みんなの心の傷になる死にキャラなのに、執着重めの皇太子が俺を死なせてくれない

兎束作哉

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過去編~あの頃の僕ら~

02 これが集団恐喝!?

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「はあ~寮に帰ったら復習して、明日の授業の予習かなあ」


 ふぁあ、と大きなあくびが出てしまい、俺は口元を手で覆った。
 体を動かすことには慣れているが、一週間の疲労の蓄積は溜まるもので身体も凝り固まっている気がする。

 入学式が終わってから一週間経ち、昼休みにセシルと友だちが欲しい欲しくない論争をしてしまった。今、セシルは学園長と話しに行ってしまって席を外している。ついていったらいいかと聞いたが、どうやら用事があるのはセシルだけらしく、俺は先に寮に戻ることになった。
 護衛なのに離れていいのだろうかという気持ちは少なからずあったが、外よりかは学園内は安全だし、学園長と一緒にいるのなら大丈夫だろうと思ったのだ。
 俺は、寮に向かって足を進めていた。
 セシルは友だちはいらないと頑なに言って、頬を膨らませていた。まあ、騎士科の悪しき風習やあんな先輩を見てからじゃいろいろと失望していてもおかしくはない。とはいえ、やはり友だちや他に頼れる人がいないのは不便だと思った。俺は、セシルは怖くないよっていうことを周りに知ってもらうために、護衛として何か行動を起こさなければと思っていた。
 まずは、同じ学年の人から話しかけてセシルが怖くない人間だと知ってもらうことにしよう。


(……まあ、週明けに)


 今週の授業はこれで終わりなので、後は帰って休むだけだ。もちろん、鍛錬は欠かさないつもりではいる。父が稽古をつけてくれるらしいので、それも楽しみだ。
 寮に向かう足が少しずつ軽くなっていったとき、目の前にサッと誰かが現れ、道をふさいだ。俺よりも背が高く、それも一人や二人じゃなかった。


「一年生の、ニル・エヴィヘットだな」
「はい……あ」


 俺は思わず声が出てしまった。
 あまりにも間抜けで失礼な声を出してしまったので、目の前の男は眉間にしわを寄せている。怒らせたら面倒だなと思いつつも、進行方向にいきなり現れたのはいただけない。
 通せんぼと言わんばかりに、俺と向き合っている男のほかにも何人か後ろに控えている。

 白い騎士科の制服――みたことのある顔に、俺は内心ため息が出た。
 友だちができないのも苦しいが、面倒なやつに絡まれるのもまた苦しい。


「何ですか。アロイス・アインファッハ先輩」
「フンッ、覚えているだけましだなあ?」
「……それで、何の用事でしょうか。いきなり現れて、道をふさいで……上級生だからといって許される行為じゃないはずですが?」


 アロイス先輩の取り巻きだろうか。俺が睨みつけると、少しだけ肩を震わせて視線をそらした。
 そんな自身の取り巻きに対し、アロイス先輩は「こんなやつにビビッて恥ずかしいやつらだな」と怒声を浴びせる。
 性格はあの日から変わっていない。
 俺たちはこの男のせいで誰もよってこなくなったというのに、どうしてこの男は俺に絡んでくるのだろうか。あの日、腰を抜かして恥をさらしたっていうのに、どうやら懲りていないらしい。


「少し面を貸せ。ニル・エヴィヘット」


 アロイス先輩はくいっと顎で指示を出した。取り巻きたちはその動きに合わせ、俺を囲んだ。逃がす気はないらしい。
 一体何をしたいのだろうか。
 セシルがいたらまた怒っていそうなところだが、俺はあいにく平和主義者だから波風立てたくない。俺が我慢すれば済む話であるなら、より一層黙ってついていくだろう。かといって、一方的にいじめられるのは趣味じゃない。


「拒否権は?」
「あの日のことについて謝りたい」
「……本当ですか?」


 あの日というのは、入学式後のあのエキシビションマッチのことだろうか。
 だが、どう考えてもこの男が謝るわけがない。口ではそう言っているものの、目がどう見ても謝る人の目をしていないのだ。


(さて、どうするべきか……)


 学内での魔法の私用は禁止されている。もちろん、正当防衛でも何でもない暴力も禁止だ。そんなことすれば速攻で停学処分か、悪くて退学処分だ。
 だから、こう囲まれてしまうと身動きが取れないのだ。
 仕方なくついていくしかないのか、と俺はアロイス先輩を見た。アロイス先輩は勝ち誇ったような笑みを浮かべており、下品に笑っている。


「本当に謝る気ならいいですけど……だったら、この周りの先輩たちは関係ないのでは? ここで謝れない理由でもあるんですか?」
「生意気な後輩だなあ……あの日もそうだった。お前は生意気すぎる」
「……生意気って」


