孤独な請負人は獣人と組むことにした~無口で不器用で、とても強い男と出会って~

福屋 蒼助

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言葉より近く

27.その先へ

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 一通り仕事を終えたところで腰を下ろし、岩を風除けにして水で喉を潤す。携帯食を取り出し、口に含んだ水で堅パンをふやかし噛みしめていると、風に紛れて人の声が聞こえてきた。

「おおーい、お前達めだぢ、ケガしてねーがー?!」
「この声はオルンだな」
「ああ。犬いる、多い」

 山道と斜面を隔てる岩の陰から、こちらを見てくる相手に向かって手を振ってやると、オルンより先に犬が2匹走ってきた。
 ベルを従え、がっちりと着込んだオルンの手には杖と手斧が握られている。

「良くここまで上がってきたな。その物騒なもんはしまってくれ」
「山がら今まで聞いだごどね、とんでもねえ音がしてよぉ。しばらぐしたら、犬達が山さ上がりたがるがら、これは何があったど思って来てみだ」
「オルンの犬達は本当に賢いな。何よりの財産だ」

 オルンの隣を離れて近づいてきたベルの胸元や首回りを撫でてやる。犬達はしきりに周囲の匂いを嗅ぎ、斜面を見回している。

「んだべ。ほんでよ、何があった?」
「オレ達で魔獣を倒した。アンタ達の山羊は、魔獣に呼ばれて帰れなくなってたんだ」

 立ち上がったオレは、背後に横たわる魔獣の亡骸を指さした。ぎょっとした顔のオルンが数歩後退り、転びそうになったのをガルドさんが腕を取って支えてやる。

「お、俺達の山羊は?」
「雌と子はその辺りに散らばってる。斜面に座りこんでるのは、オレの薬のせいだけど、薬が切れれば立って歩けるようになるよ」
「死んでる、いる」
「そうだな。子の何匹かは濃い魔素にやられて死んでしまってるかも」
「あんな化け物倒すなんて、銀級は本当に強ぇんだなあ」

 オルンが取り出した笛を吹くと、遠巻きにしていた山羊達が動き出した。足元にいた犬達が遠くにいる山羊達の元へ一斉に駆けだしていく。

「オルン、大角山羊を1匹やるから、他の大角山羊を里に下ろす手伝いをしてくれないか」
「大角山羊も狩ったのが?」
「魔獣に操られて襲い掛かってきたからな。この若い雄はどうだ?」
「肉が柔らかい雌が良い」
「角と皮より肉が大事か。分かった。なら、コイツだな」

 少々小ぶりだが若い雌を担ぎ、犬達と山羊を連れて山を下りるオルンを見送って、オレとガルドさんは魔獣を解体した。といっても吊るす道具を持ってきてないから、腹を裂いて内臓を取り出しただけだ。
 
「強い風。魔素抜ける」
「ああ、内臓だけなら数日晒せば良いんじゃないか」

 この大きな肉を全て焼くためには、薪がある森まで下りるしかない。
 束の間、二人で斜面の下を見下ろした。森は遠く、里はさらに下だ。

「頭と大角山羊は明日取りに戻るとして、これを下に下ろすのは一苦労だな」
「問題ない」

 牙猪を担ぎ上げたのと同じような調子で、ガルドさんは魔獣を肩に担いでいた。
 内臓を抜いたとはいえ、重いことには変わりはない。それをこんなに軽々担ぐなんて、この人は獣人の中でも、きっと飛び抜けてる。
 先に歩き出したガルドさんの背中を見つめていると、どこからか飛んできた鳥がオレ達の頭上で円を描いた。鋭い鳴き声を響かせたあと、その姿は森へ向かっていく。
 汚れることも疲れることも嫌がらず、オレがついて行くと信じて歩く姿に視線が引き寄せられる。

「なあ!」
「うむ?」
「俺達、組まないか?」

 広い背中に向かって声をかければ、脚を止めて振り向いたガルドさんの円らな瞳がオレを真っすぐに見た。

「組む?」
「これで依頼は3つ目だろ。でも、これで終わるのは勿体ない。オレ達が組めば、色んな依頼が受けやすくなると思わないか?」

 斜面を早足で降りてガルドさんの隣に並ぶと、オレは自然に笑っていた。
 水の女神の節はるにしか売らないトリルの実を使った菓子だとか、セルディアの路地裏の飯屋だとか。まだまだこの人には教えていないことがたくさんある。

「……考えておく。まだ、依頼終わる、ない」
「そっか。ちょっと気が早かったか」

 ガルドさんは拒否しなかった。なら、きっと……。
 オレ達は肩を並べて山を下りた。
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