幼なじみの番犬くんは、俺にご執心~お試しで付き合うことになったあいつの距離が近すぎてムリムリムリムリ!!~

兎束作哉

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第2章 幼なじみのせいで暑い夏

05 モテる幼なじみ、でも今俺の恋人(仮)なんだよね?

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 養護教諭曰く、やはり熱中症だったらしい。

 俺は、保健室の白いベッドの上で横になり、黒いシミがぽつぽつとついた天井を見上げていた。水分補給もしてかなり頭の中はスッキリしてきたが、まだ身体が怠くて重たかった。寝返りを打つ気力もなくシミの数でも数えていたら、シャッと閉ざされていたカーテンが開けられる。


「あれ、凪……まだいたの?」
「先生が、少し席を外すらしいからその間、お前の様子を見ていてくれって言われた」
「凪、授業は?」
「授業より夏芽が大事だ」


 凪はそう言うと、少し不機嫌そうに顔をしかめ、近くにあったパイプ椅子を持ってきて俺のベッドのそばで腰を下ろした。


(いや、授業のほうが大事だろ……)


 しかし、養護教諭が席を外しているのならしかたがないのかもしれない。病人一人を保健室に置いておくほうが、後から何かあったときに取り返すのつかないことになる。
 そういう意味では、凪がそばにいてくれたほうが俺も安心するしいいのかもしれない。


「体調のほうはどうだ? また、水でも飲むか?」
「まだ少しぼーっとするけど、大丈夫だと思う。ちょっと、身体が重いけど」
「そうすぐには良くならないか。無理するなよ」
「ん、ありがとう」


 眉を八の字にして心配する凪の顔は見ていて申し訳なくなる。でも、誰よりも心配してくれているんだっていうのが伝わってきて胸の中心が温かくもなった。
 俺はどうにか上半身を起こし、ベッドの上で膝を丸める。
 凪だけではなく、涼や昊にも心配をかけてしまった。授業終わりには「もう大丈夫だから」といえるように体調を回復しようと俺は意気込んだ。すると、そんな俺を見てか、凪がぷっと笑う。


「確かに、さっきよりは元気になったみたいだな」
「凪がすぐに保健室に運んでくれたおかげかな? 本当にありがとう、凪」
「当然のことをしたまでだ。それに、あのままいしきをうしなったらとおもうと怖くて……今はその心配がなくて安心する」


 ふわっと花が咲くように笑った凪は、俺の頭に手を伸ばした。俺はその手を目で追う。それから、彼の大きな手は俺の頭の上に乗せられ、ゆっくりと彼の手が左右に動かされる。


「いつも、俺がしてんのに」
「立場逆転だな」
「すげえ、嬉しそうじゃん……俺の頭撫でるの。てか、汗とかかいてると思うけど」


 俺が言うと、凪はフリフリと首を横に振った。

 まあ、かく言う俺も凪の頭を撫でるとき、彼が汗をかいていようが構わなかった。凪は、俺が頭を撫でるとき撫でやすいようにと自ら屈んで頭を差し出してくれる。何だかそれが犬みたいでかわいかったのだが、今の凪はかわいいというよりもかっこよかった。
 ドクン、ドクンと落ち着いたはずの心臓がまた早鐘を打つ。
 頭を撫でられるたびに、変な気分になり落ち着かなくて、瞬きの回数が自然と増えてしまう。
 凪も俺に頭を撫でられているときこんな気持ちだったのかなあ、なんて想像したが、なんだかそれは違う気がした。
 だって、俺はこんなにも顔が熱くなっているというのに、凪は俺が撫でてもそんなふうにならなかったから。
 俺が撫で慣れていないからだろうか。


「凪、撫でるの上手いな」
「誰かさんのおかげで上手くなったのかもしれない」


 凪はそんなことを言いながら、俺の頭からゆっくりと手を放した。もう少し撫でてくれいてもよかったのに、と俺はベッドのシーツをつま先できゅっと引っ張った。
 そして、今ならあの話を聞けるかもしれないと、ごくりとつばを飲み込む。


「……凪、さっき何言われてたんだよ」
「さっきっていつの話だ? 昊と話していたときのことか?」
「違う。女子に何か話しかけられてただろ」
「見てたのか」


 凪は、目を丸くして俺のほうを見た。
 そんなに驚くことだろうか。
 俺だって凪ことを見ると言えば「嬉しい」なんて返ってくるから、会話が成り立っていないようにも思う。
 俺は気になって仕方がなく、少し前のめりになって凪を見た。凪はいたって平然としている。


「土曜日にカラオケ行かないかって誘われたんだ」
「カラオケ? 凪だけ?」
「俺に話しかけたんだからそうだろう」
「ま、まあ、そっか……カラオケ……それでいくの?」


 てっきり告白するんじゃないか、みたいな想像をしていたのでこれまた拍子抜けだった。しかし、同時に凪があいかわらずモテるという事実に気づかされ、なんだか心の中がモヤモヤする。
 別に、凪が誰に誘われようと俺が引き留める理由もない。凪が、その子たちとカラオケに行きたいなら行けばいい。俺が止める権利もないのだから。
 けれど、凪が誰かとどこかで楽しんでいる姿を想像するとやはり心の中で黒い靄が広がっていくのだ。 
 俺はまた、無意識に自分の胸のあたりを押さえていた。


「……行くわけないだろう。それに、土曜日はいつも通りパジャマパーティーの予定だっただろ」
「え? ああ、そっか。でも、それは夜だし」
「だとしても、俺が夏芽がいないのに行くと思うか?」


