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第2章 この世界で生きていくのは難しいです!!
04 素直になれない、でも好き
しおりを挟む何でOKしてしまったのだろうか。
馬鹿、馬鹿、馬鹿、馬鹿!
何度も呪う。数分前の私を。
あんな顔されて、OKしない女がいないだろう。それに、推しと踊れるやったー! とかいう、煩悩がかってしまった。欲が勝ってしまったのだ。
「アドニス、嬉しいよ」
何て、頬をゆるゆるにして微笑む物だから、私はもうその笑顔でお腹がいっぱいだった。もう、断ろうにも断れ無いところまで来てしまっていると、私は覚悟を決めた。
これ以上関わってはいけないと、頭の中で言うのに、それに反して、もう少しだけ、もう少しだけ夢を見させて、といっている自分がいる。最終的に自分の首を絞めるのは自分だって分かっているのに、それでもキャロル様の手を取らずにはいられなかったのだ。
(夢だって思えば良い……)
私とキャロル様の関係なんて、性欲処理係と発散する側っていうそういう歪で不誠実な関係だ。だから、長続きしないだろうし、彼が気の迷いから私と婚約したいといっていても、私は婚約を受けないと決めている。私が断れ無い立場であっても、それは変わらなかった。
キールは、ライラ殿下とくっついているからワンチャンあるかも! とは割り切れなかったのだ。
「アドニス、また考え事?」
「は、はい?」
考え事をしていれば、キャロル様に顔を覗かれて、私はオーバーリアクション気味に驚いてしまった。
「僕のこと見てよ」
と、拗ねたように唇を尖らせたキャロル様に私は、慌てて謝った。
「ごめんなさい。あの、キャロル様のこと考えてました」
「本当?」
「はい」
「なら、許してあげる」
いや、子供か。とツッコミを入れたくなったが、軽く流してくれたことも、キャロル様のことを考えてました。っていっただけで機嫌をよくして笑ってくれるところも可愛く思えてしまった。こう、母性がキュンとなるような、くすぐられるような感覚だった。
キャロル様は爽やかイケメンだけど、ライラ殿下に比べて童顔だし、笑うと子供みたいなのはよく知っていた。そして、此の世界にきてから目のまで笑顔になられると、益々それが現実味を帯びてきて。
キャロル様のことを考えていた、というのは本当だが、彼が望んでいるようなことは考えていない。嘘はついていないし、騙したつもりはないけれど、また良心が痛む。
どれだけの嘘をついたら良いのかとか、どうやって欺いて、自分の心までも騙せば良いのだとか、ぐるぐる回って、考えない方が良いんじゃないかって思えるぐらいに抱え込んでしまっている。
シェリー様はこれを乗り越えて、今の幸せを掴んだのかな、何て思うと、彼女が微笑ましかった。
攻略キャラに恋をするってこんなに辛いのかと思うぐらいに。シェリー様は、初めはライラ殿下を狙っていたけど、婚約破棄されて……婚約破棄されてから幸せになったと言うのだから、私も一度失恋してからチャンスがあるんじゃないかと。でも、アドニスは、五体満足して生存できない不遇令嬢なのだ。そんな、シェリー様みたいな輝かしい未来など期待していない。
「アドニス?」
「何でもありません。キャロル様と踊れるなんて夢みたいです」
私はそう言って無理矢理笑顔を作った。言葉も心も嘘じゃない。
推しだって思っていた人が、今現実になって、それで一緒に踊れるなんて夢みたいだと。
キャロル様は、何処か寂しげに、少し険しい顔をした後、パッと顔を明るくさせて「僕も嬉しいよ」と微笑んだ。
魔力の暴走していないときのキャロル様は落ち着いていて、別人かと思うぐらいだった。いや、別に魔力が暴走しているときのキャロル様が悪いとはいっていないし、本当にあの時は感情というか熱が昂ぶっているんだなっていうのが分かるだけで。どっちもキャロル様なんだけど。
「大丈夫、僕に任せてくれれば良いから」
「はい……」
そう、言ったキャロル様の瞳は、妖しく光っていて、その色気にドキッとした。
ダンスホールの中心で、音楽に合わせてステップを踏む。私よりも背の高い彼は、リードが上手くて、踊りやすかった。
私に合わせるように、ゆっくりとしたテンポ。それでも、ちゃんと踊れるように配慮されている。彼の手が私の手に触れて、指を絡めて、そのまま握られた。
「あっ」
「どうしたの?」
「いえ、何でも」
「そっか。アドニス、君は凄くダンス上手いよ?」
「え?」
「ダンスが踊れるかって心配してたんじゃない? だから、浮かない顔していた」
ふっと微笑む彼に、私は心臓を鷲掴みにされた気分だった。
そして、的を得た回答に私は、目を丸くする。この人も何でもお見通しだったのかと。私が分かりやすいだけなのかも知れないけど。と思いながら、私は、キャロル様を見た。キャロル様は、心底嬉しそうに私を見て笑うので、私もつられて笑ってしまった。
「キャロル様には敵わないですね」
「そう?」
「はい。私、キャロル様になら騙されても許せちゃいます」
「それは困るなぁ。僕は、君のこと大事にしたいし」
「……はい」
「だから、僕のこと嫌いにならないで」
そう言ったキャロル様は何だか悲しげで、懇願するような言葉に聞えた。本心なんだろうと思いつつも、矢っ張り私はその言葉に応えられなかった。
「きっと、キャロル様にはもっといい人が見つかるので。今は、その……私に惑わされているだけだと思います」
私は、ついうっかりそんなことを言ってしまった。自分で言っていて虚しくはなったけど。惑わすって悪い女みたいだと思ったけど、こんな言葉しかかけることが出来なかった。それを聞いて、キャロル様がどんなかおをしていたかなんて私は怖くて見えなかった。失望した? 呆れた? 色々考えたけど、キャロル様の顔を想像するのが怖くて、私は俯きながら、曲が踊るまで、キャロル様に合わせて踊った。
私じゃ釣り合わない。
そもそも攻略対象とモブ令嬢なんだから。
キャロル様は、ヒロインである聖女のことが好きにいなるはずなのに。どうして、私にあんなこと言ったんだろう。いや、きっと気の迷いだ。
だって、キャロル様は、私なんかと違って素敵な人だから。
どうしても、マイナスにしか考えられなくて、そんな自分がまた嫌になった。素直になれれば良いのに。
キャロル様と結ばれたいって素直になれれば良いのに。
私は、あと一歩を踏み込めずにいた。
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