 俺のどこをどう見たら生意気って思うんだろうか。いや、この人にはそう見えているっていうだけで実際、俺は周りから見たら生意気ではないのかもしれない。
 すでに青筋を立てているアロイス先輩は、俺に殴りかかってきそうな勢いだった。
 ここはどうにか穏便に済ませたいのだがムリみたいだ。
 心の中にため息がたまっていく気がする。そんなふうに、どうしようか悩んでいると、先輩の取り巻きの一人がポンと彼の肩を叩いた。


「後輩が怖がっているだろう? アロイス。少しは落ち着きたまえよ」
「ベルノルト……」


 先輩の肩を叩いたのはクリーム色の髪を緩く一つに束ねた男だった。物腰柔らかそうな雰囲気で、言葉遣いも丁寧で気品がある。アロイス先輩の隣に立つとそれがより一層際立ってしまって、アロイス先輩の下品さというか品のなさがうかがえる。
 ベルノルトと呼ばれた男は、騎士科の制服を着ているところから彼もまた先輩だということがうかがえる。アロイス先輩に物申せるほど、剣の腕がたつということだろうか。アロイス先輩の性格からして、そういう人間でなければ認めないだろうし……
 俺は二人の様子をうかがいながら見ていると、ベルノルト先輩と目があった。


「これは失礼。自己紹介が遅れてしまったね。僕は、ベルノルト・フェアツェーレン。アロイスと同じ騎士科に所属する四年生だよ。君の先輩にあたるのかな?」
「フェアツェーレン……俺は、ニル・エヴィヘットと言います。一年生です」


 アロイス先輩よりやりやすいな、と俺は自己紹介を返した。
 やはり、四年生だったのか。腰に下げている剣はいいものだし、アロイス先輩の緩衝材になっている感じがして好印象だった。しかし、なぜか俺のことをじろじろと見てくる。
 フェアツェーレンという苗字は聞いたことがあった。確か、子爵家だ。
 自分の家のことを言ってきそうなアロイス先輩だが、ベルノルト先輩には強く出られないらしい。やっぱり仲がいいか、それなりの付き合いということだろうか。
 ベルノルト先輩に言ったら、この茶番をどうにかしてくれるだろうか。
 そんな期待はあったが、期待して裏切られるよりかは自分でこの場をどうにかしなければと思い直す。
 元はと言えば、俺たちがあの場でアロイス先輩に恥をかかせたのが原因だ。もちろん、それが悪いことだとは思わなかった。


(もしかして、周りが避けてるのってアロイス先輩のこともあって?)


 さすがにそれは考えすぎだろうか。


「あの、俺そろそろ寮に戻りたいなと思ってたんですけど……通してもらえますか?」
「ああ?」
「まあまあ、アロイス。後輩くんが怖がるから抑えて、抑えて……それで、ここを通りたいんだよね」
「はい」
「君は実に勤勉だね。寮に戻って勉強でもするつもりだったんだろう? アロイスが邪魔をしてしまったみたいだね」
「い、いえ……」


 にこりと微笑まれ、俺は少しだけ緊張が和らいだ。
 この人数を相手できないわけではないが、面倒ごとと大事になるのは避けたかった。それに、俺が面倒ごとを起こしたり、巻き込まれたりしたらまず連絡が入るのが父なのだ。帝国騎士団騎士団長である父は忙しいし、俺を信じて学園に送り出してくれている節はある。なのにもかかわらず俺のことで学園に来ることになったら……父の顔に泥を塗るかもしれない。
 俺が騒ぎを起こしたんじゃないにしろ、騒ぎになる前に収拾をつけろとも言われそうだし。
 今回は理不尽な絡まれ方をしているけれど。

 ベルノルト先輩がアロイス先輩を優しく諭してくれるので、いくらか気は楽になったが、アロイス先輩は俺をここから逃がす気はないようだった。いい加減諦めてほしかったし、セシルが帰ってきたらまたことが大きくなる。
 もしかしたら、俺が一人のところを狙った可能性もある。
 俺はまだ一年生だし四年生とのもめごとは避けたい。


「ほぉら、アロイス? 後輩くんを困らせてないで帰るよ」
「待て、ベルノルト!! 俺は、あいつに用があるんだ。何を勝手に切り上げようとしている!!」


 ぐいぐいとアロイス先輩はベルノルト先輩に押されていく。取り巻き立もどうすればいいか分からないといった感じで互いに顔を見合わせていた。
 というか、ベルノルト先輩もアロイス先輩がこうなる前に何かしてくれればよかったのに、と思わないでもなかった。
 そうして、アロイス先輩はベルノルト先輩に連れられどこかに消えてしまう。そのころには俺の周りにいた彼らの取り巻きたちもフッと消えていた。
 一体何だったんだ。


