みんなの心の傷になる死にキャラなのに、執着重めの皇太子が俺を死なせてくれない

兎束作哉

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過去編~あの頃の僕ら~

05 めんどくさくてかわいい親友

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 何だか微妙な空気が流れている気がする。

 楽しみにとっておいたデザートに俺は手を付けられずにいた。それもこれも、セシルの機嫌が悪いせいだ。
 初めて、俺たちの目の前に座ってくれたベルノルト先輩。セシルは、学友ができなくともいいと言っていたが、先輩後輩の付き合いはそれなりにあったほうがいいんじゃないかと俺は思っていた。しかし、蓋を開けてみると、セシルは本当に学友などいらない、むしろ迷惑だという顔をしているのだ。いや、今日だけが特別なのかもしれない。
 セシルだって、皇太子として見られるよりかは一学生として見られたいと思っているはずなのだが……


(なんだか気まずい……)


 せっかく、俺を見つけて話しかけてくれたベルノルト先輩には申し訳ないことをしているなという気持ちになってくる。
 俺が誰とどこで知り合おうが、セシルに迷惑はかけないはずだ。
 ちらりとセシルを見ると、俺と同じように残りはデザートだけになっている。トレーの上には俺と同じガトーショコラが乗っており、それに手を付けた様子はない。


「セシル、何起怒ってんの?」
「怒ってなどいない……はあ、そうか。フェアツェーレン先輩は、どこでニルと知り合ったんだ?」


 と、セシルは髪をかきあげ息を吐いた後ベルノルト先輩に尋ねた。

 ベルノルト先輩は、セシルが機嫌が悪いなどと思っていないのか、にこりと爽やかな笑みを浮かべていた。


(それ、俺が利かれたくなかったやつ!!)


 あのアロイス先輩に絡まれているときに助けてもらったというのが、俺とベルノルト先輩が知り合うきっかけだったわけだが、アロイス先輩に絡まれていたことはセシルに知られたくなかった。それこそ、どうして話してくれなかったんだと怒られるに違いないから。
 別にセシルにすべてを話さなければならないわけじゃない。そんな命令をされているわけでもない。
 仮に、セシルに関わることであればどんなことでも話すつもりだが、個人的に絡まれた俺関連のことであるため話す必要はないと俺がかってに判断した。


「後輩くん……ニルくんが、あの入学式後のエキシビションマッチであのアロイスにぎゃふんと言わせたのは覚えていますか? 皇太子殿下」
「ああ……あの下劣……ではなかった、あの傲慢な先輩のことだな」
「セシル、それ言い直しても意味ないよ……」


 セシルもまあ、そりゃ覚えているか……言い方があれなせいで、根に持っていそうだなとは思った。俺もあの日のことは忘れられない。騎士としてあるまじき姿だと今でも思っている。そんな先輩に、その後も絡まれた……なんては一言も言っていないが。
 ベルノルト先輩、どうか素直にそのまま話さないでください、と俺は願いつつスプーンを手に持った。


「そう! そこで、アロイスをぎゃふんと言わせたニルくんのことが気になってね。この間廊下ですれ違ったとき、僕から声を駆けさせてもらったんですよ。ね? ニルくん」


 と、聞かれ、俺はハッと顔を上げる。

 ベルノルト先輩はウィンクで俺に伝えてくれた。どうやら、話を合わせろとのことだ。
 本当に気が利く先輩だと俺は感激しながら、うんうん、と首を縦に振った。
 セシルは、じとっと俺とベルノルト先輩を見たが「そういうことなら……」と納得してくれたらしい。セシルに嘘をつくのは嫌だったが、バレなければ後々面倒なことにならずに済む。セシルはたまーに過保護だし、俺のことになると周りが見えないので、話題選びは慎重になる。
 本当は全部話せるほどの仲でありたいとは思うけれど、セシルにあれこれ余計なことを考えさせたくないと俺が彼に気を使ってしまう。もちろん、単に自分が言いたくない話もあるのだが。
 でも、基本的にはセシルにすべて伝えて情報は共有しておきたい。嘘だって本当はつきたくない。だって親友だから。隠し事はなしでいたい。


(けど……相手を守るための嘘ならいいよね)


「ニル、それでも話してくれてもよかったんじゃないか?」
「ええ、何で。先輩から話しかけてくれて、知り合ってまだ本当に間もないから。俺のこととか忘れてると思って」


 追及されれば追及されるほどぼろが出そうになる。それを必死に嘘で取り繕って、何重にも言葉を重ねていく。
 でも、それは中途半端でいつか本当に矛盾点をセシルに突かれそうだ。
 俺が対応に困っていると、ベルノルト先輩が「そうですよ。皇太子殿下」と割って入ってきた。セシルは、またも嫌そうな顔をしてベルノルト先輩のほうを見る。


