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第2章 幼なじみのせいで暑い夏
01 近すぎるあいつの見えない部分
しおりを挟む凪と期限付きの恋人になって一週間が経った。
熱気が籠る体育館には、床をキュッキュッと靴が滑る音が響いていた。
二時間目の体育の時間。種目はバスケで体育館の半分を男子が、もう半分を女子が使ってバスケを行っている。
俺はちょうど一戦終えたところでコートの隅で膝を抱えて試合を見ていた。
「ナギ見てるの?」
「ん……? まあ、そんなところ。おかえり、涼。てか、お前授業始まる前にトイレ行っとけよ」
「めんご、めんご。やっぱりそっかー」
「やっぱりってなんだよ」
壁に沿って外にあるトイレから帰ってきた涼は俺の隣で腰を下ろす。
涼とはチームが違い先ほど対戦したばかりだ。ちなみに、俺たちのチームが数点差で勝利した。
俺と涼は身長が低いが、授業の種目は初心者も混じっているからさほど身長をコンプレックスには感じない。ただ、相手チームにバスケ部がいるとボコボコにされるのでそこは面白くなかった。
涼は手で眼鏡をつくりコート内を見渡した。
「そういうお前は昊を探してんの?」
「そうそう。そりゃあ、自慢の恋人様が活躍しているとこみたいっしょ」
「そういうもんなのかな……」
「そういうもん。ナツもさ、ナギのことならどこにいても見つけられるでしょ?」
涼はクスクスと笑いながら俺に聞いてきた。
確かに、凪は身長が高いし、顔もいいし目立つタイプだ。スポーツだってできるから、今もコート内で活躍している。
しかし、凪ができることを知っている相手チームは凪をマークしてパスが回ってこないようにと工夫していた。
「ありゃ、狙われてんね」
「凪できるし。まあ、多分あれだけマークされててもすぐ引きはがせるんじゃないかな?」
「おっ、恋人自慢ですか?」
グイグイと俺のわき腹を肘でつつく。
やめろよ、と鬱陶しさを感じながら俺は膝に顔を埋める。
「どう? 期限付きの恋人になったわけだけど。ナギとのその後は」
「別に何も進展とかないから。俺たち付き合ってきた人とかいないから、まず恋人として付き合うってところから始まって。ああ、でも、凪は『理想の恋人になる』って意気込んでて」
「ふ~ん」
「気になってたんだけど、お前らはどうなんだよ」
「僕たち? 僕たちもまあ、普通じゃない?」
涼はふぁあ、とのんきに欠伸をしながら抱えていた膝を伸ばした。コートには入っていないものの、涼の足が通路を塞ぐ。
「昊から告白したって聞いたけど。その、付き合うってどんなかんじ?」
「おっ、気になりますか?」
「気になるっていうか。お前らが俺たちに付き合えとか進めてきたんじゃん」
「責任転嫁は良くないよ。ナツ」
そう言って、涼はパタパタと足を動かした。
責任転嫁したつもりは毛頭なかったのだが、そう捉えられてしまったのなら申し訳ない。
俺は素直に涼に謝り頭を下げる。すると、涼は「バカ真面目! ナツのいいところだけどさ!」と俺の頭をわしゃわしゃと乱してきた。
「ちょ……っ」
「僕も、告白されたときは驚いたよ。昊がそんな目で僕のこと見てたんだーってちょっと意外で」
「じゃあ、涼は昊のこと恋愛的に好きじゃなかった感じ?」
「ううん。そうじゃなくって。ほらさあ。僕たち幼稚園からずっと一緒なわけじゃん。だから、近すぎてそういう感情相手にないんじゃないかって思ってて。実際に、二人きり以外のときは、昊っておチャラけてるし……いや、チャラいし!」
チャラい、チャラいと連呼して涼は笑う。腐っても自分の恋人だろ、とツッコミを入れながら俺は彼の話に耳を傾けた。
涼はコートに目を向けながら、昊に告白されたときのことや、昊のことをいつから意識し始めたか教えてくれた。
そんな赤裸々に語って平気なのかと、聞いてもいい内容なのか途中で不安になったが、涼は包み隠さず教えてくれた。
その中でも印象的だったのは、ずっと近くにいたせいで、相手に意識されていなかったんじゃないか。今の関係を壊すのが怖くて、ただの幼なじみのままでいたいという涼の言葉だった。
「まあ、昊のほうも僕と一緒のこと考えていたみたいだけど。でも、高校に入って違う中学校から人も入ってきて、僕が誰かにとられるんじゃないかって不安だったから告白したって、昊言ってくれたからさ。昊にもそんな不安があるんだーって」
「昊ってそういうタイプに見えなさそうなのに」
「変なところで頑固というか、思い切りがいいよね。そういうところが、僕は好きだよ」
へへ、と恥ずかしそうに笑って頬に手を当てる。
涼は恋している男子という感じがして、初々しいし、やっぱり微笑ましく思った。
(昊って、そんなタイプだったんだ……)
二人は付き合いが長いし、俺と凪みたいなものなのだろう。今では幼なじみ四人、親友! みたいな感じでやっているけど、実際は俺と凪、涼と昊みたいな感じが多い。ファミレスにいってもだいたい横に座るのはその組み合わせだ。
だから、涼しか知らない昊の一面があって、でも、涼も知らなかった昊の一面があるのだと。
「ナツ。近くにいすぎると見えなくなる部分もあるんだよ。ずっと一緒にいるから、相手はこう思ってるーとか、勝手に決めつけちゃってる部分あると思う」
「わ、いきなり何?」
「ん~? せっかくの期限付きの恋人期間中なんだからもっとナギといろいろしてみたらいいんじゃないかなーって。意外とさ、ただの幼なじみと恋人って違うもんよ?」
「それは、涼の経験から?」
「もちのろーん!」
涼はバシバシ、と俺の背なかを叩きながら楽しそうにそう言った。
涼はちょっと変わっているが、ムードメーカーで基本明るい。たまにデリカシーがないが、そういう部分も許容している。ずっと一緒にいると、不思議と許容できるようになるものだ。
(近くにいると、見えないもの……か)
コートに目を移せば、先ほど相手チームに囲まれていた凪が追手を振り切って相手コートへぐんぐんと進んでいくのが見えた。ダンダン、と華麗なドリブルで二人を抜き、ゴール前で守っている昊と一騎打ちになる。
隣で涼が「昊ーとめろー!」と立ち上がって応援している。俺は、顔を上げて凪を見ていた。
(あいつ、あんなにデカかったっけ?)