「はあ……」


 俺は彼らが立ち去った後ため息をついた。ようやく口からため息を出しても許される状況になったのだ。胸からたくさんの息が吐きだされた。
 それからしばらくは放心状態で突っ立っていた。もう面倒だし、呆れて何も考えたくなかったのだ。
 そうして寮の付近でずっと立ち尽くしていれば、後ろから誰かが歩いてくる足音が聞こえた。また、アロイス先輩だったらどうしようと思っていたが「ニル」と俺の名前を呼んで走ってきたその音を聞いて俺は振り返った。


「セシル……」
「いったいどうしたんだ。こんなところで突っ立っていて……それに、とても疲れた顔をしている」
「わかる?」
「ああ。お前のことならすぐに気が付く」
「へへ、それは嬉しい」


 セシルは大丈夫か? と俺の顔を覗き込んだ。俺は心配を駆けたくなくて一生懸命笑って見せたが、これじゃあ空元気だな、と自分でも取り繕うのをやめようかと思った。それくらい、先ほどの出来事はショックというか、面倒だったなと呆れているのだ。


「セシルの用事は終わったの?」
「ああ、大した話ではなかった。五月に行われる大会についての事前調査的なものだ」
「ああ、学校の恒例行事のね。セシルが楽しみにしているやつ」
「そうだ。楽しみには楽しみだが……」
「どうしたの?」


 セシルはそこまで言って言葉を区切った。
 セシルのいう大会というのは学科別剣魔大会のことだ。各学科ごとに試合をして勝ち進んでいくトーナメント戦。学年の垣根を越えて当たる試合はそれはもう白熱すると、学園に通う前から噂されていた。外部の人間も申請すれば身に来れるし、学園の伝統行事ということもあって盛り上がりは尋常ではない。
 そして、普段は関わることのない上級生と一騎打ちできる機会なので、それはもう楽しみなのだ。
 だが、セシルの顔を見ていると、どうやら気になる点があるらしい。
 もしかして、と俺はセシルの顔を見た。


「この間のエキシビションマッチのこと?」
「……そうだな」


 セシルは、はあ、とため息をつきながら言って額を押さえた。
 セシルにとってもあのエキシビションマッチは最悪の出来事として記憶されているらしい。四年生もあの試合には出るので、アロイス先輩が強いのであれば当たる可能性はあると。別にセシルは誰と当たろうが全力を尽くすが、試合に私情を持ち込まれることを嫌っている。俺だってそうだ。
 それやら、他の細かな要因が積み重なってセシルを悩ませているに違いない。
 これは先ほど絡まれたことは絶対に言わないほうがいいなと、俺は口をぎゅっと結んだ。


「まあ、些細なことだったが……学園長に、相手を殺してはいけないぞと言われてしまった」
「うぇ、そんなこと絶対にないのに。てか、手加減しろって遠回しに言われてるようなもんじゃん」
「ああ、だから少し気に食わない」
「だろうね。セシルの性格からしたらそうだと思う。でも、セシルが全力で戦える相手がいないっていうのも問題、というか……それは、楽しめないかも」


 セシルは強いし、そんな全力のセシルを受け止められる相手がこの学校にいるだろうか。だって、あのエキシビションマッチは一番強い騎士科の学生に……というていだったし。そうなってくるとアロイス先輩が現状一位ということにもなるが。
 新入生もアロイス先輩にボコボコにされていたし。
 でも、こればかりはどうしようもない。


「なるようになる、かな? 楽しんだもん勝ちってところもあると思うし」
「それも一理あるな。それに、強い奴ならいる」


 と、セシルはフッとこうかくをあげてわらった。

 誰だろう? と思ってみていると、ジッと彼が俺のことを見つめていることに気が付いた。
 俺は、自分を指さして少し首を傾げる。


「俺?」
「ああ、ニルしかいない。手合わせとは違って会場も広いし、ニルと決勝戦で当たるのは楽しみだ」
「それまでに俺が負けたら?」
「お前は負けないだろう。少なくとも、俺の護衛であり親友のニルは、他の奴に負けないと思っている」
「調子のいい……でもそうだね。セシルと戦えるんだったら何が何でも決勝まで勝ち進むよ。セシルもコロッと負けないでね?」


 少し先の話だけど、そんな話をできたのはよかった。
 先ほどのモヤモヤはセシルと話しているとフッと消えてしまった。やっぱりセシルと話すのは楽しいし、彼が隣にいてくれるのは嬉しかった。


「ニル、寮に戻るか」
「うん。それと、君を待っていたんだよ」
「何故だ?」
「うーん、君と一緒にいたいから? やっぱり、セシルと一緒にいるのが楽しいし。一人は寂しいよ」
「……嬉しいことを言ってくれる」


 セシルは俺の指先にチョンと触れた。それが、手をつなぐ合図だと思って俺は彼の手を握り返す。すると、セシルは少し頬を赤く染め、嬉しそうにはにかんだ。


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