開し、住民を逃がし、工廠を止める——すべてを七日で。 被害を「選ぶ」管理か、全員を「残す」運用か。 追放観測士の、七日間の港湾カウントダウン・サスペンス。 この作品は以下の箇所にAI(Claude Code)を利用しています。 ・世界観・設定の管理補助 ・プロット段階の壁打ち ・作者による執筆後の校正

【完結】ここで会ったが、十年目。

N2O
BL
帝国の第二皇子×不思議な力を持つ一族の長の息子(治癒術特化) 我が道を突き進む攻めに、ぶん回される受けのはなし。 (追記5/14 : お互いぶん回してますね。) Special thanks illustration by おのつく 様 X(旧Twitter) @__oc_t ※ご都合主義です。あしからず。 ※素人作品です。ゆっくりと、温かな目でご覧ください。 ※◎は視点が変わります。

美澄の顔には抗えない。

米奏よぞら
BL
スパダリ美形攻め×流され面食い受け 高校時代に一目惚れした相手と勢いで付き合ったはいいものの、徐々に相手の熱が冷めていっていることに限界を感じた主人公のお話です。 ※なろう、カクヨムでも掲載中です。

来世はこの人と関りたくないと思ったのに。

ありま氷炎
BL
前世の記憶を持つ、いずる。 彼は前世で主人だった三日月と、来世で関わらない事を願った。 しかし願いは叶わず、幼馴染として生まれ変わってしまった。

寂しいを分け与えた

こじらせた処女
BL
 いつものように家に帰ったら、母さんが居なかった。最初は何か厄介ごとに巻き込まれたのかと思ったが、部屋が荒れた形跡もないからそうではないらしい。米も、味噌も、指輪も着物も全部が綺麗になくなっていて、代わりに手紙が置いてあった。  昔の恋人が帰ってきた、だからその人の故郷に行く、と。いくらガキの俺でも分かる。俺は捨てられたってことだ。

[BL]愛を乞うなら君でなければ。

わをん
BL
離婚歴のある子持ち主人公。人生に何の希望もなく日々を消化するかのごとく過ごしていた時に出会ったハウスキーパーの『吉野』。たとえ同性であっても、裏表のない真っ直ぐな言葉を紡ぐ彼に惹かれる気持ちは抑えられない。彼に教わる愛の作法ーー。[子持ちリーマン×新米ハウスキーパー]

処理中です...