幼馴染の君は勇者で、転生モブAの僕は悪役令息の腰巾着~溺愛なんてしないで、世界を救いに行ってください勇者様!!~

兎束作哉

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第1章 君は勇者

07 夜会にて君に再会

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 シャンデリアの明かりはいつ見ても眩しい。
 ゆったりとしたワルツが流れ、宝石をまとい、輝くドレスや上等なフォーマルに身を包んだ貴族たちが、会場にはあふれていた。
 元は平民だったから、やっぱりこういう場所は慣れない。そわそわするし、場違いなんじゃないかって思ってしまう。
 僕の手をつないでいたルーカスは、初めての夜会に心を躍らせていて、そわそわと僕の手を握ったりはなしたりしている。


「おにーさまと夜会! すっごく楽しみ」
「ルーカス、でも、気をつけてね? 変な人についていっちゃだめだからね」
「わかってるよ。おにーさま。おにーさまも、変な人についていっちゃだめだから! め!」


 と、ルーカスは僕に手でバッテンをつくっていう。いちいち、仕草がかわいすぎて、僕は抱きしめたい衝動にかられた。いつか、ルーカスに血がつながっていないことをいう日がくるんだろうけど、きっとルーカスは僕のことを受け入れてくれる。そんな気がするのだ。
 赤い絨毯が敷かれた会場の端で、僕たちは父親であるロイファー伯爵に「挨拶してくるから、待っていなさい」と言いつけられる。ルーカスは「はーい」と元気よく答え、伯爵を見送った。
 貴族の付き合いは大変そうだ、と僕はあたりを見渡した。


「今日は、運がいい。勇者様も出席するそうよ」
「まあ、勇者様が。一目あってみたかったのよね」
「ほら、エルフォルク公爵家に引き取られたとか。とても、美しい方だそうよ」
「……アル?」


 聞こえてきた声に、僕は思わず耳を傾けた。それは、婦人たちの会話だった。その会話の中に『勇者』の単語が混じる。
 そういえば、この間きた夜会よりもうんと豪華な気がした。それは、あの『勇者』が出席するからだろう。みんな、一目、勇者に会いたいとそんな気が漂っている。どうりで、今日が社交界デビューの令嬢たちが多いわけだ。少しでも勇者に気に入られようと、親も必死なのだろう。


(……アルに、アルに会えるってこと?)


 数年間、どこで何をしているかわからなかった幼馴染に。待っていてと約束をしていってしまった幼馴染に。
 胸の中にともった光というのは温かくて、心臓が早鐘をうつ。
 こんなにも多くの人の中から見つけられるか不安だったし、姿を見ることも不可能かもしれない。それでも、アルフレートのことなら、どこにいても見つけられる自信があった。


「テオフィルおにーさま、どうしたの?」
「えっ、ああ、何でもないよ。る、ルーカスは、勇者様のこと知ってる?」
「もちろん! 勇者様は世界を救う英雄のことだよ」
「まだ、英雄じゃないけどね。でも、きっと、英雄になる……」


 小さいルーカスでも勇者の存在はしっている。勇者の存在というのは、このミルヒシュトラッセ王国の光なのだ。もっと言えば、世界の光。災厄を討ち滅ぼせる唯一の存在。
 勇者については、まず、何よりも先に習うことだった。この国の、この世界の歴史において重要な存在であるから。偉人の中でも、英雄と呼ばれる超偉人なのだ。
 ルーカスは「勇者様に会えるの?」と、周りの会話を聞いていたらしく僕に尋ねてきた。僕も、実は初耳だった。ロイファー伯爵がルーカスの社交界デビューをこの日に合わせたのは、意図的だったのだと今分かった。伯爵も、勇者とルーカスの交流を期待しているのだろう。


「あ、おとーさま!」
「大人しく待っていたか。ルーカス、テオフィル」
「はい、伯爵様」


 挨拶を一通り終えたのか、戻ってきた伯爵は、襟を正して僕とルーカスを交互に見た。まだ、アルフレートはこの会場に来ていないらしい。
 伯爵のトパーズの瞳は僕のほうに向けられた。


「今日は、勇者様がこの夜会に出席するそうだ。ルーカス、勇者様に無礼がないように挨拶をするんだぞ」
「はい! おとーさま」


 ビシッと、ルーカスは胸に手を当てて敬礼する。
 やっぱり、ルーカスと、アルフレートの関係を進めたいのだろう。ゆくゆくは勇者パーティーにでも入れてもらえればという魂胆だろうか。
 大事にしてもらっている伯爵のことを、そんな目で見ようとは思っていなかったが、ここは貴族社会。僕が住んでいた村の生活とはまた違う、権力や金、力のつながりを大切とする世界。それが汚いとは思わないが、アルフレートがそういう目で見られるのは嫌だと思った。


「テオフィルはどうする?」
「僕は、ここでルーカスを待っています。勇者様は、すぐに来られるわけではないでしょうし」
「そうか……だが、いいのか?」


 と、伯爵は僕を心配そうに見た。

 いいのか? とは、何がだろうか。考えて頭をひねったが、すぐには出てこなかった。


「……勇者様は、同郷のものだろ。だから、挨拶はしなくていいのかと聞いているんだ。テオフィル」
「え……っと、そうですね。でも、そう、ですね。挨拶は、したいかもです」