「すまない、先輩。今、俺はニルに話を聞いている途中なんだ。後にしてくれないか」
「セ、セシル……仮にも先輩なんだから」
「相手が上級生なことは承知だ。だが、まだ出会って日が浅いのだろう? ずっと一緒にいる俺の話よりも重要か?」
「う~~~~セシル怖い」


 俺がそう口にすると、セシルはショックを受けたように、なっ、と声を漏らした。それから「怖い、のか。俺が」とさらに肩を落としてうつむいてしまう。


「すまない。ニル……少し言い過ぎたかもしれない」
「いいよ。気にしてないし。それに、出会って間もないのは本当だから、その……ほら、俺たちにもいい先輩ができたってことじゃん!」
「……そう、なのか?」
「うん。ベルノルト先輩は優しいよ」


 俺がそういうと、セシルは「俺よりもか?」と聞いてきた。
 また返答しづらいことを言い出したな、と俺はセシルを見た。しかし、セシルがあまりにも捨てられた子犬のような目をしていたから「セシルも優しいよ!」と声を振り絞ってセシルに伝えてあげる。何だか、めんどくさい親友を持ったようだ。
 セシルは俺がそういうとぱっと顔を明るくさせ、俺の手を握った。セシルの手は燃えるように熱い。


「そうか。よかった。俺も、ニルのこと……とても優しいやつだと思っている。世界一やさしい」
「大袈裟な……って、セシル。ベルノルト先輩が前にいるんだから、会話にいれさせてあげてよ。無視するのも悪いでしょ?」
「……ニルがそこまで言うならしかたがない」


 仕方がないって……なんだか今日のセシルはちょっと変だ。
 甘えたというか、嫉妬しているようにも見えるというか。あれだ、子供の癇癪みたいなものではないだろうか。ずっと好きで一緒にいた人を、いきなりとられてしまった悲しみ的な。
 俺は別にベルノルト先輩が好きーってわけじゃないし、気のいい先輩だなという程度にしか思っていない。まだ仲がいいかと言われたらそんなんじゃないし、出会って数回である。でも、こうして話しかけてくれるところを見るといい人だなとは思うんだけど。
 セシルはまだあって間もないのでその良さに気づいていないだけだろう。


「すまない、見苦しいところを見せたな。先輩」
「いえいえ、皇太子殿下とニルくんは仲がいいんですね」
「ああ、ニルとは乳兄弟で、ニルは俺の護衛だ。幼いころからずっと一緒にいる」
「そうなんですか。特別なんですね」
「そうだ。特別だ……だから、ニル。俺の知らないことがないようにしてほしい」
「ええ……」


 何それ束縛じゃん、と口にしかけたがやめた。ただ、普通にこれまで何かあれば逐一セシルに報告していたような気もする。だから、今回のようなことは初めてだったような気もしたのだ。
 ずっと変わらないものなんてないわけだけど、俺たちも大きくなったんだし、そんなちょっとしたことまでほうれんそうしなくてもいいんじゃないかとは思う。でも、セシルは気が済まないんだろうな。
 今回のようなことが初めてで、セシルも少し混乱しているのだろう。俺が何も言わなかったから。


(ちょっとめんどくさいけど……まあ、セシルだし)


 たったそれだけのことで俺たちの仲が悪くなるわけじゃないだろうし、仲が悪くならないだろうとは思う。でも、もしも、セシルに愛想をつかされたらそれも嫌だと思ってしまうのだ。


「わかったよ。今回は俺が悪かったって。ごめん」
「……っ、いや、すまない。お前を本当に責めているわけじゃないんだ」
「いや、責めてる言い方だったじゃん」
「反省している」
「なんか、セシルが反省しだした」
「心の狭い男ですまない。後でなぐっても一発だったら赦してやる」
「殴らないって。もー落ち込まないの! 俺じゃなかったら、めんどくさいって言われてるよ」


 俺はポンポンとセシルの背中を撫でた。
 こんなセシルを見るのは初めてかもしれない。めんどくさくはあるけれど、なんだかしゅんとなったり怒ったりかわいくも見えた。俺のことで百面相しているセシルはちょっと見ていて面白い。
 そんなセシルを見ていると、ふふっと笑う声が聞こえた。声のした方向を見ると、ベルノルト先輩が「これは失礼」と口元にあてていた手を下ろす。


