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第2部3章
10 私だけに◇
しおりを挟む「――いっしょがいいって言ったけれど……!」
「おお、さすがだな。公爵家の使用人は気が利く」
「これじゃあまるで、今からどうぞって言われているようなものじゃないですか!」
お風呂上り、案内された場所は私の寝室ではなく、客室としては豪華な部屋で、そこにはバスローブ姿の殿下が待っていた。
驚いていると「ではごゆっくり」とメイドたちはそそくさと帰っていってしまい、とりあえず、この姿でうろうろとするわけにはいかないので、殿下とともにその部屋に入ったのだが、もうそれはもう豪華にベッドが! 二人で寝られるようにベッドが! 用意してあったのだ。
(こんなところまで、気を利かせてくれなくていいのよ!)
あまりに用意が周到すぎる! リーリエの計らいだろうか。もう、誰でもいいのだが、公爵家につかえている使用人たちの気づかいがすごすぎて、私は倒れてしまいそうになった。恥ずかしさで。
「なんだ? 何か問題でもあるのか?」
「なっい、ですけど……でも、でも!」
「恥ずかしがることなんてないだろう。もうすでに、周知の事実だ」
「周知の事実とか初耳ですが!? 嫌です。そんな、私たちだけのことを、周りに知られるなんて」
「初心だな。公女……ベッドの上ではあんなにもみ――」
「ああ! もう、寝ましょう。普通に!」
おやすみなさい、といち早くベッドに飛び込んで、殿下が寝られるスペースを開け、毛布にくるまれば、ギシィ……とスプリングを鳴らし、私の近くに殿下が腰かけた。サラリと、彼の指先が、私の髪の毛を梳くように撫でた。
「いいだろ。せっかく用意してくれたんだ。楽しんでも」
「楽しんでもではありません! 嫌です、私は」
「一緒にいたかったんだろ? 俺も、同じ気持ちだ」
と、殿下は私の髪にキスを落とす。それがくすぐったくて、その気持ちにさせて、今日は絶対にしないと決めていたのに、彼の匂いが、私の匂いと同じで、それが心地よい。
「殿下……」
「二人きりのときは、名前で呼べといつも言っているだろ?」
「殿下だって……アイン、これでいいですか」
「ああ、上出来だ」
そういうと殿下は、私の毛布をはぎ取って、私の身体も組み敷いた。その近い距離に、くらくらする。殿下の体温を、彼の匂いを感じながら、心臓の音を共有しながら、互いに見つめあう。
「いいか?」
「……もう」
拒否できないようないい声で囁かれては、受け入れるしかないではないか。私よりも一枚上手な殿下に悔しさを覚えつつも、私は彼を受け入れるためにそっと目を閉じたのだった。触れる唇はお風呂上がりだからか、いつもより柔らかくて、ついばむように何度かキスをすれば、口を開けろと言わんばかりに、彼は私の唇を舌でなぞる。
「ん……んんっ」
「ロルベーアのキスは、いつもたどたどしいな……」
「アイン、が……慣れすぎている、だけですっ」
「俺は、ただ求めているだけだ。だが、上手いといわれるのは悪くないな」
そういうと、また彼は私の唇を奪って、そして舌を入れ込んで、私の口の中を犯していく。鼻で呼吸をすると分かっていても、上手くいかなくて、何度キスしても、溺れるような感覚に、私は彼の胸板を叩いてしまう。しかし、彼は一向に私の唇から口を離す気はないらしく、そのまま堪能するように、何度も何度も角度を変えてキスの雨を降らす。背中に腕を回した彼が、指先で背筋をなぞっていけばぞくぞくとした快感が私を襲い、熱い彼の舌が絡んでくれば、私はもうそれ以上何も考えられなかった。ただ今感じるのは、彼だけ。
ふと、目を開けば、そこには私を求め溺れている獣の姿がそこにはあった。
(ああ、私だけ、私だけが知ってる、アインの顔……)
この顔を見られるのは、私だけ、私の特権なんだと、優越感が膨らんでいく。それと同時に、もっと私に溺れてほしい、私以外を目に入れないでほしいという独占欲も膨らんでいく。
つぅと糸を引いて離れていく唇。私たちの間には銀色の糸がひき、ぷつんと途切れた。
「は……ん」
「まだ、足らないが……早く、この熱を」
「アイン、欲しいです」
「……っ、傷つけたくないから、ゆっくりするぞ」
と、殿下は、私のバスローブの中に手を忍ばせた。するりと入ってくる彼の手に、私は身じろぎをするが、彼は気にも留めない様子で私の胸に手を置く。ゆっくりと感触を味わうように触り、揉みしだき、そして胸の先端を指で撫でた。その刺激で腰が疼いてしまうのは致し方ないことである。さらに緩急をつけて触れられればもうたまらない。気持ちがよくて、思わず甘い声が出てしまいそうになるが、それを我慢するように口を手で覆った。しかし、その手はすぐに外されて、殿下は私の腕をシーツに括り付けられ、彼はどこから取り出したのか分からない黒いネクタイで私の視界を覆った。
「え、え、アイン? 何を?」
「今日は、少し趣向を変えてみよう。ロルベーアの顔が見えないのは寂しいが、その分、ロルベーアも気持ちよくなれるからな」
「え、え、きゃあっ!?」
ちゅうっと、胸の先端に吸い付かれ、彼の腰に絡むように足を回してしまう。じたばたと、足を動かそうとしてみるが、彼の身体が密着しているため身動きも取れない。それに、殿下の吸い付き方がいつもと違っていて、まったく感じたことのないような快感でおかしくなってしまいそうだった。
「やぁ……アインっ、いやっ」
