孤独な請負人は獣人と組むことにした~無口で不器用で、とても強い男と出会って~

福屋 蒼助

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言葉より近く

26.並んで

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 地面に転がった魔獣の頭は、セルディアの町で駆除した牙猪よりも一回り大きな物だった。元が大角山羊とは思えない巨体も、今は静かに斜面に横たわっている。
 ナイフの先で突いてみるが、毒もなさそうだし、今は毛には硬さがないから触っても大丈夫だろう。
 途中から枝分かれした角は見栄えもするし、討伐証明としても素材としても持ち帰って損はないだろう。魔力を通せば毛が硬くなる性質は皮を剥いだ後も残るのか分からないが、毛皮は売れる。血と肉は魔素が多すぎるから、次の魔獣を生まないためにも細かくばらすか、焼くのが請負人の約束事だ。

「……解体、しないとな。山羊も集めなきゃならないし、もう一仕事するかぁ」

 断面から噴き出していた血はあらかた流れ、濃厚な血の臭いと魔素は強い風に散っていく。
 ぼろ布でナイフについた血を拭って、鞘に納めると隣から低い声が聞こえた。

「先、手当て」
「ん? ああ、オレか? 血も止まったし、平気だって。放っときゃ治る」
「手当て、する」
「……いっ。分かった、分かったよ」

 大きな手が伸びてきて、血が乾いてこびりついた頬を撫でられる。指の動きに合わせて肌に痛みが走るが、手つきはうんと優しくて、こんな風に他人に触れられたことがないからどうして良いか分からなくなった。
 咄嗟に一歩後ろに下がり、ポーチをあさって血止めになる薬草を取り出した。乾いた薬草にほんの少し水を垂らし、掌で揉みこんで出来たネットリとした塊を痛む場所に塗りたくる。

「傷ある、ここ」

 薬草が飛ばないように背中で風を受けて即席の膏薬を塗っていると、ガルドさんが大きな指先で薬を少し取りオレの耳に塗り付けた。冷たい風に感覚が薄くなって忘れていたけど、さっき針みたいな毛が貫通していった場所だ。

「ありがとう。自分じゃ見えないから、助かる……」

 今までずっと何をするにも一人だったから、こうやってケガの手当てを誰かにしてもらうのは請負人になって初めてだ。子どもの頃、薬を塗ってくれた母さんや婆ちゃんの手とは違うけど、記憶の中の手と同じくらい優しい手つきに、ガルドさんの顔が見れない。

「良い。終わり」
「うん。……そうだ、魔獣の解体もだけど、先に山羊の手当てをしないと」

 麻痺薬のせいで腰を抜かしたように斜面に横たわる山羊の様子を見に行き、何とか前脚で地面を掻いて逃げようとする山羊を落ち着かせ首に縄をつける。ここでもガルドさんの不思議な声が役に立った。
 どの山羊も傷はそれほど深くないし、血も止まっているからもう少しして薬の効果が抜ければ自分で立てるだろう。
 窪地から逃げた雌山羊や子山羊は数匹ずつ固まって、遠巻きにオレ達を見ている。群れのリーダーの雄が倒れてるから、どうして良いか分からなくなってるんだな。森まで逃げずに近くに居てくれるのは探す手間が省けてありがたい。

「ガルドさん、こっち見てくれ」
「魔素、多い。不快」

 魔獣が潜み続けた窪地は、今も濃い魔素が溜まっているようで服の下で肌がザワつく。魔素が湧き続けているのか、ただ淀んでいるだけなのかオレには分からないが、少しでも濃度を下げないと次の魔獣が生まれる可能性がある。

「リコの実、口に入れとくと良いよ」
「ああ。目、覚める」

 酸味があるリコの実を口に入れ、軽く噛めば濃い魔素に高揚する気持ちを落ち着けやすくなる。
 魔獣の踏みつけで崩れ、ひび割れた縁にある石や岩を2人で動かし、縁を低くして風下へ魔素が流れていきやすくする。オレ一人でこの仕事をしようと思ったら、森から太く長い枝をかついで上がって来なけりゃならないから、デカい岩を軽々動かして見せる姿に思わず見入ってしまった。

「リオ?」
「いや。オレも、ガルドさん位力があったら良かったのになって思った」
「リオ、器用。頭良い」
「力じゃ獣人に勝てないのは分かってるよ」

 自分が動かせそうな石や岩がなくなった所で、大物を動かす作業はガルドさんに任せ、オレは魔獣に弾かれ斜面に散らばる矢を拾い集めた。死んだ大角山羊からも矢を回収する。地の女神の節ふゆの前、大角山羊の肉は脂が乗って美味いから、これも出来るだけ里まで下ろしたい。5匹を担いで山道を下るとなると、2人じゃ骨が折れるからオルン達に手を借りるか。
 大角山羊を1か所に集めてから、血抜きのために頭を下に向け、首にナイフを入れておく。
 山羊と魔獣と大角山羊と。仕事の後始末には、もう1日かかりそうだ。
 ああでも、二人なら案外苦でもないかもしれない。
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