婚約破棄を言い渡された悪役令嬢は酔った勢いで年下騎士と一夜を共にする

兎束作哉

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第1章 何かの勘違いよね?

07 意識



「愛してる……か」


 あのあと何とも言えない雰囲気のまま、お出かけは終わり、私はロイから逃げるように自室に閉じこもった。
 あの時の目が、声が脳に焼き付いて離れなかった。あんな、一世一代の大告白みたいな。貴方以外何もいらないとでも言うような、そんな顔をしていらロイに、私はどんな顔を向けていただろうか。私はどんなかおをして彼を見ていただろうか。


(でも、あのあと、彼を邪険に扱ったのはダメだったかも知れない)


 今は答えられない、見たいな曖昧な言葉でその場を切り抜けた。でも、それは、ロイの言葉を真剣な心を踏みにじるような行為だったのではないかと後々思った。あの時、もう少し冷静になれていれば、彼を傷つけずにすんだのではないかと。私は、何度彼を傷つければすむのだろうか。


「はあ……」


 ベッドの上で寝返りを打ち、両目を塞ぐ。何も見たくない。けれど、考えなくちゃいけない。

 上手くいっているつもりだった。

 ロイは、私の初めての護衛で……シェリー・アクダクトにとっても初めての護衛で、きっと生涯彼以外が護衛になる未来なんて無かったはずだ。だから、それはそれは大層彼を可愛がっただろうし、年下の騎士である彼を弟のように思っていたかも知れない。実際、私はシェリー・アクダクトの感情まで分からないので、どんな風に思っていたか知らないけれど。私にとってロイは掛け替えのない存在だった。でも、恋愛対象としては見ていなかった。いつも隣にいてくれて、それが当たり前になって、あの夜の出来事が起こる前までは、男として意識すらしていなかった。それが、今ではどうだろうか。


(ロブロイ・グランドスラム……)


 一年前までは、横暴な態度をとっていた悪女そのものだったのに、私が転生したその日から人が変わったように振る舞いだしたのだから驚いただろう。違和感だって抱いたかも知れない。でも、そんな私を命がけで守ってくれたのだ。
 私が皇太子の攻略に精を出しているときも、彼はアドバイスをくれて。彼は私の恋を応援してくれているものだと思っていた。
 だから、いつからロイが私の事を好きになったのかなんて知らない。でも、あの様子じゃ最近好きになりましたって言う感じじゃないし。本当に分からなかった。


(この関係、終わっちゃうのかな……)


 肉体関係を持ってしまったとバレれば、ロイは解雇だろうし、かといってお父様に、護衛とおつきあいさせて下さいとかいって認めて貰えるかも怪しいし。私の気持ちだって大切にしたい。勿論、ロイの気持ちも。
 だから、何が正解で、どう結論を出せば良いか分からなかった。
 ロイは、あれから私を訪ねてきていない。彼は、騎士団の仲間と仲良くやっているだろうか。総入れ替えしたから、かなり彼にとっても良い環境になったはずだ。それでも、一番年下なのは変わらなかった。けれど、前よりも顔色が良い気がする。


「はあ……あーもう、ダメ!」


 ぐだぐだと考えるのはやめようと思った。よくない。だって、答えが出ないから。

 婚約破棄されて、ヤケ酒してその勢いで一夜を過ごしました。告白されました。私はなかったことにして過ごしてました、また告白されました。もう、逃げ場はないだろう。

 それに、皇太子の婚約者だったけど、彼と結ばれたいって思っていたのは、ゲームの推しだったから。だから、loveだけど恋愛的なloveというより尊い存在というか、何というか。もしかしたら、恋愛感情というものを間違えて認識してしまっていたのではないかと。一年前は、断罪される未来だけは避けたい、婚約破棄なんてされたくないって躍起になっていたけど、悪役令嬢がヒロインに叶うはずもなかった。ヒロインを見た瞬間、ああ、私はこの子に勝てないって敗北宣言を出してしまうほどだったから。
 ヒロインとシェリーに差があるかと言えばない。いや、厳密に言えば可愛いヒロイン、綺麗なシェリーといった感じだろうか。同じ物差しでは測れない。でも、絶対的ヒロイン力というか、それを見せつけられれば、もう何も言うことは出来なかった。
 いとも簡単に私の一年を踏みにじって、皇太子殿下をかっさらっていった。というか、よくよく思えば、婚約者がいるのに他の女にうつつを抜かす男はそもそもダメだろう。浮気だ、浮気。そう思えば、私が他の人に恋をしていると知りながら、応援し、その恋を隠してくれたロイこそが、素敵な男性と言えるのではないか。思えば、今は皇太子に未練は無いし。

 今、私の頭を支配しているのは、ロイだ。


「ロイの方が、顔はタイプだし。ちょっと大人しいけど、可愛いところあるし、それに、ちょっと強引で……」


 私のことを思ってくれる健気な子は近くにいた。
 靡いてくれない、愛してくれない皇太子よりもよっぽどロイの方が良いのではないかと。
 この考え方は、ダメかも知れないけれど、彼と過ごして、過ちを犯して、私も知らぬ間にロイを意識するようになっていたのだ。


『俺の事、男として意識して下さい』


 ロイの言葉が頭の中で再生される。

 うん、もう意識していたと。

 彼の声を、あのワインレッドの瞳を思い出して、脳がぽやんと溶け出す。まるで、アルコールを摂取したときのような感覚だった。あの日もこんな風に酔って、それからロイに酔わされたのだろうか。
 私はベッドから立ち上がって、彼がいるであろう訓練場に向かうことにした。彼に会えるとなったら、途端に心臓が鳴り出す。身体は正直だ。
 はあ、はあ……と息を切らして、私は廊下を走り、訓練場に向かう。訓練場には既に何人かの騎士達がいて、汗を輝かせながら木剣を振っていた。私に気づくと手を止め、一列に並び敬礼をする。それは、つい最近までみることのできなかった光景だ。本当に、公爵家全体が変わったなあと感心しつつ、私の探している相手がパッと見ていないことに気づく。


「ねえ、ロイ……ロブロイ・グランドスラムはここにいる?」


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