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第1章 何かの勘違いよね?
10 ロブロイside
薄明かりの中、照らされたブロンドヘアはいつにも増して綺麗だった。
「ロイ……」
「はっ……シェリー様、俺はここにいますよ」
サラリとした髪を撫でれば、指の間からその美しいブロンドヘアが流れていく。そうして、彼女の手に俺の手に重ねれば、無意識か、彼女は握り返してきた。
シェリー様の肌は白く透き通っていて、とても綺麗だった。
今まで何度も見てきた身体なのに、今はそれが一層美しく見える。衣服を纏っていないから? いや、きっとそれだけじゃないだろう。俺だけが知っている、俺しか知らない身体。そう思うと、興奮しないはずがなかった。
「初めてじゃないからって、少し大胆でしたね。俺の嘘を本当に信じて……少し危ないが、まあ、俺以外触れさせないからいいか」
他の男がシェリー様に触れるなんて想像するだけで吐きけがする。その腕を切り落としてしまいたいぐらいに。勿論それは、シェリー様の見ていないところで切り落とすだろうが、絶対に容赦はしない。いや、まずシェリー様に指一本、誰一人として触れさせない。シェリー様は俺だけのものだ。
(やっと手に入れたんだから、これくらい良いだろう……)
シェリー様は、俺が初めこそ彼女に媚び、つけいろうとしていたことに気づいていたらしい。俺も、生きるのに必死だった。没落の原因は分かっているし、理不尽なものだと怒りは湧いてきたが、仕方がないことだった。そして、年が若いというだけで下に見られ、挙げ句没落貴族出身だと馬鹿にされた。だから、シェリー様が俺のことを気にかけてくれていた時は正直驚いた。
彼女は、没落貴族出身と言うことしか俺の事を知らないはずだった。何故没落したのか、理由を聞くことなく、彼女は優しくしてくれた。
しかし、俺はこの人のことをよく知らなかった。悪評高い養女の公爵家の令嬢。良い噂は聞かなかった。だが、そんな噂が嘘のように、彼女は俺に優しくしてくれたのだ。初めこそ、自分が生きる為に利用しようと、従順なフリをしていた。今もそれは続けているが、利用するために従順でいるわけでは無く、彼女を自分のものにするために、彼女が気を許せるような利口な人間でいようと思ったのだ。彼女は賢くて、それでいて頼れる人間を欲していた。
シェリー様には婚約者がいた。それも、皇太子という俺達では届かない存在。
彼女は、何故か焦っていた。婚約破棄されるのではないかと、苦しむ日々を送っていた。シェリー様ほど魅力的な女性が婚約破棄などされるものかと思っていたが、内心、婚約破棄されれば、彼女はフリーになるそしたら……と、いつしか考えるようになっていた。その方が都合が良い。婚約破棄され、弱ったところにつけいれば、優しくて弱いシェリー様のことだから、一瞬で堕ちるだろうと。我ながら酷い考えだった。だが、手段は選んでいられない。どうせ、没落貴族出身というレッテルを貼られ、最下層にいるのだから、今更汚い手の一つや二つどうってこと無かった。
欲しいものは手に入れろ。
欲に従順であれ。
俺の中に流れている血がそう言うのだ。
そして、俺はシェリー様を手に入れることが出来た。
彼女に婚約破棄を言い渡した皇太子は見る目がないと思ったが、感謝はしている。だが、やはり捨てたことは許せないのだ。別に俺はそこまで仕組んでいないから。自分で引き起こした結果ならまだしも、おこぼれのようなこの結果に100%満足しているかと言われればノーと答えるだろう。
「貴方の味方は、俺だけでいい。だから、シェリー様。シェリー様は俺だけ見てください」
懇願。
実際に、あの夜俺はシェリー様を抱いていない。さすがに、好きな相手であっても酔っている人間に手を出そうとは思えなかった。理性を抑えるのが大変だったが、ここで手を出してしまえばどうなるか考え、踏みとどまった。彼女から誘われたとき、危うくその誘いに乗ってしまいそうになったが、そこはなんとか耐えた。
(俺もまだまだだな)
シェリー様が寝ている間にキスをしたことは秘密にしておこうか。これくらいは許される。
「そもそも、初めにキスしてきたのはシェリー様でしたからね」
酔っていたとはいえ、あれがファーストキスだったら。そう考えると、どちらの初めても貰った事になる。いや、あれが初めてだったに違いない。あの皇太子がシェリー様に手を出していたとは考えにくいから。
「ふ、はは……」
思わず笑いが込み上げてくる。
シェリー様は、俺の嘘を信じ込んで、あの夜俺に抱かれたと思った。それから、俺を意識するようになり、婚約者になって欲しいと、そしてあの夜のやり直しがしたいと俺に言ってきた。シェリー様のことだから、どうせ責任をとらなければという思いが少なからずあったんだろう。まあ今はそれでもいい。
まずは、俺を男として意識して貰うことから始めよう。
それから徐々に、身体も心も落としていけばいい。堕としがいがあるから、これから楽しみだ。
そうして、いずれは……
俺は隣で眠る彼女の額に唇を落とした。
何も知らない無垢な主。幸せそうに頬を緩ませて、俺に指を絡める彼女。そんなシェリー様を見られるのは、世界で俺だけだ。最高の優越感に浸り、俺は彼女を抱きしめる。
貴方以外何もいらない。だから、貴方の全てを俺に下さい。
俺に酔って、覚めないで。
「お休みなさい、シェリー様、良い夢を」
貴方は、俺に酔っていればいい。そしたら、何も辛くないですから。
そう、彼女に暗示をかけるように、俺は唇を歪ませた。
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