「微笑ましいね。ニルくん」
「え、ああ、はい。セシル……皇太子殿下とはこんな感じでやってます。あ、でも俺はちゃんと殿下の騎士としての仕事はこなしているつもりです。まだまだ未熟ものではありますが、この命に代えても、殿下をお守りすると誓っているので」
「へえ、本当にしっかりしているんだね」
「……? はい」


 ベルノルト先輩は、一人うんうんと頷きながら笑っていた。
 ちょっと改まっていってしまったが、おおよそ内容はそのままだ。俺はセシルの護衛騎士として彼を常に守る立場にいる。未熟も度だとは思いながらも、百二十パーセントの気持ちと力でいついかなる時もセシルに迫りくる危険を打ち払う剣であり盾でありたいと思っている。
 まあ、そんなことがないのが一番いいのだが、もしもという可能性は十分にあり得るのだ。
 そんな俺の話を聞いて、セシルは誇らしげに笑っていた。


「セシル、嬉しそうだね」
「当たり前だろう。誇らしいんだ。そう、周りの人間に宣言するお前があまりにも凛々しくてかっこいい」
「恥ずかしいこと言ってくれるなあ……」


 先ほどまでモヤモヤとしていたが、その言葉ですべてを許してしまう俺は相当セシルのことを思っているんだと思う。親友として、俺たちは大きな喧嘩をしてこなかったし、ずっと仲良しだ。周りには主人と護衛として通っているかもだけど。俺たちの関係は特別なのだ。


「あはは、なんだか僕はお邪魔みたいだ」
「そ、そんなことないですよ。ベルノルト先輩。ね、セシル」
「邪魔と思ったことはない」
「ですので、大丈夫です。ああ、あと、その……俺たちの前に座る人ってこれまでいなくて、ベルノルト先輩が初めてのお客さんみたいな感じなんですよ」
「そうだったのかい? こんなに話しやすい後輩なのに、どうしてみんな避けるのかなあ? みんなもったいないことをしているね」


 と、ベルノルト先輩はいって周りを見た。俺たちが話しているのを不思議そうにみている学生は何人かいた。そして、自分たちも座ってもいい? と顔を見合わせて喋ているようにも見える。

 ベルノルト先輩をきっかけに話しかけてくれる人がいればいいんだけどな、と思いながら俺はようやくガトーショコラに手を付けることができた。
 場も柔らかくなってきたし、このまま普通に先輩後輩同士、学園の話とか授業な話とかできればいいなと思う。
 そう思ってベルノルト先輩を見ていると、何かを思いついたかのように顔を俺のほうへ向けた。


「ニルくんさえよければなんだけど……ああ、もちろん皇太子殿下も。放課後僕の部屋に遊びに来ない? ちょうど、今、ルームメイトが風邪で実家に帰っていて一人なんだ。ちょっと寂しくってね」
「ルームメイトがですか……? それは大変そうで。セシルどうする?」
「別にいいんじゃないか? 断る理由もないだろう」


 というわりには、顔はあまり乗り気じゃないように思う。
 でも、セシルの了解も得たし放課後にお邪魔させてもらうか、と俺はベルノルト先輩に行きますと伝えた。ベルノルト先輩は、快く俺たちの訪問を歓迎してくれて、部屋の番号を教えてくれた。それから、他愛もない話をして、ベルノルト先輩は俺たちより先にその場を去った。


「セシル、いい先輩でよかったでしょ」
「そうだな」
「あれ? ガトーショコラ残ってる? 食べないの?」
「いや……ニル、食べさせてくれるか?」
「ええ!? な、何でよ。自分で食べなよ」
「食べさせてほしい気分だ」
「このわがまま皇太子……ダーメ。誰が見てるかわかんないし、食べるまでちゃんと隣にいるから。なんなら、食べるとこ見ててあげるよ?」
「それも、よくわからないだろう。恥ずかしいな」
「ん~じゃあ、見ててあげる」


 セシルがほんのり耳を赤く染めたので、俺はからかってやろうと、少し距離を縮めてみた。すると、セシルは、さらに顔を赤く染め「近い!」と言い出す。いつも近いのはセシルなんだが、これはこれでありだと思った。
 学園に来てから本当にセシルの色々な顔を見ることができた気がするので嬉しい気持ちもある。やっぱり、この学園に来て正解だったのだと。


「何笑っているんだ、ニル」
「別に~ガトーショコラ美味しかったよ。セシルも美味しいって思ってくれるかな~って」
「何だそれは。だが、ニルがお勧めするものなら美味しいのだろうな」


 そういって、セシルはガトーショコラにフォークをスッと入れた。俺はそんなセシルの横顔を見ながら、この横顔をこんな間近で見れるのは自分だけなんだよな、とちょっとした優越感に浸るのだった。

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