隣に並んだらデカいなーと思ったが、こんなに離れていても大きく感じる。趣味で筋トレしているからか発達した腕に、筋肉のついた脚。艶やかな黒髪から滴る汗は玉になって宙へ投げ出される。
女子側のコートは試合が終わったのか、ネット越しに男子の試合を観戦していた。時々「雫川くんかっこよすぎ」とか「バスケ部より目立ってる」とか口々に言っていた。
振り切った敵チームも凪に追いつく。
昊は、凪にシュートを打たせないようにと凪の出を窺っていた。しかし、凪は迷わずシュートフォームをとり、高く飛躍した。
バスケ部も顔負けのきれいなシュートフォーム。
弧を描いて飛んでいくバスケットボールは、ゴールの縁に引っかかることなくシュポッと落ちた。スリーポイントラインよりも少し手前でのシュートだった。だが凪は、その距離ももろともせずにきれいに決めたのだ。
凪がシュートを打ったタイミングでピッピッピーと試合の終わりを告げるホイッスルが鳴った。
相手チームとは三点差で凪のチームが勝利。
凪は流れる汗を腕で拭い、迷うことなくこっちを見た。
「……っ!!」
「ん? どしたの、ナツ」
「あーいや。すごいなーって」
凪のぎらついた瞳と目が合った。試合が終わって俺がどこにいるか探すでもなく、凪は迷わずにこちらを見たのだ。まるで、俺がここにいたことをはじめから知っていたみたいだった。
俺の心臓は、彼の視線に射抜かれたことで、ドクドクと早鐘を打っていた。
とっくに俺の試合は終わっているはずなのに、呼吸が乱れる。
そうこうしていると、昊と凪がこっちに向かって歩いてくのが見えた。
「昊ーあそこは止めなきゃ」
「んな無理言うなよ。凪を止めれるやつ他にいなかったし。つか、こいつスリーポイント打てるなんて聞いてねえっての」
涼は文句を言いながらも昊に駆け寄り、昊に自分の水筒を渡していた。昊は水筒が誰のものか確認することもなくふたを開け、ぐびぐびと飲みだす。昊もまた、汗がツンツンとした髪の先から落ちている。
「夏芽」
「……っ、な、凪。お疲れ」
「見てたか?」
耳をくすぐる重低音ボイス。
見上げればそこには凪がいて、はっはっと息を切らしながら俺を見下ろしていた。俺は慌てて立ち上がって自分の首にかかっていたタオルを凪に渡す。
「見てた。見てた、見てたよ。凪……まさか、あそこから打つなんて思ってなかった」
「時間なかったからな……あと、お前が見てたから」
「……なんで、俺がここにいるってわかったの? お前、試合集中してたんじゃ」
「試合集中してても、夏芽がどこにいるかぐらいわかる。それと、いいとこ見せたかったし」
「え、っと……」
「恋人だから」
凪はそう口癖のように言って、俺が渡したタオルで口を拭いた。
「あ、夏芽の匂い」
「へ、変なこと言うなよ! 汗臭いだろ!」
「好きな匂い」
凪はくんくんと、わざとらしく俺のタオルに顔を埋めながら言う。俺はタオルを返してもらうべく凪に突っかかったが、足がもつれて凪の胸に飛び込んでしまう。
「夏芽、危ないぞ?」
「ご、ごめん……てか! 凪が変なことするから!」
「変じゃない。お前の匂いが好きだから……変か?」
許しを請うような子犬の目。いや、こいつは大型犬なんだけど……
そんなことを思いながら、凪の目を見つめていると否定することはできなかった。凪はいつもこんなんだ。俺の匂いが好きっていうのは、俺には理解できないけど、凪はすごく嬉しそうに俺のタオルで顔を拭ている。
(いやいや、嬉しそうに顔を拭くってなんだよ……)
凪が変なことを言うから、俺はまともに凪の顔を見ることができなくなってしまった。
本当は、スリーポイントシュートを決めた凪に「かっこいい」と言いたかったのに、この調子じゃ言えそうにもない。
俺は前髪の生え際から垂れてきた汗を腕で拭い、乾いた口の中を潤すべく近くに置いて置いた水筒を手で手繰り寄せた。
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