「なぜだ? 気持ちよさそうなのに」
「見えなくて、あ、ああっ」
言葉を遮るように強く吸われれば私は軽く達してしまった。胸だけで、お腹が疼き、軽く達してしまうなんて、もうすっかり、殿下に体を作り替えられてしまっている。
視界が遮られた分、次に何をされるか分からず、それが少し怖くもあるが、期待感もあり、あられもない姿をさらしている自覚はあるのに、次は何? と内ももをすり合わせてしまう。くちゅりとそこから音も聞こえ、彼のと息や、シーツをこする音、匂いさえもいつもより鮮明に感じる。
「ロルベーア……本当に、可愛いな」
「……んんっ」
「期待しているのか、よくわかる。ほら、こんなにも濡れている」
「やぁ、ああっ」
くいっと、彼の指が、私の陰唇を撫でる。それだけでも私の身体は大きく跳ねて反応してしまう。指が、一本、また一本と増やされ、たぶん三本はいっているんだろうなというのが、いつも以上にはっきりとわかった。
「ロルベーア、何本入っていると思う?」
「さ、三本……っ、あっ、アイン、きゃぁあっ!? す、吸って!? あ、あ、っ!?」
ぬぷっと抜かれた指の感覚に身震いしつつ、次にやってきた刺激は先ほどとは比べ物にならないくらい大きなもので、殿下が、私の一番敏感なところを、口で吸っていると分かったのはすぐだった。
「あ、やぁあ……っ、だめぇ!」
びくびくとまた大きく私は達してしまう。それでも殿下は私のそこを口で刺激して、舐めていくものだからたまったものではない。絶頂を迎えてもまだ吸い付いてくる彼に何度も繰り返しイカされてもう私の頭はぐちゃぐちゃで何も考えられなくなっていた。
「ロルベーア……」
もう十分すぎるほど潤ったそこから口を離すと、彼は私の足を持ち上げて、そして熱いそれをあてがう。その熱に期待するが、彼の顔が見たくてたまらなかった。
「アイン、お願い、これ、とって……顔、見たいの」
「ん? ああ、そうだな。そろそろ……」
と、まるで何かを待っていたかのように、殿下の手によって目隠しが外される。ぼんやりとした視界、ピントがあってくると、殿下の恍惚とした顔がはっきりと目に飛び込んできた。まるで、メインディッシュを前に喜ぶ獣のようなそんな顔。
「あ……ぇ?」
「もう、すでに出来上がっているような顔をしているな。だが、これからだぞ? ロルベーア」
そういって、殿下は自らの熱を再びあてがい、そのまま勢い良く腰を打ち付けた。すでに何度も達しているそこに、先ほどよりも大きくて熱い熱の塊が入ってきて、私はそれだけでまた達してしまった。
「は、っ……はぁ……」
「あ、んぁあああっ」
達した余韻に浸る暇もなく、殿下はそのまま激しく動き始める。肌と肌がぶつかり合う音が大きく響き、奥を突かれるたびに私の口からはひっきりなしに甘い声が出てしまう。
「ああ! やぁあ! ああぁんっ」
「はっ、ロルベーアの中も熱くて気持ちがいいな。やはり、顔が見えた方がいい」
「あっ、あっ、あぁぁあっ!」
「その、蕩けた顔がたまらない。俺が、そうさせていると思うと、余計に――ッ!」
「~~~~ッ!?」
激しく、繰り返される律動に私は声も出せずにまた達してしまった。びくびくと体が震え、殿下の熱を離さぬようにと無意識に締め付ける。少し苦しそうな彼の声が耳に届きながらも、私はもう何も考えられなくなっていた。ただこの快楽に身を任せることしかできない。
しかし、そんな私に追い打ちをかけるように彼は私の腰を掴んでさらに深くへと押し込んでくる。
「わ、たしもっ」
「何だ、ロルベーア、まだ足りないか?」
「うっ、あああっ、わたし、もっ。貴方に、そんな顔っ……! させているのが、わたしだって、思うとっ、とっても、興奮、しますっ!」
「……っ!」
「へえ?」
殿下のそれが、さらに私の中で大きくなり、次の瞬間にははじけた。
もしかして、私の言葉だけで? と、殿下を見れば、彼はその真紅の髪以上に顔を真っ赤にさせて、プルプルと震えていた。顔を大きな手で覆い隠し、恥ずかしさをこらえるように、私の中から自身を引き抜く。
「あ、いん……?」
「――そうだ。ロルベーアだけだ。俺を搔き乱し、俺がこんなに求めるのは、ロルベーアだけだ!」
「……ひあああっ!?」
そうして、再び、私の腰を掴むと、殿下は私の中に入り込んでいった。先ほどよりも大きくなっているような気もしたが、それを考える暇もなく彼は腰を打ち付けてくる。
「やぁ! あぁん! ああぁっ」
「ロルベーア、ロルベーアッ! 愛おしい俺の、俺だけのロルベーア……っ!」
激しく揺さぶられて、言葉にならないほど感じてしまいながら、私は彼と手をつなぐとぎゅっと力を込める。そうしたら彼も優しく握り返してくれたからそれがうれしくて笑みがこぼれてしまう。そしてそのまま私たちは同時に絶頂を迎えたのだった。
「だから、ロルベーア――――でくれ……俺を、受け止めてくれ」
「……アイン? 今、なんて……」
何て言ったのだろうか。
暗くなっていく視界の中、彼が泣きそうな顔をしていた気がして、私は今すぐに彼を抱きしめて安心させてあげなければと思ったのに。身体が限界を迎え、重い瞼がゆっくりと閉じていった。
(ねえ、不安にならないでよ。私はここにいるでしょう……?)
そう口にしたかったし、伝えてあげたかったのに、散々啼かされた口からは、母音一つ出ることがなかった。
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