 はっきりと、挨拶をしたいと言えればよかったのに、口にすればするほど自信がなくなってくるのだ。
 悪夢で見た、自分のことは忘れ去られているんじゃないかって。それが正夢になったらと思うと、自分から挨拶しに行けない。
 身分的には、僕が伯爵子息で、アルフレートが公爵子息だから、別に問題はないだろうし、ちょっとしゃしゃったところで、ロイファー伯爵家は強いから、なんとも言われないだろう。
 伯爵は、ルーカスと同じトパーズの瞳で僕を見て、それから息を吐いた。


「家庭教師のこと、私が、引き取ったことを恨んでいるか?」
「え?」


 次に、伯爵はそんなことを口にした。
 どうして、次から次に思いもよらない言葉をかけられるのだろうかと、僕は伯爵のほうを見る。僕をいたわるような、それでいて、罪悪感渦巻く目が見降ろしている。
 その眼は、以前、僕があの村を旅立つ際に両親に向けられた瞳と一緒だった。


(……そんな顔、しないで、ほしいのに)


 自分が悪いって、せめているような顔。
 両親は、一緒にいたいといってくれた。けれど、僕の新たな生活への希望も口にしてくれた。こんな村から、伯爵家に! そう、喜んでくれた。でも、それ以上にやっぱり、悲しんでくれて。一緒にいたい気持ちをどうにか押し殺していた。その眼を一生忘れない。
 それに似た目を、伯爵はしていた。


(引き取ったこと、恨んでなんかない。じゃなきゃ、またこうして、アルフレートと会える機会に巡り合えなかったから)


 実際にアルフレートがここに来るかわからない。それでも、もう会えないと思っていた幼馴染に会えるのなら、それは幸せなことだろう。
 僕は、首を横に振った。


「そんなこと思っていません。家庭教師も……僕が、もっとしっかり意見を言うべきでした。引き取ってもらえたこと、こんな僕でも引き取ってもらえたんだって。今の生活、すごく好きです。ルーカスっていうかわいい弟もいて。夫人も、伯爵も優しくしてくれるので。不幸だなんて、全然思っていませんから」
「テオフィル……」


 伯爵の目から少しだけ曇りが消える。それでも、まだいろいろと思っているようだった。
 今日の夜会は、こんなことを話すために来たわけじゃないだろう。けど、僕の顔が、伯爵を不安にさせてしまったのだ。
 僕は、無理やり笑って伯爵を見る。伯爵は僕のその顔の裏に隠された気持ちをさしたらしく「そうか、好きにしなさい」と言ってくれた。僕の手をつないでいたルーカスには何が何だかわかっていないようだったが、今はそれでいいだろう。


「ありがとうございます、お、お父様」
「……っ、はは、初めてそう呼んでくれたな。テオフィル」


 と、伯爵は噴き出すように笑うと、僕の頭とルーカスの頭を撫でた。ルーカスは嬉しそうに唇を突き出してにこにこと笑っている。

 僕も、二人目の父親に複雑な感情を抱きながらも、これでいいんだ、と笑うことができた。
 そんなふうに、家族で談笑していると「勇者様よ!」と、誰かが叫んだと同時に、会場中がわく。
 この夜会には、ミルヒシュトラッセ王国の王家、王太子殿下も出席しているというのに、勇者への注目はそれ以上のようだ。そもそも、王太子殿下がどこにいるかすらわからない。
 人の波が一気にできて、その中心にアルフレートがいるんだろうということが分かった。僕も、その波をかき分けて一目見たいと思ったが、そんな度胸もなかった。
 みんな口々に「かっこいい」とか「素敵」とかいって、アルフレートの容姿を褒めているようだった。
 数年でそこまで変わらないだろうと思っていたが、背が高い、とかも聞こえてきたため、どんなふうに成長したんだろうかと気になってしまう。


「テオフィル、見えるか」
「い、いえ。人が多すぎて、なんとも」
「やはり、こうなるか。今日は、勇者が初めて夜会に参加する日だったからな」
「そう、なんですね……」


 だから、他の夜会でアルフレートを見た、なんていう話が流れてこなかったのか。僕は納得しながらも、じゃあ、今日はもう戦争のように、アルフレートに人が群がるんだろうな、と覚悟した。その中で、僕を見つけてくれるのかな、と少し受け身にもなりながら、僕はその場で飛び跳ねてみる。だが、自分より大きな大人のせいでアルフレートの姿は見えない。
 アルフレートは、黄金色の麦畑みたいな髪に、ラピスラズリの瞳をしているからすぐにわかるはずだ。僕は、首から下げたあのガラス片を揺らしながらアルフレートを見ようと飛び跳ね続ける。
 すると、人ごみの中から一瞬だけ、あの黄金色を見つけた。


「アル…………!」


 叫びそうになるのを抑えて、彼の名前を呼ぶ。でも、その声は「アルフレート様!」と甲高い少女の声にかき消されてしまう。
 いきなり愛称で呼んだら、それはそれで怪しまれるだろうけど。
 やっぱり、ダメかな、届かないかな、と僕があきらめようとしたとき、また、隙間からラピスラズリの瞳がこちらを見た気がした。
 目があった。あのきれいな瞳に。このガラス片と同じその瞳と。


「……テオ?」


 と、確かに、僕の名前を口にしたアルが、こちらに手を伸ばしたのが見えた気がしたのだ。


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