 凪は、呆れた、といわんばかりにため息をつき、俺のほうを見た。その表情はなんだか、自分はそんなに信用できないのか、と不満を垂れているようにも見える。


「俺は、行かない。少なくとも、夏芽がいないのに楽しめるわけがない」
「俺がいたら楽しめる?」
「昊や涼と、いつものメンバーがいたらそれなりに。でも、そうじゃないし、あまりしゃべったことのないやつらだったし……それはそうと、夏芽。なんでそんなに焦ってるんだ?」


 今度は、俺のことが気になるようで、黒い瞳が俺のほうへ向けられる。
 俺は、その瞳に射抜かれドキッとした。
 なんで焦っているのか。
 そんな質問されると思っておらず、俺は返答に困ってしまった。自分でも焦っているのかどうかわからない。ただ、先ほど凪が女子たちに話しかけられて、告白されるんじゃ、モテる! と思ったことは言わなければと思った。話の趣旨とは違っても、俺はそう誤解してその話が気になってしまっていたのだから。


「……俺、さっき凪が女子たちに話しかけられているの見て、女子が凪に告白するんじゃって思った」
「は、はあ?」
「ほ、ほら、そう、そういう反応になるだろ……! 焦ってるっていうか、それでなんか嫌だなー凪、告白されんのかーとか思って。そう思ったら、ちょっと、いや、かなり嫌で。それ考えてたらなんか頭痛くなってきた」


 もしかしたら、先ほどの熱中症の原因に、悩みすぎたことも含まれているのかもしれない。
 俺の言葉は予想していなかったのか、凪はパイプ椅子から少しだけ立ち上がり、また座り直した。
 それから、口元に手を当てて何やらブツブツと唱えている。こんなに至近距離にいるのに何を言っているか全くわからず「凪?」と彼の顔をのぞけば、ビクンと肩を揺らした。


「夏芽はそれで焦ってたのか」
「あ、焦ってたのかな……」
「俺が告白されて、誰かのものになるんじゃないかって?」
「そう……いや、そうなのかな? でも、凪が、女子と話しているの見て、やっぱモテるなーとか思っちゃって。ちょっと、モヤッとしたのは、事実かも」


 涼はその気持ちを嫉妬だといった。
 でも、何で俺は凪が他の女子と話しているところを見て嫉妬したのか分からない。
 凪は確かに俺の期限付きの恋人ではあるものの、元は幼なじみで、けれども特別で。それ以上の感情を俺は――


「本当に、夏芽は鈍感だな」
「はっ!? な、なんで今、そんな話になるんだよ!」
「そんな話になるだろう。それは、俺が他の人と話して嫉妬したってことだろう?」
「う……涼にも言われたけど。嫉妬したけど、何で嫉妬したか分かんないんだよ」
「夏芽は、こういう感情に対しては生まれたてのバブちゃんだからな」
「バブって……」


 凪は、どこか嬉しそうに笑っていた。
 そんな凪を見ているうちに、俺の身体の怠さは抜けていき、頭もスーッとクリアになっていった。それでも、凪への気持ちは分からないままだ。
 俺のこの感情が、凪への感情がどこに向かっているか分からない。それもまたモヤモヤしてしまう。
 俺は、さらにシーツをきゅっとつま先でひっかいて膝を抱えた。


「なんか、俺ダサくない?」
「ダサくない。むしろ、少しずつ意識してくれてることが嬉しい」
「意識……てか、凪は俺に対してどう思ってるんだよ」


 幼なじみで、ずっと一緒にいて。でも、こいつは涼の『期限付きの恋人になったら』っていう誘いにのっかった。俺は、あのとき流されるままに行動したけれど、凪は違って見えた。彼は明確になにか意図があって俺と期限付きの恋人になったように思う。
 俺の人を好きになってみたいというちっぽけなものとは違って、凪には言葉にできるなにかがあったんじゃないか。
 俺が凪を見つめていると、凪は呆れたような、少し諦めたような表情でため息をついた。
 それから、俺の左手をそっと取って薬指をくすぐる。


「くすぐったいってば」
「これが、今の俺の気持ち。全部言ってしまったらなんかフェアじゃないだろ?」
「フェアとかあんの? その、薬指の付け根触って何が……」
「夏芽。俺に全部言わせんな。ちょっと、考えてほしい。俺のこと意識してくれてる今の夏芽なら、きっと俺の気持ちちゃんと分かるはずだから」


 凪はそう言って俺から手を放した。

 くすぐられたところにまだ凪に触れられた感触が残っている気がした。ずっと、そこにとどまり続けていて、まるで指輪でもはめられているような感覚だ。
 俺はもう一度凪のほうを見た。凪は口の端を上げて俺を見て、かすかに眉を上下させた。挑戦的なその笑みは、少し色っぽく見えた。そんな凪の顔を見ていると、また頬に熱が集まるのを感じ、サッと毛布を頭からかぶった。


「また、熱中症になるぞ」
「ならない。凪のおかげで、体調良くなったから!」
「そりゃ、よかった。夏芽の元気がないと、俺は悲しい」


 そんな、低い彼の声が俺の鼓膜をくすぐる。毛布を頭からかぶっていても、彼の存在は感じるし、彼の声も感じる。


(分かんない。分かんないけどさ。俺、薬指あっつい……)


 俺は、この感情が理解できないまま、凪に触られた左手を口元に持ってきて、触れられた薬指に唇を押し付けたのだった。

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